第1部 4.ばらつきを伴う回復
地域経済が全体として回復に向かっている中で、回復の状況には差がみられる。これをいくつかの指標で確認する。
(1)いくつかの指標で確認する地域間のばらつき
鉱工業生産指数をみると、今回の回復局面では東海が際立っている。景気の谷からの改善度では、他地域を2倍以上引き離している。東海は、輸送用機械と電子部品・デバイス工業の2つの産業が生産全体をけん引している(第1-4-1(1)図)。東海には劣るものの、中国も同様の傾向となっている。これら2産業は全地域でプラス寄与となっているものの、その度合いには差がみられる。なお、北海道はわずかに低下している10。
また、失業率の低下幅をみると、北海道が最も改善しており、南関東、近畿、九州が続いている(第1-4-1(2)図)。これらの地域は始点であった景気の谷の失業率がそれぞれ、7.2%、5.3%、6.6%、6.4%と高かったために、改善度も大きくなっているとも言えるが、いずれにせよ、全地域で改善が進んでいることは間違いない。
一方、労働の需給面の指標である有効求人倍率は東海を筆頭に全地域で改善している(第1-4-1(3)図)。有効求人倍率の上昇幅がかなり大きいにもかかわらず、失業率の改善度が小さい地域があるのは、ミスマッチがあるためとも考えられる。すなわち、労働需給が逼迫して、人手を増やしたいのに、その仕事のレベルに合った人がいない場合は採用を見送るケースが多いために、有効求人倍率は上昇するものの、雇用は充足されずに失業率の改善度も小幅にとどまると考えられる。
第1-4-1図 各指標の改善度からみる地域のばらつき 景気の谷からの改善度(直近の四半期・月まで) (1)鉱工業生産指数の増加率 (2)完全失業率の低下幅 (3)有効求人倍率の上昇幅 |
|||||
|
さらに、バブル期、前々回の回復局面、前回の回復局面における各種指標の変動係数も取って、今回の回復局面を比較してみることにする。
鉱工業生産指数は、今回の回復局面は、足元ではやや縮小しているものの、ばらつきが期を追うごとに大きくなっている(第1-4-2(1)図)。バブル景気や前々回の回復局面ではほぼ横ばい、もしくは期を追ってばらつきが緩やかに縮小していたように見える。
一方で、有効求人倍率や完全失業率のばらつきは、今回はほぼ横ばいとなっており、水準をみてもバブル景気や前々回の回復局面の頃より小さくなっている(第1-4-2(2)図)。バブル景気の頃は例えば、北関東や東海、北陸の有効求人倍率は2倍を越えていたのに、沖縄は0.4倍台だったというように、今回よりもさらに差が大きかったと考えられる。
失業率はいずれの期においても、おおむね横ばいで推移しているが、足元ではややばらつきが拡大している。変動係数の水準をみると、今回はバブル期の頃よりは低くなっている(第1-4-2(3)図)。
第1-4-2図 過去の回復局面との比較 (1)鉱工業生産指数のばらつき (2)有効求人倍率のばらつき (3)完全失業率のばらつき |
|||||||||
|
(2)雇用の改善の動きの弱い道県の回復度
こうした中、厚生労働省では、北海道、青森県、秋田県、高知県、長崎県、鹿児島県、沖縄県を雇用の改善の動きが弱い道県として、重点的に雇用対策を実施している。
景気の谷であった02年から直近の05年までの、これらの道県の回復度を見てみよう。
完全失業率の低下幅をみると、北海道や秋田県、長崎県は比較的大きく低下しているものの、青森県はほぼ誤差の範囲内の△0.1%にとどまり、鹿児島県に至っては上昇している(第1-4-3(1)図)。有効求人倍率は全国が0.41倍改善しているのに対し、これら7道県はおおむね0.1倍台の改善にとどまっており、高知県に至っては0.04倍しか改善していない(第1-4-3(2)図)。直近のレベルをみると、0.4~0.5倍台と全国に比べると約半分程度である。
この状況は何によって生じているのだろうか。鉱工業生産指数をみると、全県で全国平均を下回っている(第1-4-3(3)図)。これらの県はいずれも全国平均よりも製造業比率が低く11、製造業による景気のけん引は大して期待できないと言える。また、これらの道県は、概して、公共投資や政府消費などの公共部門への依存度が高い傾向にあり、公共投資による経済対策の採られていた頃には、雇用の下支え効果がみられたと考えられる(第1-4-4図)。非製造業の従業員数を事業所統計調査でみると、こちらも全県で減少しており、中でも北海道、青森県、秋田県、高知県では減少幅が全国よりも大きくなっている(第1-4-3(4)図)。よって取り立ててけん引役が存在しないことが問題であると言える。以上、後進県をみると改善を示す指標があるものの、改善度は明らかに全国平均よりも遅れている。
第1-4-3図 雇用の改善の動きが弱い県の回復度(02年→05年) | |||||||||||||||||
(1)完全失業率
|
