第2節 被災3県の経済動向
1.公共投資の動向
(2011年秋頃から大幅に増加した公共工事請負金額)
第2-2-1図を見ると、被災3県では、震災後4月まで前年比マイナスで推移したが5月以降は上向きに推移しており、2011年10月以降には地方公共団体の公共工事を主軸に大きく金額を伸ばしている。東日本大震災後の第一次補正予算が2011年5月に成立しているなかで、その後すぐに急増しなかった背景としては、公共工事の契約事務を担当する被災自治体職員の不足などが考えられる。2011年10月には地方の寄与度が高くなっているが、宮城県で400億円を超える大型の災害廃棄物処理業務があるなど地方ではがれき処理にかかるものが多い。また、2012年3月には国の寄与度が高くなっているが、湾口防波堤等の災害復旧関連の大型工事が東北地方整備局から複数件発注されている。2012年3月以降は、震災前の前々年と比べても上回って推移しており、災害物処理業務や除染委託も増えるなど2012年度になっても微増傾向が続いている。
次に、被災3県を県別に比べてみると(第2-2-2図)、岩手県、宮城県では2011年5月から前年同月を上回るようになっている。岩手県では6月、8月にがれき処理や災害廃棄物処理等の大型発注で大きく増加している月があるほか、宮城県では2011年10月、2012年4月、7月に100億円を超える大型の災害廃棄物処理事業の影響で、前年同月比、前々年同月比とも増加を続けるものの、増加幅が大きく変動している。
岩手県では2012年に入り、3月の東北地域整備局の湾口防波堤の災害復旧に関する大型事業が複数件あったことから国の寄与度が高く、また前々年比でみても3月は331%増と大きな伸びとなっており、4月以降も緩やかな増加傾向にある。一方、福島県では2011年7月まで前年を下回っているが8月以降は前年比増で推移しており、2011年12月からは除染関係の大型委託事業が始まったことからより大きな伸びを示している。特に大型の除染委託事業があった2012年5月と8月には前々年と比べても大きな伸びであるが、8月は国直轄の除染工事事業があったため国の寄与度が高くなっている。
(復興関連公共投資の効果は多くの産業に波及)
第2-1-4表において「公共事業」とされる予算額すべてが建設業新規需要にあてはまると仮定したときに、平成17年逆行列係数表34部門を使用した機械的な計算による波及効果は第2-2-3表のとおりとなる。
公共事業の認定は様々な定義もありうるが、簡単に見ると合計約5兆円の投資が行われ、約9兆7千億円の波及効果があるものと考えられる。
産業ごとに見ると、やはり一番大きいのは建設業で約52%を占める。この他、金属製品や鉄鋼など原材料にあたる産業や、対事業所サービスや運輸、金融・保険、情報通信といったサービス業にも効果が波及することがわかる(第2-2-4図)。
生産額が押し上げられることにより、さしあたっての雇用確保や、稼働率上昇といった効果が期待される。
(復興関連公共投資は関東へのスピルオーバーが大きい)
第2-2-5表は、平成17年版地域間産業連関表を用いて各地域及び各産業への波及効果を機械的に計算したものである27。ただし、予算がすべて東北の建設部門として執行されること、原材料などがすべて東北産であることを前提状況としている。
東北及び全国の生産の押し上げ効果を見ると、建設業のみならず、製造業の生産押し上げ効果が大きい。その他にも商業や金融・保険、運輸、物品賃貸サービスなどにも押し上げ効果がみられることがわかる(第2-2-6図)。
次に、生産誘発額を地域別に見ると、東北が中心で、関東など他地域にも波及していることがわかる(第2-2-7図)。
建設業の生産誘発効果が東北中心であるのに対し、製造業などの生産誘発効果が関東など他地域で多くなっている。これは、東北の建設業の需要増が仮定されているほか、建設業が重要な役割を担う公的需要の増加が東北域内での生産増につながり、製造業で重要な役割を果たす民間需要の増加は他地域の生産増につながりやすいためと考えられる。
2.産業の動向
(1)企業活動
(岩手県、福島県では減少に転じた鉱工業生産)
第2-2-8図を見ると、震災の影響で落ち込んだ鉱工業生産は、岩手、福島両県では2011年6月、宮城県は2012年2月頃には2010年の9割程度まで回復した。特に津波被害の大きかった宮城県は、震災直後には2010年の半分程度まで落ち込んだもののその後順調に回復を見せた。3県のなかでは比較的影響の小さかった岩手県は、2011年の9~12月に停滞期があったものの、震災から1年後には2010年を上回るまでに回復をしている。
