3.家計の動向
(1)消費の動向
(東日本大震災後の自粛ムードなどにより減少したが、再び持ち直しの動きがみられる大型小売店販売額)
大型小売店販売額(全店ベース)の推移をみると、全ての地域で2010年に入って下げ止まりをみせ、その後は増加基調で推移した(第1-3-31図)。
- 経済産業省「商業販売統計」、総務省「消費者物価指数」により内閣府にて季節調整。
- 全店ベースの数値。
- 東海は、愛知、岐阜、三重の中部経済産業局「東海3県」。北陸は、富山、石川、福井の同局「北陸3県」。
- 原則として、経済産業省本省の公表値を使用。
- 地域区分はB。
しかし、11年3月には、東北では震災による店舗の被災などから前月比24.3%減、関東では計画停電による営業の制限などから11.2%減と大幅に減少し、他の地域でも震災後の自粛ムードによる買い控え等から減少した。4月以降は、東北では店舗の復旧、関東では計画停電の影響からの回復により増加し、他の地域でも自粛ムードの弱まりから増加し、6月には東北、近畿、九州、沖縄で震災前の2月の水準まで戻った。しかし、7月には前半の気温上昇によりクールビズ関連商品が好調であったものの、下旬からの気温低下の影響などから後半は入店客数が伸び悩み、衣料品を中心に季節商材が苦戦したため、関東など多くの地域で減少あるいは伸びの鈍化がみられた。また、8月には地上波デジタルテレビ特需が剥落し、中旬以降の天候不順の影響による飲料や衣料品など季節商材の販売不振も加わって、北海道を除く地域で減少した(第1-3-32図)。
- 経済産業省「商業販売統計」、総務省「消費者物価指数」より作成。九州には沖縄を含む。
- 季節調整値は全店ベースの数字を基に内閣府にて作成。
- 東海は、愛知、岐阜、三重の中部経済産業局「東海3県」。北陸は、富山、石川、福井の同局「北陸3県」。
- 原則として、経済産業省本省の公表値を使用。
- 地域区分はB。
大型小売店のうち百貨店の販売額は、2010年10~12月期には、記録的な猛暑が落ち着いて秋物商材が好調であったことなどから、東北、南関東、中部で前年比プラスに転じ、北海道を除く地域では減少幅が縮小した。しかし、11年1~3月期には、3月に震災後の高額商品の買い控えなどがあったことから、全ての地域で減少した。その後、4~6月期には、震災による経済への影響が徐々に薄らぎ、自粛ムードが弱まったことやクールビズ商材が好調であったことなどから、北関東、北陸、近畿では前年比プラスに転じ、その他の地域でも減少幅が縮小した。7月には、東北でも前年同月比4.2%の増加となった(第1-3-33図)。その7月について商品販売額別の寄与度をみると、全国に比べて東北では家庭用品、家庭用電気機械器具などの寄与が大きく、生活再建需要が強いことが分かる(第1-3-34図)。8月は、中旬以降の天候不順などにより、東北では増加幅が縮小し、その他の地域でもマイナスに転じたり減少幅が大きくなったりした。
- 経済産業省「商業販売統計」により作成。店舗調整済。
- 北関東は、新潟、静岡の2県を含む関東経済産業局「東京圏以外」。南関東は同「東京圏」。
- 中部は富山、石川を含む中部経済産業局管内計。北陸は富山、石川、福井の3県計。
- 原則として、経済産業省本省の公表値を使用。
- 地域区分はB。
(百貨店、全店ベース、前年同月比、伸び率寄与度)
他方、スーパーの販売額は百貨店とは異なった動きをした。2011年1~3月期には、東北で前年同期比5.4%減とマイナスに転じたが、北関東、北陸など4地域では増加し、近畿、中国など4地域では減少幅が縮小した。百貨店の販売額が全地域で減少したのに対し、スーパーの販売額が減少した地域の数は6地域16と少ない。また、東北ではスーパーの前年同期比は5.4%減であり、百貨店では16.0%減である。スーパーの方が落ち込みの程度が小さい。これは、スーパーでは、震災の影響によりミネラルウォーター、米、即席カップ麺などの保存食に対する需要が強まったことや、防災関連用品の需要もあったことなど、商品構成の違いによるものとみられる。4~6月期は東北でプラスに転じたが、その他の多くの地域では防災関連用品への需要が一巡したことなどによりマイナスに転じたり減少幅が拡大したりした。7月には月前半の猛暑により季節商材の販売が好調だったことから、北海道、北関東など9地域で前年同月に比べて増加となり、特に東北では大幅に増加した(第1-3-35図)。
