第2章 第2節 1.地域の需要構造

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(1)需要項目ごとにみる地域経済

地域経済の需要構造を確認してみよう。

まず、前述のとおり、公的投資と政府消費を加えた公的依存度は地方が圧倒的に高くなっている(前掲第2-1-1図)。

こうした状況をみると、地方の公的依存度は高く、もし公的投資や政府消費が減少すると、地域経済自体が縮小してしまうように思える。果たしてそうだろうか。

そこで、民間最終消費支出の県内総支出に対する割合をみる。04年度の全国平均は50.2%であり、これを下回っているのは、山形県、福島県、茨城県、栃木県、東京都、新潟県、富山県、石川県、福井県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、広島県、山口県、福岡県、大分県、沖縄県の18都県である。うち5都県は3大都市圏にある。東京都に至っては36.0%と全国で最も低くなっている(第2-2-1図)。一方で、民間固定資本形成の県内総支出に対する割合をみると、北海道が際立って低いほかは、大きな差がみられない(第2-2-2図)。

第2-2-1図 民間最終消費支出割合(04年度)

第2-2-1図

第2-2-2図 民間固定資本形成割合(04年度)

第2-2-2図

(備考) 内閣府「県民経済計算」により作成。

このように、地方では、公的依存度が高い一方で、都市圏と比較して遜色のない比率の民間需要が存在している。

これらを説明する鍵は移出入比率2にあると考えられる。純移出の県内総支出に対する割合をみると、東京で圧倒的に高く、地方圏では、マイナスが目立つ(第2-2-3図)。移出入比率は、東京を除く地域では、製造業比率との間に緩やかな相関関係がみられる(第2-2-4図)。移出入比率は、外部の需要をどれだけ取り込んでいるかを示していると考えられる。競争力の強い産業を持っていれば、域内の民間需要に加えて、公的需要に頼らずに、需要を増加させる原動力になる。仮に一国だけの閉鎖的な経済を考えると、移出入は定義上、全国で差し引きゼロとなるが、現実は開放経済下にあるので、ここでは、輸出も含めて、他地域の需要を喚起する手法を検討することとする。

第2-2-3図 移出入比率(04年度)

第2-2-3図

第2-2-4図 製造業比率と移出入比率(東京都除く、04年度)

第2-2-4図

(備考) 内閣府「県民経済計算」により作成。下図の点は、道府県。

(2)純移出の増加

純移出は移出-移入であるため、これを増加させるには、1.移出を増やす、2.移入を減らすという手法が考えられる。

移出を増やすには、他地域の需要を惹き付けられるだけの強い競争力を持つ産業が自地域に立地していることが必要となる。そのためには、他地域との競争に勝ち抜けるだけの何らかの特徴・魅力を高めることが重要課題と言える。

財については、ある工場で生産された液晶テレビが「○○モデル」という一種のブランド力を獲得したように、そこで生産されたもの自体が価値を持つことがあり得る。簡単に考えると、農作物のように生産できるところが決まっているような場合(例えば、梨の北限は秋田県)、そこでしか生産できないものは移出の大きな力となる。

サービスは基本的には生産される場所と消費される場所が同一地域である。しかし、サービスを生産する人と消費する人が同一地域の居住者とは限らない場合がある。その代表例は観光である。観光客の消費によって、所得が他地域から流れ込んで、それが自地域に回ることも十分に考えられる。観光が一大産業となっている沖縄県では、県外観光客の消費を民間最終消費支出の20%強3の規模と推計されており、他地域需要の取り込みに成功している好例と言える。

なお、他地域と比較した魅力を高める手法については、次章で詳しく検討する。

また、移入を減らすには、極力その地域で生産を行えば良い。前述したような自動車産業の域内調達率の向上は移入の減少につながる。しかし、地域で消費される財・サービスを全て地域で生産するのは、不可能であるし、また、非効率でもある。自給生産を目指すわけではなく、その地域に賦存する資源に適した生産構造を確立していくことが求められる。

