第3節 復興計画の実現に向けて
1.国・被災3県の復興計画の概要
(1)国の計画
国の事業は各府省が多岐にわたり実施するものであるが、復興庁が2012年5月にとりまとめた工程表全体版のうち、一部を抜粋したものが第2-3-1表である。これによると、2012年度後半からは、全面復旧に向けた努力を続けることになっている。
農地・農業用施設に関して基幹的農業用施設は、主要な排水機場を応急復旧を概ね完了したところであり、本格的な復旧は各地域での復興計画を踏まえて概ね5年間での完了を目指している。
全国的な水産物の生産・流通拠点となる漁港等については、2013年度末までに漁港施設等の復旧にめどをつける。また、復興住宅や復興まちづくりに関しては、各地方公共団体において策定された復興計画を踏まえ、順次実施していくこととしている。
(2)被災3県の復興計画及び代表的な市の計画進捗状況
大震災で大きな被害を受けた被災3県では、今後8~10年間における復興への道筋を示すために復興計画を制定した(第2-3-2表)。
まず、農業について見てみると、岩手県では共同利用施設等の復旧や共同利用農業機械等の導入支援のように農家に共同利用を促す施策がみられるほか、宮城県や福島県では、農地集約や、経営の大規模化を目指す新しい取組についても触れられている。
水産業では、産地市場や漁協の再編整備だけでなく、共同利用のための漁船・施設等の整備のほか、漁業経営の共同化や経営の協業化など、3県ともに効率化を目指していることがわかる。また、農業・水産業においては、3県ともに「6次産業化の推進」を柱としており、1次産業が単に生産だけにとどまらず、新たな付加価値を生み出す産業となるよう計画に取り入れている。
最後に、まちづくりでは、防災に視点を置くことはもちろんのこと、街路を含めた市街地整備を推進している。高台移転や集団移転、沿岸部での職住分離の推進も掲げられているほか、岩手県、宮城県では多重防災・防御といったまちづくりの推進もみられる。また、岩手県ではコンパクトなまちづくりを掲げ、必要な機能の一定エリアへの集約も検討されている。
復興計画は震災前の状態に戻すだけではなく、人口減少社会や環境保全など震災前からの社会的なトレンドやニーズを満たすものとなっており、被災3県の中長期的な成長が期待される。
次に例として、被災3県から陸前高田市、石巻市、いわき市の各市の復興実施計画の実施状況をみてみよう(第2-3-3(1)、(2)、(3)表)。
岩手県陸前高田市の復興実施計画の進捗状況を見ると、農業・農業用施設に関しては大区画化などの区画整理が検討されている段階であり、営農再開ができていない農地がまだ多く残っている。第2-1-15図でみたとおり、岩手県では2012年3月11日現在の津波による被災農地の復旧完了面積が3.8%と進んでいない。漁港に関しては、2011年度末時点で、全ての漁港において潮位によっては岸壁の使用が可能となっているほか、復興住宅に関しては2011年度からすでに東日本大震災復興交付金を活用し、用地の取得造成や調査設計等に着手しており、2014年度以降も計画が決まったものから用地取得等、順次着手していくこととなっている。後にも触れるが、岩手県では2012年9月24日現在、約5,600戸の災害公営住宅が整備されている。復興まちづくりに関しては、2011年度から集団移転促進事業計画案策定に向けた調査を開始しており、住民の合意形成が得られた地域等において事業着手している。2014年度以降も測量、設計を続けていくとしている。
宮城県石巻市の復興事業計画の進捗状況を見ると、石巻の農業・農業用施設に関してはすでに基幹的排水施設について応急復旧が完了しており、本格的な復旧は概ね4年以内の完了を目指している。第2-1-15図でみたように、宮城県では津波による被災農地の2012年3月11日現在の復旧完了面積が32.5%と被災3県の中でも進んでおり、石巻市の計画を見ても早く完了することがわかる。石巻市の被災漁港42漁港に関しては、2011年度末時点で潮位によっては岸壁の使用が可能となっており、今後、漁港間での機能集約と役割分担の取組を図りつつ、2015年度中に漁港施設の復旧完了を目指している。復興住宅、復興まちづくりに関しては、2011年度から東日本大震災復興交付金を活用しながら調査を開始しており、2012年度以降も住民の合意形成が得られた地域から、順次事業着手していくこととなっている。後にも触れるが、宮城県では2012年9月28日現在、約2,700戸の災害公営住宅が整備されている。
