第1章 第1節 消費の動向
まず、財の消費動向に関して、販売形態別(小売販売、家電量販店、自動車等)の統計から財別・地域別に確認する。その後、近年増加しているインターネットを通じた商品等の販売や商店街等の現状と地域経済の関係を分析するとともに、旅行支出等のサービス消費の動向について確認する。さらに、引き続き増加が見込まれる訪日外国人旅行者を含む観光需要の動向に触れる。
1)財別・地域別の消費動向
消費については、所得・雇用環境の改善度合いに比べてやや力強さに欠けていると指摘されてきた1が、以下では財別・地域別に、その動向を探っていく。
(小売販売は多くの地域で増加もしくは底堅く推移)
財消費の動きについて、販売側の統計を利用して地域別にみていこう。販売統計には、居住者に加えて訪日外国人の購買分が含まれるため、地域や業態によっては、個人消費の動きよりも上振れしている点に注意が必要である。
まず、一般小売店、大型小売店、コンビニエンスストア、ホームセンター、ドラッグストア、通信販売、乗用車の販売額を合成した値(2014年6月=100とした中心3か月移動平均)をみると、2017年前半は多くの地域で実質販売額が増加もしくは底堅く推移している(第1-1-1図)。
(日用品等を販売するスーパーの実質販売額はこのところ底堅さがみられる)
次に、生活必需品の割合が高いスーパーの販売額について、3大都市部を擁する都府県とそれ以外の地域に分けて前年比の推移(税込、全店)を振り返ると、2016年は総じて減速傾向がみられた。2017年に入ると、衣料品の販売が回復しないことには変わりないが、このところ底堅さがみられる。地域別には、愛知県の販売額が弱い動きに転じる一方、東京都の4-5月は前年に比べて天候に恵まれたこともあり飲食料品等がけん引し、増勢が顕著となっている(第1-1-2図)。
なお、2016年8-9月は全国的に前年比がマイナスに転じたが、これは豪雨などの天候不順や台風による一時的な変動であった。また、2017年2月の下落には、前年がうるう年であったことと休日数が9日から8日になったことにより、販売機会が減少した影響が含まれている2。
(インバウンド需要で明暗の分かれる百貨店の販売動向)
同様に、都市別に百貨店の販売額(実質)をみると、10都市以外に立地する百貨店は11か月連続(名目販売額では17か月連続)の前年割れとなっており、厳しい状況にある。東京23区や大阪市、名古屋市に立地する百貨店においても、2016年は厳しい一年であったが、2017年に入り、総じてマイナス幅が縮小し、好転の兆しがみられる(第1-1-3図)3。特に、大阪市内の百貨店は、前年比が年初より連続してプラスとなり、月を追うごとに増勢が増しているが、これは、訪日外国人観光客による購買が下げ止まり、増加に転じたことによる4。
(自動車登録台数は多くの地域で反転増加)
非耐久財や半耐久財が中心である小売販売は、所得環境の改善もあり、総じて底堅い動きをみせる地域が多かった。耐久財についても同様の傾向が確認できる。代表的な耐久消費財である乗用車の新規登録・届出台数の増減をみると、前年同期比がプラスに転じ、総じて持ち直しの動きとなっている(第1-1-4図)。
乗用車の登録台数は、消費税率引上げ以降、落ち込んできたが、2017年4月からのエコカー減税の縮小もあり、2017年1-3月期は駆け込み需要の発生から強い伸びを見せる地域が増えた5。車種別にみると、普通乗用車は全ての地域でプラスの寄与となったが、軽乗用車は近畿、四国、九州を除きマイナスの寄与となった。2017年4-6月期になると、全ての地域で軽乗用車の寄与もプラスに転じている6。
(家電販売は地域差が残るものの、全体としてはおおむね横ばい)
家電販売についても地域別動向を確認すると、2014年のエコポイントなどの取得促進策や消費税率引上げ前の駆け込み需要が相当大きかったことから、2012年の販売額に対し、マイナスに止まっている地域が散見される(第1-1-5図)。
2017年前半の結果をみると、2012年同四半期比で▲5.4%程度から1.8%と販売額が下げ止まっている。関東・甲信越と北海道・東北がマイナス寄与の大半を占め、不調が続いているが、中国・四国・九州、及び東海・北陸は、駆け込みがあったにも関わらず、それ以降は2012年比でプラス寄与が続いている。近畿も2017年第2四半期にはプラスに転じており、底堅く推移している。なお、西日本には、大型クルーズ船が接岸できる港湾が多く、インバウンド需要の恩恵が出ている可能性もある。
