第1章 第2節 7.公的投資依存からの脱却は進んでいるか

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90年代の景気後退期には公的投資8を中心とした経済対策が発動されていたが、01年に「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」が閣議決定されて以降、公的投資を抑制する方針が続いている。

公共工事請負金額をみると、ピーク時の95年度と比較して、直近の06年度は54%減少している。地域別にみても、全地域で2けたの減少を記録している。

(1)公的投資依存度の低下

01年度から04年度までの、県民GDPに占める公的投資の割合をみると、千葉県を除く全都道府県で低下している。01年度の公的投資依存度の高かった県ほど低下幅が大きい傾向にある(第1-2-21図)。

第1-2-21図 公的投資依存度

第1-2-21図

これを要因分解してみると、県内総支出の変動要因よりも、公的投資の変動要因の方がはるかに大きくなっており、公的投資が大きく削減されたことから、公的投資依存度が低下したと言える(第1-2-22図)。

第1-2-22図 公的投資依存度の増減寄与度(01→04年度)

第1-2-22図

(備考) 1. 内閣府「県民経済計算」により作成。
2. 公的投資依存度=公的資本形成/県内総支出×100

(2)公的投資の単価は低下

公的投資は一般的にコストが高いことが知られているが、これを公共建築でみてみよう。公共建築は、病院や学校など、安全基準の高い建築物の比重が高いために、コストが高くなることは必然的とも言える。しかし、いわゆる「談合」のために、価格が下がりにくい状況があったことは否定できないと考えられる。

工事費予定額を床面積で除して求めた、公共建築工事の単価をみると、91年度ピークとして、緩やかに低下してきている。中央政府においては、2000年9月の公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議において「公共工事コスト縮減対策に関する新行動指針」が策定されるなど、コスト削減に対する取組みが進んできており、都道府県においても同様である(第1-2-23図)。これに呼応するように、公共工事の落札率をみると、国・都道府県ともに年々低下してきており、指名競争入札から一般競争入札への移行が進んでいることなどが反映されていると考えられる(第1-2-24図)。

第1-2-23図 建築単価の推移

第1-2-23図

(備考) 1. 国土交通省「建築着工統計調査報告」により作成。
2. 公共建築工事は建築主が国、都道府県、市町村、民間建築工事は会社。
3. 単価は工事費予定額を床面積で除した値。

第1-2-24図 公共工事落札率

第1-2-24図

(備考) 1. 国土交通省公表資料、全国市民オンブズマン連絡会議「全国落札率調査」により作成。
2. 落札率=入札価格/工事予定価格
3. 国の落札率は、国土交通省地方整備局(港湾空港関係除く)発注の予定価格100万円以上の工事を、都道府県の落札率は、各都道府県発注の予定価格1億円以上の工事を対象。

なお、同じベースで民間建築工事の単価を算出してみると、公共建築工事と同様に91年度がピークとなって、以降低下してきるが、05年度、06年度とごく緩やかながら単価が上昇している。これは原油や原材料価格の上昇が反映されたためと考えられる。

(3)建設業と地域経済

公的投資の影響を強く受ける建設業では工事単価の低下といった効率化の動きがみられるが、絶対的な工事量が伸び悩むなかで、倒産件数は04年以降4,000件程度でほぼ横ばいとなっている。07年も1~10月で3,349件となっており、この傾向が続く場合、同程度の倒産が見込まれる9。他方、1件当たり倒産金額は02年をピークに漸減傾向にあり、小口化が進んでいる(第1-2-25図)。

第1-2-25図 建設業の倒産件数と1件当たり負債総額

第1-2-25図

(備考) (株)東京商工リサーチ「倒産月報」により作成。

倒産件数の減少がみられない中で、建設業の就業者数は、02年から06年にかけて、全地域で減少している。他業種の就業者数の増加が建設業の就業者数の減少をカバーしていれば、この問題をある程度吸収できているのかもしれないが、北海道、東北、北陸、四国では建設業の減少の方が大幅になっている(第1-2-26図)。現在、建設業の雇用全体に占める割合は全国では7%ほどであるが、青森県、秋田県、新潟県、島根県で10%を超えており、地方圏においては雇用の場として、大きなウェイトを占めていると考えられる。建設業に代わる雇用の受け皿となる産業をいかに見出すかが、地域経済浮揚の鍵になると言える。

第1-2-26図 就業者数の変化(02→06年)

第1-2-26図

(備考) 総務省「労働力調査」により作成。

8.
「公的投資」とは、政府(国、地方公共団体)及び公的企業による建設投資、設備投資を指す。本レポートでは、GDPの需要項目の1つである「公的固定資本形成」も「公的投資」と略称している。
9.
建築着工の遅れの影響もあって、直近の10月には倒産件数が急増している(前年同期比25.8%増)。10月の伸びが12月まで続いた場合、年間倒産件数は4000件を上回ることが予想される。

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