第1章 第1節 1.景気をけん引する製造業

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日本経済は02年1月を景気の谷として、景気回復局面が続いており、回復は6年目に入っている。その間、景気が足踏みする「踊り場」の時期はあったものの、公的需要、特に公的投資に頼らない景気回復が続いている。

地域経済についても、例えば各地域の有効求人倍率が、01年10-12月期~02年4-6月期にかけて底を打った後上昇に転じるなど、ほぼこの頃に回復局面入りしたとみられる。

しかし、今回の回復局面は、地域ごとの回復の状況にばらつきがみられ、その差が縮まっていないという特徴を持っている。また、いざなぎ景気を超えて、戦後最長の景気回復が継続しているなか、回復を実感できない人も少なくないと言われる。以下では、今回の景気回復局面における地域経済の特徴について、過去の回復局面と比較しながらまとめる。

第1節 好調な企業部門

1.景気をけん引する製造業

今回の景気回復は製造業がけん引してきた。製造業比率と有効求人倍率の関係をみると、製造業比率の高い地域ほど有効求人倍率が高いという関係がみられ、しかも、近年になるにつれて強まる傾向にある。実際、今回の景気回復が最も進んでいる東海地域は、他地域と比較して、製造業比率が高く、また、製造業が活況を呈している(第1-1-1図)。

第1-1-1図 製造業と有効求人倍率

第1-1-1図

(備考) 1. 内閣府「県民経済計算」、厚生労働省「一般職業紹介状況」により作成。
2. 点は都道府県。

他方、公的投資依存度と有効求人倍率の関係をみると、90年代はほとんど無相関であったものの、今回の景気回復局面に入ってから、負の相関が徐々に強まっている。すなわち、公的投資依存度の高い地域ほど有効求人倍率が低い傾向にある(第1-1-2図)。

第1-1-2図 公的投資依存度と有効求人倍率

第1-1-2図

(備考) 1. 内閣府「県民経済計算」、厚生労働省「一般職業紹介状況」により作成。
2. 点は都道府県を表す。
3. 公的投資依存度=公的資本形成/県内総支出×100

(1)自動車と電子部品・デバイス工業が2強

景気の谷(02年1-3月期)と直近の07年4-6月期の鉱工業生産指数(IIP)を比較すると、北海道と四国を除く全地域で2けたの伸びを記録している1。業種別にみると、いわゆるIT産業の代表格である電子部品・デバイス工業と、自動車に代表される輸送機械工業の伸びが著しい。電子部品・デバイス工業は、とりわけ東海地域でこの期間の伸び率が400%を超えており、中国地域、北陸地域でも3けたの成長を遂げている。また、輸送機械工業は、全地域で2けたの伸びを示しており、堅調さがみられる(第1-1-3図)。

第1-1-3図 生産の自動車、電子部品・デバイス寄与度
-02年1-3月期→07年4-6月期 増減率-

第1-1-3図

(備考) 1. 経済産業省、各経済産業局、中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局により作成。
2. 地域区分はB。

電子部品・デバイス工業は、携帯型デジタル音楽プレーヤーや薄型テレビなどの画期的な新製品によって需要が喚起されたと考えられる2

さらに、自動車産業自体が、すでにIT産業であるという指摘もある。日常生活においても、カーナビゲーションシステムの普及など、自動車のIT化を感じることが出来るが、安全性や環境性能の向上のためにもIT技術は欠かせないものになっている。乗用車産業のIT産業への影響力を産業連関表の逆行列係数でみると、00年の0.0113から05年には0.021となっており、IT産業に対する影響力が増している(第1-1-4表)。

第1-1-4表 乗用車産業のIT産業への影響力
  2000年 05年
その他の電子・通信機械 0.0210
電子応用装置・電気計測器 0.0001
半導体素子・集積回路 0.0022
電子部品 0.0089
影響力(計) 0.0113 0.0210
(備考) 1. 経済産業省「簡易延長産業連関表」により作成。2000年は平成12年基準、05年は平成17年基準。
2. ここで言う影響力とは、逆行列係数を指す。
3. 逆行列係数とは、ある産業に最終需要が1単位生じたとき、各産業の生産がどれだけ必要となるか、つまり直接・間接に発生する波及効果を示す係数。

