第1節 復旧・復興へ向けた基盤の整備
1.国・被災自治体の実施体制と予算
(1)復興へ向けた取組の体制
2011年3月11日14時46分、三陸沖を震源とする観測史上最大規模のM9.0の地震が発生し、死者15,871名、行方不明2,778名、負傷者6,114名11を出す関東大震災以来の自然災害となった。
政府は3月17日に被災者生活支援特別対策本部を設置し、物資の調達や避難所支援等を本格化させた。4月11日には東日本大震災復興構想会議を設置し、4月14日の第1回会議から、復興に向けた指針策定のための復興構想について議論を開始した。全12回にわたって議論を重ね、5月10日に復興構想7原則を決定した上で、6月25日には「復興への提言」をとりまとめた(主な動きは第2-1-1表)。
また、6月24日に公布・施行された東日本大震災復興基本法に基づき、内閣に東日本大震災復興対策本部(本部長:内閣総理大臣)が設置され12、岩手、宮城、福島各県に現地対策本部が設置された(第2-1-2図)。本部は6月28日に第1回会合を開催し、復興構想会議の提言を受けて、地方自治体や与野党の意見を可能な限り反映した上で、7月29日に「東日本大震災からの復興の基本方針」を決定し、基本的考え方とともに主な復興施策を明らかにした。
被災3県においても復興対策本部(各々名称は異なる)が設置され、本部長に知事、副本部長に副知事を置き、本部員には部長級の幹部が入る形で概ね3県ともに同じ体制をとっている。
さらに、2012年2月10日に施行された復興庁設置法に基づき復興庁を設置、復興庁廃止までの間、国務大臣を1名増員した(第2-1-3図)。
3月19日には復興推進委員会の第1回が開催され、全4回の審議が開催されたのち、9月28日には中間報告として「地域づくり・住宅再建、生活復興と地域包括ケア、地域産業・仕事の支援、福島をはじめとする原子力災害からの復興、事例・情報の共有と協働、災害の記録と伝承」の6つの課題を選択し、年次報告に向けた課題整理が行われた。
(2)復興計画実施の予算額及び事例紹介
国の予算における東日本大震災の関係経費をまとめたのが第2-1-4表である。2011年度は5月の第1次補正から11月の3次補正まで計3回の補正予算が組まれ、東日本大震災関係経費の合計は15兆を超える額となっている。2012年度では、4月の当初予算で東日本大震災関係経費は3兆円を超える予算が組まれており、通算では18兆円を超える予算となっていることがわかる。
被災3県の2012年の当初予算額をまとめたのが第2-1-5表である。東日本大震災関係経費を見ると、宮城県が9,048億円と最も多く、次いで福島県7,255億円、岩手県4,652億円となっている。宮城県では、東日本大震災関係経費が一般会計当初予算額の5割を超えており、岩手県、福島県でも4割を超えていることからも東日本大震災の被害が甚大であったことがわかる。
県別に見ると、災害復旧事業費、物件費等が岩手県では62%、宮城県では71%と高い割合を占めており、両県ともに災害廃棄物処理費などに多くの予算が割かれている。このように両県とも復旧に関する予算の大枠は類似している。
次に、2012年度の各県の復興に関連する主な事業を見てみる(第2-1-6表)。岩手県では1,000億円を超す災害廃棄物処理事業が予算総額の23%を占めており、宮城県では同事業が2,720億円と30%も占めている。また、両県では河川や道路などの災害復旧・復興事業費がともに全体の10%以上を占めていることから、地震や津波被害によるハード面に予算の多くが割かれている。一方、福島県では市町村除染対策支援事業費が2,438億円と最も多く、予算総額の3分の1を占めるなど、除染対策関連の事業に予算を割いているのがわかる。
2.土地・インフラ等に関する復旧・復興の進捗状況
(1)がれき処理及び除染
(岩手県、宮城県では終了しつつあるものの福島県ではまだ道半ばである産業廃棄物撤去)
