第2章 第4節 1 変化する社会や消費者

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時代や社会の変化に応じて変わる消費者ニーズや消費者行動をうまく捉えることができなければ、消費者にとって魅力的な新商品・新サービスを提供することはできない。いずれの地域で活動する生産者・企業にとっても、消費者ニーズの変化に敏感に反応し、商品・サービスの開発や改良につなげることは引き続き重要である。

以下では、近年の消費者ニーズの特徴や予想される社会の変化について、簡単にみていくことにしよう。

(低価格志向と共に高まる安全志向・健康志向)

リーマンショック後の急速な企業業績の悪化に伴う給与所得の減少や雇用情勢の悪化により、消費者の低価格志向が強まっている。こうした志向の強まりを受け、大手流通業者を中心として、低価格を強みとするプライベートブランド(PB)商品の開発・販売が拡大している。PB商品の展開は、大手量販店にとどまらず、これまで24時間営業といった利便性を強みに定価販売を行ってきたコンビニエンスストアや、百貨店にも広がりつつある。

消費者は、低価格志向が強いだけでなく、価格以外の要素に対する関心も高い。食品のプライベートブランド商品に関する調査29によれば、消費者がPB商品に求めることとして、74.7%の消費者が「価格の安さ」を挙げているが、同時に、55.9%が「安全性の高さ」を、39.0%が「おいしさ」を挙げている(第2-4-1図)。このように、消費者は、PB商品でもあっても、価格以外の要素である安全性やおいしさといったことも重視している。また、同調査において、PB商品と通常のメーカー品に対する信頼感をたずねたところ、約6割の消費者が「信頼感に差はほとんどない」と回答し、PB商品が消費者の間に定着していることを示している。

消費者の「食」に対する調査30においても、今後の食の志向として、「健康志向」を挙げた人が最も高く(41.2%)、「経済性志向」(33.8%)や「安全志向」(27.4%)を挙げる人も多い(第2-4-2図)。中国輸入食品問題、事故米の不正規流通問題、産地偽造問題などの「食の安全」に係る問題が続いて発生したことで、消費者の「食の安全」に対する意識は高い。値ごろ感のある商品はもとより、無農薬・低農薬、栄養価が高いなどの健康に良い商品、安全な商品が求められている。こうした消費者の安全志向の高まりを受け、小売店のみならず、加工食品や外食を製造・提供する企業においても、生産履歴が正確に明示できる食材や、通常作物よりも多少値段は高くても化学肥料や農薬を減らして栽培された農作物へのニーズが高まっている。農産物の生産において、大手スーパーや外食企業等が、契約生産に加え、自らが農場経営を行い生産段階から直接関与する動きがこのところ活発化しているが、これは、こうした消費者ニーズに対応した戦略であると言える。また、「産地直送」「直売所」も、消費者にとって産地や生産者が明確であるという利点を持つことから、今後も消費者の支持を得ていくものと考えられる。

第2-4-1図 PB商品及び通常メーカーに求めること
第2-4-1図
(備考) 日本政策金融公庫「食品のプライベートブランド(PB)商品に対する調査」
(調査期間:2009年7月1~2日)により作成。

第2-4-2図 消費者の「食」に対する今後の志向
―「経済性」のほか、「健康」「安全」に対する意識も高い―
第2-4-2図
(備考) 日本政策金融公庫「食品のプライベートブランド(PB)商品に対する調査」
(調査期間:2009年7月1~2日)により作成。

(癒しや環境に対する関心の広がり)

現代社会はストレス社会と言われるように、多くの人がストレスを感じながら生活している。内閣府の調査31でも、日頃、ストレスを感じるかとたずねたところ、「とてもストレスを感じる」(15.2%)、「ややストレスを感じる」(41.6%)と回答した人が合わせて57.5%と過半数を占めている。

一方、社会のために役立ちたいと考えている人が増加している。「日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っているか」とたずねたところ、2009年1月調査では、「思っている」と回答した人の割合が69.3%となった32(第2-4-3図)。1974年以降の過去32回の調査の中で、最も高い数値となっており、社会への貢献意識は高まっている。さらに、社会のために役立ちたいと思っている人に、その分野についてたずねたところ、「町内会などの地域活動(お祝い事や不幸などの手伝い、町内会や自治会などの役員、防犯や防火活動など)」や「社会福祉に関する活動(老人や障害者などに対する介護、身の回りの世話、給食、保育など)」を挙げる人の割合はあまり変化していない一方、「自然・環境保護に関する活動(環境美化、リサイクル活動、牛乳パックの回収など)」を挙げる人が最近2~3年の間に急速に増加し、直近の調査では最も多い回答を得ている(41.6%)(第2-4-4図)。

第2-4-3図 社会への貢献意識
第2-4-3図
(備考) 内閣府「社会意識に関する世論調査」より作成。

第2-4-4図 社会への貢献内容
第2-4-4図
(備考) 内閣府 「社会意識に関する世論調査」により作成。

こうした社会変化の下、ストレス解消・気分転換、環境保護といった要素を取り込んだ商品・サービスに対するニーズが高まっている。ストレス解消・気分転換のための癒し効果のある商品・サービスへの関心が高いのと同様に、環境負荷の少ない生産方法で生産された製品に対する理解も広がりつつある。また、ストレス解消・気分転換と環境 保護の両方の要素を兼ね備えたものとして、環境負荷の少ない日常生活や環境保全の活動を楽しみながら行うライフスタイル33も多くの人の共感を得るようになっているとみられる。

