第3章 地域経済の“実力”-人口動態の切り口から見た地域経済
これまで、都市と地方の間における経済状況の格差が繰り返し指摘され、「活況を呈する大都市圏と低迷する地方圏の二極化」という現状認識が、巷間広く存在している。そして、その傾向は2000年代に入ってさらに強まっており、地域間格差が拡大しているとの批判が多い。
しかし、各地域の経済データを詳細にみると、必ずしもそうした指摘を裏付けるものとはなっておらず、都市・地方間の単純な二極構造は浮かび上がらない。例えば、一般に地方圏とされる北陸地域では、生産及び雇用関連の統計データの推移を中長期的にみる限り、良好なパフォーマンスを実現している一方、大都市圏とされる地域の中にも、停滞傾向に陥っていると見受けられる地域がある。
各地域の経済状況を検証するに当たっては、単に足元の景気動向だけでなく、中長期的な視点から検討し、各地域間の成長の差をもたらしている構造的要因は何か、各地域経済が持つ強みと弱みとは何か、そしてそれらに基づく各地域経済の実勢、いわば“実力”とはどのようなものか、を把握することが重要である。各地域にはそれぞれの自然・経済・社会・文化環境が存在し、それぞれ特有の条件や要素(地政学的位置、天候・地形、賦存資源、産業・就業構造、人的資本、経済・社会インフラ・ストック、行政組織・ネットワーク等)を背景に、歴史的経緯の中で現在の地域経済の姿が形成されてきている。改めてこうした各地域経済の“実力”を分析することが、「今後の各地域経済の将来の姿はどのようなものか」、「それに向けた経済発展のためには何が必要なのか」を検討し、各地域独自の成長戦略を紡ぎ出していくためには、不可欠である。
さらに、今後高齢化が加速し本格的な人口減少社会を迎える中で、そうした人口要因から各地域経済が多大な影響を被ることは、もはや疑問の余地がない。人口要因が経済成長にボーナスとなってプラス方向に働く時期から、経済成長にとって重荷となりマイナス方向へ働く人口オーナス(demographic onus)の時期に入っている。近年では人口減少の進行による我が国経済全体の成長可能性に強い懸念が表され、論者によっては日本経済衰退論まで主張されている。
本章では、主に1990年代以降の中長期的視点から分析を行い、人口及び人口構成の変容を前提に、各地域の労働市場の動向を始点に、雇用、生産、消費の各面から各地域経済の実勢を検証する57。そして、各地域が人口減少及び高齢化を超克し、将来の経済発展を実現していくための方策を論じる。