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5.地域の産業と雇用の量と質

(各地域における労働需要・供給)

地域経済の発展にとっては、産業の成長のみならず地域の雇用が確保されていなくてはならない。雇用が産業の生産活動の派生需要としての意味があることも考えると、産業構造と就業構造は自ずと連関する。しかし、そうした就業口は、単にその量が問題なのではなく、地域の労働者が希望する業種・職種等のニーズとマッチしているかが、地域の労働需給を考える上で重要である。そのマッチングが十分でなければ、地元の若年層が希望する就業口がないために他地域へ流出し、さらなる人口減少を助長することにもなりかねない。また、どのような業種・職種に対して能力を発揮できる人材がその地域に存在するかという労働力の質の問題は、企業が立地を選択する上でも、また地域の発展の将来像を考える上でも、重要である。

求人と求職がいかにうまくマッチングされているか、各地域の労働市場の効率性を検証するために、地域別にUV分析を行ったのが第3-2-16図である。横軸に欠員率、縦軸に雇用失業率を取り、年次データでその座標が86年以降長期的にどのような移動をしたかをみている83

第3-2-16図 地域別のUV分析
第3-2-16図 地域別のUV分析
(備考)
  1. 厚生労働省「一般職業紹介状況」、総務省「労働力調査」より作成。
  2. 欠員率、雇用失業率の定義式は以下の通り
    欠員率=(有効求人数-就職件数)/(有効求人数-就職件数+雇用者数)
    雇用失業率=完全失業者数/(完全失業者数+雇用者数)
  3. 地域区分はC

まず第1に、各地域とも80年代後半に座標が右下方向に移動して、45度線より下にまで移動した後、90年代には左上方向に移動しており、2000年代前半に若干右下に戻りながらも後半には再び左上方向に移っており、景気動向に伴う雇用情勢の変化を反映した動きになっている。

第2に、全体的に移動範囲が上方へ移動してきており、特に地方部ではその傾向が顕著であり、全体に失業率が上昇して雇用情勢が悪化している一方、欠員率は改善されているとは言えない。北海道や九州・沖縄地域ではこの期間中一貫して45度線より上で推移しており、労働市場が供給過剰傾向にあることを示している。他方、都市部では、例えば東海地域は比較的45度線近辺で推移しているが、近畿地域はむしろ地方部と同じく45度線より上で軌跡が移動している。

第3に、地方部においては、移動範囲が縦長の形状になっている。つまり、欠員率の変動は相対的に小さいのに対して失業率の変動が大きく、しかも後者の水準が近年高まっていることがみてとれる。他方で、南関東や東海地域では、相対的に縦軸方向も横軸方向も移動範囲は相対的に小幅となっている。

したがって、北海道、東北地域で典型的なように、地方部では景気が悪化しても欠員率があまり改善されないまま、失業率が大きく上昇する傾向があり、労働市場のマッチング機能が低下しているおそれがある。

(職種別の雇用需給の相違)

労働市場における求人・求職のマッチング機能が低下しているとすれば、その雇用の内容を見なければならない。その時代の産業や社会が求める求人ニーズはどういった職種や業種が多いのか。それに対し、その地域で求職者が希望する職種や業種は何か。そして、高齢化が進むにつれて、それぞれどう変化していくのか。

この点についてみたのが、第3-2-17図である。横軸に職種毎の求人者数、縦軸に求職者数を取っているが、それらは景気変動に伴い変化するため、全体の求人数あるいは求職者数で除した割合を求めて、各職種の全体に占める相対的ウェイトで長期的な傾向を示している。また、45度線より左上側では、その職種が相対的に求人よりも求職のニーズが高いことを表している。

第3-2-17図 職種別の雇用需給動向
第3-2-17図 職種別の雇用需給動向
(備考)
  1. 厚生労働省「職業安定業務統計」より作成。
  2. 横軸は、職種毎の求人数/全体の求人数。縦軸は、職種毎の求職者数/全体の求職者数を表す。
  3. 図は平成8年→13年→17年→21年の動きを示す。ただし、情報処理技術者は13年から。

これをみると、例えば事務関連は45度線より左側にあり、職種として求職者の希望する割合が高い一方、求人する雇用口は相対的に少ない。また、技能工・建設労務関連では、90年代では45度線の右側にあり、職種として求人のニーズが相対的に高かったものの、徐々に45度線を跨いで左側に移動しており、求人に対して相対的に求職のニーズが多い職種となっている。これに対して、専門職・技術関連やサービス関連では、徐々に求人全体に占めるそれらの職種の求人数が拡大しており、しかも45度線から離れてきていることから、相対的に求人ニーズが高まっていることが分かる。

さらに、技能工・建設労務関連やサービス関連について、その内訳となる職種をグラフで描いているが、社会福祉関連では、特に2000年代に入って求職の増加以上に求人が急速に拡大してきており、人手不足感が高まっていることがうかがわれる。その他、家事サービス関連等サービス関連の求人が高まる一方で、機械組立修理関連のみならず情報処理技術関連でも左側に移動して45度線を跨ぐか近付くかしており、求職に比して相対的に求人の割合が低下していることが分かる。

