第1節 地域別にみた景気回復の波及
1.景気回復の動きと各県の景気基準日付
(1)今回の景気回復の動き
(比較的短期間で浅い今回の景気後退)
直近の景気基準日付は2012年4月が暫定的に山とされており、谷については設定されていないが、今回の持ち直し局面については、各種の経済指標の改善が2012年12月以降みられていることから、11月を谷と便宜的に想定して、議論を進める。
まず、今回の持ち直し局面については、景気ウォッチャー調査の現状判断DIに代表されるマインドからみても、CIに代表される経済統計からみても、山から谷までは短期間であり、景気後退の程度も浅かったといえる(第2-1-1図)。
さらに、今回の持ち直し局面を地域別に確認してみよう(第2-1-2図)。多くの地域で、雇用にははっきりとした谷がみられず、消費の谷は2012年11月より少し早めであり、生産やマインドの谷はほぼ一致していた。
(2)各県の景気基準日付
(ばらつきが縮小している各県の谷の景気基準日付)
次に、全国と比較する形で各県の景気基準日付をみてみよう(第2-1-3図、第2-1-4表)。景気基準日付を発表しているのは32の道府県となるが、これらの各県平均を全国と比べると、山は早く、谷は遅めとなっている。各県の景気基準日付と全国の景気基準日付との差をみると、谷の日付については、二乗平均平方根(RMS)が小さくなってきており、地域によるばらつきが縮小している可能性がある。これは、第2-1-2図において、地域別のばらつきがみられなかったことと整合的である。一方、2008年2月を山とした景気後退期をみると、山のばらつきが大きくなっている。ここでは、内需がまず弱含み、かなり遅れて輸出の落ち込みが加わり、後退局面入りしている。こうした動きを受け、内需により依存する県(サービス主導型)が先に山を迎え、海外の景気状況により依存する県(製造業主導型)は後から山を迎えた可能性がある。
2.マインド調査からみた景気回復の動き
(1)景気ウォッチャー調査からみた今回の持ち直し局面の特徴
(地域別にみた景気ウォッチャー調査DIの推移)
まずは景気ウォッチャー調査の現状判断DI(3か月前と現在を比較した景気の方向性)と参考値として公表している現状水準判断DI(単純な景気認識)を比較してみよう(第2-1-5図)9。現状判断DIも現状水準判断DIも、今回の景気持ち直し局面ではその開始時点の2012年11月のDIが前回、前々回に比べ高水準であり、景況感でみても景気の谷が浅かったことがわかる。
こうした認識の上で、過去3回の景気持ち直し局面について、現状判断DIを地域別に比較してみよう。今回は、景気の方向性という観点からみて、全地域で上昇していることが特筆され、2012年12月から2013年2月までは、調査開始後初めて全地域で3か月連続で上昇している。
全国との相対的な比較を行うと、今回は、大都市を抱える近畿、南関東、観光が好調な沖縄と北海道、生産が増加している北陸が先行しているのに対して、雇用が弱めの北関東が出遅れ気味となっている(第2-1-6図)。
なお、各地域とも概ね、過去のパターンとそれほどかい離しているわけではないが、近畿や南関東が過去の局面と比べ良好であることと、北関東は過去の局面でも不調であったが、今回はそれよりも出遅れていることが特徴となっている。
(2)消費動向調査からみた今回の持ち直し局面の特徴
(すべての地域で改善基調にある消費者態度指数)
消費動向調査は2013年度より、それまでの訪問留置調査から郵送調査に変更となり、水準が変わっていることに留意しつつ10、消費者態度指数の推移をみてみよう(第2-1-7図)。
消費者態度指数の動きから見た消費者マインドは、2013年に入ってから、すべての地域で改善基調にある。直近では、概ね、地域間のばらつきが収れんしてきているが、関東がやや高めに、北海道・東北がやや低めになってきている。また、地域の順位も変わってきており、例えば、近畿は2012年中頃は最下位であったが、2012年12月から順位を上げている。
