第1章 第2節 集積メリットの活用を模索する各地の実例 8.
(この地域の特徴)
- * 食文化の魅力とファーストフードとしての性質により成長した讃岐うどん
- * 地域の食文化の潜在的な可能性が、全国的なニーズにマッチした例
(地域の食文化としての讃岐うどん)
香川県には、一般食堂や喫茶店も含めると約900軒のうどんを提供している店があると言われている。うどんの生産量をみると、香川県では全国の約20%のうどんを生産し、そのシェアは年々上昇しており、香川県はうどん製造業の産業集積となっている(上表)。また、四国八十八か所霊場参りのお遍路さんをうどんでおもてなしする「お接待」が今も慣行として残っている。これは、讃岐うどんが固有の食文化として香川県に定着しているためである。
(時代のニーズにマッチしたことなどで成長が続く)
讃岐うどんが全国的に流行している。複数のうどん専門店チェーンが全国各地で出店を増やしている。また、地元鉄道会社の企画によるうどん店めぐりをするバスツアーは、香川県のあちこちにあるうどん店をめぐり、店ごとに特徴のある味付けを楽しめることからヒットしている。これには、1日に何度も好きなだけうどんを食べるという地元の食習慣を取り入れていることもヒットの要素となっている。
この讃岐うどんの流行もあって、四国方面への観光客が増えている。SARS(重症急性呼吸器症候群)問題で海外から国内へ振り替えた影響もみられるものの、大手旅行会社に対する旅行申し込み客数は2003年7-9月期に前年比で10%以上伸びた。この流行のきっかけとしては、地域コミュニティ誌編集長の本がインターネットなどを通して広がったことも、多くの要素の一つとしてあるのではないかと言われている。
讃岐うどんは、前述のように香川固有の食文化として地域に根付いているため、それ自体が観光資源になっている。また、消化のよいことと低カロリーが消費者の健康志向にマッチしている。そして、うどん1玉が100円程度と安く、トッピングをいろいろ乗せても500円硬貨1枚でほぼ足りてしまうので、ハンバーガーなどのファーストフードに引けを取らない。さらには、好きなトッピングを自分で選んで食べるセルフサービス方式が、消費者や観光客の趣向にマッチしたということなどが流行の背景になっているとみられる。
(成長の持続を目指すいろいろな取組)
うどんの集積である香川県にとって、最近の讃岐うどんの急成長は明るいニュースである。地元鉄道会社では、事業多角化の一環として首都圏を中心に店を開くなど、潜在需要の開拓に努めているが、これからも更に店舗を増やす計画を持つ。香川県は、2003年に観光交流局を設置し、愛媛県と共同して東京にアンテナショップを開設した。ここは2階が讃岐うどんを食べられる食堂になっていて、開館から3か月弱で10万人を超える来館者を数えた。
(食文化を地域の資源として活性化につなげる工夫)
このように地域に活力をもたらしている香川のうどん集積であるが、これから取り組まれるべき課題も残されている。特色あるうどんを提供している専門店は、県内に点在する家内工業的な店が多く、アクセスが不便であることが多い。家内工業的であるだけに、生産量の拡大が難しく、また多くは夕方には閉店してしまうので、時間の限られた観光客にとって利用しにくい面もある。
讃岐うどんの成長そのものは明るい話題ではあるが、これを一時的なブームに終わらせないためにも、食文化あるいは観光資源としての讃岐うどん集積の方向性についてコンセンサスを作り上げてゆくなど、地域の主体的な活動が重要になっているとみられる。