福島県いわき市の復興事業計画の進捗状況を見ると、農地・農業用施設に関しては津波により大きな被害は出たものの、2011年度に応急復旧は終えており概ね2年以内の完了を目指している。第2-1-15図でみたように、福島県では2012年3月11日現在の津波による被災農地の復旧完了面積が4.1%と進んでいないが、いわき市では概ねめどがついているといえる。漁港については、被災5港全てが2011年度末時点で潮位によっては岸壁の使用が可能となっており、2013年度末までに漁港施設復旧の完了を目指している。復興住宅に関しては、東日本大震災復興交付金を活用し、2011年度から用地の取得造成や調査設計等に順次着手しており、2012年度以降も用地取得など順次着手していくこととなっている。復興まちづくりに関しては、常磐西郷町忠多地区、泉もえぎ台地区において造成宅地滑動崩落緊急対策をとることとなっており、東日本大震災復興交付金を活用し、2011年度から調査・測量等を開始している。2012年度からは滑動崩落防止のための工事を行うこととしている。
(3)中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業
中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業とは、復興のリード役となり得る「地域経済の中核」を形成する中小企業等グループが復興事業計画を作成し、県の認定を受けた場合に、施設・設備の復旧・整備を支援する事業である32。
以下の4つの類型を要件として、第1次2011年6月13日~24日から第5次2012年5月1日~31日まで補助事業が随時実施された33。
① 経済取引の広がりから、地域の基幹産業・クラスター
② 雇用・経済の規模の大きさから重要な企業群
③ 我が国経済のサプライチェーン上、重要な企業群
④ 地域コミュニティに不可欠な商店街等
第2-3-4表を見ると、補助件数では福島県の131件を筆頭に宮城県89件、岩手県51件と被災3県が上位に並んでいる。一方、補助総額で見ると、宮城県1,471億円が最も多く、福島県と岩手県がほぼ同額で続いている。
次に、2011年度の東北でのグループ補助金を使用した工事の進捗状況を見てみる(第2-3-5図34)。補助事業に係る工事の進捗状況は、概ね全体の1/4が終了している一方、約15%が未着手となっている。
県別に見ると、青森県は7割以上(終了含む)の進捗状況が約9割と進んでいる一方、岩手県では3割強、宮城県では約4割、福島県では約5割となっている。
さらに、工事の進捗状況で「終了していない」と回答した事業者1,270者に対し、補助事業に係る工事の完了見込みについて聞いたところ、2011年度中が約25%、2012年度中に約93%が完了すると回答している。県別で見ると、工事の進捗が早い青森県は約5割が2011年度以内に復旧見込みとなっている一方、岩手県では約2割にとどまっている。2012年度以内の復旧見込みでは、青森県約98%、福島県約97%、岩手県・宮城県約92%と高い数値になっている。
被災地では多くのグループが補助金を申請または申請準備を行っているが、宮城県の5次募集では147件の申請に対し24件の認定にとどまっている。また、被害の甚大な浸水地域の企業は、補助金申請の前提となる事業計画が立てられないなど、課題も残っている。
最後にグループ補助金の一例として、「宮城県石巻市の水産業関連グループ35」の件を紹介する。
宮城県石巻市は、全国屈指の水揚量を誇る石巻漁港等を抱える水産都市として知られているが、東日本大震災の津波によりほとんどの水産加工業関連の建物・機械設備が損壊した上、地盤沈下による冠水や地盤の液状化も発生するなど、漁港とその後背地一帯は壊滅的な被害を受けた。
水産業の復興なくして石巻市の復興はあり得ないと、石巻商工会議所が地元の企業に声をかけ、2011年6月にはグループ補助金(1次募集)に、石巻市から水産業関連で24グループが応募したが採択されなかった。地域がばらばらのままグループを作ったことが要因と分析し、事業者の被害状況や要望の把握から、参加呼び掛け、事業者間の調整、申請書類の作成等に至るまで全面的な支援を商工会議所が行った。その結果、水産加工業138社と関連産業72社の計210社が一体となってグループを形成し、3次募集に応募したところ2011年末に事業採択が決まった。
2.復興における「集積のメリット」の追求
これまでみてきたとおり、被災3県は復興に向かって着実に歩みを進めている。しかし、1節でも少し触れたとおり、今後被災3県では応急仮設住宅に高齢者が取り残されていく懸念や、仮設住宅だけでなく、被災地域自体から若い世代が急速に減少していくことが危惧される。
