[目次]  [戻る]  [次へ]

第1節 政令市等のレベルでの集積

今後、我が国では人口減少・高齢化が急速に進み、また世界的なグローバル化の進展の下、新興国の台頭等がみられる状況の中では、集積のメリットによるイノベーションの創出や生産性向上は、地域や都市の国際競争力向上の観点からも極めて重要である。

企業や人材は、グローバル化の下、活動する都市や地域を、国境を越えて選択し、展開している。こうした選択は、居住や商業、交通・通信、教育・文化・娯楽、医療・福祉等の各種都市機能の評価に基づいて行われる。地域や都市の国際競争力とは、各種の都市機能を高水準で供給することにより、世界中から企業や人材を集める力であると考えられる。人口や生産額、高度人材の集中・集積は、地域や都市の国際競争力の源泉となる各種の都市機能の集積の基盤をなすものである。

本節では、こうした観点から、各地域における人口や高度人材、事業所や生産額等の集積の状況について概観する。

1.人材の集積

(1)人口の集積

(2010年の時点で、大都市圏と沖縄では人口増加、その他の地方圏では人口減少)

第3-1-1図により、各地域の人口の推移をみてみよう。1980年から2010年までの10年毎の増加率の推移をみると、東京圏である南関東で2000年から2010年にかけて上昇していることを除くと、各地域で経年的に低下している。

2000年から2010年にかけての増加率は、南関東、東海、近畿の大都市圏のほか沖縄ではプラスになり、これらの地域では人口は増加している。一方、1990年から2000年にかけての増加率が既にマイナスになっている中国、四国のほか、北海道、東北、北陸、九州等の他地域ではマイナスになっており、沖縄を除く地方圏では人口は減少していることがわかる。

(2000年から2010年にかけては、政令市と県庁所在市等への人口集積が進展)

第3-1-2図により、各地域における、政令市及び県庁所在市等の占める人口の比率の推移をみてみよう。政令市の占める人口の比率については、東海、近畿を除く地域では、1970年以降、一貫して上昇しており、東海、近畿についても、2000年から2010年にかけては上昇や下げ止まりがみられる。

県庁所在市等の占める人口の比率についても、北関東、南関東、東海、沖縄を除く地域では、1970年以降、一貫して上昇しており、北関東、南関東、東海、沖縄についても、2000年から2010年にかけては上昇や下げ止まりがみられる。

大都市圏の南関東、東海、近畿のほか沖縄で、1970年から2010年にかけて、政令市の占める比率や県庁所在市等の占める比率が低下している。これは、都市の外延部の地域が都市に組み込まれる「都市の郊外化」に伴い、都市中心部から郊外部へ人口が移動するドーナツ化現象によるものと考えられる。一方、2000年から2010年にかけてはそうした「都市の郊外化」から、政令市と県庁所在市等への人口の回帰という変化がみられる。この背景には、全国的な地価の下落に伴い、2000年以降、政令市や県庁所在市等で、再開発により大量の共同住宅の供給がなされたことがあると考えられる。

(2)高度人材の集積

グローバルな都市への備えという観点で特に重要かつ希少な資源が高度人材である。しかしながら、高度人材を定義することは容易ではない。ここでは、次善の策として、データとして把握可能ないくつかの代表的な人材の属性に着目する。具体的には、大学等卒人材、高所得人材、専門職人材、IT人材、外国高度人材といった区分について、それぞれの集積状況をみる。

(南関東のほか、東海、東北で高い大学院卒人材比率)

第3-1-3図は、地域ブロック及び政令市における大学等卒人材比率(短大、高専、大学、大学院卒の有業者の比率)及び大学院卒人材比率(大学院卒の有業者の比率)を示したものである。この図からは、以下のようなことがわかる。

高学歴化を反映して、1992年から2007年にかけて、大学等卒人材比率は、すべての地域ブロック及び政令市で上昇している。大学等卒人材比率は地域ブロックよりも政令市の方で高くなっているが、政令市への大学等卒人材の集中が高まっているという状況ではない。また、大都市圏である近畿、南関東、東海では、政令市と地域ブロックの間の大学等卒人材比率の差は小さい。大学院卒人材比率も、地域ブロックよりも政令市の方で高くなっており、地域別には、政令市、地域ブロックとも南関東でその水準が最も高くなっているほか、政令市における比率では、東海、東北で高くなっている。

(政令市でない水戸市、大津市、奈良市、徳島市でも高い大学院卒人材比率)

