第1章 第2節 企業の動向
本節では、地域別の製造業生産やサービス業の活動状況、設備投資といった企業活動の姿をみていく。その際、人口動態などによって生じる需要変化に対応して業績を回復させた例や、地域に密着する業態である卸小売業や金融業に生じている構造変化にも焦点を当てる。
1)地域別の生産動向
(立地産業の違いによって広がった生産数量の水準差)
地域別鉱工業生産指数の動きには、全体に共通した産業レベルの動きと各地域固有の動きが混在している。2016年後半から2017年前半の時期は、全国的に輸送機械や電子部品・デバイスの復調が際立っていたが、こうした産業・業種に特化している地域は特にその恩恵を享受することとなった。地域別の生産指数の推移から明らかなとおり、2016年年央以降、東北、北陸、九州が強い動きを示した(第1-2-1図)。
上昇が顕著な地域の業種別寄与をみていこう(第1-2-2図)。北陸は、電子部品・デバイス、電気・情報通信が指数上昇の過半を占めているが、世界的なスマートフォン等の高品質化に対応したことが大きい。医薬品を含む化学や設備投資向け資本財を生産する機械工業もプラスに寄与した。九州も同様に、電子部品・デバイスの集積を有することが指数上昇に貢献した。また、輸送機械も複数社が立地しており、完成車と部品双方ともに好調であった。
他の地域も増加傾向をみせるところが多いが、例えば中国の場合、石油・石炭製品、化学、プラスチック製品は堅調に推移していたものの、2016年前半に生じた燃費不正問題に伴う生産・販売の停止により輸送機械が低調であった。それが次第に解消し、加えて低迷していた情報通信が復調してきたことが生産指数上昇の背景にある。
(高齢化に伴う潜在需要の掘り起こしによる生産変動)
地域によって産業・業種の立地が異なることから、短期的な需要変化に対する生産の変化も地域によって異なっているが、長期的、あるいは構造的な需要変化によっても生産は影響を受ける。こうした例として、人口構造によって変化が生じたおむつや寝具、高品質化によって変化が生じた集積回路や蛍光灯、利用者利便への対応で変化が生じた浴用石鹸や洗濯機等の生産変動をみていこう。
まずは人口変動を起因としたケースである。高齢化や人口減少は、家計の財需要を通じて生産に影響する。子供用おむつの生産額は、出生数が低迷していることから、年率0.6%弱とおおむね横ばいで推移する中、高齢者の増加を背景に、大人用のおむつは年率3.6%で増加してきた。今や、子供用おむつの生産額よりも多くなっている(第1-2-3図(1))。こうした大人用おむつを生産する事業者は四国に集積しており、高齢化による需要変化の波及先は全国均一ではない17。
同様に、寝具においても変化が生じている。従来型の木製及び金属製ベッドの生産額は年率▲5.6%で減少してきたが、電動ベッドの生産額はおおむね横ばいを維持している(第1-2-3図(2))。木製及び金属製ベッドの生産は東海や中国に集中している一方、電動ベッドの生産拠点は南関東に集中しているが、こうした需要変化に対応できる事業者を有する地域は、生産・雇用の長期的な拡大を実現できると考えられる18。
(高品質化に対応したイノベーションの実現による生産変動)
構造的な需要変化は商品の高度化や高機能化によっても生じる。例えば、携帯電話や自動車は年々進歩しており、搭載する電子部品や電子装置の質や量は変化している(第1-2-4図(1))。モス型集積回路のうち、パソコンやスマートフォンに広く用いられる論理素子の生産は減少しているが、これは、我が国企業が自社製品向けを中心に生産していたことから標準化への対応が遅れた等により、価格や技術面で優位となった海外製品に代替されたことが背景にある19。他方、携帯向けのメモリやスマートフォン等のイメージセンサ向けの記憶素子やスマートフォンや車載用カメラ向けのイメージセンサ等その他のモス型集積回路は、電子機器に搭載される記憶容量の増加に対応した国内製品に需要があり、生産は増加している。こうした記憶素子等のモス型集積回路は、主に熊本県や三重県で生産されており、IoTの普及拡大に伴った需要増も見込まれる。
同様に、蛍光灯にも高品質化による代替が生じている(第1-2-4図(2))。蛍光ランプと発光ダイオードの生産額は、1999年時点では、ともに1,400億円程度で変わらなかったものの、2014年には蛍光ランプが464億円に減少した一方、発光ダイオードは4,186億円と大幅に増加している。発光ダイオードの用途は広いが、これを用いたLED電球の普及と低廉化が従来型の蛍光ランプを代替している。発光ダイオードの生産額は6割以上が徳島県であり、こうした代替のプラスの効果が強く出ている20。