(2)重厚長大産業の復活

今回の景気回復では、上記2業種のみならず、幅広い業種で伸びが見られるところである。この中には、長い間低迷状態にあった鉄鋼業や造船業も含まれる。

1.鉄鋼業の場合

世界の粗鋼生産量は2000年以降、中国の旺盛な需要もあって、年々増加している需要の増加に伴って、鋼材市況も大きく上昇しており、とりわけ04年から05年にかけて、急激に上昇し、その後も高止まりしている。

日本の鉄鋼業の生産動向について、鉱工業生産指数(IIP)でみると、水準の差はあるものの、各地域ともに02年1-3月付近を底として緩やかな増加傾向にある(第1-1-5図)。一方、雇用者数は、リストラと合理化により03年まで減少が続いた。06年の雇用者数の水準は、20年前の86年と比較すると約4割、10年前の96年と比較すると約2割減少している。このことは、生産性の向上につながっており、1人当たりの付加価値額はこの10年で4割強増加している(第1-1-6図)。また、業界再編も競争力の強化に一役買っていると考えられる。02年9月には大手2社が経営統合し、同年11月には大手3社が資本・業務提携を結んだ。

第1-1-5図 鉄鋼業の地域別生産指数

第1-1-5図

(備考) 1. 各経済産業局「鉱工業生産動向」により作成。
2. 季節調整値。
3. 地域区分はB。

第1-1-6図 鉄鋼業の労働者数と1人当たり付加価値額

第1-1-6図

(備考) 厚生労働省「毎月勤労統計調査」、経済産業省「鉄鋼・非金属・金属製品統計月報」により作成。

こうしたことから日銀短観の業況判断DIをみると、鉄鋼業のDIは03年9月期に「ゼロ」を超え、以降、製造業全体を上回って高水準の「良い」超で推移している(第1-1-7図)。

第1-1-7図 日銀短観 業況判断DI

第1-1-7図

(備考) 日本銀行「企業短期経済観測調査」により作成。

造船業の場合

造船業においても鉄鋼業と同様の傾向がみられる。

世界の海上荷動量は緩やかな増加傾向を続けており、07年の水準を97年と比較すると、4割強伸びている。これに呼応するように、世界の新造船の受注量も、多少の振れはあるものの、増加傾向にある。日本の造船業界もここ数年、常に3年分の受注残を抱える状況が続いている。新造船の船価も04年頃から上昇傾向に入っている。新設船の引渡しは受注時の価格で行われることから、過去に低価格で受注したものを当時の価格で引き渡すことは解消されてきている。

地域別に造船業のIIPをみると、造船業の盛んな中国、四国、九州地域ではいずれも堅調な動きを示しており、ヒアリングによると、ここ数年フル稼働が続いていて、今後も高水準の操業が続く見込みである(第1-1-8図)。

第1-1-8図 造船業の地域別生産指数

第1-1-8図

(備考) 1. 各経済産業局「鉱工業生産動向」により作成。
2. 季節調整値。
3. 地域区分はB。
4. 造船業は、輸送機械工業の鋼船・同機関とする。

一方で人員削減は着実に進んでおり、従業員数は、90年代のピークであった93年と直近年(05年)を比較すると、25%程度減少している。これによって、1人当たりの付加価値額も90年代初頭と比較すると3、15%程度上昇しており、生産性の向上がうかがえる(第1-1-9図)。また、造船業界においても、02年~03年にかけて、大手の事業統合や分社化といった業界再編が進められた。

第1-1-9図 造船業従業者数と1人当たり付加価値額

第1-1-9図

(備考) 1. 経済産業省「工業統計」により作成。
2. 造船業従業者とは、船舶製造・修理業、舶用機関製造業の従業者。

鉄鋼業や造船業の復活は世界的な需要の拡大という外的要因が大きかったと考えられるが、一方でリストラや業界再編などによる競争力強化・技術力の維持・向上がなければ、世界の需要が増加したとしても、全て中国等海外の生産に切り替えられてしまったかもしれない。低迷期における生産性向上への取組みが、現在の復活を支えていると言えよう。


1.
北海道は05年3月にたばこ工場が全面閉鎖されたため、IIPの水準が低くなっている。
2.
携帯型デジタル音楽プレーヤーは、04年に市場に革新をもたらした新製品の発表以来急速に普及しており、その普及率は07年7月時点で56%(gooリサーチとImpress Watchによる共同調査結果)になっている。薄型テレビ(液晶テレビ、プラズマテレビ等)の普及率は07年3月時点で29.4%。
3.
造船は建造時期が長いため、91~93年と03~05年の3年間同士を比較。

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