第2節 都市規模別にみた景気回復の波及
第1節では、マインド、生産、消費、雇用などの側面から、地域別にみた景気回復の動きの波及をみてきた。地域や各種の経済指標によって、濃淡はあるにせよ、景気回復の動きが地域経済にも波及していることがわかった。
ただし、同じ地域内でも、都市規模、大企業と中小企業、業種・業態によって景気改善の度合いが異なることも考えられる。そこで、この問題認識に関連して、第2節では都市規模別にみた景気回復の動きに焦点をあてて分析を行う。
1.マインド調査からみた景気回復の動き
(1)景気ウォッチャー調査からみた都市規模別の景気回復の動き
(大都市に比べ中都市・小都市の景況感の改善は遅れているが、2012年11月に比べると大幅な改善)
景気ウォッチャー調査の現状判断DIを大都市(政令市及び東京23区)、中都市(人口15万人以上の市)、小都市(人口15万人未満の市町村)に編集し直し、都市規模別の景況感の推移をみてみよう(第2-2-1図)。
大都市、中都市、小都市の順に景況感は改善しているが、その変化のスピードにはあまり差がなく、短期間で景況感の改善が波及していることが窺える。たとえば、DIが50を上回った月は、大都市が1月、中都市が2月、小都市が3月となっており、その差は2か月しかなかった。その結果、大都市に比べ中都市や小都市の景況感の改善は遅れているが、すべての都市規模で、2012年11月に比べると大幅に改善していることがわかる。
また、都市規模別にみて、景況感の改善や悪化を感じている人はどの程度かをみるため、現状判断で改善(「良くなっている」+「やや良くなっている」)と悪化(「悪くなっている」+「やや悪くなっている」)とした回答者割合の推移をみてみよう(第2-2-2図)。
この結果は、概ねDIの動きと整合的であり、大都市、中都市、小都市の順に改善とした回答者が多く、悪化はその逆となっている。ただし、どの都市規模でも、改善は2012年11月に1割程度であったものが2013年9月には3割程度に上昇しており、悪化を上回っている。
なお、改善と悪化の同時上昇は見られておらず、どの都市規模においても、景況感の二極化が進行しているわけではない。
(百貨店、住宅関連で高水準、商店街・一般小売店、衣料品専門店で低水準)
次に、業種別の現状判断DIを過去の持ち直し局面と比較してみよう(第2-2-3図)。今回の持ち直し局面では、高額商品販売が好調な百貨店、消費税増税前の駆け込み需要もあった住宅関連の水準の高さが目立っており、次いで、旅行・交通関連、雇用関連も高水準となっている。これに対し、商店街・一般小売店や衣料品専門店は低水準となっている。
(大都市で好調な百貨店、小都市で好調な観光関連)
なお、都市規模別の景況感に差があるのは、都市規模自体によるものか、業種構成によるものであるか、今回の景気持ち直し局面で特徴的な動きをしている百貨店、商店街・一般小売店、観光関連について、直近3か月の都市規模別・業種別のDIをみてみよう(第2-2-4図)13。
例えば、相対的に景況感の良い百貨店をみると、大都市のDIの水準が中都市に比べて高くなっており、大都市の百貨店の方が好調であることを示唆している。さらに百貨店のウェイトが大都市で高く、この二つが相まって、大都市の景況感を押し上げている。
次に、相対的に景況感が悪い商店街・一般小売店をみると、都市規模別には、中都市、小都市、大都市の順にDIが良く、必ずしも大都市にあるから景況感が良いというわけではない。ただし、小都市はそのウェイトが高いため、景況感が相対的に押し下げられる結果となっている。
一方、相対的に景況感の良い観光関連をみると、小都市のDIの水準は高くなっており、ウェイトも高いため、この二つが相まって、小都市の景況感を押し上げる効果を持っている。
なお、小都市で景況感が改善しているとした観光に関係するコメントをみると、外国人観光客を取り込んでいるもの、インターネットサイトや企画商品による販売が好調であったもの、遷宮や富士山の世界遺産登録などに対応したものなどが見受けられる(第2-2-5表)。
(2)消費動向調査からみた都市規模別の景気回復の動き
消費動向調査は、消費者態度指数という形で消費者マインドを示す指数を公表していると同時に、消費者の意識を把握するための各種の質問の結果も公表している。ここでは、消費動向調査は2013年度より、訪問留置調査から郵送調査に変更となり、水準が変わっていることに留意しつつ、「今後半年間の暮らし向き」「今後半年間の資産価値の増え方」「1年後の物価の見通し」について、都市規模別の観点を中心に分析してみよう。
(暮らし向きが良くなると考えている世帯が増加)
「今後半年間の暮らし向き」に関する意識指標を大都市、中都市、小都市の別にみてみよう。これは、「今後半年間の暮らし向きが今より良くなるか」について尋ねたものであるが、ほぼ景気ウォッチャーと似たような結果となっており、大都市、中都市、小都市の順に暮らし向きが良くなると考えていることになる(第2-2-6図)。また、調査手法の変更により、2013年度以降水準が低くなっていることを踏まえれば、どの都市規模においても、2012年12月に比べるとかなり改善されたといえる。