消費者態度指数の動きを過去の景気持ち直し局面と比較してみると、今回の回復はもともと高水準から始まっている中、さらにマインドの改善が進んでいることがわかる(第2-1-8図)。
各地域の全国との相対的な比較を行うと、これも過去のパターンとそれほどかい離したものではないが、直近では、関東が比較的高水準、北海道・東北が低水準となっている(第2-1-9図)。
3.生産からみた景気回復の動き
(1)鉱工業生産からみた今回の持ち直し局面の特徴
(各地域で概ね一致する生産の持ち直し時期)
まずは鉱工業生産指数を、1999年1月、2002年1月、2009年3月、2012年11月に始まる計4回の景気持ち直し局面において地域別に比較してみよう(第2-1-10図)。
これをみると、今回の景気持ち直し局面では、各地域とも生産の持ち直しの時期はおおむね景気の谷に一致しているが、過去の景気持ち直し局面では、1999年1月に始まる局面ではかなり地域によってかなりばらつきがあり、2002年1月に始まる局面ではばらつきがありながらもやや早め、リーマンショックの際の2009年3月に始まる局面ではほぼ一致していた。
地域別に今回のパターンをみると、東海、北陸で強い動きとなっている(第2-1-11図)。ただし、東海は過去の局面よりやや強いが、北陸のパターンは過去とほぼ似たようなものとなっている。これに対し、関東や四国では相対的な弱さもみられることがわかる。ただし、関東や四国は過去の持ち直し局面に比較して大きく異なるものではないので、順次、景気回復の動きが及んでいくものと考えられる。
(2)各県の生産統計の動き
(大都市を抱える都道府県が先行しているわけではない生産の持ち直し)
各県の鉱工業生産指数に3か月中央移動平均をかけ、2012年11月を100として持ち直し局面を分析する。
その上で、2012年11月から2%以上増加した時期についてみてみると、約6割の県が3か月以内に到達していることがわかり、生産の持ち直しのタイミングが比較的一致していることがわかる(第2-1-12図)。さらに、県の分布をみると、いわゆる3大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)においても立ち上がりの早い県と遅い県が見受けられ、生産の持ち直しは必ずしも大都市を抱える都道府県が先行しているわけではない。
県別でみると、関東では群馬のほか、山梨、長野では大きく回復し、栃木などでも生産水準が上昇している。
一方、東北では秋田、山形の生産回復が遅れており、関東では静岡の回復が遅れている。埼玉でも回復の遅れがみられるが、これは一般機械や印刷業の減産のほか、自動車工場の県内移転による生産ライン停止も押し下げ要因の一つとなっている。また、九州では、大分、鹿児島でも生産の増加が低調である。四国では医薬品のように周囲に経済効果が波及しにくい業種が比較的多いこと等から、徳島、香川、愛媛でも生産の増加が弱い可能性がある。
4.消費からみた景気回復の動き
(1)地域別消費総合指数からみた今回の持ち直し局面の特徴
(消費が先行した今回の持ち直し局面)
地域別消費総合指数を用いて地域別にみた消費の動きを確認しよう(第2-1-13図)。地域別消費総合指数は2002年からの作成となっているため、2002年1月、2009年3月、2012年11月に始まる直近3回の景気持ち直し局面に限定する。
全般的に、今回は、2012年11月より早く地域別消費総合指数は底を打っており、前回の持ち直し局面より早い時期に増加に転じていることが特徴的である。
また、概ね、どの地域でも過去の持ち直し局面と同じような強さで回復しているが、今回は、沖縄、東海、北陸での回復が強かったことも特徴的である(第2-1-14図)。なお、東北や南関東のように今回の後退局面でも消費がそれほど落ち込まず、地域別消費総合指数が早めに谷をつけた後、横ばい傾向を続けた地域もあるが、2012年11月以降は増加傾向となっている。
(2)各県の消費総合指数の動き
(消費は大都市を抱える都道府県を中心に高い伸び)
次に、今回の景気持ち直し局面における各県の消費総合指数について、2012年10~12月期から4~6月期の半年間の増加率をみてみると、大都市を抱える都道府県を中心に高い伸びをしていることがわかる(第2-1-15図)。