(利用者ニーズに対応したイノベーションの実現による生産変動)
同じような品質であっても、利用者・消費者ニーズに合わせて改良を図ることが新たな生産の動きを生み出す場合もある。例えば、液状の「浴用石けん」に比べ、「液状身体洗浄剤」は香料等の成分を添加しやすいことや弱酸性、弱アルカリ性への変換が可能なため、利用者の多様なニーズに対応することが可能であり、近年の生産額が増加している(第1-2-5図(1))。「浴用石けん」の半分近くは大阪府で生産されているが、今後は「液状身体洗浄剤」の生産地へのシフトがみられるかもしれない。
また、ライフスタイルの変化によって生じるニーズの変化もある。家庭用の電気洗濯機生産はおおむね横ばいで推移しているが、業務用洗濯機は、2012年以降大幅に増加している。これは、まとめ洗いを早く済ませたい、布団やカーペットなどの大きなものを洗濯・乾燥させたい、といった利用者のニーズを受けて、コインランドリーの活用が進んでいることが背景にあると考えられる21、22(第1-2-5図(2))。業務用洗濯機の生産は、3分の1が東海に集積しているため、ニーズ変化に伴うプラスの効果も東海に集中していることになる。
ライフスタイルの変化によって生じるニーズの変化は、食品関連でも生じている。(一社)日本惣菜協会(2017)によれば、2015年の総菜市場規模は10年前から22%(年率約2%)増加した。高齢化・核家族化、女性の社会進出などのライフスタイルの変化を反映し、総菜の利用が大きく伸びたと考えられる23(第1-2-5図(3))。総菜製造は、輸送コストや消費期限等の課題から、需要集中地域周辺で生産することが必要となっていることもあり、北関東や南関東が全国シェアの4分の1を占めている。
2)地域別にみた金融業の動向
(緩やかながらも地域金融機関の再編が継続)
次に、地域経済の資金仲介者である金融業について取り上げる24。「金融再生プログラム」25以降、間柄重視の地域密着型金融であるリレーションシップバンキングという観点から、地域経済の活性化を担う役割が期待されてきた。同時に、1990年代から続いた不良債権処理と体力強化の観点から、預金取扱金融機関の再編は継続的に進んできたが、地域金融機関も例外ではなく、2000年以降も緩やかながら減少傾向が続いている(第1-2-6図(1))。地方銀行と第二地方銀行の銀行数は、2000年度末では121行であったが、2015年度末には105行まで減少し、変化のない四国、沖縄を除き、すべての地域で減少した。
また、最近の地域別預金残高の動きをみると、各地域の預金残高の伸び率では南関東の伸び率が最も高く、南関東に預金が集中している(第1-2-6図(2))。
(貸出利鞘の地域差は大きい)
こうした地域の預金取扱金融機関の経営状況をみていこう。主な経営指標の推移を確認すると、地域別に事情が異なる様子が浮かび上がる。まず貸出利鞘は、全地域で減少傾向にあるものの、2015年度で最も高い沖縄は0.65%、最も低い甲信越は0.23%と大きな水準差がある(第1-2-7図)。
貸出利鞘は貸出利回りと資金調達コストの差であるから、2000年度から2015年度の間に生じた増減を両者に要因分解すると、東海や沖縄では、貸出利回りの低下を十分に相殺するように調達コストを低下させているが、その他の地域では、貸出利回りの低下がより大きく、結果として利鞘が縮小している(第1-2-8図)。
(預貸率は多くの地域で低下傾向)
次に、預貸率をみよう。2000年度から2015年度の間、リーマンショックや東日本大震災といった稀有の事象も生じていたが、東北、北陸、四国、沖縄では、預貸率が低下傾向にあるものの、北海道、南関東、甲信越、中国では2005年度以降に横ばい、北関東、東海、近畿、九州では上昇傾向となっている(第1-2-9図)。預貸率の増減を預金と貸金の変化に分解すると、東海、近畿は預金増加を上回る貸金増加を達成できたが、それ以外の地域は預金増加に見合う貸金増加を実現できなかった(第1-2-10図)。
(従業員一人当たりの業務粗利益は人数増により、このところ減少傾向)
第3の指標は従業員一人当たりの業務粗利益である。2005年度以降、一人当たり業務粗利益は総じて減少しているが、2015年度時点での一人当たり業務粗利益額が最も多い地域である南関東(30.6百万円)と最も少ない地域である東北(22.6百万円)の間には8百万円の差がある(第1-2-11図)。一人当たり業務粗利益の変化を利益額と人員数に分解すると、2000-2005年度の間、全ての地域で粗利益額の減少を上回る人員数の削減により改善が図られたが、2005-2010年度の間では、多くの地域で人員増による低下が生じていた(第1-2-12図)。2010-2015年度の間では、東海、沖縄を除くすべての地域において、業務粗利益額の減少により、一人当たりの業務粗利益が低下している。