- 経済産業省「商業販売統計」により作成。店舗調整済。
- 北関東は、新潟、静岡の2県を含む関東経済産業局「東京圏以外」。南関東は同「東京圏」。
- 中部は富山、石川を含む中部経済産業局管内計。北陸は富山、石川、福井の3県計。
- 原則として、経済産業省本省の公表値を使用。
- 地域区分はB。
次に、コンビニエンスストアの販売額の前年比をみると、2010年10~12月期には、同年10月のたばこ税増税前の駆け込み需要の反動などから、東北、中国、九州・沖縄で増加幅が縮小し、その他の地域ではマイナスに転じた。11年1~3月期には震災による影響があったものの、たばこ税増税の反動が弱まったことでたばこの販売が好調であったことに加え、震災の影響により米飯類などに対する需要が高まったことから、全ての地域で増加した。4~6月期には、1~3月期と同様の要因により引き続き、全ての地域で増加し、特に、東北では前年同期比11.2%増と大幅に増加した。東北での大幅増加には、東北地方における生活の再建に加え、域外から入域した復旧・復興関係者による日用品の購入も寄与しているとみられる。7、8月にも、たばこやアイス、飲料等の売上増加等から全地域で増加し、特に東北では二桁台の増加が続いた(第1-3-36図)。
- 経済産業省「商業販売統計」により作成。店舗調整済。
- 原則として、経済産業省本省の公表値を使用。
- 地域区分はB。
(震災の他、政策の影響により、大きく変動した乗用車と家電の販売)
乗用車の販売の動きを乗用車新規登録・届出台数でみると、エコカー減税・補助金制度が始まった2009年4月から10年8月までの間、全ての地域で増加がみられた。同年9月上旬にエコカー補助金制度が終了するのを前に、特に8月には駆け込み需要により全国で前月比23.8%増と大幅な増加となった。逆に、9月、10月にはその反動減により、全ての地域で乗用車新規登録・届出台数は大幅に減少した。11年に入り再び増加に転じ始めたときに、東日本大震災が発生し、3月、4月には大幅な減少となった。これは、震災後一定期間17はサプライチェーンの寸断により自動車生産が全国的にほぼ停止したため、在庫が底をついた3月後半から4月にかけて、供給制約の結果として自動車販売が大きく落ち込んだことによる。5月以降は供給制約が徐々に解消され、増加した(第1-3-37図)。
次に家電の販売動向をみるために、主要家電量販店の売上金額の前年同期比をみると、家電エコポイント制度が2009年5月から始まったことを背景に、同年夏以降、概ね増加が続いた。10年3月には、家電エコポイント制度の対象商品が4月から一部変更になる前の駆け込み需要等から薄型テレビの販売が急増し、全ての地域で大幅な増加となった。また、同年7~9月には例年以上の気温の高さからエアコンを中心に全ての地域で前年比増加となった。さらに、10、11月には、12月からの家電エコポイント制度の再変更を前に全ての地域でテレビ等の販売が急増したことから、大幅な増加となった。その後、12月にはその反動により減少となり、11年に入ってもその傾向が続いていたが、2月には家電エコポイント制度の変更に伴う販売の落込みが収まりつつあった。
しかし、3月には震災による店舗の損壊、休業等などから、北海道・東北を中心に減少した。4月以降、北海道・東北では全国を上回る増加幅となったが、これは震災による買い替え需要によるものとみられる。また、6月には地上デジタル放送への完全移行に伴うテレビ等の駆け込み需要などから、全ての地域で大幅に増加した。しかし、8、9月には、駆け込み需要の反動により全ての地域で減少した(第1-3-38図)。このように、乗用車と家電の販売動向は、制度の導入・変更や震災の影響を大きく受けて、大きな変動を示した。
- GfKジャパン集計データ(全国の主要家電量販店販売実績を調査・集計)により作成。
- 売上金額は、テレビ、エアコン、パソコン、携帯電話、DVDプレーヤー、デジタルスチルカメラ、冷蔵庫の合計金額。
家電3品目(薄型テレビ、エアコン、冷蔵庫)について更に細かくみると、国内出荷台数は、エアコンが09年度前年比9%減から10年度の21%増に、冷蔵庫が09年度の同0%から10年度の9%増に、地上デジタル放送対応テレビが09年度の同59%増から10年度の62%増と伸びが高まった。特に地上デジタル放送対応型のテレビが大幅に増加したことが目につく(第1-3-39図)。