このように、消費者の要求を満たす財・サービスの生産が全て自地域できるとは限らないため、移入をコントロールすることは難しい。

(3)地域を越える消費

観光以外にも、他地域で消費したり、他地域の人が自地域に来て消費したりするような、ある種、「消費の移出入」と言うべきものも存在する。

従来より、郊外の住民が都心部に買い物に出かけたり、旅行に関する支出のように、住んでいる場所以外で消費することはあったが、様々な交通・通信インフラの整備によって、近年になるにつれて、そうした傾向がますます強まっていると考えられる。

例えば、新幹線や高速道路など交通網の整備は、都会から地方へ行きやすくするとともに、地方から都会へも行きやすくなる。つまり、地方の人が、地方にないモノやサービス4を求めて、都会に行くことが容易になってきている。地方の政令指定都市に立地する百貨店へのヒアリングによると、近隣県からその地域ブロックに1店しかないブランドを目指して買いに来るという客の数はかなりの規模にのぼっているとのことである。人口がある程度集積していることを前提に出店戦略が練られているとすれば、人口集積地域ほど多種多様の財・サービスを享受することができると考えられる。

インターネットの普及によって、自分の住んでいる地域以外のところから、商品を購入することも容易になってきている。いわゆる「お取り寄せ」消費と呼ばれるものである。06年においてインターネットを利用した支出総額をみると、各地域ともにおおむね消費支出の1%弱に相当する規模になっている(県民経済計算上は移入に相当)。また、インターネットを通じて注文をした世帯は、各地域ともにおおむね全世帯の10%程度となっている(第2-2-5図)。いずれも3年前と比較して、各地域で比率が上昇している。これは地方にとっても好機と言える。魅力のある商品であれば、地方の1企業であっても全国を相手に商売ができるからである。例えば、高知県馬路村では、特産のゆずをゆずジュースに加工販売している。全国に約35万人の顧客を抱え、ゆず加工品の売上は年間29億円にのぼる。商品デザインを外部委託し、デザインを「田舎」に統一するなどイメージの統一化を図るとともに、直販の顧客に「ゆずの村新聞」や馬路温泉の無料入浴券などを同封し、村に来ることのきっかけ作りを行った結果、年間6万人の観光客が訪れるようになっている。

第2-2-5図 インターネット支出比率・世帯比率

第2-2-5図

(備考) 1. 総務省「家計消費状況調査」により作成。
2. 総世帯(農林漁家世帯を含む)全世帯。
3. 地域区分はC

(4)域内需要の増加

域内民間需要(民間消費、民間投資)をさらに増やして、公的投資依存度を低下させることも考えられる。

民間消費は、その地域の人口や所得(賃金や社会保障給付等)などによって規定されていると考えられる。

このうち、人口要因については、すでに人口減少が始まっているなかで、域内人口の増加によって域内需要を増加させるには困難を伴う。自然減は全国的な現象であるが、地方圏では自然減と社会減の二重の問題を抱えている。

そうした中で、地方圏では高齢化の進行も早いことから、域内需要の増加に当たって、高齢者仕様の財・サービスをより強化して、それらの域内における「地産地消」が図れるようにしていくことが望まれる。高齢化向けの財とは、例えば高齢者向けのバリアフリーマンションであり、高齢化向けのサービスとは、例えば介護サービスなどが考えられる。これらは次章で検討する。


2.
移出入比率は、県内総支出に占める、移出-移入の割合。移出(入)は、財貨・サービスの移出(入)と居住者、非居住者の直接購入から構成される。
3.
06年度の沖縄県の入域観光客による観光収入は4,082億8,600万円と推計されている(沖縄県推計、07年8月)。
4.
都会にしか出店していないブランド店や、有名な美容師やエステシャン、コンサートや美術展などが考えられる。

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