第1章 第2節 集積メリットの活用を模索する各地の実例 6.
(この地域の特徴)
- * 多様な製品分野における全国シェア・トップの中小企業が多数集積
- * 高い技術力を持った中小企業を、市が知恵を絞って支援
(江戸時代から続く工業集積)
東大阪市は、大阪市の東に位置し、67年に布施、河内、板岡の3つの市が合併して誕生した人口約50万人の中核都市である。ここは、江戸時代には豊富な水流と水車を利用していた古くからの工業産地で、明治に入ってからは、針金やくぎなど金属製品を生産していた。
東大阪市にある従業員4人以上の製造業の事業所数4,105は大阪府内の約14%、その就業者数60,408人は同約10%を占めている。製造業の内訳をみると、金属製品と一般機械に集中し、この2分野が東大阪市内の事業所数の45%、製造品出荷額等の36%を占めている。
(多くの分野での「きんぼし」が集積する東大阪)
この集積には、単に事業所数が多いだけではなく、集積内企業の製品が国内トップシェアを占めることが多いという特徴がある。例えば、工業用LP ガス圧力調整器、工業用ハンマーなどの金属製品から、液晶ランプ用リード線などのIT 関連部品、あるいは自転車用グリップなどという暮らしに身近な製品まで、必ずしも製品名や企業名が目立たないまでも多種多様な製品が作られている。
新しい発想や技術を製品化するには、幾度も試作する必要がある。金型を作る際には金属製品製造業が、装置の修繕・改良をする際には一般機械製造業が近隣にあることは有利だが、東大阪市にはこれらの業種が多く集まっている。
また、この地域では垂直的な企業系列関係があまり強くないため、比較的水平的な関係を築きやすいと言われている。こうしたことから、固有の技術力を持つ企業同士が協力し補完することによって、規模は小さくとも製品競争力の高い企業が多く存在している。
東大阪市経済部と東大阪商工会議所は、このような知名度は低くとも技術力や製品のシェアの高い中小企業を紹介する事業に取り組んでいる。国内トップシェア製品を作っている企業を「きんぼし」と名づけ、そうした企業の製品や技術を紹介する『きんぼし東大阪』という冊子を98年に発刊し、その後も改訂版を作成している。また、他社にはない独自技術を持つ企業(オンリーワン企業)とその製品(オンリーワン製品)を紹介する本も出版されている。
(中小企業に対する技術的な支援と個別企業の情報の集約を行う東大阪市)
東大阪市は、97年4月に「産業技術支援センター」を開設し、製品開発・研究開発などについての技術相談や指導を通じ、市内企業の技術高度化と製品の高付加価値化を支援している。同センター内の研究棟には測定室、検査機器室、CAD室があり、中小企業では保有しにくい各種の施設を共同利用することができる。
また、東大阪市は「東大阪技術交流プラザ」というホームページを運営し、市内約1,100社の企業情報データベースを利用できるようにしている。ここでは、キーワード検索を始め、製品・部品からの検索が可能になっていて、2000年の開設以来のアクセス数は入口で30万件、サイト全体では2,000万件に達している。この企業情報データベースによって、中小企業は取引先からの信用を得ることができると同時に、ニーズとシーズの組み合わせが実現されやすくなることが期待できるが、その効果も次第に現われてきている。
(行政が広報宣伝する地域の「きんぼし」企業群)
さらに、東大阪市経済部は、「東大阪ブランド」のシンボルマークを制定し、商標登録している。東大阪市のH とO、そして数字の1を組み合わせている。これを製品等に付けることによって、「メイド・イン東大阪市」ということ、ここに「オンリーワン製品」があるということを明示し、それを作っている中小企業の認知度向上に取り組んでいる。