第2章 第2節 2 温室効果ガス削減に向けた「エネルギーの地産地消」

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従来は、エネルギーの需要者である個人や企業等は、大規模なエネルギー供給事業者が提供するエネルギーをそのまま受け入れざるを得ない状況にあり、エネルギー源を選択するという余地はなかった。しかし、電力会社やガス会社でなくとも、小規模の設備によって再生可能エネルギーを発生させることが可能となり、需要者自らがエネルギー源を選択できるようになった。

地域温暖化対策の一環として、地域で消費するエネルギーを従来型の化石燃料等によるエネルギーではなく、その土地の日照や風況といった気象条件、水や緑といった大地の恵み等を活用した再生可能エネルギーに求めようという「エネルギーの地産地消」の取組が地域に広がっている。太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱、大気熱等による再生可能エネルギーが我が国のエネルギー消費に占める割合は、現在はまだ10%程度であるが、こうしたエネルギーの地産地消の取組を拡大することは、温室効果ガス削減のため、一層重要となっている。

(良好な日照条件を活かした太陽エネルギーによる地域振興)

太陽エネルギーの活用については、住宅向けの太陽光発電システムの設置等に係る支援策の拡充により、家庭での活用が注目を集めている。これに対しては、地方自治体や企業で、これまでにもさまざまな取組が行われてきた。

太陽エネルギーの利用は、日射量や日照時間が恵まれている地域に優位性がある。日照条件の良い地域の1つである熊本県は、環境立県の実現に向け、地球温暖化防止や新エネルギーの普及促進に早くから取り組んできた。こうした取組の効果もあり、2000年代半ばには、複数の太陽電池メーカーが同県に進出した。さらに、同県に進出した太陽電池メーカーは、生産設備を増強してきており、今後の増強計画も発表している。現在では多くの地方自治体が、公共施設の屋上等に太陽光発電システムを設置しているが、同県の中心である熊本市では、1981年から公共施設に太陽熱を利用した設備を導入し、地域住民・企業・行政の連携の下、「よかエネ市民学校」として、市民に太陽光発電設備等への見学やエネルギーに関する講演会への参加の機会が提供される等、環境保全に向けた市民への啓発活動が積極的に行われている。

熊本県と並び良好な日照環境を持つ宮崎県では、2009年3月に太陽光発電の拠点となることを目指して「みやざきソーラーフロンティア構想」を策定した。製造・発電・活用の三拍子揃った太陽光発電の拠点づくりを構想の基本概念とし、大型太陽光発電所の立地推進や、太陽光発電による電力を農業等の地元産業で利用するといったエネルギーの地産地消、太陽電池関連産業の企業誘致や地元中小企業への支援等、太陽光を利用した地域振興に取り組んでいる。

(産業分野にも広がる太陽光発電による「エネルギーの地産地消」)

国内の産業用の太陽電池出荷量は、まだ住宅用の2割程度である(2008年度)ものの、工場での生産過程や大規模施設で必要となるエネルギーに再生可能エネルギーを使おうとする動きは広がっている。例えば、ある大手電機メーカーでは、三重県にある液晶パネルの大規模工場において、工場の建物や敷地内の池の水面上に、建物設置タイプの太陽光発電としては当時世界最大級の設備を導入した。2009年10月に稼働した同社の大阪府堺市の新工場も、同社や周辺の進出企業の屋上等に最大出力18,000kWの太陽光発電設備を電力会社と共同で設置し、それによって発電された電力をコンビナート内で自家消費するというエネルギーの地産地消型のコンビナートを目指している。

太陽光発電システムの設置は、オフィスビル、イベントホール等にも広がっている。阪神甲子園球場では、全面的なリニューアル工事を実施中であるが、環境配慮のため、井戸水や雨水をグラウンド散水や場内トイレ洗浄水に利用したり、ツタの再生による壁面緑化等に取り組んできたが、球場の名物でもある大屋根(銀傘)に太陽光発電システムを設置し、2010年3月からの稼働を予定している。推定発電量は、阪神タイガースが同球場で1年間にナイトゲームで使用するナイター照明の使用電力量に相当し、削減されるCO2の量は甲子園球場の約11個分の森林が吸収するCO2と同程度である。

イベント会場の電力に再生可能エネルギーを使用することは、多くの人に再生可能エネルギーによる地産地消を理解してもらう良い機会にもなる。「TOKYOソーラーシティプロジェクト」は、東京都、NPO、企業等が連携して、地球温暖化防止や再生可能エネルギーの利用拡大を目指して結成された。同プロジェクトは、お台場の都立公園(潮風公園)の敷地の一部に、企業や個人からの寄附金を得て、NPOが太陽光発電システムを建設・運営している。そこで発電される電力は、地球温暖化防止や再生可能エネルギー利用拡大のメッセージを発信するシンボルとして、公園内で開催される音楽イベント等で利用されている。