次に、鉱工業のなかでも影響の大きかった鉄鋼業を見てみる。鉄鋼業では岩手、宮城の両県で被害が大きく、特に宮城県は津波により沿岸部の企業が被災したことから落ち込みが激しかったため、回復にも時間がかかった。岩手県や福島県が早々に2010年と同レベルに回復したのに対し、宮城県では2012年の4月でも震災前の8割程度の回復に留まっていたが、ここにきて岩手県を上回る伸びを見せており3県で異なる回復曲線を描いていることがわかる。2012年に入り、宮城県では鉄鋼業における事業再編などに伴う生産増がみられるが、5月以降は世界景気の減速等を背景として岩手県、福島県を含め全国的に生産が減少傾向にある。
(水産加工業のサプライチェーン再建が課題)
上記のように、鉱工業の生産は、現状では全国と同様に景気軟化の影響を受けているが、生産能力という点では、総じて震災前の水準に近い状況にある。しかしながら、被害の甚大な浸水地域に集中していた水産加工業については、工場の建て直しの見通しが立たず、非常に厳しい状況にある。特に、氷工場や冷凍工場が被害の甚大な浸水地域に多く立地していたことから、水産加工業の生産回復は道半ばである。
その結果、大企業を中心とした産業集積が打撃を被っている。大企業の中には、アジアでの需要が高まっているため、この機に海外生産移転を決めて、工場を閉鎖する動きもある。
東北地方の水産加工業では、①加工場で生じるカスを、②魚粉(フィッシュミール)工場の原料にする、③生産される魚粉を飼料、餌料工場の原料にし、④餌料を養殖業で使用する、というサプライチェーンが形成されていた(第2-2-9図)。大企業の工場閉鎖や海外生産移転もあってこのサプライチェーンは毀損されたが、中小企業庁の「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」や水産庁の「水産業共同利用施設復旧支援事業等」を活用し、中小企業を中心に回復途上にある。
(高水準を維持している東北の設備投資計画)
第2-2-10図で設備投資の状況を見ると、全国では2011年度の実績は低調であったが、2012年度の計画で製造業を中心に増加が見込まれている。一方、東北を見ると、2011年度の実績が大幅な増加となっているが、これは製造業では鉄鋼、紙・パルプ関連で震災復旧関連や生産増強のための投資が行われたほか、非製造業でも卸売・小売などで大型店舗の出店や物流センターの新設投資が行われたことによる。また、2012年度の計画は、前年に大きな投資が行われた製造業は前年を下回ったが水準はいまだに高く、非製造業では電力供給安定化のための火力発電所増強など電力が大幅増加することから前年を上回り、全体でも増加が見込まれている。このように震災以降、東北の設備投資は全国を上回る高い水準を維持しているが、全国同様に海外景気減速の影響等に注意する必要がある。
(2012年に入り減少した資金繰り支援策融資実績)
東日本大震災の発生により、多くの企業が資金繰りに苦しむこととなった。そこで政府は既存の複数の融資制度を一本化して東日本大震災復興特別貸付制度を創設28し、制度を明瞭化・効率化するとともに融資限度額や金利引き下げ措置等を大幅に拡充した。
第2-2-11図を見ると、震災後から2011年末にかけて毎月20,000件前後の融資が行われ、融資金額も4,000億円前後で推移しているが、2012年になると融資件数・金額ともに大きく減少し、以降緩やかな減少が続いている。日銀短観の資金繰り判断をあわせて見ると(第2-2-12図)、融資件数・金額ともに高かった2011年6月が全産業でマイナス11ポイントと悪くなっており、融資件数・金額ともに少なくなった2012年6月にはプラス2ポイントと改善していることから、東日本大震災復興特別貸付制度は資金繰りに一定程度貢献しているものと考えられる。
(減少した東日本大震災関連倒産)
第2-2-13図を見ると、東日本大震災関連倒産件数は2011年6~8月に全国、被災3県ともに最多となっており、震災直後に最も影響が出たことがわかる。その後はやや件数が減少したものの、12年3~5月まで最大時の3分の2程度で推移した。2012年の6~8月を見ると、全国、被災3県ともに減少傾向がみられ、被災3県では四半期の合計が8件と震災後はじめて1桁台に減少するなど、一時期に比べ収束気配を見せ始めた。