(通信料等は増加基調だが、旅行交通等は横ばい)
財支出は上向きの動きを見せる地域と品目が増えているが、サービス支出はどうだろうか。サービス支出の動きを地域別にみる際には、適切な販売・供給側の統計が存在しないため、振れが大きいものの、需要側を調査した総務省「家計消費状況調査」及び「家計調査」を用いる。ここでは、携帯電話の利用料や旅行関係支出、交通費、外食について取り上げる。
まず、携帯電話の一人当たり利用料(実質)は、全地域で増加傾向となっている(第1-1-6図(1))。サンプルが小さいため、地域別の支出額は振れやすいが、変化の方向はおおむね一致しており、水準に違いがみられる。関東は高め、東北や近畿は低めである。一人当たり旅行関係支出(実質)は、季節変動が大きいため、前年同期と比較すると、横ばいか若干低下傾向となった地域が多い(第1-1-6図(2))。関東が低下傾向となっているが、支出水準では全国対比で高めを維持している。交通費は、沖縄が低下傾向にあり、その他の地域はおおむね横ばい圏内で推移している(第1-1-6図(3))。水準では、大都市圏を含む関東と近畿が全国平均を大きく上回っているが、このところ、北海道の支出水準が全国対比で上昇傾向となっている。一人当たり外食(実質)は、おおむね横ばいの動きとなっている地域が多い(第1-1-6図(4))。四国や東北は前年に比べて弱含んでいる。
2)インターネット経由の商品等の販売動向と地域経済
(無店舗型の商品販売額は6,300億円程度と横ばいで推移)
店舗を持たずにカタログやインターネット等で広告・販売を行い、商品を送付する「無店舗小売」は以前から存在していたが、業態の定義を整理し、統計を収集・公表し始めたのは2015年7月以降である。その調査結果をみると、月平均販売額は6,300億円程度とおおむね横ばいで推移している(第1-1-7図)。
(ネット経由の商品販売は増加)
無店舗小売事業者の販売額が横ばいに止まるなか、有店舗の事業者も含めた小売事業全体がネットを通じて販売した額は、2010年から2016年の間で約2倍、また、商取引全体に占めるネット経由の商品販売の割合も2倍近く伸びている(第1-1-8図)。
(ネットで販売される財・サービスは多彩だが、食品・雑貨・衣料品が伸びの6割)
ネットで販売される財・サービスは様々であるが、2016年の実績販売高によると、「衣類・服飾雑貨等」や「食品、飲食、酒類」、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の物販系が全体の53%、旅行予約等のサービス系が35%、オンラインゲームなどを含むデジタル系が12%となっている(第1-1-9図)。
また、2013年から2016年の販売総額は33.6%の増加率となったが、食品、飲料、酒類を含む食品等が7.7%ポイント、雑貨、家具、インテリアなどの雑貨等が6.4%ポイントの寄与となっている。衣料品の6.1%ポイントも含め、これら3分野が全体の伸び率の6割を占める成長分野となっている(第1-1-10図)。
(ネット販売額の増加により、宅配便数は3年で8%増)
ネット経由の販売額が2年で3割以上の増加となったが、この間、家計の実質消費は▲5%程度の減少となっていることから、店舗販売からネット販売への代替が進んだと考えられる。こうした動きは配送量の増加につながる。実際、宅配大手3社の宅配荷物取扱個数は、過去3年で8%の増加となっている(第1-1-11図)。
(配送事業の人手不足が顕在化)
取扱数量の増加は事業者にとって好ましいが、人手不足が成長の足かせとなっている。運輸・郵便業における人手不足感は、全産業に比べて高く、特に、運輸・郵便業の中でも中小・中堅企業の人手不足感が強い(第1-1-12図)。実際、大手運送会社では、一部の時間帯指定の廃止や指定時間幅の拡張、大型荷物配送の値上げを決めている7。
(配送事業の生産性引上げが必要)
