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第1章 この1年間の地域経済の歩み

第1節 地域経済動向の概観

1.地域経済の動向:景気は上向き傾向から弱めの動きへ

我が国の景気は、2011年3月11日に遭遇した東日本大震災及びその後発生した困難に直面しつつも2012年に入り持ち直しに向かった。2011年4月にはサプライチェーンの寸断や電力供給の制約、原子力災害等を通じ東日本大震災の影響は甚大であったが、復旧が進むとともにこうした影響は小さくなった。その後、夏頃には欧州政府債務危機が再燃、円高も進行し、秋にはタイの洪水の影響も加わって、景気は一時停滞気味であったが、2012年に入るとこうした要因の剥落、エコカー補助金に伴う自動車関連の生産増加などもあって景気回復の動きが明確化しつつあった。

しかしながら、2012年の年央には、世界経済の減速を背景とした輸出の減少、エコカー補助金の効果の剥落等から生産の減少が続き、個人消費についても乗用車販売を中心に停滞するなど、景気に弱めの動きがみられるようになった。また、2012年9月に発生した尖閣諸島をめぐる状況の影響により中国からの旅行者の減少といった販売への影響の他、輸出、生産等への影響が懸念されている。このような全国の動きに伴って、地域特性による差はあるにせよ、各地域においても景気の変動が生ずることになる。

この1年間を振り返り、地域経済に影響を与えたとみられる主な事象は付表1のとおりである。このうち、2011年3月に発生した東日本大震災からの復旧・復興の影響に関しては第2章で詳細を述べることとし、以下では、地域経済に大きな影響を与えたそれ以外の事象をいくつか取り上げ、紹介する。

2.この1年の主な事象

まず、地域横断的な事象としては、以下のものがあった。

(欧州の政府債務危機を背景とする世界経済の減速)

2011年半ば以降、南欧諸国等の財政自体に対する金融市場の信用不安が再燃したほか、その影響は債券市場等を通じてヨーロッパの金融システムにも波及した。11年末以降行われた欧州中央銀行(ECB)による3年物資金供給オペ(LTRO)や12年に入り行われたギリシャ支援の決定や安全網の強化等の取組により緊張は幾分和らいだものの、スペイン財政・金融システムに対する懸念やギリシャの政治情勢の不透明さ等から市場の根強い懸念を払拭するには至らなかった。その後、ECBによる新たな国債買取プログラム(OMT)の発表や、ESM(欧州安定化メカニズム)の発足、銀行同盟や財政同盟に関する議論の進展など、欧州政府債務危機解決に向けた取組が現在も行われているところである。

この危機に伴い、欧州では、政府の財政緊縮や、金融機関の資金調達環境の悪化、企業・消費マインドの低下等が実体経済に影響を与え、経済成長を低下させた(第1-1-1図)ほか、アジア地域では欧州等への輸出減を通じ景気の拡大テンポの鈍化がもたらされた。また、日本では欧州向けのみならずアジア経由の欧州向け輸出の低下を通じた生産や投資が下押しされるといった影響が発生した(第1-1-2図)。

(採算円レートを超える円高及び空洞化懸念)

米国等の世界経済の減速懸念や欧州政府債務危機等を背景に、2011年7月頃から円高が急速に進行し、2011年10月31日には一時1ドル=75円32銭の戦後最高値をつけた。その後、欧州債務危機に対する懸念の緩和や米国経済指標の改善を背景に、3月下旬に一時84円台をつけるまで円安方向に推移したが、4月以降欧州政府債務危機の再燃に対する懸念や米国経済指標等を背景に円高方向に振れている(第1-1-3図)。

内閣府が実施している「企業行動に関するアンケート調査」(2011年12月)によると(第1-1-4図)、採算円レートは全産業平均で82.01円となっているが、調査時点での円レートである77.9円を上回っており、輸出主導型産業を中心に厳しい経営環境をもたらしている。