第3-1-4図及び第3-1-5図は、都道府県と県庁所在市等の大学等卒人材比率及び大学院卒人材比率を示したものである。これらの図からは、大学等卒人材比率は1992年から2007年にかけて、すべての都道府県で上昇しており、2つの比率とも、都道府県より県庁所在市等の方で高いという傾向のほか、大学院卒人材比率については、政令市でない水戸市、大津市、奈良市、徳島市でも高いことがわかる。

(南関東で群を抜いて高い高所得人材比率)

第3-1-6図は、地域ブロック及び政令市における高所得人材比率(年間所得1,000万円以上の有業者の比率)を示したものである。

1987年の水準では、南関東で政令市が地域ブロックより低いことを除けば、いずれの地域でも政令市が地域ブロックを上回っている。また、1987年から2007年にかけての上昇幅でも、近畿では政令市と地域ブロックが等しいことを除けば、いずれの地域でも政令市が地域ブロックを上回っている。こうしたことから、政令市で高所得人材比率が高く、その他の都市との同比率の差は広がる傾向にあることが示唆されている。

同比率を地域間で比較すると、地域ブロックでは南関東、近畿、政令市では南関東、東海の順で高くなっている。

(政令市でない水戸市、奈良市でも高い高所得人材比率)

第3-1-7図は、都道府県と県庁所在市等の高所得人材比率を示したものである。この図からは、同比率は、1987年から2007年にかけて、すべての都道府県で上昇し、都道府県より県庁所在市等の方で高いという傾向のほか、政令市でない水戸市、奈良市でも高いことがわかる。

(専門職人材の南関東への集中度の高まり)

第3-1-8図は、2011年の賃金構造基本統計調査において、年間賞与等が100万円を超えている、または、きまって支給する現金給与額が60万円を超えている自然科学系研究者、システム・エンジニア、医師、裁判官、検察官、弁護士、公認会計士、税理士、高等学校教員、大学教員、記者、編集者、鉄道運転従事者、航空機操縦士、航空機関士を専門職人材と定義し、就業者に占める比率を示したものである。

1985年の水準では、近畿において政令市と地域ブロックで等しくなっていることを除けば、いずれの地域でも政令市が地域ブロックを上回っている。また、1985年から2005年にかけての上昇幅でも、東北と中国において政令市と地域ブロックが等しいことを除けば、いずれの地域でも政令市が地域ブロックを上回っている。地域間の比較では、南関東で政令市、地域ブロックとも水準、上昇幅のどちらも群を抜いて高くなっており、専門職人材の南関東への集中度の高まりが示唆されている。

(政令市のない茨城県、奈良県でも高い専門職人材比率)

第3-1-9図は、都道府県の専門職人材比率を示したものである。この図からは、同比率は、1985年から2005年にかけて、すべての都道府県で上昇しているという傾向のほか、政令市のない茨城県、奈良県でも高いことがわかる。

(南関東や政令市への集中度が高まっているIT人材)

第3-1-10図は、地域ブロック及び政令市におけるIT人材(情報処理技術者)比率を示したものである。

近畿で、1985年の水準では地域ブロックと政令市が等しくなっていることを除けば、2つの時点で、いずれの地域でも政令市の水準が地域ブロックの水準を上回っているほか、地域別には、地域ブロック、政令市とも南関東で水準が高くなっている。

また、いずれの地域でも、1985年から2005年にかけて、地域ブロック及び政令市において、同比率が上昇しており、その上昇幅は、地域ブロックよりも政令市で大きく、地域別には南関東で大きくなっている。

こうしたことから、IT人材比率はすべての地域で上昇しており、特にIT人材の南関東や政令市への集中度は高まっているとまとめられる。

(神奈川県、東京都、千葉県の順で高いIT人材比率)

第3-1-11図は、都道府県のIT人材比率を示したものである。この図からは、同比率は、1985年から2005年にかけて、すべての都道府県で上昇しているという傾向のほか、神奈川県、東京都、千葉県の順で高いことがわかる。

(南関東、北海道、沖縄で高い一方、東海、近畿で低い外国高度人材比率)

第3-1-12図は、地域ブロックの外国高度人材比率(外国人登録者総数に占める、就労が可能な在留資格のうち、教授、芸術、宗教、報道、投資・経営、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術、人文知識・国際業務、企業内転勤、技能を有する外国人数の比率)を示したものである。

外国高度人材比率はすべての地域ブロックで、1995年から2010年にかけて、上昇している。特に、南関東と沖縄で上昇幅が大きくなっているものの、水準については、北海道で、1995年では最も高くなっており、2010年でも南関東に次いで高くなっている。一方、大都市圏である東海、近畿では、1995年で最も水準が低くなっているものの、1995年から2010年にかけての上昇幅は比較的大きくなっている。

