補論 地域の雇用・賃金構造
景気回復を実感するためには雇用環境の改善が重要な要素となる。当補論では、それに影響を与えると思われる地域の雇用・賃金の構造とその中長期的な変化について簡単な分析を行う。
(大都市圏では、高賃金の職種が多い)
地域別に雇用構造の違いはどのようなものかを考えるため、産業別就業者割合を地域別に見てみよう。その上で、全国平均の業種別賃金と比較してみよう(第3-1図、第3-2図)。
情報・金融業等の職種は南関東に多いが、これらは比較的高賃金であり、南関東の高所得の原因の一つとなっている。また、製造業は東海で多いが、製造業賃金は高く、東海地域の高所得の源泉となっていると考えられる15。
これに対し、全国平均より賃金の低い飲食・生活関連サービス業の比率が高い北海道、四国、九州、沖縄では高い賃金の職が相対的に少ないことが窺える。
(長期的にみた就業形態の変化)
次に、県別にみた就業者の雇用割合をみてみると、大都市圏では雇用者(自営業でない者)が多く、また、非正規雇用の割合が高いことがわかる(第3-3図)。
次に、1992年から2012年の20年間の長期的な就業構造の変化をみると、全国的に正規職員の割合が減少し、非正規雇用の割合が増加していることがわかる(第3-4図)。
こうした変化が、平均継続就業期間に与える影響をみてみよう(第3-5図)。全国的に就業期間は短くなっているが、正規職員の割合が低下している県ほど、就業期間の短縮幅が大きい。また、構成員の平均年齢の上昇が大きかったほうが、就業期間が延びている。
次に、長期的な賃金の変化に与える影響をみてみよう(第3-6図)。全国的にみると、平均的には賃金は上昇している。ただし、正規職員の割合が低下している県ほど、また、構成員の平均年齢の上昇が大きかった県ほど、賃金の伸びが抑制されている。なお、構造失業率が高まった県では、ミスマッチの度合が高まったためか、やや賃金が押し上げられた可能性がある。
(2000年前後で東日本を中心に上昇した構造失業率)
県別に構造失業率を推計してみると、東日本を中心に、今世紀に入り全国的に構造失業率の上昇がみられる。特に、宮城県では、これに加え、東日本大震災により、再度、構造失業率が上昇していることが窺える16(第3-7図)。
このように、全国的に構造失業率が上昇している背景を探るため、長期的な雇用の需給動向の推移をみてみよう(第3-8図)。全体的に45度線からのかい離が大きくなっている。これは、職種ごとにみた有効求人数と有効求職者数のかい離が大きくなっていることを意味し、雇用のミスマッチが拡大しているといえる。
大分類でみると、専門的・技術的、サービスの職業の人手不足が拡大する一方、事務的職業の仕事不足が恒常化し、さらに生産工程・労務の職業の仕事不足に転じている。より詳細な分類でみると、社会福祉、飲食物調理の人手不足が拡大する一方、電気機械、一般機械等の組立・修理の職業は仕事不足に転じている。
(まとめ)
地域経済にとっては、賃金の伸びが高まり、雇用の安定性も高まることが好ましいと考えられるが、この20年間の長期的な傾向をみると、やや相反した動きとなっている。この二つを同時に達成するためには、高付加価値の産業を地域の中に作り上げるとともに、雇用のミスマッチを解消していく必要がある。