(北海道や東北を中心に広がる風力発電)

風力発電は、太陽光発電等と比べても発電効率が高く、建設・維持コストが低いため事業化しやすいといった利点もあって、全国各地で導入が進んでいる。ただし、発電量が風速に左右され、安定的な電力が得られにくい。また、国土の狭い我が国では、常に風が吹く場所が少なく、立地も限られる。そうした制約はありながら、幅広い地域で発電施設が設置されているが、地域別の風力発電設備容量をみると、東北地方と北海道で多い(第2-2-8図)。

第2-2-8図 風力発電設備容量
第2-2-8図
(備考) 1. (独)新エネルギー・産業技術総合開発機構資料により作成。
2. 2009年3月末時点。

北海道苫前(とままえ)町は、北海道北西部の日本海に面した町である。冬には日本海からの海風が吹き付けるという厳しい自然を逆手にとって、1999年10月に日本初の商業用風力発電施設が稼働する等、風力発電による地域振興を目指している。町内では、現在、風車42基(町営も含む)が設置され、総出力は約53,000kWとなっている。町営、民営ともに、通常よりも高い売電単価で電力会社が買い取る契約を交わしていることで、商業ベースでの稼働が可能になっている。民間の蓄電技術研究施設も建設され、不安定な風力から電力の安定供給を可能にする技術の検証も行われている。

北海道と並び、青森県も風力発電が盛んな地域である13。核燃料再処理施設のある六ヶ所村には、高さ100メートル超の大型風力発電の風車が林立している。風力発電の普及の障害となっている風量の変化による出力変動を解決する方法として実用化されているのが、蓄電池併設型の風力発電所である。六ヶ所村にある二又風力発電所では、2008年に世界初の蓄電池併設型の商用風力発電所が稼働を開始し、現在は発電機34基、出力51,000 kWを誇る。

(風力発電施設の集積を活用した地域振興)

風力発電施設を建設したとしても、多くの場合、地域産業への波及効果はあまり期待できないのが実情である。その一因は、風力発電機が海外企業や国内大手企業によって製造され、大型軸受、ブレード用炭素繊維等の部品の多くも国内大手メーカーのシェアが高いことにある。しかし、風力発電所の集積を生かし、地元に風力発電関連の企業誘致を図る取組もみられる。その一つが、風力発電施設のメンテナンス産業の育成・進出促進である。風力発電施設では、部品交換等の定期的なメンテナンスが必要となるが、常駐の保守点検者が不在の施設では、いったん故障が発生すると停止期間が長引くこととなる。青森県では、この点に着目し、風力発電メンテナンス関連企業の進出や、地元企業のメンテナンス業務への参入を支援する施策を実施している。こうした施策が功を奏し、大手風力発電事業者の保守人員育成訓練センターの新設が予定されている。さらに、同県では、風力発電量の多さを生かした企業誘致にも乗り出している。企業にCO2の一層の削減が求められている状況の下、風力発電施設からの電力を直接受電し工場での生産等で使用できることをアピールしている。

愛媛県伊方(いかた)町も、強風が多い地域特性を生かし、「風車のまち」として、四国で最大級の風力発電施設を有するなど、風力発電が盛んな町である。風力発電による電力を町内の農業公園で稼働する養液栽培モデル温室、農水産物の展示即売施設等で活用するとともに、風力のある景観を他の観光資源と組み合わせるなど、風車のある風景が観光資源としても活用されている。

(バイオマスを活用した地域内の資源循環)

バイオマスは、家畜の排せつ物や木くず、生ゴミ等の動植物に由来する有機物で、エネルギー源として利用可能なものを指し、バイオマス発電では、これらの燃焼で得られる蒸気を利用して発電を行っている。発電には多様なバイオマス資源が使用されており、畜産の盛んな地域では家畜の排せつ物、稲作の盛んな地域では稲わら、林業の盛んな地域では製材廃材など、地域産業の特徴が表われている。バイオマスをエネルギーに活用する取組は、全国的に拡大しており、2009年9月末現在、全国で218地域が「バイオマスタウン」の認定を受け、地域別にみると、北海道、東北、九州で多くなっている(第2-2-9図)。

