第3章 第5節 ケーススタディ1:「映画の街」尾道
広島県尾道市は、地の利を活かした水運業が盛んであり、造船の街として発展してきたが、それとともに映画の街でもある。同市を舞台にした映画は数多く、しかも途切れることなく続いている(第3-5-5表)。古くは小津安二郎の「東京物語」、近年では同市出身の映画監督大林宣彦氏の「尾道三部作」(「転校生」、「時をかける少女」、「さびしんぼう」)がよく知られている。林芙美子の「放浪記」26「風琴と魚の町」の舞台としても知られている。
第3-5-5表 尾道の映画リスト
| (敬称略) |
| 公開年 | 映画タイトル | 監督 |
|---|---|---|
| 1929 | 波浮の港 | 木藤 茂 |
| 1939 | 女の教室 学校の巻 七つの仏 | 阿部 豊 |
| 1946 | 恋三味線 | 野淵 昶 |
| 1949 | 薔薇はなぜ紅い | 大曽根 辰夫 |
| 1953 | 東京物語 | 小津 安二郎 |
| 1954 | 放浪記 | 久松 静児 |
| 1954 | 女の暦 | 久松 静児 |
| 1957 | 素足の娘 | 阿部 豊 |
| 1957 | 集金旅行 | 中村 登 |
| 1958 | 悲しみは女だけに | 新藤 兼人 |
| 1959 | 暗夜行路 | 豊田 四郎 |
| 1960 | 裸の島 | 新藤 兼人 |
| 1962 | 左ききの狙撃者 東京湾 | 野村 芳太郎 |
| 1962 | 憎いあンちくしょう | 蔵原 惟繕 |
| 1962 | ぶらりぶらぶら物語 | 松山 善三 |
| 1962 | はだしの花嫁 | 番匠 義彰 |
| 1963 | 波浮の港 | 斎藤 武市 |
| 1964 | うず潮 | 斎藤 武市 |
| 1965 | 馬鹿っちょ出船 | 桜井 秀雄 |
| 1969 | かげろう | 新藤 兼人 |
| 1972 | 故郷 | 山田 洋次 |
| 1978 | お嫁にゆきます | 西河 克巳 |
| 1979 | 神様のくれた赤ん坊 | 前田 陽一 |
| 1982 | 転校生 | 大林 宣彦 |
| 1983 | 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎 | 山田 洋次 |
| 1983 | 時をかける少女 | 大林 宣彦 |
| 1985 | さびしんぼう | 大林 宣彦 |
| 1986 | 幕末青春グラフティ Ronin 坂本竜馬 | 河合 義隆 |
| 1986 | 落葉樹 | 新藤 兼人 |
| 1988 | 野ゆき山ゆき海べゆき | 大林 宣彦 |
| 1986 | 日本殉情伝 おかしな二人 ものくるほしきひとびとの群れ | 大林 宣彦 |
| 1986 | 彼のオートバイ、彼女の島 | 大林 宣彦 |
| 1991 | ふたり | 大林 宣彦 |
| 1995 | あした | 大林 宣彦 |
| 1997 | 瀬戸内ムーンライト・セレナーデ | 篠田 正浩 |
| 1999 | あの夏の日 -とんでろじいちゃん- | 大林 宣彦 |
| 2000 | マヌケ先生 | 大林 宣彦 |
| 2002 | 八月の幻 | 鈴木 浩介 |
| 2005 | ちゃんこ | サトウトシキ |
| 2005 | 男たちの大和/YAMATO | 佐藤 純彌 |
| (備考) | おのみちフィルムコミッション公表資料により作成。 |
映画作りには、地元の人々の支援や協力も盛んに行われており、近年地域を問わず設立の動きが広がっている「フィルム・コミッション」の先駆けとして評価されている。03年1月には「おのみちフィルム・コミッション」が設立され、ロケーション情報や各種許認可に関する情報の提供や、エキストラの募集などを手がけている。
また、リピーターを呼び込むための取組みとして、02年9月から「まちかど観光案内所」がスタートしている。これはガソリンスタンドに案内所として登録してもらい、まちぐるみで「来訪者に親切な街」をアピールするものである。07年1月現在の登録店はガソリンスタンド10店舗、商店街の12店舗の計22か所である。尾道市への観光の入り込み客数をみると、90年代を通して200万人を超える程度で推移していたが、99年に瀬戸内しまなみ海道が開通して大きく伸長し、以降、順調に増加している(第3-5-6図)。
第3-5-6図 尾道市入込観光客数の推移

| 主な出来事 |
| 年 | 入込観光客数(人) | 3,009,230主な出来事 |
|---|---|---|
| 1990 | 2,204,419 | |
| 91 | 2,216,757 | 生口橋開通・映画「ふたり」 |
| 92 | 2,203,747 | |
| 93 | 2,175,442 | 新広島空港・山陽自動車道完成 |
| 94 | 2,128,197 | 広島アジア大会開催・夏季渇水 |
| 95 | 2,050,897 | 阪神淡路大震災・映画「あした」 |
| 96 | 2,152,518 | 広島国体開催・山陽本線東尾道駅開業 |
| 97 | 2,039,586 | 尾道ウォーターフロントビル完成 |
| 98 | 2,019,667 | 尾道市制施行百周年 |
| 99 | 3,337,719 | 瀬戸内しまなみ海道開通、映画「あの、夏の日」 |
| 2000 | 2,617,490 | 国民文化祭開催 |
| 2001 | 2,347,752 | ねんりんピック広島開催 |
| 2002 | 2,325,656 | スポレク広島開催 |
| 2003 | 2,397,302 | 日本のまつり2003ひろしま開催 |
| 2004 | 2,437,290 | 広島県大型観光キャンペーン |
| 2005 | 2,926,481 | 映画「男たちの大和/YAMATO」ロケセット公開 |
| 2006 | 3,009,230 | 映画「男たちの大和/YAMATO」ロケセット公開 |
| (備考) | 1. | 尾道市提供資料により作成。 |
| 2. | 尾道市は、05年3月に御調郡御調町・向島町と、06年1月に因島市・豊田郡瀬戸田町と合併しているが、 ここでは、比較のため旧尾道市の数値を使用している。 |
なお、尾道市は「映画の街」として知られながら、01年に街に残った最後の映画館が閉館してしまい、以降、映画館のない街になってしまった。しかし、04年9月に「尾道に映画館をつくる会」が結成され(06年10月にNPO法人化)、自主上映会などの活動を行ってきている。08年春には閉館された映画館を改装し、新しい映画館がオープンできる見込みとなっている。この改装費用をまかなうために、「尾道シネマ基金」が設立され、07年8月から08年3月までの間に2,000万円の募金を集めることを目標としている。開始2か月にして、579万2,351円が集まっている。
| 26. | 「放浪記」も1954年久松静児監督によって映画化されている。 |