第1章 第2節 6.労働移動による人口の流出入

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東京一極集中の是正が提起されてから久しいが、東京への人口集中は、変化しているのだろうか。

南関東への人口流入超は87年をピークに90年代中ごろまで低下し、94年、95年には人口流出超となっていた。その後は、都心回帰の流れもあって、再び人口流入超となっており、ここ数年は流入超幅が継続して拡大している。一方、地方圏では対照的な動きとなっており、最近では流出超幅が拡大している(第1-2-17図)。

第1-2-17図 3大都市圏と地方圏の人口流出入

第1-2-17図

(備考) 1. 総務省「住民基本台帳人口移動報告」により作成。
2. 転入超過数=転入者数-転出者数。マイナスは転出超過を表す。

南関東への人口流入超が続く中、04年からは東海地域も人口流入超に転じており、その幅は継続して拡大している。労働移動による雇用の調整7は近年になり低下していると分析されているが(04年度経済財政白書)、この傾向に変化があったのだろうか。

人口移動が雇用情勢の調整・改善まで至っているかどうかを確認するため、人口流入と失業率の関係をみると、全都道府県のデータを使用した場合、その関係は希薄にみえる。しかし、雇用情勢の厳しいところ(具体的には有効求人倍率が1倍未満)を取り出してみると、失業率の高い道県ほど、愛知県への転出シェアが高まっているという傾向が緩やかながらみられる。労働移動による雇用調整がわずかながら進展していることがうかがえる(第1-2-18図)。

第1-2-18図 雇用と人口流出入

第1-2-18図

(備考) 1. 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」、「労働力調査」、厚生労働省「職業安定業務統計」により作成。
2. 転入超過率=(転入者数-転出者数)/5歳以上人口×100
3. 完全失業率、有効求人倍率は06年の値。
4. 完全失業率は都道府県別結果(モデル推計値)のデータを用いている。
5. 雇用情勢の厳しい道県とは、06年の有効求人倍率が1倍未満の道県を指す。

さらに、製造業比率の高い地域ほど転入超過率が高いという関係もみられる。過去において、製造業比率と人口流入の関係は希薄であったが、今回の景気回復局面においては徐々に強まってきており、製造業の強い地域に人が仕事を求めて流れ込んでいると考えられる(第1-2-19図)。

第1-2-19図 製造業と人口流出入
-労働移動と製造業比率の相関性-

第1-2-19図

(備考) 1. 内閣府「県民経済計算」、総務省「住民基本台帳人口移動報告」、「人口推計」により作成。
2. 転入超過率=(転入者数-転出者数)/5歳以上人口×100
3. 製造業比率=製造業生産額/県内総生産×100

雇用の改善の動きが鈍い8道県(北海道、青森県、秋田県、高知県、長崎県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県)をみると、いずれも南関東や東海地域への転出の増加が目立っている。これらの道県では近隣地域への転出は減少しており、近隣地域を飛び越えて、南関東ないし東海地域まで仕事を求めて移動していると考えられる(第1-2-20表)。