(インターネットの活用)

インターネットの利用者数は、2009年1月現在で、9,901万人に達し、人口普及率でも75.3%にまでなっている。そうした中で、インターネットで商品・サービスを購入したことのある人の割合も53.6%となっている34。インターネットで商品を購入する理由については、過半数の人が「店舗の営業時間を気にせず購入できるから」(55.9%)、「店舗までの移動時間・交通費がかからないから」(50.1%)をあげており、時間・空間の制約のなさを利点として挙げている。こうしたインターネットの利点を活用し、既存の市場や流通経路を使わず、遠く離れた消費者の需要を取り込み成長している地方の企業も多い。しかし、インターネットで商品を購入する理由としては、「様々な商品を比較しやすいから」(49.3%)、「価格を比較できるから」(45.5%)と回答した人もほぼ半数いる。インターネットの利用によって、消費者は、品質や価格を比較することによる機会費用の低下が期待できるだけでなく、従来よりも商品・サービスに関する多くの情報を容易に持てるため、価格競争が促進される効果も期待できる。企業にとっては、良質な商品・サービスを低価格で提供することが一層求められることになってくる。

総務省「家計消費状況調査」を用いて、1世帯(2人以上勤労世帯)あたりの名目消費支出の動きをみると、最近数年間において1世帯あたりの消費支出総額は減少傾向にある一方、インターネットを利用した支出額は増加傾向にある。1世帯あたりのインターネットを利用した支出額の消費支出総額に占める割合を2002年、2005年、2008年の3時点で比較すると、全ての地域で高まっている。都市規模別にみても、全ての都市規模で高まっているが、特に大都市では、2002年の0.4%から2008年の1.6%へと着実に増加している(第2-4-5図)。

第2-4-5図 1世帯当たり1か月間の支出(二人以上勤労者世帯)インターネットを利用した支出比率
―インターネットを利用した支出は全ての地域で増加―
第2-4-5図
(備考) 総務省「家計消費状況調査」より作成。

インターネット上で電子商取引を行わないとしても、消費者が商品・サービスの購入において必要な情報をインターネット上で取得する機会は増加している。内閣府の調査35によれば、商品・サービスを買おうと思った時に関連情報を探すためのインターネットの活用について聞いたところ、「よく使う」と回答した人が30.7%、「たまに使う」と回答した人が34.4%おり、両方を合わせると65.1%となった(第2-4-6図)。若い年代ほど、インターネットを使って関連情報を得ている人は多いが、年齢の高い層でも、関連情報を探すためにインターネットを活用している人(「よく使う」と「たまに使う」の合計)は、50代で62.3%、60代で46.0%となっている。今後、高齢者向けの商品・サービスの購入においても、インターネットの果たす役割は益々高まると予想される。

第2-4-6図 商品・サービスの購入に係る関連情報を探すための
インターネットの活用-65%の人がインターネットを活用-
第2-4-6図
(備考) 内閣府「平成20年度国民生活モニター調査結果(概要)」(調査期間:2008年10月30日~11月12日)より作成。

(高齢消費者の増加)

我が国は、人口が減少する中で高齢者が増加することにより、高齢化率は2005年の20.1%から、2010年23.1%、2020年29.2%へと大きく上昇していくことと推計される36

さらに、高齢化率の上昇に伴い、世帯主が65歳以上の世帯(65歳以上世帯)数も、2020年には2005年の1.4倍にまで増加すると予想される。65歳以上世帯を「単身世帯」、「夫婦のみの世帯」、「夫婦と子の世帯」に分けてみると、「単身世帯」と「夫婦のみ世帯」は共に2020年まで増加するものの、「単身世帯」の増加率が高く、2020年には2005年の1.6倍にまでなることから、2020年には「単身世帯」が「夫婦のみ世帯」を上回るものと推計されている37(第2-4-7図)。

第2-4-7図 65歳以上世帯の家族類型別世帯数
第2-4-7図
(備考) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」(2008年3月)により作成。

高齢者の増加により、介護・医療関連の商品・サービスの市場拡大はもとより、健康維持のための商品・サービスも増加すると予想される。さらに、高齢単身世帯が増加することは、少量化、手軽さ、分かりやすさ、親しみやすさに対するニーズが一層高まることにもなるとみられる。


29.
日本政策金融公庫「食品のプライベートブランド(PB)商品に関する調査」(調査期間:2009年7月1~2日)
30.
日本政策金融公庫「平成21年度第1回「消費者動向調査」」(調査期間:2009年7月1~2日)
31.
内閣府「平成20年度国民生活選好度調査」(調査期間:2009年1月15日~2月1日)
32.
内閣府「社会意識に関する世論調査」(調査期間:2009年1月22日~2月8日)
33.
健康と環境、持続可能な社会生活を心がける生活スタイルの総称として、「ロハス」(LOHAS:Lifestyles Of Health And Sustainability)と呼ばれることもある。
34.
総務省「平成20年通信利用動向調査」
35.
内閣府「平成20年度国民生活モニター調査」(調査期間:2008年10月30日~11月12日)
36.
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2006年12月)
37.
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」(2008年3月)

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