第3章 産業集積のメリットと地域経済の成長に関する統計的検証 2.特化型の産業集積の多くで全国平均を下回った雇用増加率

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2. 特化型の産業集積の多くで全国平均を下回った雇用増加率

以下では、グレイザー他と同様の分析手法により、日本における90年代のデータを用いて、どのような形態の産業集積において雇用が成長しているかについて分析を行うことにする。具体的には、全国268都市圏それぞれにおける全産業(産業中分類)中の従業者数上位6業種をサンプルとし、各サンプル(268都市圏×6業種=1,608)の91年から2001年にかけての従業者数増減率と、集積の形態(当該都市圏における当該業種への特化係数(32)、当該都市圏における産業の多様性、当該都市圏における当該業種の競争の程度等)の関係についての回帰分析を行うことにする。

回帰分析を行う前に、都市圏の人口規模と産業の多様性、各都市圏における各業種への特化係数と従業者数増減率の関係、さらには、製造業の雇用の成長と都市圏全体の雇用の成長の関係についてデータを概観してみることにする。

まず、第1-3-1図は、各都市圏における従業者数上位6業種以外の業種の合計従業者数のシェアと当該都市圏の人口の関係をプロットしたものである。両者の間には正の相関関係がみられ、人口規模の大きい都市圏ほど上位6業種以外の業種のシェアが上昇する、すなわち、産業の多様性が拡大する傾向がみられる。このことは、上位6業種以外の業種の従業者数シェアを人口規模別に集計した第1-3-2図からも確認できる。

次に、製造業及びサービス業(産業小分類)について、各業種中の特化係数第1位の都市圏における当該業種の従業者数増減率と、当該業種の全国の従業者総数の増減率(いずれも91~2001年)を比較してみることにする(第1-3-3表は基本データ、第1-3-4図及び第1-3-5図は製造業、サービス業の各業種について全国と特化係数第1位の都市圏の増減率を棒グラフ化したもの、第1-3-6図は製造業、サービス業の各業種について全国と特化係数第1位の都市圏の増減率をプロットしたもの)。まず、特化係数の大きさに着目すると、製造業の各業種の値がサービス業のそれよりも全般的に高くなっていることが分かる。次に、従業者数増減率に着目すると、製造業については、ほとんどの業種において全国の従業者総数が減少しており、特化係数第1位の都市圏の多くでは当該業種の従業者数の減少率が全国の値と比較して更に大きくなっている。一方、サービス業各業種については、ほとんどの業種において全国の従業者総数は増加しているが、特化係数第1位の産業集積の多くでは当該業種の従業者数の増加率が全国平均と比較して低くなっている。このような傾向からは、特定業種への特化型(地域特化型)の集積形態が産業集積の成長にとって不利なものになっていることが示唆される。

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