第1章 第2節 5.回復力の弱い中小企業の景況感

[目次]  [戻る]  [次へ]

07年9月の日銀短観の業況判断DIで企業の景況感をみると、大企業(全産業)で+21に対して、中小企業(全産業)では△5と両者には大きな開きがあり、企業規模によって、景況感に差がみられる。

ただし、短観の中小企業は資本金2,000万円から1億円未満の企業が対象である。そこで、より小規模な企業の動向までつかむために、地域別の中小企業の景況感を中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」の業況判断DIでみると、どの地域ともに、「ゼロ(3か月前と比較して不変)」を下回った状態でここ1~2年はほぼ横ばいの状態が続いており、足下でやや弱い動きがみられる(第1-2-14図)。

第1-2-14図 中小企業の地域別業況判断DIの推移

第1-2-14図

(備考) 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」により作成。全産業。

また、商工中金「中小景況観測」の景況判断指数をみても、「50(前月比で不変)」前後で推移している状態が続いている。過去に遡ってみると、バブル期においては、回復局面をほぼ通して50を上回った状態が続いており、現在の回復局面は当時よりも回復力が弱いと言える(第1-2-15図)。

第1-2-15図 中小企業の景況感

第1-2-15図

(備考) 商工中金「中小企業景況観測」により作成。

(1)業種別にみた中小企業

景気の谷からの「中小企業景況調査」業況判断DIの改善度を業種別にみると、製造業や卸売業は各地とも大きく改善しているのに対して、小売業やサービス業の改善は遅れている。

直近の水準をみると、北海道、中国を除く全地域で小売業のDIが最も低くなっている。大型小売店(全店ベース)においても2000年以降7年連続で前年比マイナスが続いており、市場全体が伸びない中で、中小の小売業が苦戦している様子がうかがえる。

また、建設業については、このところ倒産件数が年間4,000件程度でほぼ横ばいとなる中、1件当たりの負債総額が低下してきており、中小建設業の倒産が増加していることがうかがえるが、景況感だけをみると、建設業は他の業種と比較して、際立って悪いわけではない。直近の07年7-9月期をみると、北海道、関東、中部では5業種の中で3番目、残りの地域では5業種の中で4番目となっている。

(2)中小企業の経営上の問題点

中小企業が抱えている経営上の問題点は時代とともに変わってきているのだろうか。

バブル期の景気の山、90年代後半の景気の山、今回の回復局面の直近期の3期において、第一の経営上の問題点として挙げられているのは、卸売業では「需要の停滞」、小売業は「大中型店の進出による競争の激化」である。他方、製造業では07年7-9月期になって、「原材料価格の上昇」が第一の問題点に浮上してきている。

07年9月の日銀短観の業況判断DIでは、中小企業の雇用人員判断が△6と、不足超になっており、景気ウォッチャー調査からは、中小企業の雇用の不足感を指摘する声がみられる6。他方、中小企業景況調査において、従業員の不足が経営上の問題点として上位5位までに浮上しているわけではない。バブル期には、複数の業種において、「従業員の不足」や「人件費の増加」が問題点として挙げられていた。今回の回復局面では、中小企業は雇用の不足感を感じながら操業しているものの、経営を圧迫するほどの要因にまではなっていないことが読み取れる(第1-2-16表)。

第1-2-16表 中小企業の経営上の問題点

製造業 1位 2位 3位 4位 5位
91年1-3月期 従業員の不足 需要の停滞 熟練技術者の確保難 人件費の増加 製品単価の低下・上昇難
97年4-6月期 需要の停滞 製品単価の低下・上昇難 製品ニーズの変化 への対応 人件費の増加 大企業の進出による競争の激化
07年7-9月期 原材料価格の上昇 需要の停滞 製品単価の 低下・上昇難 製品ニーズの変化への対応 生産設備の不足・老朽化
建設業 1位 2位 3位 4位 5位
91年1-3月期 従業員の不足 熟練技術者の確保難 人件費の増加 材料価格の上昇 官公需要の停滞
97年4-6月期 官公需要の停滞 請負単価の低下・上昇難 民間需要の停滞 大企業の進出による競争の激化 熟練技術者の確保難
07年7-9月期 官公需要の停滞 請負単価の低下・上昇難 材料価格の上昇 民間需要の停滞 大企業の進出による競争の激化
卸売業 1位 2位 3位 4位 5位
91年1-3月期 需要の停滞 従業員の不足 金利負担の増加 仕入単価の上昇 大企業の進出による競争の激化
97年4-6月期 需要の停滞 販売単価の低下・上昇難 大企業の進出 による競争の激化 小売業の進出による競争の激化 人件費の増加
07年7-9月期 需要の停滞 仕入単価の上昇 大企業の進出 による競争の激化 販売単価の低下・上昇難 小売業の進出による競争の激化
小売業 1位 2位 3位 4位 5位
91年1-3月期 大中型店の進出による競争の激化 購買力の他地域への流出 需要の停滞 消費者ニーズの変化 同業者の進出
97年4-6月期 大中型店の進出による競争の激化 購買力の他地域への流出 需要の停滞 同業店の進出 消費者ニーズの変化への対応
07年7-9月期 大中型店の進出による競争の激化 購買力の他地域への流出 需要の停滞 消費者ニーズの変化への対応 同業者の進出
サービス業 1位 2位 3位 4位 5位
91年1-3月期 利用者ニーズの変化 従業員の不足 人件費の増加 熟練従業員の確保難 店舗施設の狭隘・老朽化
97年4-6月期 利用者ニーズの変化への対応 需要の停滞 新規参入業者の増加 利用料金の低下・上昇難 大企業の進出による競争の激化
07年7-9月期 需要の停滞 利用者ニーズの変化への対応 新規参入業者の増加 大企業の進出による競争の激化 材料等仕入単価の上昇
(備考) 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査報告書」により作成。

6.
例えば、07年9月調査では、「採用予定数を確保していない中小零細企業は、引き続き積極的」(近畿=学校[大学])といったコメントが寄せられている。

[目次]  [戻る]  [次へ]