3.地域産業の移輸出力の実態
(地域経済における産業間のバランス)
今日では、中央・地方政府ともに財政収支が著しく悪化して厳しい財政状況に置かれており、地域間の所得移転や公共事業等による地域経済の下支えにも限界があることを考え合わせると、各地域経済にとって、公的支出に依存した経済構造を維持したままでは将来の展望は開き得ず、自立性の高い経済構造を築きながら成長していく必要性がますます高まっている。
各地域の産業構造の変遷は先に述べたとおりだが、今後の地域のあるべき姿を考え、地域全体を支える経済構造をつくり上げるためには、どういった視点が必要なのだろうか。
一国経済とは異なり、地域経済の移出入比率は高く、他地域と密接に結び付いている。地域内ですべての財・サービスを自給自足できる訳ではないため、域外との取引を通じて確保されるものが多く出てくる。こうした他地域から移入する財・サービスに対する対価を確保するためには、地域として所得の稼得能力が必要である。その際、域内の限られた市場ではなく、域外の広大な市場を相手に移輸出を行うことから、より大きな所得を得ることが可能となる。さらに、域外から得た所得は、乗数効果を通じて域内の需要をさらに喚起し拡大することにもなる。したがって、こうした地域経済の維持・発展のためには、今後需要の成長が期待できる移輸出型産業(基盤産業)の伸長が必要であるという考え方ができる79。
その一方で、卸小売業、サービス業あるいは域内消費向け製造業(食品加工等)といった地域消費型産業の成長も、地域経済全体の発展に不可欠である。特に、地域社会の高齢化が進めば、域内での医療・介護サービス需要の増加など、さらなる需要増が見込まれる分野が少なからず存在する。こうした域内消費に対応した産業の供給体制が整っていない場合、そうした潜在的な需要を取り込めないばかりか、それらの財・サービスの移入に所得を支出せねばならなくなる(あるいは、その財・サービスが移入に適さない場合は、それを享受するために住民自体が域外へ移動してしまうおそれさえある)。
地域経済の今後の望ましい姿を考える上では、人口・就業・消費構造を踏まえつつ、こうした移輸出型産業と地域消費型産業のバランスを図り、地域経済構造を検討していく必要があろう80。
(各地域の産業の移輸出力)
以上の議論を念頭に、まず、地域の移輸出型産業の状況を北陸及び四国地域について、製造業を中心に検証してみよう(第3-2-9図)。
- 北陸地域は、財団法人中部産業・地域活性化センター「中部圏地域間産業連関表」(2005年)より作成。四国地域は、四国経済産業局「四国地域産業連関表」(2005年)より作成。
- 円グラフの外側は全産業、内側は製造業。
まず、北陸地域の移輸出額は、2005年では6.8兆円で、域内生産額の29%に当たり、さらにその1/4を輸出が占める。製造業に限ってみれば、移輸出額は5.2兆円で、域内生産額の65%が移輸出に向けられ、輸出額は、その移輸出額のうちの1/4に達する。移輸出の内容をみると、一般機械、電子部品といった加工組立型産業のほか、化学製品、非鉄金属や金属製品といった基礎素材型産業も構成比の上位を占める。他方、移輸入額は7.6兆円で、その2割が輸入である。
一方、四国地域の移輸出額は、域内生産額の36%に当たる9.2兆円で、その2割を輸出が占める。製造業でみると、移輸出額は6.0兆円で、域内生産額の実に3/4を占めることとなる。さらにその移輸出額の1/4が輸出となっている。その移輸出の内容は、石油・石炭製品、パルプ・紙のほか、飲食料品、一般機械のウェイトが高い。これに対し、全産業の移輸入額は10.9兆円で、そのうち輸入が2割を占めており、製造業でみても、移輸入額5.6兆円のうち輸入がやはりその2割となっている。
このように、両地域とも特に製造業における移輸出比率が高く、他地域との連関が深い生産構造となっていることが分かる。
ここで両地域について、製造業の特徴を移輸出入の視点からみてみよう(第3-2-10図)。
- 北陸地域は、財団法人中部産業・地域活性化センター「中部圏地域間産業連関表」(2005年)より作成。
- 四国地域は、四国経済産業局「四国地域産業連関表」(2005年)より作成。
北陸地域では、石油・石炭製品、鉄鋼、飲食料品等は移輸入への依存度が比較的高いものの、多くの産業が移輸出率及び移輸入率が5~7割程度となっており、後出の四国地域に比べると域外への依存度が低い。
これに対して四国地域では、製造業全体として移輸出指向が極めて強く、乗用車やその他自動車、印刷・製版・製本、窯業・土石製品業以外はすべて、生産額に占める移輸出額の割合が5割を超えている。特に電子部品や電気機器、産業用機械等機械産業は9割を超える高い移輸出率となっている。さらに、その中でも移輸出率が高い産業としては、電子部品、その他の電気機械、合成樹脂等が挙げられる。他方、各産業とも移輸入率もまた極めて高く、パルプ・紙や窯業・土石製品、印刷・製版・製本業以外は5割以上を占めており、域外とはいわば相互流通型の産業構造となっている。特に機械関連業種では相互流通型の性格が強く、そのほとんどで移輸出率及び移輸入率が8割を超えている。