第1-2-20表 8道県の変化
-転出者 移動後住所地別シェアの推移(01→06年)-

【シェア上昇 TOP10】 (%ポイント)
北海道 青森県 秋田県 高知県
1 愛知県 2.11 1 東京都 1.62 1 東京都 0.81 1 愛知県 1.58
2 東京都 0.86 2 愛知県 1.43 2 愛知県 0.55 2 神奈川県 0.60
3 沖縄県 0.37 3 埼玉県 0.91 3 静岡県 0.46 3 千葉県 0.58
4 三重県 0.35 4 千葉県 0.43 4 栃木県 0.30 4 岡山県 0.49
5 岐阜県 0.17 5 神奈川県 0.39 5 千葉県 0.25 5 兵庫県 0.37
6 埼玉県 0.13 6 群馬県 0.22 6 北海道 0.20 6 東京都 0.26
7 兵庫県 0.13 7 三重県 0.20 7 群馬県 0.19 7 沖縄県 0.21
8 広島県 0.11 8 長野県 0.19 8 三重県 0.17 8 愛媛県 0.21
9 静岡県 0.10 9 栃木県 0.15 9 石川県 0.17 9 三重県 0.19
10 栃木県 0.09 10 岐阜県 0.10 10 山口県 0.15 10 岐阜県 0.14
長崎県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県
1 愛知県 1.13 1 愛知県 1.35 1 愛知県 1.57 1 愛知県 4.27
2 神奈川県 0.49 2 熊本県 0.63 2 宮崎県 0.78 2 三重県 1.07
3 東京都 0.43 3 福岡県 0.45 3 大分県 0.39 3 滋賀県 0.34
4 千葉県 0.36 4 神奈川県 0.42 4 東京都 0.32 4 東京都 0.31
5 大分県 0.33 5 大分県 0.41 5 三重県 0.26 5 兵庫県 0.26
6 三重県 0.29 6 山口県 0.30 6 京都府 0.25 6 茨城県 0.20
7 静岡県 0.21 7 三重県 0.29 7 滋賀県 0.22 7 京都府 0.19
8 宮崎県 0.18 8 埼玉県 0.21 8 佐賀県 0.20 8 北海道 0.12
9 滋賀県 0.13 9 岐阜県 0.14 9 香川県 0.10 9 栃木県 0.11
10 沖縄県 0.12 10 群馬県 0.11 10 静岡県 0.10 10 福島県 0.09
【シェア低下 TOP10】 (%ポイント)
北海道 青森県 秋田県 高知県
1 青森県 -0.76 1 北海道 -1.30 1 宮城県 -1.71 1 大阪府 -1.14
2 千葉県 -0.67 2 秋田県 -1.14 2 山形県 -0.62 2 香川県 -0.82
3 宮城県 -0.59 3 岩手県 -0.92 3 新潟県 -0.44 3 徳島県 -0.55
4 福岡県 -0.43 4 宮城県 -0.84 4 青森県 -0.43 4 鳥取県 -0.29
5 熊本県 -0.30 5 福島県 -0.42 5 長野県 -0.12 5 京都府 -0.26
6 岩手県 -0.25 6 福岡県 -0.31 6 福岡県 -0.11 6 宮崎県 -0.24
7 福島県 -0.23 7 山形県 -0.29 7 岡山県 -0.10 7 和歌山県 -0.23
8 石川県 -0.18 8 新潟県 -0.21 8 神奈川県 -0.10 8 宮城県 -0.21
9 秋田県 -0.18 9 宮崎県 -0.12 9 福島県 -0.06 9 奈良県 -0.17
10 山形県 -0.11 10 沖縄県 -0.08 10 熊本県 -0.06 10 福島県 -0.16
長崎県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県
1 福岡県 -1.41 1 長崎県 -0.89 1 大阪府 -1.36 1 鹿児島県 -1.46
2 大阪府 -1.11 2 大阪府 -0.80 2 熊本県 -1.01 2 福岡県 -1.35
3 佐賀県 -0.23 3 奈良県 -0.29 3 兵庫県 -0.49 3 千葉県 -0.89
4 京都府 -0.15 4 北海道 -0.29 4 沖縄県 -0.45 4 長崎県 -0.65
5 北海道 -0.14 5 兵庫県 -0.26 5 長崎県 -0.27 5 宮崎県 -0.44
6 長野県 -0.14 6 広島県 -0.25 6 北海道 -0.25 6 長野県 -0.24
7 島根県 -0.13 7 岡山県 -0.17 7 群馬県 -0.11 7 佐賀県 -0.22
8 岐阜県 -0.13 8 青森県 -0.15 8 宮城県 -0.09 8 埼玉県 -0.21
9 熊本県 -0.12 9 愛媛県 -0.15 9 島根県 -0.08 9 石川県 -0.21
10 奈良県 -0.10 10 茨城県 -0.15 10 岩手県 -0.07 10 大分県 -0.16
(備考) 1. 総務省「住民基本台帳人口移動報告」により作成。
2. 値は、06年のシェアと01年のシェアの差分。
3. 網掛け部分は同一地域(北海道の場合は東北、沖縄の場合は九州に含めた)の他道府県。

7.
労働移動による雇用の調整とは、失業率の高い地域から低い地域への労働移動を指す。

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