5.雇用からみた景気回復の動き
(1)有効求人倍率からみた今回の持ち直し局面の特徴
(雇用面では、多くの地域で明確な谷はなく、上昇過程の一時的な踊り場)
雇用に関しては、有効求人倍率を用いて1999年1月、2002年1月、2009年3月、2012年11月を谷とした持ち直し局面を地域別に比較する。
過去の局面では、景気の谷をつけた前後で雇用も谷をつけているが、今回は、かろうじて北関東、東海、北陸で谷がみられただけで、多くの地域で明確な谷は見受けられず、上昇過程での一時的な踊り場であったといえる(第2-1-16図)。なお、東海、北陸では有効求人倍率がすでに高水準であったことから、一時的に谷を付けたという面が強い。
また、2012年11月以降、沖縄をはじめとしてほとんどの地域で大きく上昇しているが、北関東では、上昇ペースが緩やかで、雇用からみた景気回復の動きが相対的に弱いものとなっている。
(2)賃金の動き
(東北、東海、北陸等で増加している一般労働者の給与)
景気回復を実感できるのは賃金が実際に上昇してからであろう。この点について、毎月勤労統計の地方調査を使って、2013年に入ってからの給与の動きをみてみよう。一般労働者(フルタイムの労働者)の2013年上半期(1~6月期)の地域別にみた現金給与総額の増加率をみると、北海道、近畿以外は横ばいか増加となっている(第2-1-17図)。
その構成要素をみると、所定内給与は、北海道を除いて概ね横ばいか増加となっており、観光が好調な沖縄、生産が増加している北陸、東海、復興需要による景気押し上げ効果が続いている東北が大きな増加となっている。また、特別給与では、東海、東北、消費が堅調な南関東などで増加している。なお、北海道は所定内、特別給与が減少しており、これは非製造業を中心とした減少によるものである。
雇用者報酬は増加している地域が多く、そのような地域では家計の収入増が窺われる11(第2-1-18図)。地域別にみると、沖縄、東海、東北等で増加している一方、四国、中国、北陸では減少している。
(東海、南関東等で、増加に転じた特別給与)
一般的には景気が持ち直すとまずは残業が増加することから所定外給与が増加、次に企業の業績が上がり特別給与が増加し、やがて所定内給与の増加につながっていくことが考えられる。では、大企業を中心に増加に転じたといわれる夏のボーナスを含む特別給与は地域別ではどうなっているのであろうか。毎月勤労統計の地方調査を使って、2013年6~7月期の地域別にみた現金給与総額の増加率を特別給与を中心にみてみよう(第2-1-19図)。
特別給与は多くの地域で増加している。東海、南関東等では生産や消費の増加に対応して相対的に大きく伸びている。他方、減少したのは北海道、近畿などである。この2地域については非製造業を中心とした減少がみられる12。
なお、2013年7月より2014年3月まで、多くの地方公共団体で地方公務員給与の削減を実施することになっており、この統計には、教育や医療等に従事する現業の地方公務員も含まれているため、6~7月期の所定内給与、所定外給与に、そのマイナスの影響が一部に出ていると考えられる。さらに、8月以降もある程度の下押し効果が続くことも見込まれる。また、この統計には含まれていないが、事務職の地方公務員の給与にも同様の影響が出ていると考えられる。
6.貸出金及び地価からみた景気回復の動き
(1)貸出金から見た景気回復の動き
(全体的に増加する銀行の貸出金)
景気回復の動きについて、貸出金の観点からみてみよう。まずは日本銀行が公表している国内の銀行勘定における貸出金の残高をみる。
貸出金の地域別シェアは関東が過半数を超えるなど大きい。これは大企業の本社などが東京を中心とした南関東エリアに立地していることに起因するものと考えられる(第2-1-20図)。
