第3章 第3節 1.住民力で町おこし・村おこし
第3節 「住民力」を活かす
近年、農山漁村や離島等の人口減少地域において、公的サービスの供給が、住民自身の自助・共助やNPO法人等の各種民間主体の協働・連携により、また、コミュニティ・ビジネスといった継続性をもった実施形態により行われ、地域経済の活性化に役立つ動きがみられる。こうした動きの盛り上がりの実態を具体例の中からみていくこととする。
1.住民力で町おこし・村おこし
(1)行政に頼らない「町おこし・村おこし」で地域活性化
全国各地で盛んに行われている民間主体による「町おこし・村おこし」運動には、直接・間接に行政からの金銭的な支援や物的な支援を受けるケースも多いとみられる。しかし、こうした行政からの支援を全く当てにせず、地域住民が町内会等に集まり、全員が力を合わせて「町おこし・村おこし」をする事例も見られるようになっている。
その典型的な事例として最近よく紹介されるのが鹿児島県鹿屋市串良町柳谷(くしらちょうやなぎだに、地元の呼び方では「やねだん」)集落における「行政に頼らない『村おこし』」である。柳谷では、1996年に集落内にある自治公民館長(=自治会長)に銀行員や事業家の経験を持つT氏が就任してから、T氏のリーダーシップの下で村おこし事業が始まった。それまで、柳谷集落は全国各地の過疎地同様に人口減少や高齢化が進んで地域コミュニティの崩壊が危惧される村落であった。行政の補助金による地域振興策が実施されてきたが、事業が完成した後は効果が長続きしないことの繰り返しであったため、T氏は、これでは人や地域が育たないと考え、集落民の自立性や共同意識を高める事業に率先して取り組んだ。住民総出で公民館に隣接の公園を造成したり、遊休地を使ったカライモ(サツマイモ)作りを始めた。カライモと後に始めた「土着菌」25による肥・飼料の生産が軌道に乗り、自主財源が順調に増えた結果、独居老人への緊急警報装置や全戸への防犯ベルの設置、学校の補習を行う「寺子屋」の実施等、住民参加の成果を還元することができた。さらに、柳谷集落は、定住人口の減少傾向を反転・増加させるため、空き家を活用した「迎賓館」を作り、全国から芸術家を新規住民として受け入れている。こうした努力の成果もあって、Uターン者もみられるようになっている。
(2)住民自らが実施する公共事業で地域活性化
これまで行政が主体で実施してきた公的サービスの提供も、行政と民間の連携で実施する公民パートナーシップ26から、民間委託、PFI、民営化等まで、様々の方式で「官」から「民」への民間化の取組が進んでいる。一方で、一般道路の整備などの公共土木事業については、投資額がかさんだり、用地買収等の利害関係の調整が必要であることや出来上がった施設の対価を利用者から直接徴収することが困難な事業であることから、民間のみで実施する事例はこれまで殆どなかった。
そうした中で、事例としては数少ないが、過疎地において、必要な社会資本整備を住民自らが立ち上がって実施する事例もみられるようになっている。
例えば、自治会や町内会、或いは地域住民全員参加の下で道路建設事業に取り組んだ事例がある。岩手県滝沢村姥屋敷(たきざわむらうばやしき)地区では、2005年~06年の2ヵ年にわたって「姥屋敷マイロード」事業によって道路整備を行った。この地域では、「自分達の道は自分達で整備しよう」ということで、まちづくり委員会である「姥屋敷いきいき21推進委員会」と村が協力して、用地交渉を行い、労力や技術、資材を提供しあって道路を完成させている。その後、「マイロード事業」で培ったノウハウを活用して防火用水路も整備している。
また、同じく岩手県二戸市浄法寺町門崎(じょうぼうじまちかんざき)地区では、1996年に「自分達の住む村は自分達の手作り」を合い言葉に、門崎集落の全世帯(19戸)が参加して「浄門(じょうもん)の里づくり協議会」を設立し、行政の補助も受けつつ住民の共同作業で、生産基盤整備(用水路整備や農道の簡易舗装)や生活環境基盤整備(下水道整備、水車小屋・炭窯の建設、東屋と池を配した農村公園等)を実施している。2008年には地域の資源(鉱泉)を活用した共同浴場付きのコミュニティセンターも共同作業で実施している。こうした取組もあって農家に若者が都会からUターンするようになってきている。
25. | 山林や田畑に生息する微生物。米糠等に混ぜて発酵させて作った肥・飼料は、家畜の糞尿の臭いを削減したり、畜産や農産物の生産効率を高める等の効果があり、多方面から注目されている。 |
26. | 公民パートナーシップとは、公的サービスの提供を行政、民間企業、NPO等が連携して実施する形態。 |