岩手県では産業廃棄物の撤去が早くから進んでおり、2011年11月の段階ですでに8割方搬入が完了しているが、同じ時期に福島県では5割、宮城県では6割程度しか完了していない(第2-1-7図)。2012年8月現在、岩手県、宮城県では8割以上が搬入完了となっているものの、福島県では6割程度にとどまっている。なお、搬入が進み、搬入済量が概算値から実績値に変わったため、岩手県や福島県では2011年12月や2012年5月などで搬入率が低下している。
(本格的に始まった全国のがれき処理の受け入れ)
がれき処理については、北は青森県から南は福岡県の北九州市まで計10都県で広域処理の受入が調整済みとなっている(第2-1-8表)。受入は東北や関東に多く、被災地から距離的に近い場所が目立つが、9月14日には西日本で初めて福岡県の北九州市が石巻市のがれき受入を行っている。しかし、これら自治体の受入予定量約46万トンは、広域処理必要量134万トン(被災3県のがれき総量は約1,800万トン)の約34%となっており、今後もより広い範囲での自治体受入が課題となっている。
(着手された本格除染)
放射性物質汚染対処特措法(2012年1月1日に全面施行)に基づき、環境省を中心に除染を推進している。福島第一原子力発電所に近く被ばく線量が高い地域(福島県内の11市町村)については国が除染を実施し、その他の地域(岩手、宮城など8県104市町村)については追加被ばく線量が長期的に年間1ミリシーベルト以下になることを目標として、市町村が中心となって除染を進める。
第2-1-9表を見ると、国が直接除染を行う「除染特別地域」では、福島県の11市町村のうち10市町村を対象に拠点施設等で既に先行除染が行われている。また、福島第一原子力発電所に近い4町を除く7市町村では除染計画の策定が済んでおり、最も進捗の早い田村市では7月25日から本格除染にも着手している。
この他、市町村が中心となって除染を行う「除染実施区域」では、第2-1-10表にあるように、福島県を中心に宮城県、岩手県だけでなく、茨城県や群馬県といった北関東でも除染計画の策定が済んでおり、合計で86市町村が策定を完了している。福島市や伊達市、いわき市などでは既に除染作業が始まっている13。
(2)インフラ復旧関係
(一部に残る交通インフラの不通)
国道の復旧は迅速に行われ2011年3月中にほぼ完了した。災害対策用の高速道路は3月12日に100%、一般利用の高速道路は3月24日に99%まで復旧し同年4月29日に100%、直轄国道は3月13日に95%とまで回復し12年2月3日に100%復旧した。一方、被災3県の県管理道路の状況を見ると(第2-1-11表)、岩手県では、震災直後に58か所あった東日本大震災に係る全面通行止め箇所が12月30日をもって全解除となったものの、宮城県では92か所あった全面通行止め箇所のうち、現在も3か所で全面通行止め(通行止解除率96.7%)が続いているほか、福島県では100か所あった全面通行止め箇所のうち、現在も10か所14で全面通行止め(同90.0%)が続いている。
鉄道の復旧は、2011年4月29日に東北新幹線が全線で運転を再開するなど15、急速に進められた。在来線の主線である在来幹線では、不通となっている常磐線の区間のうち、原ノ町-相馬間(20.1km)が2011年12月21日に運転を再開し、残すは常磐線の広野町~原ノ町、相馬~亘理の区間(2区間合計15.3km)となったことで、幹線復旧率は現在99%まで回復している16。ただし、第2-1-12表にあるように、在来幹線と在来地方交通線を含めた距離では、運行不能になった5,064km17のうち304kmがいまだに運休となっている。
(一部診療所を中心に残る医療施設の機能停止)
東日本大震災で大きな被害を受けた医療施設も震災直後から急速に回復している(第2-1-13表)。入院に関しては被災3県すべてで受入不可の病院18が残るも、外来では岩手県、宮城県の両県とも受入不可の病院が解消されている。
次に被災3県の診療所19を見てみると、病院よりも多少復旧率が悪いものの、宮城県、岩手県では概ね8~9割程度まで復旧率が回復してきたことがわかる(第2-1-14表)。しかし、福島県の浜通り(相双地区、いわき地区)の診療所20は、9月30日現在で出された休止届72か所、廃止届20か所のうち、再開した診療所は3か所のみと、依然として再開できていない診療所がまだ多く残っている状況である。
