第1章 第1節 3.堅調な設備投資

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プラザ合意以降、円高で輸出品の価格競争力が低下したなかで、日本企業は、全世界を市場とし、また競争相手とする一方、国際間分業体制の再編を進めることになった。こうしたなか、経営戦略の一環として、海外進出を選択する企業も少なくなかった。内閣府「企業行動に関するアンケート調査」によると、海外生産比率は90年代を通して緩やかな上昇傾向にあり、06年度には16%程度になる見込みである(第1-1-14図)。

第1-1-14図 工場立地件数と海外生産比率

第1-1-14図

(備考) 1. 内閣府「企業行動に関するアンケート調査」、経済産業省「工場立地動向調査」により作成。
2. 06年度の海外生産比率は見込値。
3. シャドーは景気後退期。

海外立地の理由を05年についてみると、「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」を挙げる企業が3割弱程度と最大である。続いて、「良質で安価な労働力が確保できる」、「納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある」がいずれも10%を超えている。「進出先近隣三国で製品需要が旺盛または今後の拡大が見込まれる」も10%弱の回答となっており、上記の現地における需要を見越した進出と合わせて考えると、コスト面よりも、むしろ市場を重視して海外進出する傾向が読み取れる(第1-1-15表)。

第1-1-15表 海外・国内立地選定理由

海外への立地決定理由(複数回答(全回答に対する比率)) (%)
  95 98 01 04 05
1.現地政府の産業育成、保護政策 6.0 7.5 7.4 5.0 4.8
2.良質で安価な労働力が確保できる 8.2 14.6 14.2 17.3 14.8
3.技術者の確保が容易 2.4 3.4 3.0 1.4 2.3
4.部品等の現地調達が容易 2.1 3.8 4.4 4.4 4.2
5.土地等の現地資本が安価 2.7 4.9 4.1 2.8 2.9
6.品質価格面で、日本への逆輸入が可能 1.9 4.6 4.5 5.7 7.1
7.現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる 29.8 24.2 24.6 22.6 27.2
8.進出先近隣三国で製品需要が旺盛又は今後の拡大が見込まれる 9.3 11.6 13.0 6.7 9.6
9.社会資本整備が必要水準を満たしている 7.7 9.9 9.4 3.8 4.2
10.納入先を含む、他の日系企業の進出実績がある 9.7 11.3 12.0 15.1 13.7
11.無回答 20.4 4.3 3.5 15.2 9.2
海外立地と比較しての国内立地選定理由(複数回答(全回答に対する比率)) (%)
  94 96 01 05 06
1.原材料等の入手の便 8.3 8.3 4.0 8.8 12.0
2.市場への近接性 27.1 41.7 22.7 19.4 14.1
3.関連企業への近接性 12.5 10.4 9.3 11.9 16.3
4.良好な労働力の確保 16.7 16.7 18.7 12.5 23.9
5.人材の確保(理工系大学・工専等への近接性) 2.1 0.0 5.3 0.0 0.0
6.県・市・町・村の助成・協力 6.3 6.3 10.7 11.3 9.8
7.良好な労使関係 4.2 0.0 2.7 0.0 0.0
8.対事業所サービス業の充実 2.1 0.0 1.3 1.9 1.1
9.産業基盤が整備されている 4.2 0.0 6.7 6.3 2.2
10.学術研究機関の充実(産学共同等) 0.0 0.0 2.7 3.8 3.3
12.流通機構が整備されている 4.2 2.1 2.7 7.5 4.3
13.政情・治安の安定 2.1 0.0 4.0 6.3 5.4
14.言語・文化・生活様式の都合 6.3 4.2 0.0 4.4 3.3
15.その他 4.2 10.4 9.3 6.3 4.3
(備考) 1. 経済産業省「海外事業活動基本調査」、「工場立地動向調査」により作成。
2. 「国内立地選定理由」の06年の値は速報値。
3. 「国内立地選定理由」の94年、98年のシェアは単数回答結果により算出。
4. 「国内立地選定理由」の6番目の回答項目は96年調査以前は「国・県・市・町・村の助成・協力」。
5. 「国内立地選定理由」の回答項目のうち、5番目、7d番目の回答項目は04年以降削除されている。

一方で、04年頃から工場の国内回帰も緩やかに進んでいる。経済産業省「工場立地動向調査」をみると、02年を底として、工場立地件数は増加を続けている。バブルの絶頂期である90年のレベルには程遠いものの、06年の立地件数は1800件弱と、バブル崩壊以降では最高水準を記録している。

海外立地と比較しての国内立地の選定理由としては、「良質な労働力の確保」を挙げる企業が2割強と最も多く、次いで、「関連企業への近接性」、「市場への近接性」、「原材料等の入手」の便が1割台となっている。これを10年前と比較すると、「良質な労働力の確保」と「市場への近接性」が7%ポイント程度の下落となっている。企業が事業を展開する上で「労働力」、つまりヒトを最も重視してきていることの1つの証左とも言える結果である。市場への近接性が薄れてきたのは、市場が世界へ広がっていることに加えて、国内においては交通網、情報網の整備に伴って、市場の近くで作ることのメリットが相対的に低下してきていることを示唆していると考えられる。

国内の設備投資を「法人企業統計季報」でみると、全産業では、03年1-3月期以降07年1-3月期まで16四半期連続で前年同期に比べ増加していた。07年度の計画をみても、製造業を中心に各地域ともにおおむね堅調な動きが続いており、地域経済をけん引するエンジン役を果たしていくと考えられる(第1-1-16図)。

第1-1-16図 地域別の設備投資

第1-1-16図

(備考) 1. 日本銀行各支店「短観」により作成。
2. 北関東は前橋支店管内、南関東は神奈川県。

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