第3章 産業集積のメリットと地域経済の成長に関する統計的検証 1.米国における実証分析
1. 米国における実証分析
はじめに、産業集積の形態と都市圏の成長に関するグレイザー他(31)による米国における先行研究を概観する。グレイザー他は、空間的に狭い範囲に人や企業が集積することにより、人から人へのアイデアの伝達や技術革新を容易にする環境が生まれ、産業の成長が促進されるとともに、都市の成長の原動力が生じるとした上で、集積のメリットが都市の成長に与える効果(動学的外部性)を、以下の3種類に分類する。
a.マーシャル・アロー・ローマー(MAR)型外部性:同一産業が地理的に集積すること(「地域特化」)により企業間の知識・情報の伝達が盛んになり、そのことが産業集積の成長を促進する。また、競争的な環境よりも、地域内において独占的な環境にあることが企業の技術革新を促進する。
b.ポーター型外部性:MAR 型と同様、「地域特化」型の集積の経済が成長を促進する。一方、地域内で独占的な環境にあることよりも、競争的な環境にあることが企業の技術革新を促進する。
c.ジェイコブス型外部性:最も重要な知識は同種の産業以外の産業からもたらされるものであり、「地域特化」ではなく「多種多様な産業の集積」が技術革新と成長を促進する。一方、新技術の採用を促進するのは「地域独占」よりも「地域内競争」である。
その上で、米国における1956年から87年にかけてのデータ(上位170都市圏におけるそれぞれの6大業種の従業者数等)を用い、上記の3つの外部性のいずれが産業集積の成長に影響を及ぼしているかについての分析を行っている。その結果、産業の多様性が高く、地域内の競争の活発な都市圏において雇用が拡大する傾向がみられる(ジェイコブス型の外部性が顕在化している)との結論が得られている。