第2-2-9図 バイオマスタウン認定数
第2-2-9図
(備考) 1. 農林水産省資料により作成。
2. 2009年9月30日時点。

北海道道東部に位置する別海町は、乳用牛、肉用牛の飼養頭数が13万頭を超え、全国有数の酪農の町である。家畜のふん尿の放置等を禁止する家畜排泄物法の施行(2004年)を機に、畜産が盛んな地域では、家畜の排せつ物の処理問題を解決する必要に迫られたが、別海町では、家畜排せつ物をバイオガスプラントでガスに変換し、それを一般家庭で使用するという循環サイクルを構築した。

畜産業が盛んな宮崎県でも、家畜排泄物法の施行により、家畜の排せつ物処理が課題となったが、ほぼ同時期に電力会社に新エネルギーの利用が義務づけられた。そこで、電力会社、地元養鶏業者、大手ブロイラー会社等による共同出資会社が設立され、養鶏から出る排せつ物を燃料とする国内最大級のバイオマス発電所が建設された。同事業では、県内の養鶏農家から鶏ふんを購入し、発電の燃料とし、売電事業を営んでいる。養鶏農家は、鶏ふんの売却により対価が得られ、バイオマス焼却で発生する焼却灰はリンやカリウムを豊富に含むため、肥料会社へも販売されている。畜産業、電力業、化学業等の異業種が連携することによって、地域内において循環型サイクルが確立している。しかし、燃料となる鶏ふんを供給する農家が広範囲に分布しているため、収集・運搬コストを低下させる等の課題を解決していくことが事業継続に必要である。

(再評価される水力エネルギー・雪氷エネルギー)

水力発電は、再生可能エネルギーのなかでも古い歴史を有するが、現在でも、我が国の電力供給の1割ほどを占める。そのエネルギー変換効率にも優れていることや、我が国は発電に必須の水資源が豊富に存在すること等から、このところ再評価されつつある。大規模発電の開発に適した地点の建設はほぼ完了しているが、急峻な地形の多い我が国では、小水力発電のポテンシャルは依然大きい。

全国各地の土地改良区等が維持管理する水路の総延長は約26万kmにものぼるが、これら農業用水路と、ダム、ため池などの農業水利施設には、未利用の落差や、余剰な水を減ずるための施設が多数あり、それらを利用した小水力発電の適地も数多くある。例えば、栃木県那須塩原市では、農業用水を利用した小水力発電設備を導入するとともに、水力発電に関するシンポジウムを開催する等、普及啓発活動の取組も行っている。

大分県日田市では、既存の砂防ダムの未利用水源を利用し、小水力発電所を設置した。発生した電力は、周辺にある鯛生(たいお)金山の観光施設等に供給され、施設内の使用電力の約6割をまかない、施設運営に係る経費節減に寄与している。

降雪量の多い北海道、東北、北陸等の地域では、従来、雪を夏期まで保存し、農産物等の冷蔵に利用してきたが、近年、これらの地域では、建物の冷房システムに雪氷エネルギーを利用する取組がみられる。豪雪地帯である新潟県上越市では、公共施設を中心に雪冷房設備を導入している。普段は厄介物の雪を有用な資源に変えた取組である。新潟県上越市では、雪を活用し、エネルギーの地産地消を実践していることに加え、地元の青年会議所が中心となって、雪室で貯蔵された産品をブランド化し、商品の付加価値を高める取組を行っている。また、同市では、2009年度、住宅向け雪冷房設備の設置補助を実施し、「利雪」を進めている。

(気候条件を選ばない地中熱エネルギーの活用)

地中熱エネルギーは、地中の温度の年間を通じた変化が少ないことを利用し、地上と地中の温度差を使ってヒートポンプで熱交換を行うことで活用できる。地上の温度が高い夏場は、地中に熱を放出して冷房を行い、冬場には地中の熱を吸収して暖房に使用する。この仕組みは、季節や天候の影響を受けないため、利用できる地域が広く、寒冷地における道路の融雪のほか、公共施設等の冷暖房にも活用されつつある。

地中熱エネルギーのメリットは、蓄熱効果のあるプールや、施設稼働率の高い(日中、夜中に関わらず、人間が常駐している)施設である病院、社会福祉施設、あるいは24時間営業の商業施設などで出やすい。高知県梼原町の「雲の上のプール」や、三次市の広島県立みよし公園プールをはじめ、多量のエネルギーを消費する温水プールに地中熱利用ヒートポンプシステムが導入されている。こうした取組は、火を使用しないために安全性を高めているだけでなく、ランニングコストの低減にもつながっている。また、三次市立塩町中学校新校舎には、教室やホールに地中熱エネルギーを利用した空調システムが導入されている。三次市は山間地で霧が発生しやすく、年間の日照時間が少ないため、当初予定していた太陽光発電システムによる冷暖房利用は不適当と判断し、気象条件に左右されにくい地中熱エネルギーを選択した結果である。