(政令市のない山梨県、宮崎県等でも比較的高い外国高度人材比率)

第3-1-13図は、都道府県の外国高度人材比率を示したものである。この図からは、同比率は、1995年から2010年にかけて、多くの都道府県で上昇しているという傾向のほか、政令市のない山梨県、宮崎県等で比較的高いことがわかる。

(南関東、政令市への集中度が高まっている専門職人材やIT人材)

学歴、所得、専門性、IT、外国人、どの切り口でみても、高度人材比率の水準は、南関東とその他の地域との差が小さい大学等卒人材比率を除けば、地域別にみると、南関東の水準が群を抜いて高くなっている。また、政令市と地域ブロックの水準がほぼ等しい近畿を除き、政令市の方が地域ブロックよりも高くなっている。特に、専門職人材やIT人材では、南関東、政令市への集中度は高まっている。

(地方都市であっても、企業・機関等の通勤圏内への集約により可能な高度人材の集中)

3大都市圏や政令市を除く地域への集中については、水戸市や奈良市では大学院卒人材、高所得人材及び専門職人材の集中がみられるほか、大津市、徳島市では大学院卒人材、山梨県、宮崎県では外国高度人材の集中がみられる。

これらの高度人材の集中については、水戸市では、同市からの通勤圏に立地している、茨城県の看護系大学やその付属病院、各種試験研究機関等に勤務する人材の同市への居住がその要因として考えられる。また、奈良市では、奈良先端科学技術大学院大学や民間研究機関等が立地している関西文化学術研究都市に近接しており、これらの研究機関等に勤務する人材の同市への居住が要因として考えられる。

一方、大津市については、市内に複数立地している大手企業の研究所や工場等に勤務する人材の居住のほか、京都市・大阪市への通勤者の居住も要因として考えられる。また、徳島市については、市内に化学系の大手企業の工場が複数立地しているほか、徳島県が2005年より推進しているLEDバレイ構想の下、2012年7月時点では徳島県全体で114社の関連企業の集積をみており、こうした企業に勤務する人材の居住によるものと考えられる。さらに、山梨県、宮崎県については、それぞれの県の産業の特徴でもある、宝石加工業、観光業等に従事する外国高度人材の居住によるものとみられる。

水戸市や徳島市の例は、3大都市圏や政令市から離れた地方都市であっても、高度人材のキャリアを活かせる職の提供が可能な企業・機関等を通勤圏内に集約することができれば、地域の成長の担い手となる高度人材を集積させることが可能であることを示唆している。

特に、徳島市のLEDバレイの例では、短期間でLED関連業種の集積の形成に成功しているが、既存の集積の拡大により、同業種の一定規模の集積を形成する手法は、人口規模がそれほど大きくない地方都市でも可能であると考えられる。また、そうした集積の存在は、高度人材にとっても、転職が地域外への移動につながらない、失業した場合でも再就職先を見つけるのが容易等のメリットがあり、高度人材を集める上でも非常に効果的な方法であると考えられる。

2.生産活動の集積

事業所の集積は、集積の経済の発現による生産性向上を図る上で極めて重要である。ここでは、地域ブロックに占める政令市の生産額比率の推移をみるとともに、こうした観点から、都道府県や政令市における事業所の集積状況を事業所密度によりみる。

(すべての地域で政令市の占める比率が低下している製造業)

第3-1-14図は、1985年度から2009年度にかけての、県民経済計算における県内総生産の地域ブロック合計値に占める政令市の占める比率の推移である。全産業では、北海道、中国では上昇、南関東では横ばいとなっている一方、東海など、その他の地域では低下しており、特に近畿の低下幅が大きくなっている。

その内訳である製造業と非製造業についてみると、製造業については、すべての地域で政令市の占める比率が低下している。一方、非製造業については、東海、近畿では低下しているものの、北海道、南関東、中国、九州では上昇している。

このことは、これらの4地域では、政令市への人口の集中に伴い、非製造業の地域ブロック内総生産に占める政令市の占める比率が高まっていることを示している。特に、南関東、中国、九州の3地域では、非製造業の中の、卸・小売業と医療・福祉を含むサービス業について、政令市の占める比率は非製造業全体よりも大きな上昇幅となっており、非製造業の中でもこれらの業種の生産増加への人口の集中の寄与が相対的に大きいことが示唆されている。