したがって、近年では事務職関連や製造・建設業等の技能工・建設労務関連等の職種のニーズが相対的に減退し、サービス関連、特に社会福祉サービス、家事サービス従業者のニーズが大幅に高まっていることがわかる。次節の第3-3-7表で分析するように、高齢世帯では医療・介護サービスや家事サービス等へのニーズが高まる傾向にあり、今後高齢化がさらに進行すれば、そうした職種に対する労働需要が高まって人手不足感が強まり、需給が逼迫する可能性がある。

(各地域の職種別就業構造)

では、現状としては、各地域でどのような職種の就業が多いのか。その地域毎の特徴をみるために、第3-2-18表は、総務省「就業構造基本調査」の2007年データを用いて、各地域の職種別就業者数に係る特化指数を示したものである。これをみると、都市部では、南関東地域は管理・事務職、専門的・技術的職業の従事者の割合が高く、近畿地域では販売職やサービス職従事者が多い一方、東海地域では生産工程・労務、輸送・通信従事者の割合が多くなっており、地域毎に特徴が異なっていることが分かる。他方で、地方部でも、北海道、東北、四国、九州地域のように農林水産関係や建設等関係の従事者が多い地域や、北関東や中国地域のように農林水産関係や生産工程・労務等の従事者が多い地域があるなど、地域によって多様な姿となっている。

第3-2-18表 各地域の職業別就業構造
第3-2-18表 各地域の職業別就業構造
(備考)
  1. 総務省「平成19年就業構造基本調査」より作成。
  2. 表中の特化係数は、(地域の職種別有業者数シェア)/(全国の職種別有業者数シェア)。
  3. 図の塗りつぶしは、当該地域の特化係数が大きい2職種を示す。
  4. 地域区分はA

したがって、各地域にこうした職種別の就業構造の特徴がある中で、企業側からみれば、地域の産業のニーズに適合した職種の労働力が豊富に存在するか、労働者側からみれば、自分の希望する職種の雇用口が地域内で見つけられるかが重要となっている。

本節では、地域の生産や産業構造・就業構造の変化を中心として考察し、所得及び雇用の確保に注目して論じた。そこでは、第1に、成長を牽引した産業や、域外からの所得を稼得する移輸出産業について、第2に、高齢化に伴って需要の増加が予想される介護サービス等の地域消費型産業について分析を行った。

前者については、特に北陸及び四国地域を取り上げて比較分析を行った。その結果を概観すると、これまで両地域の産業構造は、ともに傾向的に第3次産業化が進行してきたが、製造業では、北陸地域は繊維等の生活関連型産業中心から機械等の加工組立型産業中心へと産業構造を転換させてきたが、四国地域では基礎素材型産業中心の産業構造を維持してきた。そして、北陸地域は、サービス産業等や機械産業等が成長を牽引してきたが、例えば加工組立型産業では労働生産性を引き上げながら生産量も増加させているため、雇用も拡大させている。他方、四国地域では、サービス産業等とともに成長を支えた基礎素材型産業では、雇用を縮小させてきている。

さらに、比較優位を持つ両地域の移輸出産業をRCA指数で検証したところ、北陸地域では、生活関連型、基礎素材型、加工組立型のそれぞれに比較優位を持つ業種が存在するのに対し、四国地域では専ら基礎素材型産業に移出を依存していることが分かった。

各地域経済のパフォーマンスが短期的に相似た動きを示していても、中長期的な視点からみたその“実力”には、大きな差違が生じているかもしれない。地域の産業構造は、域内の成長や雇用を大きく左右することから、地域経済にとって重要な要素であるが、その内容を地域が自由に選択できるとは限らない。それまでの産業発展の経緯に加え、企業側の立地選択の観点からみたその地域の特徴や優位性が、重要な要因となる。また、成長を牽引する産業や域外から所得を稼得できる基盤産業が重要である一方で、地域消費型産業の成長も同時に果たすべき課題である。さらに、人口減少や高齢化が進行する中で、労働力の量と質、すなわちどのような能力を有する労働力がどの程度域内に存在するのか、といった労働供給面の事情も、就業構造ひいては産業構造のあり方に関連する。このように、地域の産業構造は様々な要因の中で決定されていくものであるとすれば、地域経済の活性化のためには、地域の実情を踏まえた各地域の成長戦略ビジョンが必要とされているといえる。

なお、本節で地域消費型産業として介護サービス分野を取り上げたが、地域の消費需要については、次節でさらに検証を続ける。


83 一般に、景気が良くなると、欠員率(V: vacancy)が上がる一方で雇用失業率(U: unemployment)は低下し、景気が悪化するとその逆になることが想定されるため、両者の関係を示すUV曲線は、双曲線の形状となる。そして、この曲線と45度線の交点、すなわち欠員率と失業率が均衡する点で求められる失業率が、均衡失業率と呼ばれる。均衡失業率が高い場合すなわち45度線上を原点からより離れる場合、失業者数が多いにもかかわらず欠員数も多い状況が生じており、労働市場が効率的にマッチング機能を果たしていないことになる。したがって、このUV曲線は労働市場が構造変化すると、右上(左下)方向へシフトすることとなる。
なお、本章の分析では、長期間の年次データを使用したため、失業率・欠員率の実績の軌跡がUV曲線の形状そのものなのか、それとも曲線のシフトした結果なのかは識別困難であることから、UV曲線の推計は行わない。
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