地中熱エネルギーは、大型の建築物においても、建物の杭のなかに地中熱交換器を入れることで活用されている。例えば、羽田空港の拡張工事では、新国際線旅客ターミナルビルの冷暖房システムの一部に地中熱が利用される予定である。東京都墨田区に2011年完成予定の東京スカイツリーでも、地中熱を利用した熱供給システムが導入される。

地中熱を活用した技術の向上に取り組む地方の中小企業

地質調査やボーリング掘削などの建設コンサルタント業務を行う広島県三次市の建設業者は1990年頃に海外製の掘削機械の購入を検討していた際、欧米で普及している地中熱利用ヒートポンプシステムの存在を偶然知った。当時、同システムの日本での認知度は極めて低かったが、欧米、特にアメリカでは住宅向けなどに広く利用されている事実を知り、近い将来日本国内でも普及すると予想し、地中熱の利用が盛んな欧米へ社員を出張させるなど、積極的な調査・研究を独自に開始した。調査を開始したものの、地中熱ヒートポンプシステムが普及しているドイツやスイスと日本とでは、気候や地形に違いがあり、海外のシステムをそのまま国内で使用することが困難であることが分かった。さらに、当時は、同システムのコストが高く、我が国では温室効果ガス削減等の環境に対する関心もあまり高くなかったため、国内での実用化は難しい状況にあった。そこで同社では、日本の環境に適したシステムを開発するため、社内に研究開発用の地中熱ヒートポンプシステムを設置し、屋内の冷暖房や道路・屋根の融雪などで実証実験を続けた。同社が拠点を置く三次市は、中国山地に位置し積雪量も多い。積雪量が多いことは、冬季の交通事情が悪くなるなど、企業立地にとっては不利になることが多い。同社では、その積雪を地中熱を使った融雪システムの実証実験に役立てた。その結果、1993年に地中熱利用路面融雪システムの実用化に成功し、広島県内のみならず、積雪量の多い東北、北陸、中国等の道路で同システムの設置工事を行うほか、現在では、首都圏の公共施設等への地中熱エネルギー空調システムの導入工事も行っている。

(環境学習の場を提供することによる地域振興)

再生可能エネルギーの活用による低炭素型社会の実現に向けて、地域ぐるみで積極的な取組を進めてきた地域の中には、再生可能エネルギー活用の現場が多く、理科教育やエネルギー教育の実践的な場を提供できることを強みとして、地域振興につなげているところもある。

岡山県北部の真庭市は、面積の約8割を森林が占め、製材所も多数存在する古くからの木材産地である。1990年代に林業の構造的不況に直面した地域の若手経営者を中心に、製材所の集積を生かした地域振興を目指し、その一環として、森林資源を活用したバイオマスエネルギーの地域循環に取り組んできた。同地域では、木くず等の焼却によりバイオマス発電を行うだけでなく、製材所で出る木くず等を砕いて乾燥・圧縮成形し、木質ペレットを製造してきた。このように、バイオマスの利活用に地域ぐるみでいち早く取り組んだ真庭市では、木質ペレットの製造施設、ペレットストーブを導入した施設、木片コンクリートを製造する企業の生産現場等が立地していることから、これらの施設を見学する「バイオマスツアー」を企画し、多くの人に環境学習の場を提供している。

高知県の山間部に位置する高知県梼原町も、行政や住民が一体となり、地域ぐるみで環境と共生した循環型社会づくりを目指している。同町もその大半が森林であり、林業が主要産業の一つである。このため、地域で生じる製材端材や林地での間伐時に生じる端材をバイオマス資源とし、良質な堆肥や固形燃料である木質ペレットを製造する施設を町内に設置し、地域の森林資源を有効活用している。また、町内に設置した風力発電施設によって得た売電収入を環境基金として積み立て、地域の森林の間伐作業に対する助成金や、住民の太陽光発電システム設置に対する助成金等の財源として活用している。さらに、小水力発電、太陽光発電、風力発電のほか、地熱温度差エネルギーやバイオマス熱も他地域に先行して利用を進めている。このように循環型社会づくりを積極的に続けてきた成果を活用して、都市住民に環境学習の場を提供することで、都市との交流も進めている。


13.
青森県は都道府県別の風力発電設備容量で全国一である(2009年3月末現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構調べ)。

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