|||||||||||||||||
(2)有効求人倍率
|
|||||||||||||||||
(3)鉱工業生産指数 (4)非製造業従事者数(01年度→05年度) |
|||||||||||||||||
|
第1-4-4図 有効求人倍率と公的依存度の相関 | ||
(1)98年 -公的投資依存度と有効求人倍率の関係は明確ではない- |
||
(2)05年 -公共投資依存度が高い地域ほど、有効求人倍率が低い- |
||
(備考) | 1. | 内閣府「県民経済計算」、厚生労働省「一般職業紹介状況」により作成。 |
2. | 公共投資依存度は年度の数値。05年は有効求人倍率(05年)と公共投資依存度(03年度)を用いている。 |
(3)下げ止まり傾向が鮮明になっている地価
地価動向(商業地)をみると、全国平均は15年連続で下落しているものの、前年比の下落幅では02年を起点に縮小が続いており、下げ止まり傾向が鮮明になってきている(第1-4-5図)。3大都市圏では06年には遂に前年比1.0%と、実に15年ぶりに前年を上回った。地方圏においても、下げ止まり傾向は明らかであり、03年、04年に前年比△8.5%をつけた後、05年には△7.5%、06年には△5.5%と、3大都市圏に遅れは取っているものの、前年の下落幅は着実に縮小している。
第1-4-5図 商業地地価の推移 -下げ止まり傾向が鮮明に- | |||||
|
ここ5年における上昇率上位10地点をみると、3大都市圏の都市が占めており、しかもここ2年は名古屋市が10地点中8地点を占めている(第1-4-6表)。名古屋圏の景気の力強さが地価にも反映されていると言える。さらに名古屋の中でも昔から商業地の中心であった栄地区よりも、名古屋駅前のほうの上昇率が高くなっているなど、好調なところが以前と異なってきていることは特筆に価する。これは、駅前直結の大型百貨店や高級ホテルを含む一連のタワーができたことによって、人の流れが変わってきていることを反映している。
第1-4-6表 商業地地価年間変動率 上位10地点・下位10地点
-05年の上位10地点中8地点が名古屋-
上昇率上位10地点(2002年~2004年) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2002年
|
2003年
|
2004年
|
上昇率上位10地点(2005年~2006年) | 下落率上位10地点(2006年) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2005年
|
2006年
|
2006年
|
||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(備考)国土交通省「地価公示」により作成。 |
しかし、全国的に地価動向の改善がみられるなか、前年よりも下落幅の拡大している都市も存在する。下落幅拡大都市上位5位をとってみると、実に4位までが北海道の都市で占められている。これは、いずれも中心市街地の大型店が撤退し、街としての吸引力を欠いていることが要因である。また、前年よりも下落幅の拡大している市区町村数の割合をみると、5割以上を占めるところは青森県、岩手県、山形県、高知県、熊本県、大分県、鹿児島県となっており、いずれも地方圏である(第1-4-7表)。
第1-4-7表 前年よりも地価の下落幅が拡大した市町村の割合(06年)
-地方圏で下落幅の拡大した市町村が多い-
下落幅拡大 市区町村 |
都道府県及び下落幅拡大市区町村の割合 |
70%以上 | 熊本県 |
60%~70% | 青森県、高知県、岩手県 |
50%~60% | 鹿児島県、大分県、山形県 |
40%~50% | 北海道、秋田県、鳥取県、香川県 |
30%~40% | 徳島県、島根県、福井県、長崎県 |
20%~30% | 和歌山県、宮崎県、新潟県、福岡県、佐賀県 |
10%~20% | 茨城県、宮城県、三重県、広島県、福島県、長野県 |
10%未満 | 岐阜県、栃木県、沖縄県、愛媛県、静岡県、岡山県、山口県、滋賀県、京都府、群馬県、兵庫県、東京都、愛知県 |
下落幅拡大 市区町村なし |
埼玉県、千葉県、神奈川県、富山県、石川県、山梨県、大阪府、奈良県 |
(備考) | 1. | 国土交通省「地価公示」により作成。 |
2. | 各都道府県の標準地(商業地)設定市区町村(設定来3年未満を除く)に占める、下落幅拡大(前年比)市区町村の割合。 |
10. | 北海道では05年3月にたばこ工場の撤退があり、生産指数自体にかなり大きな影響を受けている。この影響は次回の基準改訂まで引きずると見込まれる。 |
11. | 03年度の製造業比率を順位付けすると、北海道45位、青森県46位、秋田県38位、高知県43位、長崎県44位、鹿児島県41位、沖縄県47位となる。ただし、東京都は42位である。 |