―おわりに―

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制約条件の強まるなかでの選別

少子高齢化、人口減少の進行は、労働力の減少、財政制約要因の高まりなど、地域にとって成長のための制約条件が強まるということである。本レポートでは、そのような条件下において地域経済の活性化のために何ができるのか、具体策をいくつか提示した。

しかし、制約条件が強まるなかで、今後は「あれもこれも」と全てを行えるわけではない。一方で、一つの方策が全てを解決するわけでもない。このような状況下では、やることとやらないことについて、選別をより厳しくすることが必要である。一種の審美眼を養うことである。地域の実情は地域によって異なる。地域の資源・産業構成に見合い、かつ、経済をけん引するものが何かを見極める必要がある。

高付加価値化の模索

生産年齢人口の減少という、地域経済にとって、圧倒的な制約要因が見込まれるなかで、現在と同じような価値を創造するためには、一人がより多くの価値を創造する、つまり、一人当たりの付加価値額を高めることが必要である。地域ブランドや成長の見込まれるコンテンツ産業の分析を行ったのはここを意図したものである。

地域ブランドについて特筆すべきことは、従来から作っているものや消費されているものが、ブランド化の成功によって、新たな価値を持つということである。加賀野菜の例にみたように、地域で伝統的に消費されているものが地域の力になる。もちろん、品質の高いことは第一条件である。ひとたびブランド力を獲得すれば、それが大きな力となり、力が力を呼んで、色々なモノやサービスが葡萄の房のように連なることになれば、なおのこと良い。地域自体のブランド力が高まる。

また、コンテンツ産業は、地域においても、システム開発やゲーム製作、WEB開発などの分野に特化することで活路を見つけることができる。これは、地域における中小の製造業が大手の参入できないようなニッチ市場を開拓し、その分野においては全国区、ひいては世界レベルのオンリーワン産業になるという例に酷似する。岐阜県の家庭用ゲームソフトメーカーのように、地方に立地することならではのメリットを活かして、成長している企業もみられる。通信環境の飛躍的な向上によって、地方での事業展開には強い可能性が見出せると言えるだろう。

地域の資源の再発見

地域ブランドへの取組みに当たっても、何をするのであっても、自地域の魅力を再発掘することが重要である。その地域の人には当たり前のことであっても、他地域の人から見れば、実に珍しい、価値のあるものに思えることがある。

例えば、北海道では鉄道が廃線になった跡地を巡る、いわゆる「廃線ツアー」が鉄道マニアを中心に観光客を呼び込んでいる。三浦市では、従来廃棄していたまぐろの尻尾を使って、コラーゲンをたっぷり含んだ中華まん(とろまん)を考案し、集客を図っている。これらは、負の遺産を正の遺産に転換した好事例である。

地域資源の掘り起こしに当たっては、他地域からも助言を受けることが必要であろう。もしくは、複数の地域がお互いを知るという取組みがあってもいい。地域の交流人口が増えれば、活性化が進む。誘致に頼らない、定期的・固定的、つまりはリピーターを呼び込むような試みが地域に明かりを照らす。交流人口の増加は、人口減少を食い止める手段にもなり得る。交流人口は国内にとどまらず、外国人観光客も視野に入れるべきである。

景気回復を波及させるために

05年秋口現在、地域経済は緩やかな回復軌道に乗っているが、個々にみると、地域差が未だに存在すると言わざるを得ない。過去には公共投資が地域の景気を平準する役割を担ったが、財政制約が強まるなかで息切れし、もはや公共投資に依存することはできない。

回復を波及させるためには、例えば労働移動を容易にすることが考えられる。人手不足感の強まるなか、雇用情勢の良い地域に人々が移動すれば、回復の実感を享受できる。しかし、04年度年次経済報告が分析したとおり、地域間の労働移動は、むしろ弱まっている。

回復の及ばない地域にとどまることは、座して死を待つことを意味するのか。地域を、景気回復が波及しやすい構造に改革していくことを考える必要性がある。ネット通販-いわゆる「お取り寄せ」などが拡大するなか、地域で商売することの情報格差・交通格差はほぼ解消している。地域発の大ヒット商品も生まれやすい構造になってきていると言ってよい。人が動かないまでも、自地域の市場を他地域に擬似的に作り出しているのである。また、医療や社会保障、介護など生活必需的なサービスの充実を図ることは景気変動要因を緩和する。ここには都市集積を進めることで、効率の良いサービスの提供を進めることが重要である。

地域経済の将来像

今後の人口減少・少子高齢化は急速である。緩やかな景気回復が続いているうちに、地域経済においても活性化の道筋をつけなければならない。

公共投資の減少が続くなか、人々の意識は着実に変わってきた。つまり、自分たちの力で、もしくは自地域の力をかき集めて、活性化を成し遂げなければならないという意識である。

意識改革とともに、地域における人材育成は何よりも重要である。結局は、「事を起こす」人がいなければ、活性化はあり得ないからである。

すでに人口減少の始まっている地域のあるなか、残された時間はそう多くはない。地域の体質を改善し、強くなった地域同士で地域間競争を進化させ、それによって、時代に対応した地域経済を作り上げていく。強い地域が弱い地域を引っ張るという発想からの転換も必要であると言えるだろう。

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