雇用充足率により人手不足の程度を地域別に確認すると、全国・全産業の充足率が2012年度から2014年度の間に4%ポイント低下8した中で、全国の貨物自動車運転手に対する充足率は7.3%ポイントと2倍弱低下した。いずれの地域においても低下し、低下幅は、沖縄、北海道、北陸、近畿の順に大きかった(第1-1-13図)。2014年度以降も雇用充足率は低下を続け、全国的に事業者側の不足感が高まっている。
労働者不足を解消する一つの策は生産性の引上げであるが、データが公表されている2012年度から2014年度の運輸・郵便業における地域別実質生産額の動きをみると、全国平均が1.1%の増加となる中、四国や中国は6%以上の増加、北関東は▲5.8%の減少であった。同じ期間の同業の就業者数は、全国計が▲0.5%と減少し、地域別には、近畿以外はすべて減少した。この結果、一人当たりの実質生産額は、全国平均が1.5%の増加となる中、四国の16.9%から近畿の▲3.9%とばらついていた(第1-1-14図)。
就業者数を増やせない中で事業量を増やすには生産性を引き上げるしか方法はなく、鉄道輸送を含めた規模の経済性を追求すると同時に、コンビニエンスストア等の拠点を活用した配送効率の引上げ、業務工程の見直し等が求められている9。
3)地域別にみた卸小売業の動向
(コンビニエンスストア・ドラッグストアの店舗数は増加が続く)
ネット販売も好調であるが、実店舗販売では、コンビニエンスストア及びドラッグストアの事業所・店舗数が増加している(第1-1-15図)10。また、コンビニエンスストアの店舗当たり販売額も増加傾向にあり、特に、沖縄の増加が大きい。ドラッグストアの販売額は、東北が減少傾向だが、総じて増加傾向にある(第1-1-16図)。
(卸小売業の事業所数はいずれの地域でも減少傾向が続く)
コンビニエンスストアやドラッグストア店舗数が増加する一方、卸小売業の事業所数の推移をみると、南関東で2007年から2014年、北海道、東北、南関東、沖縄で2012年から2014年で微増となったが、他の地域では2007年から2016年の間、減少傾向が続いている(第1-1-17図)。
(「商店街」は地域によって数・規模が減少)
卸小売事業者数の減少は、商店街のような集積の場にとって深刻な問題である。商店街数自体は、2009年から2015年の間、14,467箇所から14,655箇所へと若干増加した(第1-1-18図(1))。ただし、1商店街当たりの組合員数は、東北、関東、中国で増加したものの、中部、四国、九州・沖縄では減少した(第1-1-18図(2))。
(空き店舗率の上昇は需給双方の構造的な要因による)
この間(2009年から2015年)、商店街内の空き店舗率は、九州・沖縄を除き、全地域で上昇していた11。空き店舗率の動きがどのような要因と関係深いかという点について、中小企業庁が実施した調査結果を利用して解析しよう。この調査には、「貴商店街において問題となっているものについてお答えください。」という設問がある。設問に対し、[1]「商圏人口の減少」、[2]「大型店との競合」、[3]「店舗等の老朽化」、[4]「駐車場・駐輪場の不足」、[5]「経営者の高齢化による後継者問題」、[6]「(商店街内店舗の)業種構成に問題」、[7]「集客力が高い・話題性のある店舗・業種が少ない又は無い」、[8]「空き店舗の増加」、[9]「チェーン店等が商店街の組織化や活動に非協力的」、[10]「道路整備や公共施設の移転等周辺環境の変化」、[11]「その他(具体的に)」と10の具体的な回答を用意して、三つ選ぶようにしている。
選択結果をみると、2009年から2015年の間に選択割合が大きく増加した回答は、[5]「経営者の高齢化による後継者問題」(13.3%ポイント増)、[1]「商圏人口の減少」(6.3%ポイント増)である。何れも、商店街単位での対応が難しい地域少子高齢化といった構造要因である。これらに次いで増加した回答は、[3]「店舗等の老朽化」(6.2%ポイント増)であった。
そこで、これら3つの要素の増減幅と空き店舗率の増減を重ねることで、空き店舗率の増減に影響度の強い原因を探ると、[1]「商圏人口の減少」、[5]「経営者の高齢化による後継者問題」、[3]「店舗等の老朽化」、の順に空き店舗率を高める度合い(図の傾き)が大きくなっている(第1-1-19図)。構造的な需要不足の原因である商圏人口の減少と供給の低迷を誘発する経営者の高齢化や後継者問題、店舗等の老朽化が同時に発生しているという直観的な理解と整合的な結果となっている。