次に被災3県の内訳を見ていくと、2011年までは岩手県や福島県の占める割合が大きかったが、2012年に入ると宮城県の割合が高くなっている。津波により甚大な被害を受けた宮城県は、経営の立て直しができないケースや震災後に事業を停止していた企業が事業継続を断念するケースが増えた。
(2)農林水産業
(宮城県、福島県で遅れる農業経営体の再開)
第2-2-14図で被災3県の被害(津波被害を含む)を見てみると岩手県では東日本大震災発生の4か月後には約95%が営農を再開しており、他の2県に比べ回復速度が格段に早かったことがわかる。宮城県、福島県の両県は1年後の時点で概ね半分近くが営農を再開している。
また、津波被害について見てみると、どの県も営農再開に苦慮しており1年後の時点で岩手県、福島県は2割にも満たない状況となっている。
岩手県と宮城県の津波を含む被害のあった農業経営体数は、全体の農業経営帯数における約14%と同程度であるが(福島県は約24%)、宮城県では被害のあった農業経営帯のうち約83%が津波被害であり、岩手県の津波被害は約6.2%とその被害状況は大きく異なる。津波被害だけで見ると宮城県は最も回復が早いように見えるが、塩害対策を施すなど再開に費やす時間が地震被害よりも多くかかっており、県全体としての再開状況が岩手県、福島県よりも遅れている。
(一部を除き全国平均を下回る福島県産の農産物価格)
被災地における農業の再生に関し、もう一つのネックとなるのが原子力災害に伴う風評被害である。ここでは、福島県産の農産物価格の動向をみることで、そうした影響が続いているかどうかを調べてみよう。ただし、農産物価格は様々な要因が作用して決まるものであるから、以下の結果と風評被害の関係については幅をもってみる必要があることは言うまでもない。そこで、夏から秋にかけて収穫された福島県産の農産物の価格を東京築地市場の7~9月の卸売価格からみてみよう。まず、福島県産きゅうりをみると、その価格は震災前の2010年では全国平均よりも1割程度高く、震災後の2011年も概ね全国平均より高い水準で推移していたが、2012年は1割弱全国より低い水準となっている(第2-2-15図)。また、さやいんげんも2010年には7月から8月中旬にかけて全国価格を上回っていたが、2011年、2012年と全国価格を上回ることはほとんどなく、2011年9月中旬には全国価格より2割程度下回っている。こうしたことから、福島県産きゅうりの相対価格は、2011年、2012年とも総じて震災前の2010年より低く、さやいんげんの相対価格は、2011年、2012年とも9月上旬を除き震災前の2010年の水準より下回っている。
次に、福島県産ミニトマトの価格をみてみよう。2010年には全国平均を上回っていたミニトマトの価格は、2011年、2012年には各々7~8月頃には全国平均を下回っており、9月には全国価格を上回っている(第2-2-16図)。トマトに関しても2010年には全国平均価格をやや下回る程度であったが、2011年、2012年ともに8月までは全国平均より1~2割下回る水準となっている一方、9月には全国価格とのかい離も小さくなっている。こうしたことから、福島県産ミニトマトとトマトの相対価格は、2011年、2012年とも9月下旬を除き、震災前の2010年より下回っている。
8月に出荷量の多い福島県産のももの価格は、震災前の2010年には9月にかけて上昇し、全国平均より1割程度高くなっていたが、2011年の8月中旬には全国平均の水準より4割も下回り、2012年には若干回復しているが、いまだ2割前後全国よりも低い水準である(第2-2-17図)。ピーマンの価格は、2010年には7月下旬から全国価格をやや下回る水準であったものが、2011年の8月下旬には7割も全国より下回っており、2012年は若干回復したものの、いまだ9月の時点で5割程度も全国より低い水準となっている。こうしたことから、福島県産のももとピーマンの相対価格は、2011年、2012年とも総じて震災前より下回っている。
(岩手県、宮城県では回復する水揚げ数量及び金額)
それでは、漁業についてはどの程度の回復がみられるのだろうか。岩手県、宮城県の水揚げ金額を見ると、東日本大震災直後、前年比約90%減まで落ち込んだものの、その後は急速に2010年の水準に近づいてきている(第2-2-18図)。毎年7月、8月は宮城県の主力魚種であるカツオやサンマが揚がる時期で、2011年は市場や冷凍施設などの復旧が間に合わず水揚げに影響が出たものの、1年かけて復旧が進み、宮城県の水揚げ数量は2012年7月、8月で大きく回復している。