なお、「暮らし向き」が改善すると考えている世帯の割合を世帯年収別にみると(第2-2-7図)、年収が高い世帯ほど「良くなる」「やや良くなる」の割合が高くなる傾向はあるものの、世帯収入に関わらず、暮らし向きは改善すると考えている世帯が増えていることがわかる。
(大都市ほど多い資産価値が増加すると考えている世帯割合)
次に「半年後の資産価値」の見通しについて都市規模別にみると、どの都市規模でも、自分が保有する資産の価値が上昇すると考えている世帯の割合は、2012年12月より増加している(第2-2-8図)。ただし、この割合は大都市、中都市、小都市の順に高くなっており、その差は拡大してきている。また、資産価値が下がると考える世帯の割合は大都市ほど減少している。これは、大都市の方が資産に対する土地等のウェイトが高い上に、地価が上昇しはじめていることによるものと考えられる。
さらに、「暮らし向き」と「資産価値」の半年後の見通しについて、今回と前々回の持ち直し局面におけるクロス集計をみてみよう(第2-2-9図)。
まず、資産価値が増えると答えた世帯ほど暮らし向きが良くなると答えており、また、時間が経過するにつれて、そのような世帯が増加している。今回の持ち直し局面では、資産効果が家計の景況感にプラスの影響を与えていることを示唆している。これは、不良債権処理が終了していなかった前々回の持ち直し局面では、時間が経過するにつれて、資産価値が減少すると答えた世帯が増えて、景況感にマイナスの影響を与えていたことと対照的である。
(物価上昇を予想する世帯割合は増加するも、都市規模別に大きな差はない)
続いて、「物価の見通し」をみると、どの都市規模でも「1年後、物価は2%以上上がっている」と考えている世帯が増加しており、2013年9月には7割近くがそう考えるようになっている(第2-2-10図)。都市規模別にみても、あまり差はないが、小都市、中都市、大都市の順で多くなっている。これは、エネルギー価格の先高感があるなか、都市規模が小さいほど物価上昇に対するエネルギー価格の寄与が大きいことが一因ではないかと考えられる。
2.都市規模別にみた家計分野の動き
これまではマインド調査をもとに都市規模別にみた景気回復の動きについて確認してきた。ここからは、家計調査や消費者物価指数などをもとに、都市規模別の消費や物価などの推移を確認するとともに、景気回復の動きが大都市に早く出た背景についてみてみよう。
(1)家計調査にみられる支出の動き
(消費支出・実収入の増加は大・中都市が中心)
第1節では地域別消費総合指数を用いて消費の動きをみたところ、大都市圏での消費の増加が目立っていた。家計調査を用いて、持ち直し局面の前半5か月と後半5か月について過去の局面と比較してみよう。過去の局面では、消費支出は中都市や小都市に比べると大都市が良かったが、今回は、中都市も大都市と同様に増加している(第2-2-11図)。
今回の消費の動きがどのような項目に起因しているかをみてみよう。大都市では前半(2012年12月~2013年4月)は交通・通信で、後半(2013年5月~2013年9月)は教養娯楽、食料で増加している。中都市では前半は交通・通信で増加、後半は食料で増加、交通・通信で減少している。小都市では、後半は交通・通信、住居で減少している(第2-2-12図)。
交通・通信の前半の増加は、自動車購入のプラス寄与が大きいが、後半では全都市規模でマイナス寄与となっている。教養娯楽の増加はパック旅行や入場・観覧・ゲーム代のプラス寄与が大きい。食料の増加は、食料品の値上がりによる影響もあるが、外食のプラス寄与もみられる。また、住居については、家賃地代が概ねマイナスに寄与している一方、設備維持・修繕が、前半は中都市、小都市でプラスの寄与となったが、後半は、中都市でプラス、小都市ではマイナスの寄与となった。なお、小都市における設備維持・修繕への支出は、東日本大震災以降、高い水準となっているが、耐震改修等の需要が最近やや落ち着いてきたことが、マイナス寄与の背景にあると考えられる。
なお、消費支出の中でも高額品や教養娯楽などの選択的支出は、食料、家賃、光熱費などの基礎的支出より変動が大きいと考えられる。実際、都市規模別にみた選択的支出をみてみると(第2-2-13図)、その消費に与える寄与度は、大都市、中都市が小都市より大きくなっている。多くの所得ないし資産を有している者は選択的支出の割合が高くなる傾向があり、今回の消費支出の動きの背景には、大都市、中都市の世帯のほうが資産を多く持っていることがあると考えられる。
次に、実収入の動きをみると(第2-2-14図)、過去の局面では、大都市に比べ、中都市、小都市の減少率が大きくなっているが、今回は、小都市では減少しているものの、中都市、大都市では増加している。
どの項目で実収入が増加しているかをみると、大都市、中都市ともに世帯主以外の配偶者等の収入の増加によるところが大きい(2-2-15図)。これに加えて、中都市では世帯主の賞与や定期収入(超過勤務手当を含む)の増加寄与も大きい。また、小都市では定期収入の減少が見て取れる。ただし、小都市の定期収入は、2011年前半に落ち込んだ後、2011年後半から2012年前半には元の水準を超えて増加し14、2012年後半に元の水準に戻るという動きをしており、今回の持ち直し局面における減少は、2012年前半の高水準の反動減といった要因もあると考えられる。