4)地域別にみた観光需要の動向
次に、地域別の観光需要の動向について振り返る。訪日外国人や国内域外からの訪問者という交流人口数の増加とそれに伴う需要増加は、域内の循環所得を増やす好機であり、地域の経済動向を測る上で重要さを増している。
(訪日外国人旅行者の訪問先は多様化)
訪日外国人数は、毎年増加が続いており、2017年も前年同月を上回って推移している(第1-1-20図)。また、2016年の外国人延べ宿泊者数増減率を地域別にみると、受入人数の多い東京都、大阪府、北海道、沖縄県などは増加への寄与も大きいが、伸び率でみると、瀬戸内エリアの香川県、岡山県、愛媛県等が高い(第1-1-21図)。
これは、3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭の開催12、国際線の増便(高松空港~台北便が3月~11月の間に4便から6便に増便)等が影響したと考えられる。なお、瀬戸内国際芸術祭の来場者の半数以上が芸術祭以外の観光地にも訪問をしており、芸術祭をきっかけとして地域への波及をもたらしたと考えられる13。
(訪日外国人旅行者消費もモノからコトへ段階的にシフト)
人員増減の次に、消費行動の変化を確認しよう。2015年と2016年の一人当たり旅行支出の総額に対する内容別支出割合の変化をみると、アジア・欧米いずれの地域からの訪日外国人においても、買物代の割合が大きく低下し、飲食費の割合が上昇している(第1-1-22図)。
また、「訪日前に期待していたこと」について聞いた調査によると、2015年の回答では「ショッピング」の比率が高かったが、2016年では「日本食を食べること」や「自然・景観観光」の比率が上昇しており、いわゆる「モノ」から「コト」へのシフトをうかがわせる(第1-1-23図)。
(国内旅行は底堅く推移するなか、訪問地別では中部や四国で好調に推移)
次に、国内居住者による国内旅行の動向を振り返ろう。2016年の国内延べ旅行者数および延べ宿泊者数は、それぞれ前年比5.6%と3.2%の増加となった。地域別には、2016年4月14日以降に熊本県、大分県において発生した平成28年熊本地震の影響もあり、九州では国内延べ旅行者数および延べ宿泊者数ともに第2四半期(4-6月期)は前年比二ケタの減少となった。しかし、7月以降、九州ふっこう割等の政策的な支援もあり、第3四半期の延べ宿泊者数は前年同期比で増加となった。
また、2016年5月に伊勢志摩サミットが開催された三重県を含む中部や2016年3月以降に開催された瀬戸内国際芸術祭が開催された四国は、好調に推移した(第1-1-24、25図)。
(増加する高齢者の旅行は、若年と異なる季節性)
年齢階層別に国内延べ旅行者数および延べ宿泊者数の推移をみると、60歳以上の高齢者層が他の年齢層に比べて多く、また、2015年から2016年の間にそれぞれ9.5%、6.7%と増加もしており、全体のけん引役となっている(第1-1-26図)。年齢階層別に旅行・宿泊の時期をみると、20-50歳台では、夏休みを含む7-9月期をピークとした季節性がみられるが、60歳以上では、4-6月期と10-12月期にピークが生じており、若年層と異なる14。こうした季節性の違いは、地域における施設稼働率の平準化を図る上で重要な特徴であり、料金体系の見直しや閑散期におけるイベント実施などの取組もみられている。
例えば、北海道新幹線は繁閑の差が大きいため、閑散期対策の一環として比較的時間に余裕のあるシニア層をターゲットとしたキャンペーンや修学旅行誘致を行っている。また、沖縄県では、閑散期であっても来訪が期待できる「スポーツヘルスケアツーリズム(スポーツキャンプや合宿等)」や「ウェディング」、「修学旅行」、多くの集客が見込めるビジネスイベントなどの「MICE」15等を推進している。スポーツキャンプのうち、2月を中心に行われるプロ野球キャンプの経済効果は過去最高の88.8億円(前年比+8.8%)、観光客は31.9万人(うち県外客は前年に比べ8千人多い5.1万人)となった。また、ウェディングについては、前年比108.6%の15,339組が実施しており、県内消費額は少なくとも224.9億円となっている16。