第1部 5.先行きに対するいくつかの視点

[目次]  [戻る]  [次へ]

以上見てきたように地域経済においても、景気回復感が徐々に浸透しつつあるところであり、その前段階として足腰がしっかりしてきていると言えるが、今後のリスク要因となり得るものをいくつか検討する。

景気ウォッチャー調査の先行き判断DIをみると、7-9月期は、4-6月期と比較して、家計部門、企業部門、雇用部門それぞれで低下している(第1-5-1(1)図)。また、家計部門のみを取り出して、地域別にみると、九州を除いた全地域で低下している(第1-5-1(2)図)。これには、いくつかの要因が考えられるため、順に検討する。

第1-5-1図 景気ウォッチャー調査 先行き判断DI

(1)業種別
-7-9月期は4-6月期と比較して全業種で低下-
第1-5-1図(業種別)

(2)地域別(家計動向関連)
-おおむね全地域で家計動向の先行きに慎重な見方-
第1-5-1図(地域別)
(備考)内閣府「景気ウォッチャー調査」により作成。

(1)家計部門への波及の弱まりは継続するか

前述のとおり、地域経済においても、夏以降、景気回復の家計部門への波及がやや弱まっているところである。

これが一時的な変調に過ぎないのか、あるいは、再び、景気の踊り場局面入りを意味するのかについては、今後も慎重に見ていく必要性がある。その際、いくつかの地域で改善傾向に頭打ち感のみられている雇用情勢に加えて、定期給与や冬のボーナスなど賃金動向に十分注意を払うことが重要である。

(2)原油・原材料価格の高値継続の影響

原油・原材料価格の高値継続の影響も考えられる。日銀短観の仕入れ価格判断DIをみると、1年前と比較して、全地域で「上昇」超幅が拡大している(第1-5-2(1)図)。

一方で販売価格判断DIは「下落」超が縮小傾向にあり、四国は「上昇」超、南関東では上昇超・下落超が持ち合いにまでなっているものの、未だに下落超となっている地域が多い(第1-5-2(2)図)。

ここから、仕入れ価格の上昇に対して、販売価格への転嫁が進んでいないことがうかがえる。

第1-5-2図 仕入価格判断DIと販売価格判断DI

(1)仕入価格判断DI
-1年前と比較して全地域で上昇超幅が拡大-
第1-5-2図(仕入価格判断DI)

(2)販売価格判断DI
-1年前と比較して全地域で下落超幅が縮小、ただし多くの地域で下落超-
第1-5-2図(販売価格判断DI)
(備考) 1. 日本銀行および日本銀行各支店の公表資料より作成。
2. 製造業。全国は大企業。
3. 東北は6県(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)であり、新潟県を含まない。北関東は日本銀行前橋支店管内。南関東は神奈川県。東海は3県(愛知県、岐阜県、三重県)であり、静岡県を含まない。九州は沖縄を含む。

また、中小企業への影響は期を追うごとに厳しくなっており、収益の圧迫を訴える企業が増えている(第1-5-3図)。

景気ウォッチャー(10月)のコメント(先行き)にも、「原材料が高値で安定するなか、燃料代も上昇してきている。販売価格はデフレ状況、製造部分はインフレ状況が続いている」(北関東=輸送用機械製造業)や「原材料価格の高騰はなかなか収束しない。その一方で、製品価格は値上げどころか値下げ提案ばかり求められる。引き続き、収益面で苦労する」(東海=製造業)といった製造業からのコメントに加え、「原油が高止まりし、燃料費の負担が続いている現状からみて、急激な回復は難しい」(北陸=輸送業)、というコメントのように、非製造業にも影響が及んでいることが読み取れる。

第1-5-3図 原油価格上昇の中小企業への影響
-期を追うごとに収益の圧迫を訴える企業が増加-
第1-5-3図
(備考)中小企業庁「原油価格上昇の影響調査」により作成。

また、原油価格の上昇のあおりを受けて、石油関連製品、具体的にはガソリンや灯油価格が値上がりしている。これらの価格上昇は直近こそやや落ち着きがみられはじめているが、1年前と比較すると依然として高水準となっている(第1-5-4図)。

第1-5-4図 ガソリンと灯油価格の推移
-ピークからは落ち着きがみられるものの、1年前と比較して全地域で上昇-
(1)ガソリン
第1-5-4図(ガソリン)
(2)灯油
第1-5-4図(灯油)
(備考) 1. 石油情報センター「給油所石油製品市況調査」により作成。
2. 価格は共に毎月10日現在の数字。

こうした影響もあり、国内の自動車販売台数は大幅に落ち込んでおり、乗用車の新規登録・届出台数をみると、06年度に入って、おおむね全地域で前年を大きく下回っている。軽自動車が増加に寄与している一方で、小型車や普通車の落ち込みが目立っている(第1-5-5図)。