被災3県の将来推計人口を見ると、全国に比べて人口減少が急テンポで進んでいる。また、高齢化率については、総じて全国と同様の傾向であるが、宮城県の高齢化は相対的に早いと推計されている(第2-3-6図)。人口減少・高齢化が進む現代ではよりコンパクトな地域づくりが求められており、被災3県においても、「集積のメリット」追求という観点から復興に向けた取組を考えていきたい。
(1)被災3県の復興計画における産業・商業の集積
(復興計画における産業の集中化への歩み)
被災3県及び市町村では震災後に復興計画を策定しており、そのなかでは産業や人口のコンパクトな集約などをうたっている。第2-3-7表は、それらに関連する内容を被災3県の復興計画から抜粋したものである(下線は内閣府にて加筆)。
岩手県の復興計画からはコンパクトな集約や高台移転などを活用しつつ、効率的なまちづくりを目指していることがわかる。第2-3-8図は都市の再生を中心とした復興モデルのイメージである。
宮城県の復興計画では水産業に関する集積についても記載されている。宮城県の水産業は、国の公的な資金や民間資本を活用しながら、家族経営などの零細な経営体の共同化や漁業経営の改善を促すなど、効率的で安定した生産基盤を構築するとともに、全国一の水産業集積拠点を目指している。水産業再構築のイメージが第2-3-9図である。また、具体的な拠点漁港の再編案が検討されており、これまでの漁港から約3分の1を機能強化漁港(沿岸拠点漁港から改称)として震災後に新たに選定した(第2-3-10表)。
さらに、宮城県の水産業復興の方向性を見ると(第2-3-11表)、まずは2013年度までに漁港を復旧させるべく努力することがわかる。さらに、2014年度以降は拠点漁港を中心とした発展的復興を行うことが予定されている。
(簡単ではない漁港の集約)
宮城県では拠点漁港の集約に向けた取組があるものの、現実的には第2-3-12表のような「技術的な問題」、「地域の崩壊」といったデメリットがあり、なかでも不安を理由に挙げるものが多く集約は簡単ではない。一方、漁港集約化のメリットとしては、人が少なくなる中で、加工施設や倉庫等の集約による費用負担の軽減などが挙げられている。
(進む復興特区制度の認定)
復興特区制度は、地方公共団体が作成する復興特区に係る計画に基づき、規制・手続の特例、税・財政・金融上の特例、土地利用再編の特例を活用できる制度である36。
地域の提案に基づき「国と地方の協議会」の協議等を経たうえで新たな特例等を追加・拡充しており、規制・手続、税制上の特例措置等を内容とする復興推進計画の申請、認定が第2-3-13表のとおり進められている。
(2)移転による集積の形成
(早期の実施が期待される防災集団移転(高台移転)及び災害公営住宅)
防災集団移転とは、被災地域において住民の居住に適当でない区域にある住居の集団的移転を行うことであり、移転に必要な経費の全額が東日本大震災復興特別区域法に基づき本事業の施工者である地方公共団体に交付される(第2-3-14表)。住民は、住んでいた土地等を地方自治体に買取ってもらうことで、移転先の土地購入費用等に充てることができる。2012年9月24日時点で、集団移転事業計画策定済地区は3県21市町村で16,035戸あり、今後事業移転計画策定は進展することが期待される(第2-3-15表)。
宮城県岩沼市では、被災地全体の先陣を切って2012年8月5日に、防災集団移転事業の移転先である地区の造成工事の起工式が行われた。岩沼市では、津波による被害を受けた沿岸6地区の住民を内陸山側の農地へと集団移転する計画を立て、エコ・コンパクトシティ構想を掲げる(第2-3-16図)。6地区の防災集団移転対象地域の移転対象となる471戸のうち、377戸が移転する計画となっており、高齢者が安心して暮らすことができるように福祉施設や高齢者住宅などを整備するほか、自然エネルギーを活用したエネルギー自立型のコンパクトなまちづくりを目指す。
岩沼市では、震災後から移転先の地権者や地域住民全体に、事業の内容や必要性、目指すまちの理想などについてアンケート調査するほか、地区懇談会などを繰り返し説明することで、地域が団結して事業に取り組む雰囲気を醸成してきており、今後は2013年7月末までに盛土造成を行い、道路や公園などの公共施設を整備したうえで2013年度末には移転を開始する計画となっている。