女性配偶者の有業率を都市階級別にみてみると、全体的に上昇しているが、直近での大都市の上昇率が際立っており、世帯主以外の収入の増加の要因と考えられる(第2-2-16図)。
最後に、2013年に入ってから円安もあって価格が上昇したガソリンの支出をみてみよう。消費支出に対するガソリン支出の寄与については、都市規模による差はほとんどない(第2-2-17図)。
(2)消費者物価の動き
(都市規模別にみた物価上昇率はわずかな差)
続いて、都市規模別に物価の動きをみてみよう。エネルギー価格の上昇もあって、消費者物価(生鮮食品を除く総合)の上昇率は都市規模と関係なく、2013年3月を底に上昇に転じている。今回の持ち直し局面での上昇率を比較してみると、エネルギーの寄与は小都市、中都市、大都市の順に大きくなっているものの、全体としては都市規模による違いはわずかなものとなっている(第2-2-18図)。
ただし、エネルギー価格の上昇は、自動車の使用率の高い地域や農林漁業のウェイトが高い地域、寒さが厳しい北日本などに、今後、悪影響を与えうることに留意が必要である。例えば、主要地点のガソリン価格の推移をみると、全地点で上昇がみられる中、地方都市のほうが価格が高くなっている(第2-2-19図)。
(3)都市階級別で景気回復の動きが異なる背景
(有価証券は大・中都市住民が多く保有)
2009年に実施された全国消費実態調査から都市規模別の世帯あたり資産保有高をみてみよう(第2-2-20図)。大都市や中都市のほうが小都市よりも資産を多く保有しており、特に、消費に対する資産効果が大きいと考えられる有価証券については、かなり差があることがわかる。
(東京などに多い大規模な本社)
大規模な本社(本社単独で従業員が300人以上)の立地を都道府県別にみると(第2-2-21図)、東京が多くなっている他、大阪、愛知、神奈川、福岡、北海道といった大都市を抱える県が中心となっている。グローバルに展開している大規模企業の本社は大都市に集中的に立地しており、世界経済の底堅さによる売上げ増加や円安による為替評価益を受けて業績が良好なことから、今回の景気回復の動きが大都市に早く及んだという側面もある。
ただし、輸出関連業種の事業所数をみると、必ずしも大都市ばかりではなく中都市、小都市にも多く立地している(第2-2-22図)。こういった事業所は、グローバルに展開している企業に部品・材料を供給するサプライチェーンの一翼を担っていると考えられる。今後、最終製品の輸出量が増加すれば、このような事業所の出荷額も増加し、さらに、その出荷価格も上昇すれば、業績が向上していくと考えられる。加えて、公共投資の本格的な進捗が期待されるなかで、地域内の民間消費をはじめとする内需の増加と相まって、小都市への景気回復の波及がさらに進んでいく可能性が高いと考えられる。
3.まとめ
これまで都市規模別に景気回復の動きについてみてきた。その特徴は以下のとおりにまとめられる。
第1に、景況感の改善度合いは都市規模によって異なる。大都市に比べ、小都市の景況感の改善は遅れているものの、2012年11月に比べると大幅に改善している。これは、小都市にも、若干遅れながらも景気回復の動きが波及してきていることを示唆している。なお、都市規模による景況感の差は業種構成が影響していると考えられる。今回の持ち直し局面では、高額品販売が好調であり、その主な販売経路である百貨店は大都市圏に立地が多いことも、大都市での景況感の改善の一因であろう。
ただし、観光関連については、小都市でも好調であり、景況感に対して押し上げ効果もみられる。さらに、小都市においても、地域におけるマインドが大きく改善しているため、地域固有の新たな試みを行うことで、新製品・サービスの開発と新たな顧客の開拓を行うチャンスが増えているとも考えられる。
第2に、消費支出の増加は、大都市や中都市が中心となっており、これは収入の増加と資産効果によるところが大きい。大都市、中都市の住民のほうが有価証券などの資産を多く保有し、年収との対比でみても、その割合が高いことから、資産効果の影響を受けやすくなっている。また、グローバルに展開している大規模企業の本社は大都市に集中的に立地しており、世界経済の底堅さによる売上げ増加や円安による為替評価益を受けて業績が良好なことから、今回の景気回復の動きが大都市に早く及んだという側面もある。
だだし、小都市においても、グローバルに展開する企業のサプライチェーンの一翼を担っている輸出関連の事業所は少なからずあると考えられ、今後、輸出量の増加等が生じれば、業績も向上していくと見込まれる。加えて、公共投資の本格的な進捗が期待されるなかで、地域内の民間消費をはじめとする内需の増加と相まって、小都市への景気回復の波及がさらに進んでいく可能性が高いと考えられる。
なお、物価上昇率についてはわずかな違いしかみられておらず、今のところ、物価面での差が景況感の主因としては考えにくい。