第1-5-5図 乗用車新規登録・届出台数(車種別増減寄与度 06年7-9月期)
-小型車や普通車の落ち込みの目立つ国内自動車販売-
第1-5-5図
(備考) (社)日本自動車販売協会連合会「自動車登録統計情報」の登録ナンバーベース及び(社)全国軽自動車協会連合会「軽自動車新車日報累計表」により作成。

また、寒くなるにつれて暖房費の家計に占める割合の高い地域は灯油の値上がりに苦しむことが予想される(第1-5-6図)。ガソリンと灯油について、これら2つの消費が減退しないと仮定し、1年前からの価格上昇率を適用して試算すると、北海道、東北で約0.45%、北陸で約0.3%の家計消費への負担が見込まれる(第1-5-7図)。

第1-5-6図 消費支出に占めるガソリンと灯油の割合(04年)
第1-5-6図
(備考) 1. 総務省「全国消費実態調査」により作成。2人以上、全世帯。
2. 1か月当たりの消費支出に占めるガソリンと灯油の割合。
3. 地域区分は消費実態調査に基づく。
第1-5-7図 家計に占めるガソリン支出と灯油支出の負担増率(試算 05年11月→06年11月)
-北海道、東北、北陸の負担増が大きい-
第1-5-7図
(備考) 1. 総務省「家計調査」、石油情報センター「給油所石油製品市況調査」により作成。
2. 負担増率=ガソリン、灯油価格の上昇率(05年11月→06年11月)×ガソリン、灯油の平均支出額/平均消費支出
3. 平均消費支出は、03年10月~06年9月までの消費支出に占めるガソリン支出の単純平均。灯油の平均支出額は、過去3年の冬季(12月~3月)期間中の消費支出に占める灯油支出の単純平均。

(3)自動車産業の行方

国内の自動車販売は弱い動きが続いていることから、地域経済をけん引してきた自動車産業の行方も懸念材料である。国内の自動車生産は今のところ輸出の好調さに支えられて、多くの地域で増加しているものの(第1-5-8図)、すでに一部で減産体制に入ったメーカーもあり、この先、海外での売行きが鈍れば、生産の下押し圧力となりかねない。

設備投資をみると、05年度実績では北海道、東北、東海、近畿、九州で自動車のプラス寄与が大きくなっており、06年度計画をみても、南関東や東海、中国では未だに大きなプラス寄与となっている(第1-5-9図)。最近では、自動車以外の業種にも幅広く設備投資意欲がみられているが、自動車への依存度が高い地域においては、今後の自動車市場の行方如何によって、好調さに陰りが見えてくるのかもしれない。

第1-5-8図 生産の自動車依存度

(1)02年1-3月期→06年7-9月期 増減率
第1-5-8図(2002→2006)

(2)05年7-9月期→06年7-9月期 増減率
第1-5-8図(2005→2006)
(備考) 1. 各経済産業局「鉱工業生産動向」により作成。
2. 地域区分はB
第1-5-9図 設備投資の自動車依存度

(1)04年度実績→05年度実績
第1-5-9図(2004→2005)

(2)05年度実績→06年度計画
第1-5-9図(2005→2006)
(備考)日本政策投資銀行「地域別設備投資計画調査」により作成。

(4)その他の要因

また、地域によっては、このところ電子部品・デバイス工業の在庫がやや積み増しされていることにも注意が必要である(第1-5-10図)。

在庫循環図をみると、中部と九州が、在庫の伸びが出荷の伸びを上回っている。これらの地域は年末商戦に向けて、在庫を意図的に積み増していると考えられるが、需要の伸びが想定を下回れば、在庫調整圧力による生産調整につながる可能性も否定できない。

第1-5-10図 電子部品・デバイスの在庫循環
全国
第1-5-10図(全国)
中部
第1-5-10図(中部)
東北
第1-5-10図(東北)
近畿
第1-5-10図(近畿)
関東
第1-5-10図(関東)
九州
第1-5-10図(九州)
(備考) 1. 経済産業省、各経済産業局「鉱工業生産動向」により作成。
2. 北海道と四国は、「電気機械工業」と「電子部品・デバイス工業」が分割されていないため、掲載せず。
3. 電子部品・デバイス工業のウェイトは、2000年基準の付加価値額ウェイト。
4. 原数値。
5. 地域区分はB

今後の地域経済を展望するに当たっては、以上のような点に十分に留意する必要性があるが、地域経済においてもバブル期の負の遺産が解消してきており、企業部門の好調さが継続していることから、家計部門への波及が進めば、地域経済の回復がさらに進むことも期待できる。

[目次]  [戻る]  [次へ]