第3章 第3節 2.住民主体で実施する公共交通サービス
地方の鉄道や路線バス、旅客船等の公共交通機関の多くが、人口減少やマイカー利用へのシフト等から利用者が減少して赤字経営になっている。こうした事態に対して、事業主も手をこまねいているわけではないが、利用者数の減少を食い止めることは容易ではなく、便数や路線数を減らしたり、最終的には廃業に至ったりするケースも後を絶たない。しかしながら、地域住民、特に自家用車の運転もままならない高齢者等、いわゆる「交通弱者」にとっては、公共交通機関の存廃は死活の問題であろう。したがって、行政の補助・支援によって路線の維持を図るケースも多くみられる。ただ、国や自治体の財政も厳しい状態にあり、これまでのように財政補助を頼りに地域の隅々まで広く行き渡る形の公共交通サービスの提供は困難になっている。このため、住民自らが主導して、住民ニーズに見合った必要最小限の公共交通サービスを実施していこうとする動きが広がっている。
(1)住民主体で運営するコミュニティ・バス
大都市や地方、都市部や農村といった違いにかかわらず、様々な理由から乗合バスの路線が廃止され、住民の足が奪われる事態がみられる。また、都市部では、住宅地や商店街等の路線バスが入り込めない通りにおいて、市民の移動手段を確保する必要性も生じている。このような路線バスの空白地帯を埋める形で、規模が比較的小さなバス・サービスが広がっている。いわゆる「コミュニティ・バス」と呼ばれるものがそれであるが、その多くは都市部において、路線バスが通らないような道路を走り、病院や公共施設、商店街等を巡り、市民の小回りの利く足として重要な役割を果たしている。一方、過疎化等によってバス路線や鉄道路線の廃線・撤退がみられるような地方では、コミュニティ・バスは通院や通学等の生活に不可欠な交通手段となっている。
コミュニティ・バスは何らかの形で自治体が関与するものが圧倒的に多いが、そうした中にも行政に頼らず、住民やNPO法人等、民間が主導的に実施・運行するものがある。例えば、長崎県五島市福江(ふくえ)地区の巡回バスである。この地区では、人口減少や公共事業の削減、島外資本の大規模小売店の進出等で疲弊する中心市街地の商店街組織がコミュニティ再生事業を展開するなかから、商店街を巡回するバスを自主的に運行開始し、市民の利用客を増やすなど、コミュニティ・ビジネスとして成果をあげている。また、京都府舞鶴市では、地区毎の自治会が路線バスの廃止に際して代替交通機関としてコミュニティ・バスの導入の是非を検討し、合意が得られた市内7地区で自主運行バスを導入している。
(2)地域公共交通機関を盛り立てる地域有志集団
乗合バス等と同様に路線廃止の危機にある地方鉄道において、地域の住民や鉄道愛好家等をサポーターやファンとして組織的に取り込むことで、利用者を増やしたり、営業収入以外の収入を増やして路線維持に活用していく動きが、各地で見受けられる。
例えば、青森県の津軽鉄道、福井県のえちぜん鉄道、長野県のしなの鉄道、京都府の北近畿タンゴ鉄道、高知県の土佐くろしお鉄道阿佐線(ごめん・なはり線)等では、鉄道の運行支援や周辺地域の活性化を目指して応援団体が結成され、自主的な活動を展開している。