一方、東海、近畿については、すでに第3-1-2図でみたように、都市の外延化により、2000年まで政令市の占める人口比率が低下しており、こうした人口の郊外への移動とともに、卸・小売業やサービス業等の非製造業の事業所が郊外に移転したことが非製造業の生産額比率低下の要因と考えられる。特に、1980年から2000年にかけての人口比率の低下幅が大きい近畿で、こうした非製造業の生産額比率の低下、そしてそれによる全産業の生産額比率の低下が大きくなっている。

(名古屋圏、関西圏の国際競争力の向上のため、求められる非製造業の集積の進展)

第3-1-15図は、1986年から2009年にかけての、地域ブロック全体の事業所数に占める政令市の比率の推移である。

全産業については、東海、近畿で低下している一方、東北、南関東等その他の地域では上昇しており、特に北海道の上昇幅が大きい。東海、近畿については、1980年から2010年にかけて政令市の占める人口比率が低下しており、これらの地域における事業所数比率の低下は、人口比率の低下と同様に、都市の郊外化に伴い外延部への事業所の立地が進んだことが要因であると考えられる。

製造業については、東海、近畿で低下しているほか、東北、九州で横ばいとなっている一方、北海道、中国等その他の地域では上昇しており、特に南関東での上昇幅が比較的大きい。

非製造業、またその中の卸・小売業とサービス業については、東海、近畿で低下、東北、南関東等その他の地域では上昇と、全産業とほぼ同じ割合の推移を示しており、政令市における事業所の中では、卸・小売業と医療・福祉を含むサービス業の占める割合が高いことが示唆されている。

以上のような地域ブロックに占める政令市の事業所数比率の推移と第3-1-14図の地域ブロックに占める政令市の生産額比率の推移を比較すると、次の2つのことがわかる。

1つ目は、製造業においては、1986年から2009年にかけて、工場等の製品の生産を行う事業所が政令市から移転する一方、製品の生産を行わない企画・管理部門等の事業所、例えば地域ブロックの中枢機能を果たす支店や支社等の政令市への立地が進んだことである。このことは、総生産については、1985年度から2009年度にかけて、すべての地域で政令市の占める比率が比較的大きな低下となっていたのに対して、事業所数比率の低下幅がほぼ同じである近畿を除けば、その他の地域では、事業所数比率が低下している東海も含め、政令市に占める比率は上昇あるいは総生産よりも小さな低下幅となっていることにより示唆されている。

2つ目は、非製造業、特に卸・小売業とサービス業では、政令市の方が他の市町村よりも事業所当たりの生産額が大きいことである。このことは、事業所数比率の低下している東海、近畿も含め、水準では総生産の比率の方が事業所数比率よりも高くなっていることにより示唆されている。

地域や都市の国際競争力の源泉となる居住や商業、交通・通信、教育・文化・娯楽、医療・福祉等の各種の都市機能の充実は、卸・小売業やサービス業等の非製造業の集積によりもたらされる。この観点からは、事業所数比率が低下している東海や近畿については、名古屋圏、関西圏の国際競争力の向上のため、卸・小売業やサービス業等の非製造業の集積の進展が必要であることが示唆されている。

(2001年から2009年にかけて、都道府県における事業所の集積度は総じて低下)

第3-1-16図は、都道府県の事業所密度をみたものである。その水準を比較すると、2時点とも、東京都と大阪府で群を抜いて高く、次いで神奈川県、さらに愛知県、京都府、埼玉県と続いており、東京圏や関西圏、名古屋圏の都府県で高くなっている。

2001年から2009年にかけての推移では、埼玉県、千葉県、神奈川県で上昇していることを除くと、他の都道府県では低下しており、総じて事業所の集積度は低下していることがわかる。なお、全国的にみられる、こうした事業所の集積度の低下の背景には、経済状況の変化とともに、徹底したコスト削減という企業の経営方針が2000年以降広まったことがあると考えられる40別ウィンドウで開きます

(大阪市、名古屋市等、大半の政令市等で事業所の集積度は低下)

第3-1-17図は、政令市と東京23区の事業所密度をみたものである。その水準を比較すると、2時点とも、東京23区と大阪市で群を抜いて高く、これらに名古屋市と続き、3大都市圏で特に水準が高いことがわかる。

2001年から2009年にかけての推移では、東京圏にあるさいたま市、千葉市、横浜市、川崎市のほか、札幌市、岡山市、広島市で上昇していることを除くと、東京23区や大阪市、名古屋市等、大半の政令市等では低下している。

3.まとめ

本節では、各地域における、人口や高度人材、事業所や生産額等の集積の状況について概観した。要点をまとめると以下のようになる。

(国際競争力の向上に資する政令市と県庁所在市等への人口の回帰)