(銀行数の少ない地域では利益率の下限が高め)
第4の指標は業務粗利益率である。各地域における個別行の業務粗利益率の分布をみると、中央値は最低で1.29%、最高で1.62%となっており、地域間の違いは0.33%とあまりみられない。各域内での最小値は、東北の0.9%を除き、おおむね1.1-1.3%の範囲に収まり、北海道と沖縄が1.5%程度と高い水準となっている。他方、最高値は東海の2.48%や九州の2.1%を除き、おおむね1.6-1.8%となっている(第1-2-13図)。こうした業務粗利益率の分布と地域における銀行数の関係を描くと、銀行数が少ない寡占的な地域ほど業務粗利益率の分布が小さく、下限値も高めになっている傾向がみられる(第1-2-14、15図)。
(営業費用収益比率の抑制には規模が重要だが、地域差も無視できない)
最近の平均的な経営指標からは、利鞘が縮小しつつも、一人当たり収益額は維持している様子が各地でみられるが、地域内の収益率に大きな差があるところもみられる。現状、金利が極めて低位で推移していることから、貸付先のリスクをどの程度金利に還元できているのか等は不透明であるため、引当を含めた事後的なコスト面から全体を評価してみよう。
個別行の資産規模と営業費用収益比率の関係について、複数年度にわたりプロットすると、右下がりの関係がみられる(第1-2-16図(1))。つまり、資産規模の大きい銀行は営業費用収益比率が低下するということになる。この点からは、営業費用収益比率を抑えるために、総資産を増加するような経営上の取組、合併等は効果的と推論することができる。ただし、同じ資産規模における営業費用収益比率が経年的に高まっている傾向も同時にみられる。例えば、2007年度と2015年度を比べると、同じ資産規模の営業費用収益比率は、平均的に10.1%ポイントも上昇している。したがって、規模以外にも無視できない要因が存在していることが考えられる。
また、同じ資産規模であっても、地域性がもたらす営業費用収益比率の違いが明確に存在していることも示されている。たとえば、同じ資産規模であっても、沖縄に比べると、東北、北関東、東海、九州の銀行は、それぞれ営業費用収益比率が5.3-7.8%ポイント程度高い傾向がある(第1-2-16図(2))。こうした地域差は、銀行側の要因だけでなく、サンプル期間のマクロ的な経済変動の地域差、貸付先の産業・業種の違いといった需要側の要因も含まれている。地域間の差異を特定化して、経済ショックに対するリスクの反応が相殺されるような貸付先の組み合わせ、また、業務提携に好ましい相手行の発見ができれば、有効な事業再編の礎になると考えられる。
(地域金融機関と地域社会がともに栄えるビジネスモデルの確立も必要)
先の分析では、資産規模を拡大しつつ、地域固有のコスト要因を是正することが重要であることがわかったが、地方銀行には、立地する地域の人口問題という課題もある。各地域の地銀・第二地銀の店舗数は減少傾向にはあるものの、2015年度時点でも全体で10,546店舗、店舗数の多い地域と少ない地域を比べると、一店舗あたり人口比は1.65倍となっている。
銀行の収益は貸付先の稼得力に依存するが、それが地域間であまり違わなければ、貸付先の多いところが稼得力は高いと言えるだろう。貸付先の数が人口規模に比例すると仮定し、人口によって地域の違いをみていこう。店舗あたりの人口推移を地域別にみると、東北や四国など、2005年度から減少に転じた地域もあるが、今後はすべての地域において、例外なく店舗当たり人口数が減少することになる(第1-2-17図)。
国土交通省が公表したサービス提供に必要となる需要規模の計算結果26によると、銀行27の店舗サービスは人口規模が6,500人あれば、立地する確率が50%となり、9,500人であれば、80%となっている。内閣府政策統括官(経済財政分析担当)(2016)は、これを利用して2040年の人口推計を踏まえた立地確率を市町村別に求め、1割を超える市町村で銀行店舗の立地が難しくなる可能性があると指摘している。既に、銀行業務の多くがネット等を通じて提供されており、実店舗を必要としない銀行業務が増加しているなか、技術進歩と顧客動向を踏まえた早期の事業転換が求められている28。地域経済を活性化するためには、地域金融機関は地域の関係者とより一層連携・協力し、地域金融機関と顧客・地域社会がともに栄えていくビジネスモデルを確立する必要がある。