一方、福島県は震災以降、遠洋での漁を除いて海面漁業・養殖業を自粛しており、震災後4か月は水揚げがなかった。現在もほとんどが県外で漁獲されており、水揚げ数量は100トン前後に留まっている。水揚げ金額を震災前と比較すると、約80%減の状態が続く厳しい状況となっている(第2-2-19図)。
(3)観光等の動向
(高水準を維持する宿泊施設稼働率及び日本人宿泊者数)
宿泊施設稼働率の推移を見ると(第2-2-20図)、被災3県では震災後に被災者の避難場所としての一時利用があったことや、復旧・復興需要によりボランティアや建設等の労働者による利用が増えたことで、2011年3月以降の宿泊施設稼働率は増加した。宮城県は2011年3月以降、全国を大きく上回る稼働率を記録しているが、他の2県に比べがれき処理などでボランティアや建設関係等の労働者による利用が多いことが考えられる。
次に、日本人と外国人の宿泊者数の推移を見てみると(第2-2-21図)、日本人の延べ宿泊者数は、被災3県において震災直後から前年を大幅に上回って推移しているが、宿泊施設稼働率と同様に復旧・復興需要によりボランティアや建設等の労働者による利用が増えたことが推測できる。
一方、外国人延べ宿泊者数の推移を見ると、震災後すぐに落ち込み、その後微増を続けているものの震災前の水準には依然として届いていないことがわかる。特に被災3県は全国に比べ水準が低く、なかでも原発の放射能による影響で福島県が一段と悪いことが見てとれる。
このように、復旧・復興ボランティアや建設等の労働者により日本人の宿泊者数は高水準を維持しているが、これらの動きは一時的な要素もあり、その持続性については不確実である。したがって、長期的視野から観光目的の来訪者を受け入れる体制を整えていくことが今後の課題である。
3.雇用・家計の動向
(1)雇用情勢
(高水準を維持している被災3県の有効求人倍率)
第2-2-22図を見ると、被災3県の有効求人倍率は震災直後から改善傾向を示し、半年経過した9~10月頃には全国を上回るほどに急上昇している。2012年3~5月には特に大きな伸びを示しており、12年5月には1倍を超えるまでに増加した。
次に、各県ごとの推移を見てみると、12年6月に宮城県が1.14倍を記録するなど3県すべてで1倍を超えている。その後は、宮城県、岩手県で横ばい圏内の推移となっているが、引き続き求人は高水準を維持している。岩手県では12年8月に倍率の低下がみられるが、新規求人数の業種別を見るとサービス業が前年同月比で落ち込んでおり、その原因の一つと考えられる。
(内陸部では低下を始めた有効求人倍率)
第2-2-23図は各県のハローワークごとの有効求人倍率の推移を表している。これを見ると2012年4~6月期で最も増加している地区は、大船渡(岩手県)、気仙沼(宮城県)、相双(福島県)であり、沿岸部の津波被災地区が今も大きな伸びを示していることがわかる。他にも、釜石、宮古(ともに岩手県)、石巻(宮城県)といった沿岸部でも4~6月期は0.05ポイント以上伸びているため、沿岸部の回復が長期間となっている。しかし、こうした地域でも主産業となっている水産加工業が回復していないことや、建設・土木関係で技術者が不足しているなど、業種によるミスマッチが依然として大きいことが指摘されている。
一方で、花巻、水沢、北上、古川、大河原、白石、福島、白河、会津若松など内陸部では、2012年4~6月期までに低下に転じている。
(2012年6月から低下がみられる有効求人倍率)
第2-2-24図は、被災3県における有効求人倍率の変化を有効求人数と有効求職者の寄与度で表したものである。被災3県の動きを見ると、震災後すぐに有効求人数が大きく伸びて有効求人倍率が回復しているのがわかる。しかし、2012年の4月頃からは求人数が減少に転じる中で、求人数を上回る求職者数の減少が有効求人倍率の増加に寄与している傾向が見て取れる。また、震災以降前月を上回って推移してきた有効求人数が、2012年6月から前月を下回る動きとなっている。
(建設業や卸売業、小売業などを中心に堅調な動きを示す新規求人数)