2000年から2010年にかけての人口増加率は、南関東、東海、近畿の大都市圏のほか沖縄ではプラスになり、これらの地域では人口は増加している。一方、1990年から2000年にかけての増加率が既にマイナスになっている中国、四国のほか、北海道、東北、北陸、九州等の他地域ではマイナスになっており、沖縄を除く地方圏では人口は減少している。

大都市圏の南関東、東海、近畿のほか沖縄で、1970年から2000年にかけて、県庁所在市等の占める比率や政令市の占める比率が低下していることは、都市の外延部の地域が都市に組み込まれていく都市の郊外化に伴い、都市中心部から郊外部へ人口が移動するドーナツ化現象によるものと考えられる。一方、2000年から2010年にかけてはそうした都市の郊外化から、政令市と県庁所在市等への回帰という傾向の変化がみられ、3大都市圏や大都市への人口の集中の高まりは、これらの地域・都市の国際競争力向上の観点からは、各種の都市機能の集積度の上昇につながるものとして、肯定的に捉えることができる。

(国際競争力向上の観点から、東海、近畿で必要な高度人材の集積の進展)

学歴、所得、専門性、IT、外国人、どの切り口でみても、高度人材比率の水準は、南関東とその他の地域との差が小さい大学等卒人材比率を除けば、地域別には南関東で高くなっており、また、政令市と地域ブロックの水準がほぼ等しい近畿を除き、政令市の方が地域ブロック全体よりも高くなっている。特に、専門職人材やIT人材では、南関東、政令市への集中度は高まっている。高度人材の南関東、政令市への集中は、東京圏や政令市の国際競争力強化に資するものとして、肯定的に捉えることができる。

一方、名古屋圏、関西圏を含む東海、近畿では、どの切り口でみた高度人材の比率も、人口、生産額の占める比率と比較すると低く、とりわけ外国高度人材の比率は、上昇幅は比較的大きいものの、低くなっている。グローバル化の下での国際競争力向上の観点からは、東海、近畿では、外国高度人材等の高度人材の集積の進展が必要であると考えられる。

(地方都市であっても、企業・機関等の通勤圏内への集約により可能な高度人材の集中)

3大都市圏や政令市を除く地域への高度人材の集中については、水戸市や奈良市では大学院卒人材、高所得人材及び専門職人材の集中がみられるほか、大津市、徳島市では大学院卒人材、山梨県、宮崎県、沖縄県では外国高度人材の集中がみられる。

水戸市や徳島市の例は、3大都市圏や政令市から離れた地方都市であっても、高度人材のキャリアを活かせる職の提供が可能な企業・機関等を通勤圏内に集約することができれば、地域の成長の担い手となる高度人材を集中させることが可能であることを示唆している。特に、徳島市の例にみられるような、既存の集積の拡大により、同業種の一定規模の集積を形成する手法は、人口規模がそれほど大きくない地方都市でも可能であり、また高度人材を集める上でも非常に効果的な方法であると考えられる。

(名古屋圏、関西圏の国際競争力の向上のため、求められる非製造業の集積の進展)

県内総生産の地域ブロック合計値に占める政令市の占める比率の推移をみると、1985年度から2009年度にかけて、全産業では、北海道、中国では上昇、南関東では横ばいとなっている一方、東海等その他の地域では低下しており、特に近畿の低下幅が大きくなっている。

また、その内訳である製造業と非製造業についてみると、製造業については、すべての地域で政令市の占める比率が低下している一方、非製造業については、北海道、南関東、中国、九州では上昇している。製造業についての、政令市の占める比率の低下の背景には、工場等の製品の生産を行う事業所が政令市から移転する一方、製品の生産を行わない企画・管理部門等の事業所、例えば地域ブロックの中枢機能を果たす支店や支社等の政令市への立地が進んだことがあると考えられる。事業所数比率が低下している東海や近畿については、名古屋圏、関西圏の国際競争力の向上のためには、卸・小売業やサービス業等の非製造業の集積の進展が必要であることが示唆されている。

(生産性や国際競争力向上の観点からは、極めて重要な事業所の集積度上昇)

都道府県の事業所密度は、東京都と大阪府で群を抜いて高く、次いで神奈川県、さらに愛知県、京都府、埼玉県と続き、また政令市等の事業所密度は、東京23区と大阪市で群を抜いて高く、これらに名古屋市と続き、ともに東京圏や関西圏、名古屋圏で高くなっている。一方、経済状況の変化とともに、徹底したコスト削減という企業の経営方針が2000年以降広まったことを背景として、総じて事業所の集積度は低下している。生産性や国際競争力向上の観点からは、事業所の集積度を上昇させることは極めて重要である。

[目次]  [戻る]  [次へ]