では、北陸及び四国地域において、競争力を有し、域外から所得を稼得する能力がある産業、言い換えると移出力のある産業とは何か。それぞれの地域のある産業の移出額がその地域の全移出額に占めるシェアを、全国の当該産業の移出額が全国の全移出額に占めるシェアで割った比率を、顕示比較優位(RCA)指数という81。この指数が高い場合は、その地域の当該産業が国内で競争力が高く比較優位を持っていることの現れであると捉えることになる82。
第3-2-11表で両地域のRCA指数をみると、北陸地域には、生活関連型産業では繊維、基礎素材型産業では非鉄金属、金属製品、化学やパルプ・紙、加工組立型産業では電子部品、一般機械というようにバランスよく比較優位を有する業種が存在している。これに対して、四国地域では、繊維の他は、パルプ・紙、石油・石炭製品、非鉄金属、化学といった基礎素材型産業で顕著に高い値となっており、明らかに基礎素材型産業に比較優位を持っていることが示されている。反対に、加工組立型産業ではRCAが1を超える業種はなく、比較優位に乏しい。
- 北陸地域は、財団法人中部産業・地域活性化センター「中部圏地域間産業連関表」(2005年)より作成。
四国地域は、四国経済産業局「四国地域産業連関表」(2005年)より作成。
したがって、先の議論と併せ考えてみると、北陸地域では、近年の成長をサービス産業や不動産業がリードする中で、製造業も機械関連産業を中心に寄与してきた。内訳をみても、生活関連型、基礎素材型及び加工組立型産業のそれぞれで移出力のある産業を有しており、産業構造としてはバランスを保っている。他方、四国地域では、北陸と同様に、サービス産業や不動産業が成長をリードする中で、製造業はその重きを減じており、その製造業の中で基礎素材型産業が成長を牽引し続けている。そして、製造業のうち比較優位をもって域外から所得を稼得する移輸出産業もまた、基礎素材型産業となっている。
(移輸出入先と産業立地)
では、製造業の移輸出産業は、どの地域に対して何を移出しているのか。この点を四国地域のケースでみてみよう。第3-2-12図は、2005年地域産業連関表データを基に、四国地域への(からの)移輸出入先を示しており、第3-2-13表は、各地域に対して主にどういった品目が移輸出されているかを、特化係数を用いて調べたものである。
- 四国経済産業局「四国地域産業連関表」(2005年)より作成。
- 上段は、移輸出(入)額(単位:億円)。下段は、全移輸出(入)に占める割合。
- 四国経済産業局「四国地域産業連関表」(2005年)より作成。
- 各地域の左側の列は、上位5品目を示す。右側は各品目の特化係数。
これをみると、四国地域の移出先としては、地理的に近い近畿(四国からの全移輸出額に占める割合17.5%)や中国(8.6%)、九州(9.6%)を差し置いて、関東地域が第一位となっており、全体の25.8%を占めている。また、中部地域も、近接する九州地域とほぼ同じシェアを有している(9.8%)。
逆に、四国地域の移輸入額は5.6兆円で近畿(21.5%)が第一の移入元となっており、それに次いで関東(20.6%)、中国(14.4%)、中部(12.0%)地域という構図になっている。
移輸出品目をみると、関東地域向けには品目別のばらつきが小さいが、印刷・製版・製本、事務用・サービス用機器、電子部品等の割合が高い。これに対して、中部地域向けには非鉄金属や鉄鋼、化学最終製品が供給されており、近隣の中国、九州地域向けには石油・石炭製品といった基礎素材型産業の製品が多く移出されている。また、電子部品や精密機械を始めとする機械関連製品は、北海道、東北地域等遠隔地域へも移出されているほか、海外向けにも相対的に多く輸出されていることが分かる。
これを先述の産業立地の理論と突き合わせてみると、中国、九州等近隣地域に対しては基礎素材型産業の品目のほか、近畿地域には飲食料品の移出が高いなど、産業側の観点からすればこれらの産業では消費地立地がなされていると考えられる。一方、機械分野では、例えば自動車部品は近畿、中部地域へ、電子部品では北海道、東北、関東、九州地域へと遠隔地も含め広範囲に移出しており、輸送費指向のみでなく労働費指向でも立地されたことが推し量られる。
こうしたことからすると、移輸出力のある産業を域内に誘致あるいは育成するにしても、企業側は立地論から乖離して立地を決定するのではなく、地域の特性に合った産業構成が選択される必要がある。
(地域経済への還元)
なお、地域経済のあり方を検討する上での重要な論点としては、地域内の経済活動の果実がその域内の所得として地元にどれくらい均霑されるかということがある。すなわち、例えば企業誘致等によりその企業の所得が増加しても、分配の問題としてそれが賃金(雇用者)・売上及び利益(地場企業)・税収(地方自治体)等の形を通じて地元に還元されているか、それとも本社が所在する都市部に所得が移転される結果に終わっているかが、問われることとなる。当事者間でWin-Winの関係が成り立っているかということに留意すべきであろう。
なお、北陸地域に関するデータについては、中部経済産業局作成の地域産業連関表が中部全域に係るものであるため、ここでは(財)中部産業・地域活性化センターが公表しているデータを使用した。