なお、経済産業省の分析結果18によると、家電エコポイント制度の政策効果には主に3つある。1つ目は、地上デジタル放送対応テレビを中心とする家電3品目でみられたもので、これにより販売額は約2.6兆円押し上げられたこと、2つ目は、それが予算額の約7倍に及ぶ経済波及効果(約5兆円)であったこと、そして3つ目は、それによって延べ約32万人の雇用が維持・創出されたことである。
(震災の他、政策の影響を受けた消費マインド)
景気ウォッチャー調査の家計動向の現状判断DIをみると、2010年に入って7月までは、エコカー補助金制度や家電エコポイント制度の影響により乗用車や薄型テレビの販売が好調であったこと等から、概ね上昇基調であった。しかし、その後9月には、エコカー補助金制度の終了により新車の受注や販売が大幅に減少したことを反映して低下がみられ、11月には家電エコポイント制度の変更に伴う駆け込み需要を要因として上昇した。
震災の発生した11年3月には25.3と09年2月の21.5以来の低水準となり、また前月差22.0ポイントの低下幅は統計が始まった2000年1月以来の大きさを記録した。景気ウォッチャーのコメントからは、この大幅な低下が、物流の停滞により商品の入荷が不足したこと、消費マインドの冷え込みや自粛ムードにより買い控えや飲食・旅行・宿泊分野でのキャンセルの続出がみられたこと、計画停電により営業時間が短縮されたこと等によってもたらされたことが読みとれる。3月の家計動向の現状判断DIを地域別にみると、全地域で大幅に低下したが、特に東日本を中心として大きく低下した。事実、北海道、東北、北関東、南関東の4地域をみると全国平均を上回る低下幅となった(第1-3-40図)。
- 内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。
- 地域区分はA。
4月以降7月までは、自粛ムードが徐々に弱まり、購買意欲が上向きになったこと等から上昇していたが、7月には高速道路の「休日特別割引」の上限料金(1000円)の廃止、および「無料化社会実験」の終了の影響により、「観光客数が大幅に減少している」といった景気ウォッチャーからのコメントがみられた。その後、8月にはテレビ等の駆け込み需要の反動減がみられたこと、天候不順で客足が鈍かったこと、牛肉等から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出されたことにより一部で農畜産物の買い控えの動きがみられたこと等から、再び低下した。9月も台風や残暑の影響で季節商材の動きが鈍かったこと等から、2か月連続の低下となった(第1-3-41図)。
- 内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。
- 地域区分はA。
(震災により大幅に減少したが、夏頃から持ち直した旅行業者取扱金額)
旅行関連の動向をみると、全国の主要旅行業者取扱金額の前年同月比は、国内旅行、海外旅行ともに2010年春頃には増加に転じた。その後11年2月までは、個人消費の持ち直しの動きと連動した動きを示し、国内旅行は前年と同程度で、海外旅行は前年を上回って推移していた19。しかし、11年3月には、東日本大震災が発生し、自粛ムードにより旅行分野へのキャンセルの続出がみられたこともあり、国内旅行、海外旅行ともに大幅に減少した。ただし、その後、自粛ムードの弱まりなどから減少幅は縮小し、特に7月以降は円高の進行・高止まりを背景として海外旅行が増加した。また、8月には国内旅行、海外旅行ともに前年比プラスに転じた(第1-3-42図)。
この間、沖縄への入域観光客数(国内客)や北海道への来道者数は、11年3月には前年比で大幅に落ち込んだ。4月以降も減少幅が縮小しているものの、依然として厳しい状況が続いている(第1-3-43図)。
また、訪日外国人総数も11年3月に前年比でマイナスに転じ、4月にも大幅に減少した。5月以降は減少幅は縮小しているものの、依然として厳しい状況にある(第1-3-44図)。
(2)住宅の動向
(政策効果によって下支えされた2010年の住宅建設)
新設住宅着工戸数の前年比をみると、2010年には北海道、北関東、南関東、近畿、九州でプラスとなり、東北、東海など沖縄を除く地域では、09年の二桁台の減少に比べると減少幅が大幅に縮小するなど、住宅建設は持ち直しを示した。10年の前年比を利用関係別に寄与度分解すると、多くの地域で分譲と持家がプラスに寄与する一方、貸家はマイナスの寄与、あるいは僅かなプラス寄与となっている(第1-3-45図)。