次に、貸出金の伸び率を地域別にみると、北海道では一時的にマイナスに転じているが、その他の地域では、概ね、その伸び率が拡大している(第2-1-21図)。ただし、中部では企業のM&Aがあったことや北陸では地方公共団体の借り入れが伸びているといった要因もあり、設備投資向け資金需要の増大といった要因だけで伸びているわけではないとみられる。
(増加に転じつつある信用金庫の貸出金)
貸出金は地域の中小企業や個人に届いているのだろうか。これを確認するため、信金中央金庫が公表している全国270信用金庫の貸出金の残高をみてみよう(第2-1-22図)。
まず、2013年8月末の貸出金を地域別にみると、やはり関東のシェアが大きいが、銀行の貸出金に比べると、地域的に分散している。これは、信用金庫の貸出先はおもに地元の中小企業などであることによると考えられる。
次に、伸び率をみると、東海でプラスが続いているほか、近畿も2013年春には増加に転じており、北海道、関東、九州でも夏から増加に転じ始めている(第2-1-23図)。なお、北陸のマイナスは信用金庫の地方銀行への店舗売却などの特殊要因も一因となっている。
このような信用金庫の貸出金の伸びからは、地域的に弱いところはあるものの、概ね、中小企業にも資金需要が出てきはじめていることが窺われる。
(2)地価からみた景気回復の動き
(下落率が縮小する地価)
1年に1度公表されている基準地価を使い、2013年7月1日現在までの地価の動向を確認しよう。
まずは、全国、東京・名古屋・大阪から構成される三大都市圏、その他から構成される地方圏の地価を住宅地、商業地の別にみてみよう(第2-1-24図)。全国及び地方圏では住宅地、商業地ともに下落が続いているものの、下落率は縮小している。また、三大都市圏では、商業地は上昇に転じており、住宅地ではほぼ横ばいとなっている。
もう少し詳細に基準地価を県別にみてみよう(第2-1-25図)。
住宅地は全国的に見て、下落率は縮小している。こうしたなか、宮城、東京、神奈川、愛知では上昇に転じている。また、南関東や大阪周辺、福岡、沖縄では全国平均より下落率は小さくなっている。
商業地では住宅地よりも変動率のばらつきが大きく、宮城、東京、神奈川、愛知、大阪では上昇に転じている。やはり、南関東や大阪周辺、福岡、沖縄では全国平均より下落率は小さくなっている。
一方、住宅地、商業地ともに2013年の地価下落率が2012年より大きくなった県はない。このように、地価は全県で下落率が縮小している。
(地価は上昇するとの見方が増加するも、未だ高いオフィス空室率)
地価の今後の動向について考えるため、日本銀行の行っている「生活意識に関するアンケート調査」をみてみよう(第2-1-26図)。この調査結果では、2013年に入り、地価は先行き上昇すると考える人の割合は増加している。
地価の先行きを占うオフィス空室率をみると(第2-1-27図)、三大都市、地方都市ともに空室率は低下しつつあるものの、依然高い水準となっている。
7.まとめ
地域別にみた景気回復の動きについて、マインド、生産、消費、雇用、その他の観点から確認してきた。その特徴は以下のとおりまとめられる。
第1に、経済統計からみてもマインド面からみても、今回の景気後退は短く浅いものとなっている。また、景気持ち直し局面入りの時期についての地域差は小さいようにみられる。
第2に、マインド面でみると、消費が堅調な近畿、南関東、観光が好調な沖縄、生産が増加している北陸が先行しつつ、雇用が弱めの北関東が出遅れ気味となっている。
第3に、過去の持ち直し局面と比較した場合、今回は、消費の増加が先行し、特に、大都市を抱える都道府県を中心に高い伸びがみられた。また、生産については、比較的タイミングが一致しているが、都道府県別にみると、必ずしも大都市を抱える都道府県が先行しているわけではない。
第4に、雇用面では、多くの地域で明確な谷はみられず、上昇過程での一時的な踊り場であった。給与ついては、概ね各地域で横ばいか増加となっており、また、2013年6~7月期の特別給与は東海、南関東等で増加に転じている。
第5に、中小企業向けが多いと想定される信用金庫の貸出金も増加に転じている地域も増えてきている。また、地価は下落率が縮小しており、大都市圏では上昇に転じている都道府県もある。