(道半ばである被災農地の復旧)
東日本大震災に伴う津波により被災した農地の復旧状況を見ると(第2-1-15図)、2012年3月11日現在の復旧完了面積は、宮城県で完了割合が32.5%と復旧が進んでいるものの、岩手県及び福島県では5%未満と復旧が進んでいない。岩手県の海岸は狭く深い湾が連なったリアス式海岸のため甚大な津波被害となり復旧に時間がかかっているほか、沿岸部には自給的な農家が多いという事情も復旧が遅れていることの背景として指摘されている。また、福島県は一部役場を移転するなど行政機能が滞ったほか除染の進め方等の問題もあり、農地復旧に遅れがでている。
今後の営農再開可能面積を見ると、宮城県は2012年度でおよそ半分の面積、岩手県でも31.5%が営農再開可能となるが、福島県では依然10%未満となっている。
(3)人口移動その他
(福島県を中心に人口流出が続く人口移動)
第2-1-16図で東日本大震災後の被災3県の人口移動を見ると、震災直後の3月時点で1万人以上の転出超過がみられ、5月時点では3万人、10月時点では4万人を超えた。また、2012年に入っても3月には転出超過が5万人を超えるまでに悪化している。
次に各県ごとの転出入を見てみる(第2-1-17図)。
岩手県は、震災前と比較して大きな変化はみられず、他の2県と比較しても東日本大震災の影響が小さかったことがわかる。
宮城県は、津波による損壊などの被害が特に大きかったことから震災直後に大きな転出超過がみられ、3~5月期の転出超過数が1万人を上回るのは昭和38年以来の48年ぶりの出来事だった21。しかし、復旧・復興の歩みとともに2011年7月以降は順調に回復している。
福島県は、震災直後から他の2県に比べ転出超過が多く、震災1か月後には転出超過数が1万人を上回った。また、その後も悪化傾向は続いており、2012年の6月頃にようやく収まりつつある。福島県からの転出先は東北ではなく東京都、埼玉県、神奈川県など関東に多かったこともわかっており、福島県のみ転出超過が長引いたことの背景には原子力発電所の事故の影響が大きいことが推測できる(第2-1-18図)。
(ほぼ建設が完了した応急仮設住宅と減少していない避難者数)
応急仮設住宅は必要とされる53,316戸に対して、震災後1か月で約2万戸、3か月で約4万戸、5か月後にあたるお盆の時期には約5万1千戸が着工済みとなった。東日本大震災から1年後にあたる2012年3月11日時点では、ほぼすべてにあたる52,620戸が完成済みとなっている。
復興庁資料によると22、完成戸数は53,169戸、うち入居済みは48,702戸となっており、単純に比較すると入居率は91.6%と高水準となっている。
なお、現在の応急仮設居住者の平均年齢は特段高くはないが、過去の経験から高齢者は応急仮設住宅に居住する期間が相対的に長くなる傾向があり、将来的には高齢化が懸念される。また、応急仮設住宅は無料のため、住宅建設資金が不足する人が残っていくという心配もある。
また、東日本大震災に伴う避難所生活者数は、震災直後の3月14日に最大で約47万人を記録し、2週間後に約25万人、1か月に約15万人、3か月後に約8万人と減少していった(第2-1-19図)。しかし、東日本大震災発生から8か月後に公表された仮設や病院等への避難を含む避難者数を見ると、全国で約33万人いることがわかる。これは避難した多くの人は避難所から仮設住宅や病院等に転居したことを意味しており、震災から18か月以上経った今でもいまだに30万人以上の人が避難生活を送っている23。18か月後の被災3県の避難者数は約258,000人で、内訳は岩手県が約42,000人(16.4%)、宮城県が約116,000人(45.0%)、福島県が約100,000人(38.6%)となっており、宮城県と福島県で多くの人が避難生活を送っている。