また、災害公営住宅は、自力で自宅再建が困難な人を対象に安価な賃貸を県や市町村が提供するもので、被災3県合計で2万戸以上が必要と想定されているが、岩手県で約5,600戸、宮城県で約2,700戸(第2-3-17表)の整備方針が示された37。
集団防災移転と災害公営住宅整備の進捗状況をまとめたものが第2-3-18表である。
集団防災移転に関するメリットは、一度津波に遭遇した住民がもう津波の来ない地域に居住するための土地を入手できることである。ただし、この事業を実施する上では、移転先となる山林所有者の了解を得る必要があること、移転先は平地ではなく山林開発に1~2年といった時間がかかることが予想されること、住宅建設費用を自前で準備する必要があること、といったハードルがある。新しく与えられた土地に自宅を建設する費用を持たない場合には災害公営住宅に入居する方法もある。
これらのハードルをクリアするには時間がかかることが予想されるが、地域全体の移転には住民の総意が必要であり、粘り強くこの事業を推進していく必要がある。
(ケーススタディ:石巻市)
石巻市では8月末現在、24地区の集団移転が計画されて(事業計画について国土交通大臣の同意を得て)いる(第2-3-19図、第2-3-20表)。大部分の集落は、周辺に位置する高台山林への移転を計画しているが、熊沢と大須(住宅被害戸数11戸)は両者の中間点の高台に移転するなど集約化も計画されている。
また、住宅被害数681戸に対して住宅移転数は547戸となっており、このデータを機械的に見ると8割の住民が移転に対して賛成していることがうかがえる。ただし、常に発生することであるが、山林を居住地として開発することに伴う地価上昇は、予期せざる所得再分配を起こすなどの課題も考えられる。
石巻市は7つの自治体の合併により成立した市であるが、コンパクトシティは以前から中心となってきたJR石巻駅付近の人口等集積地を核としていくことを考えている(第2-3-21図)。現在もJR石巻駅付近の中心市街地には、市役所や国・県の地方機関、商業施設や医療施設など市民の生活を支える多様な都市機能が集積しているが、さらなる商業集積やまちなか居住を促進させる市街地再開発事業等を導入して中心市街地の高度化を図ることが、石巻市震災復興基本計画の復興整備方針にも記載されている。
さらに、震災前は南浜地区にあり津波により被害を受けた石巻市立病院をJR石巻駅付近に移転させるという計画もあり、高齢化が進む同地域で当該病院を核とし人口集約を図っていくことを意図していることがうかがえる。
3.まとめ
これまでみてきたとおり、国、地方公共団体ともに2012年度からは本格的な復興に向けた取組を行うこととなっている。その際には、進行している高齢化も視野に入れつつ、岩沼市や石巻市にみられるようにコンパクトなまちづくりなどの集積のメリットも生かした復興を考えていることを示してきた。
しかしながら、被災した地方交通線の再開や住民の高台移転にみられるように、まだ復旧・復興まで時間がかかる面があり、復旧・復興から取り残された人々についても適切に対応していくことが重要である。
また、漁港などの集約については「生まれ育ったところに住みたい」といった気持ちに加え、技術的にみて「漁場が異なると収穫できる魚の種類が異なるため、たとえ漁港を統一化しても冷凍庫や市場などを複数整備する必要がある」「漁港を持たない市街地の両側にある漁村を統合するのは困難である」といった問題があり、その解決は容易ではない。
こうした中、被災3県の復興計画にも「住民生活や企業活動に必要な機能を一定エリアにコンパクトに集約させる」「漁港の3分の1程度を「沿岸拠点漁港」として選定し、当該漁港に機能を集約再編しつつ、優先的に復旧させる」「漁業を中心とした産業の集約・高度化に努める」など、単なる復興にとどまらない集約やコンパクトシティへの方向性が挙げられていることは注目される。
被災地の人口流出や生産活動の低下は、今回の大震災で加速した面はあるが、震災前からもそうした傾向にあった。今後の少子高齢化の進行を考えると、人口や生産の適切な水準を見極め、効率的な投資を推進する必要がある。岩沼市にみられるように、防災集団移転に際し集落及び福祉施設等の集約を図ることや、石巻市に見られるように、中心市街地に移転させる病院を核としたまちなか居住の推進や商業施設の集積を図ることにより、コンパクトなまちづくりを推進することは今後の日本社会の在り方にとって1つのモデルとなるのではないか。そのためにも、住民を中心とした議論の上に、被災地がどのような社会を目指すべきかを十分整理し復興を進めることが不可欠である。