第2-2-25図は、被災3県における新規求人数の業種別内訳の推移である。これを見ると、震災直後である2011年4月に建設業が増加し、その後は安定的に推移している。しかしながら、より注目すべき点は、建設業以外についても幅広い業種で求人の増加傾向がみられることである。その上で、いくつか特徴的な動きをとりあげると、まず、2011年6月頃からは廃棄物処理業や労働者派遣業等を含むサービス業が目立って増えており、2012年8月になってもこの状況は変わっていない。また、卸売業、小売業については、2011年4月から9月にかけて増加したが、その後は横ばい圏内で推移しており、宿泊業、飲食サービス業も堅調な動きを示している。
(直近は動きが平常化している雇用調整助成金及び失業給付の対象者数)
雇用調整助成金に関する届出の状況を見ると(第2-2-26図)、被災3県ともに震災直後の6月にピークを迎えており、最も多かった宮城県では1,500件を超えた。しかし、直後の7月には急激に減少し、その後はなだらかな減少傾向にある。
次に失業給付の状況を見ると、震災直後の4~5月にピークを迎え、直後の6月、7月に急激に落ち込んだ。2012年に入ると、3月末に会社都合で退職した人が最初に受給することが多い5月及び3月末に自己都合で退職した人が最初に受給することが多い8月は例年どおり伸びをみせたが29、全体的に動きは平常化している。
(専門・技術的職種、サービス職種で人手不足が顕著)
第2-2-27図は岩手県の有効求人倍率を職業分類ごとに見たものである。これを見ると、岩手県では事務や生産工程・労務では求人不足が目立つ一方で、保安やサービスでは求職が不足している。
分類ごとに詳細に見てみると、専門的・技術的、サービスでは震災前に求職数が求人数を上回っていたが、震災を契機に求人数が増えたため状況が逆転していることがわかる。販売でも震災以降求人数が伸びており、2012年夏になると求人数が求職数を上回るようになっている。
次に宮城県の状況を見ると(第2-2-28図)、事務や製造では求人不足が目立つ一方で、保安・警備や土木、サービス等では求職が不足している。
分類ごとに詳細に見てみると、サービスの職業では岩手県と同様に、震災を契機に求人数が増え求人数が求職数を逆転しているものの、岩手県よりも求人数が求職者数を上回った時期が早く、宮城県では震災後早い段階で労働需要が生まれていることがわかる。また、岩手県のように販売・営業の職業において求人数と求職数の逆転は起こっていないが、徐々に差が小さくなっている。
最後に福島県の状況を見ると(第2-2-29図)、事務や生産工程・労務では求人不足が目立つ一方で、保安や専門的・技術的、運輸・通信では求職が不足している。
分類ごとに詳細に見てみると、専門的・技術的、サービスでは岩手県と宮城県と同様に、震災を契機に求人数が増えたため求人数が求職数を逆転している。また、販売の職業においては宮城県と同様に、震災以降徐々に差が小さくなっている。
(2)個人消費・住宅投資
(震災前を上回ったスーパー及びコンビニエンス・ストア店舗数)
東北の大型スーパーは、東日本大震災前に442店だったが震災の影響により4月に425店と17店減少した。その後店舗数は増加し、1年後の2012年3月には444店と東日本大震災前の店舗数を上回るまでに回復した(第2-2-30図)。
東北のコンビニエンス・ストアは、東日本大震災前に3,285店だったが震災の影響により4月に3,187店と約100店舗減少した。その後店舗数は増加し、約1年後の2012年2月には3,295店とスーパー同様、東日本大震災前の店舗数を上回るまでに回復した。
スーパー、コンビニエンス・ストアの店舗数は、単月で減少することはありながらも、2012年8月まで増加傾向にある。
(飲食料品を中心に回復した大型小売店販売額)
被災3県の大型小売店販売額の推移を見ると(第2-2-31図)、震災の影響でスーパー等に営業が再開できない店も出るなど2011年3月、4月は飲食料品を中心に全品目で落ち込んだが、その後は飲食料品を中心に、概ね前年同月比で5%程度の増加ペースを保っていた。ただし、2012年7月には、前年比でもマイナスに転じた。
次に、1店舗当たりのスーパー販売額の推移を見ると(第2-2-32図)、震災のあった2011年3月の販売額は150億円を切り、前年比も10%以上落ち込んだものの、5月以降は2012年4月まで前年比を上回っている。ただし、2012年5~7月については、震災特需もあった前年の反動でやや平常化してきており、大型小売店販売額とほぼ同様の動きとなっている。
(被害が小さい地域を中心に回復し始めた地価公示)
