おわりに-自立構造を模索する地域経済
-未だにばらつきのみられる地域経済-
戦後最長の景気回復が続く中、地域間の回復のばらつきがみられて久しい。
各地域ともに、02年初頭の景気の谷頃と比較すると、いずれの地域も指標では改善しているが、その改善度に差がみられる中で、地域間格差の拡大が指摘されている。今回の景気回復局面では、公的投資が削減されていることもあって、地域の経済・産業構造の違いがストレートに現れるような結果となっている。すなわち、輸出主導・製造業主導の景気回復局面にあって、製造業の強いところと弱いところの差が出ている。
かつては、こういう構造を内包しながら、公的投資によって需要を創出させてきたところがあり、カンフル剤によって地域経済が維持されてきた側面があることは否めない。産業構造の変化があまり見られない中で、2000年代に入って公的投資の削減が継続したため、公的投資に依存した地域では景気回復の遅れがみられるとも言える。地域経済は、最早公的投資のような外的な力に頼っていては後がなく、一刻も早く自立構造に転換する必要がある。
-過渡期を耐えられるか-
地域の自立を促す仕組み、例えば構造改革特区制度のように自ら考え、行動する地域に対して支援するという仕組みは根付きつつある。地域も、待っていたら何かしてくれるというような意識からは脱却して、自分の持つ資源は何か、またそれをいかに活かすかということを考え始めている。しかし、これらが実を結ぶのには時間がかかる。観光カリスマがカリスマになるに至るまで5~10年程度の時間がかかっているように、その間を耐えるだけの体力が必要となってくる。その間のつなぎとして公的に支援するという考え方もあり得るかもしれないが、その場合でも、持続的な活性化を目指すのであれば、根付き始めた地域の自立志向を失わせないようにする必要がある。
幸いなことに、現在、人々の関心は都市と地方の格差の是正に向いている。こうした状況であれば、地域の独自の取組みが注目を集めるのは容易であろう。「地域から始める」という精神で、自立構造の確立に向けて、成果を挙げていくことが望まれる。
-人口減少と人口流出という制約要因の克服-
経済の成長、とりわけサービス業の成長には、人口集積が欠かせない要因となっており、人口の多いところほど、様々なサービスが発生するという傾向がある。
地域にとって困難なのは、人口減少と人口流出が同時に進行していることである。すなわち、自然減と社会減が同時に起こり、二重の意味での人口減少となっている。
自然減への対策としては、子供を安心して産み・育てられる環境作りが不可欠であり、これは全国共通の問題と言える。社会減への対策としては、仕事を創出することで若年層の流出を食い止めることが重要であることは言うまでもないが、成果を上げるのは容易なことではない。
地域経済をけん引するには、その地域をめぐる人々の知恵をいかに活用するかが決め手である。若者がいなければ、活性化できないというわけではない。徳島県上勝町は「葉っぱをビジネスに変えた町」として知られる。そこは、若者でなく、お年寄りが活動の担い手である。ある地方紙は、県民を指して「207万人の天才。」というキャッチコピーを掲載した。これが示すとおり、地域に住む人々全てが天才になり得る可能性を秘めている。時には外部の力も借りながら、外部者が自分事と思えるくらいに巻き込むだけの情熱を見せ、地域の人材を活かすための好循環が生まれていけば、活性化に向けて大きく前進することだろう。
-地域に知恵と熱意を結集させる-
現在のところ活性化に成功している地域は、結局のところ、私財を投げ打つような覚悟を決めたキーパーソンの存在が大きい。1人の情熱が多くの人を惹き付けたのである。しかし、これからは、小さな力の束を考えるべきである。1人1人の知恵と情熱を結集することによって、地域を活性化していく手法を考えるべきである。寄付金制度などはその好例とも言えよう。
国の財政も地方の財政も厳しく、公的支出には頼れない中で、無尽蔵にあるのはヒトの知恵である。
地域の資源は発掘すれば何かは見つかるものであるが、磨き上げない限り、活性化に資するまでには至らない。一方で、当初は資源のないところであっても、知恵次第によっては資源を創造できるとも言える。滋賀県長浜市の黒壁スクウェアや北海道帯広市の北の屋台などはその好例であろう。長浜のガラス館はガラスとは何のゆかりもなかったところからスタートしたのである。まさに知恵の結集としか言いようがない。鳥取県鳥取市の鳥取砂丘では、「砂丘」という地域資源を活用し、「砂の美術館」を1,400万円かけて建設し、11万人を集客した。
地域が、地域内で財・サービスが循環するような構造に転換し、自立的な経済構造にステップアップするために、今がまさに正念場である。幸いにして、景気の回復基調は続いている。資源の選択と集中を図りながら、自立構造に向けて舵を切りその航路を着実に進んでいくことが、今後の地域経済の姿を決めることになるであろう。