第3章 集積のメリットを活かした地域づくり
我が国の戦後の発展は都市化の進展とともに実現した。1960年代を中心に、農村から大量の人口が東京圏、名古屋圏、関西圏の3大都市圏38に流入し、1975年には3大都市圏の人口は5千万人を超えた。都市の成長はそれだけにとどまらす、地方圏でも、中枢都市である札幌、仙台、広島、福岡等の政令市や中核都市である県庁所在市が相対的に高い成長をとげ、それぞれ百万人規模や数十万人規模の都市として形成された。
3大都市圏や中枢・中核都市の成長の一方で、多くの中小都市では、人口減少・高齢化により活力が低下しており、地方圏内での中枢・中核都市への一極集中も指摘されている。
こうして、現在、全国では、3大都市圏への集中、各地域ブロック内では、中枢的な政令市への集中、そして各都道府県では、中核都市である県庁所在市への集中という3層に重なった集中状態となっている。こうした3層の集中は、人口だけにとどまらず、人口の集中に伴い、商業や交通・通信、教育・文化・娯楽、医療・福祉等、各種の都市機能のほか、企業の本社機能等の中枢管理機能の集中も進んでいる。
こうした3層の集中について言及される際には、否定的な意味でなされる場合も多い。しかしながら、今後、我が国では人口減少・高齢化が急速に進み、また世界に目を向ければ、グローバル化の進展の下、新興国の台頭等がみられる状況の中では、希少な資源を集積させ、効率的に経済活動を行うことが、国際競争力向上の観点からも、これまで以上に重要になってくると考えられる。
そこで、本章では、各地域ブロックにおける政令市や県庁所在市等39への集中とそれに伴う集積の状況について分析を行う。具体的には、第1節では、各地域における集中の状況を、人口や生産額、高度人材等の面から概観する。第2節では、各地域における政令市と県庁所在市への人口の集中と労働生産性との関係や、人口集積と事業所の多様性、行政費用との関係等について分析を行う。また、第3節では、集積のメリットを活かしたコンパクトな地域づくりについて考える。
なお、本章において分析を行う集積は、対象となる地域・都市に応じて、以下の2つに大別される。1つ目は、3大都市圏や都道府県、政令市、県庁所在市等の都市における集積であり、集積の経済とよばれる、経済成長を生み出すイノベーションの創出や産業の生産性向上をもたらすものである。集積の経済には、同業種の集積によって生じる地域特化の経済と多くの異業種の集積によって生じる都市化の経済があるが、地域特化、都市化、いずれの経済であっても、集積による企業間の強い地理的な結びつきが、情報やアイデア、知識の交換を通じて、研究開発やイノベーションを容易にすることにより、発現する。
地域特化の経済は、同じ場所に立地している同じ産業分野の企業群に発生する産業レベル収穫逓増現象である。一方、多様性や異質性から生み出される都市化の経済が、都市の存在理由や成長にとって重要性を増してきている。都市の規模が大きくなるほど、多種多様の企業や人口の集積度が上がる。それらの相互交流によって都市全体における経済活動の水準が高まり、消費者にとっても財の多様性が増えることになる。これは、全産業規模に関する収穫の逓増現象である。
2つ目は、市町村レベルでの集積であり、コンパクトシティに関するものである。コンパクトシティは、まちの中心部への居住と各種機能の集約により、人口集積が高密度なまちをつくろうとする概念である。より集中した居住形態にすることで、まちの暮らしやすさの向上、都心の商業などの再活性化や、自治体の行政費用の節約等のメリットをもたらすと考えられている。