阪神・淡路大震災における応急仮設住宅の推移を示すと(第2-1-20図)、1995年11月のピーク時には46,617戸の入居があったが、震災から3年後の1998年3月にピーク時の約半数となり、震災から5年後の2000年1月をもって入居世帯がすべて解消した。阪神・淡路大震災と比較すると、東日本大震災は全損被害が多いこと、津波による浸水のため元の場所に建設困難な地域が存在することなど状況は異なっており、阪神・淡路大震災の場合と比べ避難生活が長引くことが懸念される。
(平常化しつつあるボランティア数)
ボランティア数は2011年5月の171,900人をピークに減少を続け、2012年1月には11,900人となった(第2-1-21図)。これはボランティア活動の内容が、がれき処理や浸水地区の泥出し作業が多く、冬季は側溝の凍結などが原因で泥出し作業ができないなどの理由による。その後、気温の上昇とともにボランティア数は回復し、3月以降は概ね2~3万人前後で平常化している。現在もがれき処理等の作業は残っているが、必要とされる内容は要援護世帯、仮設住宅入居者の孤立化の防止や荷物運びなどの生活支援関係に移行しつつある。
なお、被災3県の累計数は2011年6月に50万人を超え、12年5月に100万人の大台を突破している24。
(太平洋沿岸を中心に移転がみられる企業本社)
第2-1-22表を見ると、被災3県における本社の転出超過は東京電力福島第一原子力発電所を抱える福島県双葉郡が27社(双葉郡に存在する本社全体の約1.0%25)で最も多い。次いで、宮城県石巻市が14社(石巻市全体の約0.2%)、宮城県多賀城市が7社(多賀城市全体の約0.4%)など震災による津波被害が大きかった太平洋沿岸の地域が目立つ。
一方、転入超過を見てみると、宮城県では内陸部で、かつ津波で被災した石巻市や多賀城市に近い黒川郡や登米市などが上位にきている。これは被災した企業が近場で安全な地域に移転したことが考えられる。岩手県の奥州市も一関市や陸前高田市に近く同様の理由であろう。その点、福島県では、計画的避難区域や避難指示解除準備区域に近い須賀川市やいわき市、二本松市に転入超過が生じている26。
3.まとめ
第1節では、復旧・復興への取組を、国・被災自治体の実施体制及び土地・インフラ等の状況などから確認した。新幹線や高速道路などの骨格となるインフラや、応急仮設住宅や病院などの緊急を要する施設等は復旧した一方、地方交通線や地域の診療所などでは完全な再開とはなっておらず、避難者数も減少に転じていない等の課題を示してきた。本節から得られる現状及び課題は以下のとおりである。
第1に、国・被災自治体とも早期から計画の企画・立案、そして事業実施に向けた予算措置などの対応を進めてきていることである。国においては2011年度の3次にわたる補正予算と2012年度当初予算により、東日本大震災関連予算は合計で18兆円を超える規模となっているほか、被災3県でも2012年度当初予算が一般会計の4割以上を占めるなど、東日本大震災関連に多くの予算が割かれており、今後も引き続き、適切かつ迅速な事業実施が課題である。
第2に、遅れているといわれていた産業廃棄物撤去や本格除染などが、2012年に入り本格化したことである。しかしながら、現在も福島県では産業廃棄物撤去が6割にとどまっていることや、全国のがれき処理受入が必要量全体の3分の1程度であることなど、今後はより広範囲の自治体によるがれきの受入などが課題である。また、除染については本格除染が着手されたが、除染実施計画が未策定の市町村もあるなど、早急に実施すべき課題が多く残る。
第3に、道路や鉄道、病院など、主要インフラの復旧については早期にその大部分が終了していることである。しかしながら、一部現在も復旧できていない部分もあり、次のステップとしては、きめ細かい交通システムの再構築、住民に身近な場所に位置する診療所の再開などが急務となっている。
こうした中、宮城県では2011年央より転入超過に転じるなど、岩手県と宮城県では人口流出も抑えられており復興への取組の加速が期待されるが、原子力災害の影響が残る福島県では人口流出が続いており、大変厳しい状況にある。
第2節では、被災3県の産業や家計の動きをみることで、現地の経済や生活の回復状況について概観する。