こうした為替レートの動きもあって、いわゆる空洞化への懸念が広がっている。「産業空洞化」、「産業の空洞化」を含む記事件数をみると、記事件数には、プラザ合意が結ばれた1985年以降の27年間に、2011年前後の今回も含めて4回のピークがみられる(第1-1-5図)。今回(2011年後半のピーク)は、1995年のピークに次いで記事の件数が多く、2002年前後のピークよりもおおい。また、これら4回のピークは、2002年前後のピークを除き、概ね円が対ドルで増価している時期にあたることがわかる。内閣府「景気ウォッチャー調査」に寄せられた海外シフトに関連するコメント数をみても、「空洞化」懸念に関する記事件数が前回多かった2001年後半から2002年後半までの時期に比べ、今回(2011年後半から2012年前半までの時期)の方が、海外シフト関連のコメント数が多い(第1-1-6図)。このことから、マスコミ等の報道だけではなく、現場の実感においても、今回ピーク時の方が前回ピーク時より「空洞化」に対する懸念が強いと考えられる。海外生産比率の上昇は趨勢的な現象であり、今に始まったことではないが、こうした中、地域経済の支え手となってきた製造工場の海外移転が引き続き生じている(第1-1-7図)。

この間、政府としては、2011年10月21日に「円高への総合的対応策」を閣議決定しその着実な推進を図っている。

(日本の生産にも影響を与えたタイの洪水)

タイ北部には通常接近しない台風が2011年上半期には5個上陸したことにより、チャオプラヤ川上流で大量の降雨が発生した。大水は堤防を決壊させた上で3か月以上かけて平野を下り、2011年10月にはタイ中央部に到達、歴史的大洪水を発生させた。この洪水により、タイ中央部に位置する7つの工業団地、約850社(うち約450社が日系企業)が水没した(第1-1-8図)。水没した企業は数カ月の操業停止を余儀なくされた他、直接的被害のない企業にも調達先から部品が来ない納品先が被災し、稼働を停止するなどの間接的被害が生じた。このため2011年第4四半期を中心に日本の生産が減少するなどの影響が生じた。

(中国経済減速と尖閣諸島をめぐる状況の影響)

中国は高成長を持続しており、2008年の世界金融危機以降も9%を超える成長率を維持してきた。しかしながら、不動産市場の過熱や地方政府の潜在的債務問題等、成長の原動力となってきた投資が国内経済にもたらした様々なひずみが顕在化しつつある。こうした状況に対応するため中国では、不動産価格抑制策など所要の政策措置を取ってきたが、結果として投資を中心とする内需の減速を招くこととなった。また、前述したような欧州経済の減速を背景に、輸出についても伸びが低下してきており、内外需の両面から景気拡大テンポが鈍化している。

こうした状況に加え、2012年9月14日の尖閣諸島国有化をきっかけとして日中間の旅行のキャンセルが発生し観光業等に影響を与えている他、日本ブランドの製品に対する不買運動などもあって、本邦企業の現地生産や日本からの輸出業に影響が及びつつある(第1-1-9(1)(2)(3)図)。

次に、個別の地域に特に大きな影響を与えた事象としては、以下のものがあった。

(生活に影響を与えた記録的な大雪)

北日本から西日本にかけての日本海側では、2011年12月下旬と、2012年1月下旬から2月にかけては、強い寒気の影響によりたびたび大雪となった結果、ここ10年間では2006年冬に次ぐ積雪となった(第1-1-10図)。

この大雪により、死者130名、負傷者1907名の人的被害が生じた。また、住居被害は、14道府県で住家全壊13棟、住家半壊7棟、住家一部損壊406棟、床上浸水3棟および床下浸水54棟が生じた(いずれも2012年3月29日現在)。この他、各所で道路の通行止めや鉄道・航空の運休が相次いだ(第1-1-11表)。

また、青森県では2011年度の除雪費が約38億円と過去最高を記録するなど、地方財政にも大きな影響を与えた(第1-1-12表)。

(経済効果が期待されるローコストキャリア(格安航空会社)の就航)

本年は「航空中の運航・整備業務」、「空港業務サービス」、「客室業務サービス」、「営業販売手法」、「マーケティング手法」、「事業戦略」といった航空会社の業務サービスを見直すことで安定的な低コスト体制を実現するローコストキャリアの就航が相次いだ。2011年2月にはピーチ、同年8月にはエアアジアジャパン、9月にはジェットスターが設立され、各々運航を開始した。2012年8月末現在で、国内線のみでも1日32便の運航となっている(第1-1-13図)。

ローコストキャリアの価格体系は複雑であり、一概に比較はできないが、一例として2012年10月12日現在で11月1日の成田→新千歳の既存の航空会社とローコストキャリアの価格を比較すると(第1-1-14表)、正規の航空会社の運賃が33,500円となっているのに対し、ローコストキャリアの運賃は1万円以下となっていることがわかる。これを受けて東京から沖縄、北海道への座席数も増加、選択の幅が広がったため潜在需要が顕在化し、北海道や沖縄などへの観光客増加の一要因となっている。

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