第1章 第2節 集積メリットの活用を模索する各地の実例 7.

[目次]  [戻る]  [次へ]

地域クラスターの所在地 中国

(この地域の特徴)

  • * 中核企業の調達方針転換を受けて、高まる危機感
  • * 合併、産学官連携など集積メリットを活用し、研究開発力の向上を目指す

(新しい集積の地を求めて集団移転)

岡山県総社市は、人口5万人余りの都市であり、岡山県南部、岡山市の西隣に位置する。中小企業の「協同組合ウイングバレイ」(以下「ウイングバレイ」)はここに立地し、組合構成企業には合計5,000名以上の従業員が働いている。

会員企業は三菱自動車工業(株)(以下「三菱自工」)水島製作所の系列部品メーカー15社で、総社市の熱心な誘致に応えて集団で移転した企業群が、62年の移転と同時にこの組合を結成している。移転の理由は、生産拡大により工場が手狭になったものの都市計画用途区域にあったため拡張が難しかったことなどである。

結成当初は26社が参加したが、合併などによる増減により今は15社が加盟している。はじめはウイングバレイ東地区(総社市真壁、約25万m2)だけであったが、生産拡大に対応して90年にウイングバレイ西地区(総社市久代、約79万m2)が造成され、そこに各企業が第2工場を新設した。

事業としては、発電や廃水処理、労務事業など共同で行うことで規模のメリットのあるものに取り組んできた。87年には、共同出資会社を設立して米国とタイに拠点をつくり、現地の三菱自工に部品を供給している。これは当時の中小企業としては、他に例をみない先進的な取組であった。

(「系列取引」から「世界調達」への転機)

2000年には、ダイムラークライスラーが三菱自工に資本参加した。これが、これまでの企業系列関係の転機となる。それまでは、垂直的系列関係に従うことで、注文が続く仕組みになっていた。また、生産についても三菱自工の作成した設計図にそのまま従う形で行っていた。

しかし、ダイムラークライスラーは「世界調達」という方針を掲げており、この仕組みは変わりつつある。世界調達戦略により、系列による固定的な結合関係は見直される。そこで、各部品メーカーは、世界のあらゆる自動車メーカーに対し部品を供給できるような製品開発力と競争力を持った企業となることが求められてくる。

今のところは、三菱自工と共同して部品開発を行い、高品質の部品を供給しているので、受注に大きな変化はないものの、現行車種がフルモデルチェンジされるにつれ、調達先の本格的な見直しが始まるとみられている。

(集積メリットと産学官連携などにより競争力の向上を目指す)

販売拡大などにより伸び続けている会員企業の売上高

この情勢変化を受けて、ウイングバレイの各企業は、マツダやいすゞなど他の自動車メーカー及び農機具メーカーなどへの販路拡大を図っている。ウイングバレイの三菱自工への依存度は2001年度の78%から2002年度には72%にやや低下した。このような努力によって、三菱自工の生産が低調な中においても2002年度には売上高が増加した。2003年度については、三菱自工の生産回復もあって引き続き売上増加が見込まれている(右図)。

2003年10月には会員企業3社が合併したが、これまでの人脈などの蓄積や距離の近さという「集積のメリット」もあって交渉は順調であった。合併には、1)研究者の分業により専門分野に特化した製品開発ができる、2)製造工程を連結することにより作業を合理化できるなどのメリットがある。研究開発力を急速に高めて製品開発型企業への転換を図るためには、合併のような企業統合という手段は重要になるとみられる。

また、ある企業は、岡山県工業技術センターとの共同研究により、綿繊維や発泡ウレタンなどの破砕くずのリサイクルによって自動車内装材を製作する技術を開発した。ただし、中小企業が単独で大学における研究に参加することは資金面でのリスクが大きい。また、これまでは三菱自工との共同部品生産に特化していたため、大学や自治体などとのネットワークが築かれていないこともあって、現状において産学官連携はそれほど進んでいない。

これまでウイングバレイは、系列取引にまつわる共通コストの低減や三菱自工との情報交流の役割を果たしてきたものの、製品開発やマーケティングについての連携にはあまり関与して来なかった。今後は、共通規格化(モジュール化)への対応を含め、独自技術と高い技術開発力を備えることを目指し、会員企業間の連携や産学官連携を通じた取組が必要と考えられている。

[目次]  [戻る]  [次へ]