- 国土交通省「建築着工統計」により作成。
- 地域区分はA。
この背景としては2つのことが挙げられる。1つ目は、09年以降、住宅ローン減税や贈与税の非課税枠がそれぞれ拡大されたことに加え、住宅エコポイント20が導入されるなど、住宅取得については、貸家に比べ充実した支援策が行われてきたことである。2つ目は、住宅取得専用の長期固定金利の低下である。リーマンショック以降の低金利政策の継続により、特にフラット35を始めとする住宅取得専用の長期固定金利は、2000年代半ばの低水準まで低下した。さらに、10年2月からは借入金利を当初10年間は年率1.0%ポイント引き下げるフラット35S21も導入された(第1-3-46図)。
- 短期プライムレートは都市銀行6行での最頻値であり、月の初日の値。
- フラット35金利は、全金融機関の融資金利の最低を記載。2007年10月以降は、返済期間が21年以上の場合を記載。
- 新発10年国債利回りは各月の最初の取引日の利回り。
(震災の影響により、弱い動きになった住宅建設)
住宅建設は11年に入ってからも多くの地域で持ち直していたが、東日本大震災の影響や、震災に伴う消費マインドの低下などにより、3月から6月まで被災地の東北などで弱い動きがみられた。新設住宅着工戸数の前年同期比をみると、1~3月期には東北で5.2%減、北関東で1.4%減と3四半期ぶりにマイナスに転じ、近畿では3.4%減と4四半期ぶりにマイナスに転じた。4~6月期には東北、北関東、近畿ともに減少幅が拡大した。震災によって着工が見合わせられたことなどにより、特に東北など被災地では大幅に減少した。なお、沖縄での分譲の大幅増加は、那覇新都心において大型の分譲マンションの着工があったことなどによるものである(第1-3-47図)。
- 国土交通省「建築着工統計」により作成。
- 地域区分はA。
しかし、7~8月期は、厳しい雇用・所得環境等が継続しているものの、震災後に低下したマインドが徐々に改善してきたことなどから、東北、北関東、近畿でプラスに転じ、その他の地域でも沖縄を除いて増加した。
(震災後、東北で増加した住宅修理費)
二人以上の世帯における1世帯当たり1か月間の住宅修理費は、2011年4月以降、全国に比べて東北で大幅に増加している。これは、震災により住宅の修理が増えたことによるものとみられる(第1-3-48図)。
(家計の動向のまとめ)
大型小売店販売額は、2010年に入ると多くの地域で下げ止まり、その後は増加基調で推移した。しかし、東日本大震災のあった3月には、特に東北では震災による店舗の被災、関東では計画停電による営業の制限などから大幅に減少し、他地域でも自粛ムードによる買い控えなどから、減少した。4月以降は、東北では店舗の復旧、関東では計画停電による営業時間短縮の影響からの回復により増加し、他地域でも自粛ムードの弱まりやクールビズ商材が好調であったことなどから多くの地域で増加したが、8月には中旬以降の天候不順による季節商材の販売不振から減少した。家電は、6月には地上デジタル放送への完全移行に伴うテレビ等の駆け込み需要などから、全ての地域で売上額が大幅に増加したが、逆に7月以降は駆け込み需要の反動減により減少するなど、大きな変動を示した。
さらに、10年9月10日に閣議決定された「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」によって、それまでは10年12月31日に期限を迎える予定であった住宅エコポイントの1年延長(11年12月31日まで延長)が決定された。10年10月8日に閣議決定された「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」によって、住宅エコポイントの対象も拡充され、住宅用太陽熱利用システム(ソーラーシステム)等が対象となった。
なお、国土交通省は、11年9月16日に、住宅エコポイントを11年7月末の着工分で前倒し終了したが、11年度第3次補正予算で財源を確保し、今年度中に復活させる方針を明らかにした。復活させる制度ではポイントを15万ポイントに半減させるが、東日本大震災の被災地は従来通り30万ポイントを付与する方針。