第1章 第2節 引き続く景気の地域差 1.

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第2節 引き続く景気の地域差

1. 地域差のみられる景気持ち直しの動き

前節においてみたように、全国的には景気が底入れから持ち直しへと動くなかで、地域別にみるとその動きが明確な地域と明確とは言えない地域があり、地域ごとの経済動向に違いがみられる。

こうした状況について、全国を11の地域ブロックに分け地域ブロック毎の景気を比較しながら景気を判断している「地域経済動向」を参考に検討する(前掲第2-1-1図参照)。「地域経済動向」における地域ブロック別の景気判断の推移をみると、2002年5月には、沖縄について「このところやや改善している」という表現が使われ、最も早く景気が底離れする動きをみせた。

3か月後の2002年8月には、中国については「このところ改善している」と表現し、北関東、南関東、東海、近畿、九州の5地域については「持ち直しの動きがみられる」という表現が使われるなど、北海道、東北、北陸、四国の4地域を除いて底入れから離れる動きが確認された。

北海道、東北、北陸、四国の4地域のうち、北陸については3か月後の2002年11月において「持ち直しの動きがみられる」という段階に進んだ。それ以後、多少の変動はみせながらも、北海道、東北、四国の3地域以外の8地域においては「改善」あるいは「持ち直し」の動きが続いている。このように、多くの地域において景気は底入れの状況を脱しつつあるのもの、北海道、東北、四国の3地域においては景気は依然として明確な改善をみせていない。

(1) 複数のプラス要因が持ち直しを支える8地域

このように景気の改善が遅れている北海道、東北、四国の3地域と景気の改善が比較的先行している8地域の間には、どのような違いがあるのだろうか。

景気改善の進んでいる8地域に共通する特徴として、改善の理由が比較的明確であるという点があげられる。例えば、沖縄においては、国内外の観光客数が増加し、観光関連産業と個人消費が上向いている。

東海においては、自動車の生産増により、輸送機械に限らず電気機械、一般機械をはじめ化学、繊維などの素材も含めた関連産業の生産にまで、その効果が波及している。そのため、周辺企業を中心に雇用と設備投資が持ち直し、地域の消費にもプラスの効果をもたらしている。同じように、自動車メーカーと関連産業の集積をもつ北関東、南関東、中国、九州などにおいても同様の効果がみられる。

九州と中国については、アジア向けに輸出が増加していることによって、鉄鋼、化学など素材型の生産が堅調に推移している。また、企業収益の増加などから設備投資が増加に転じたため、一般機械の生産が上向き、この業種のシェアが大きい北関東、南関東、近畿、北陸の生産の持ち直しに寄与している。さらに、カメラ付き携帯電話、デジタルカメラなどの新商品に加え、自動車向けや家電製品向け電子部品の需要が増加したため電気機械の生産も回復した。このことが北関東、南関東、北陸、近畿、九州などにおける景気の改善に貢献している。

(2) けん引力が弱い持ち直しが遅れている地域

これに対し、景気改善の遅れている北海道、東北、四国の3地域については、他地域に比べて前述のような景気を改善する要因が目立たない。

北海道、東北においては、農林水産業、食品製造業の生産に占めるウェイトが高い。このような分野については、天候の影響を受けやすく、BSE 問題などの撹乱要因はあるものの、IT関連産業や設備投資関連産業などと比較して需要は安定しているうえ、個人消費の中でも食料品は比較的底固く推移していることから、景気の下支え要因となっている。

また、北海道においては、国内観光客に加えアジアからの観光客の増加もあり、観光が景気にプラスに働いている。四国においては、電気機械の生産の一部が強含み、国内観光客も一部に底固さがみられるなど、プラス要因はいくつかみられるものの、いずれも大きなけん引力にはなっていない。そして、東北においては、2001年に大幅に減少した電気機械の生産が回復しているものの、海外への生産移管と国内生産の整理縮小によるマイナスの影響がみられる。

持ち直しが遅れている地域においては、景気を改善させる要因が目立たないうえに、先行して持ち直している地域においてみられる輸出などの要因が強く働いていないということが言える。また、これらの地域においては、建設、運輸、不動産関連など大型の企業倒産が発生し、地域の雇用情勢に影響すると同時に、地域金融機関の経営にも影響を与え、これが地域の景況感の重しとなっている。

今回の景気回復局面における地域毎の経済動向については、様々な要因が関係しているものの、地域における主要産業の輸出競争力の違い、アジアを中心とする輸出の効果などが景気の地域差の要因となっている可能性が指摘できる。

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