第2-2-33図で被災3県の住宅地における平均地価の推移を見ると、平均地価は毎年下がってきている。その中でも、東日本大震災後の2012年調査では、原子力災害の影響が大きかった福島県の下落幅が一段と大きくなった一方、内陸部への高台移転などが進む宮城県の減少幅が小さく緩やかになっていることがわかる。
2012年の動向をやや仔細に見ると、地価の変動率が上昇した上位10地点のうち9地点を被災地で津波の被害が少なかった宮城県の高台や内陸部が占めるなど、高台や内陸部での上昇が目立った(第2-2-34表)。一方、岩手県及び宮城県の津波による被害が甚大であった地域においては、地価が10%以上下落する地点もみられた。
例えば、宮城県の石巻市では第2-2-35図のように地価の動向が二極化し、2011年より6割上昇した地点もあったことなどから全体では地価が2.6%上昇した30,31。
(震災直後に多く支払われた地震保険)
東日本大震災に係る地震保険支払件数及び金額を見ると(第2-2-36図)、東日本大震災後、2011年5月中旬までは支払件数、金額ともに増加してその後終息に向かっており、震災後の早い段階で地震保険が支払われていたことがわかる。
県別に見ると、支払件数、支払金額ともに宮城県が最も多くなっているが、支払件数は茨城県が岩手県、福島県よりも多くなっている。岩手県は地震保険保有契約件数が他県よりも少なく件数、金額ともに被災県の中でも少なくなっている。また、被災3県に比べ、他都道府県は支払件数が多いにもかかわらず支払金額が少なくなっていることから、被災3県が建物や家財の損壊は全壊や半壊などが多かったことがうかがえる。
(2012年に入り回復に転じた被災3県の新設住宅着工戸数)
被災3県における新設住宅着工戸数は2011年8月から徐々に上向きはじめ、震災後1年が経過して大きく伸びている(第2-2-37図)。震災直後には製材所の被災や労働者不足といった供給制約があったことから着工が落ち込んだものの、その後は反動で供給が増えたと想像されるほか、1節でみたとおり宮城県で転入者が多かったことも要因として考えられる。その宮城県では2011年の夏頃から前年を上回って推移している一方、岩手県、福島県では冬にかけて前年を下回っており、被災3県で見ると11月に前年を下回っている。降雪量が宮城県よりも多い岩手県、福島県では雪がおさまる4月を待って着工を開始した人が多くいたものと考えられる。
4.まとめ
第2節では、被災3県の経済動向を産業や雇用、家計の観点から確認した。産業に関しては、農業経営体の再開や水産加工業のサプライチェーンの毀損のように厳しい状況にある産業もあるものの、生産や設備投資、資金繰りや倒産件数といった企業活動や観光業などでは安定しつつあることが示された。この結果、求人数も大きく伸び、専門・技術的職種、サービス職種では人手不足が生まれるなどの状況が生じており、家計の観点からは大型小売店販売額も概ね増加し、住宅着工が増加するなど復興に向けた動きがみられている。本節から得られる現状認識及び今後の課題は以下のとおりである。
第1に、被災3県は、いわゆる復興需要の発現によって、直接の影響を受けることから、全国と比べると、景気動向には底堅い面がある。特に、公共投資、設備投資、住宅投資といった投資関連ではその傾向が強く、こうした需要面の効果を反映して労働需要も相対的には強い。
第2に、しかしながら、これらの復興需要も、前月(期)比ベースでの増加という点では、勢いが弱くなっている可能性がある。その上、2012年春以降は、世界景気の減速の影響が被災地の企業にも及びつつあり、鉱工業生産の減少や有効求人倍率の頭打ちにつながっている。
第3に、水揚げ金額や農業経営体の再開、農産物価格にみられるように、原子力災害の影響の残る福島県では困難な問題を抱えている。風評被害は依然として深刻な問題で、放射線に対する共通理解をどのようにつくっていくか、産地における放射能検査体制の整備も含め、国民や事業者の納得が得られる仕組みづくりが必要となる。
これまでみてきたように、本格的な復興のために建設業やサービス業(産業廃棄物処理業)などで大量の一時的な労働者が必要となると考えられるが、復興に必要な産業は復興後は必ずしも継続的に同程度の規模の労働者を必要とはしないため、こうした産業に関する労働需要は一時的なものにとどまる可能性が高い。こうした状況下で日本経済も停滞してきているため、従来型の地域振興を実施すれば事足りるとはいえない。このような観点から今後の復興がどのように行われるのかを、第3節で概観する。