第2章 第1節 集積メリットを活用する成長企業の事例分析

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第1節 集積メリットを活用する成長企業の事例分析

地域経済の繁栄は、そこにある産業の競争力などにかかっている。そして、産業の競争力は、主に個別企業の製品とサービス一つ一つの付加価値の高さにかかっている。マクロの財政金融政策は短期的に需要を増やしたり、資本コストを低めたりすることはできても、企業の本質的な生産性向上や革新(イノベーション)を促進することは難しい。個々の企業の生産性やイノベーションを高めるものは、経営戦略、研究開発、組織構造などミクロ面の改善が中心であり、とりわけ地域の企業については、地域別、業種別、企業別に応じて異なる戦略に基づいた取組が重要になるからである。

そして、企業の成功と失敗には様々な形態(パターン)が存在する。個別の企業にとって生産性向上やイノベーションが起こる条件や環境は、地域、歴史、業種などによって多種多様であり、その決定要素を一律に述べることは難しい。イノベーションなどが育まれる環境条件については、個別企業の事例を検討し、多くのパターンについての分析を積み上げる必要がある。米国などのビジネス・スクールにおいて、多くの研究者が企業経営の実例を詳細に整理・分析し、一つひとつを「ケース」として蓄積している理由もここにある。

地域集積のメリットの活用についても同じことが言える。以下では、地域の集積を活用しつつ売上を伸ばしている企業の実例をみることによって、地域の企業や行政機関などが集積メリットを活用する上でのヒントを探る。

ここでは、売上を順調に伸ばし続けている企業を「成長企業」と呼ぶことにする。全国の法人企業の中から成長企業を見出すため、(株)帝国データバンクの「企業概要ファイル」に収録された全国約121万社(個人企業を含む)の中から、次の4つの条件に該当する企業を抽出する。

  1. 各企業の決算において、最新期と前期の2期(2年)連続して売上高の伸び率が10%以上であること
  2. 最新決算期において、税引後利益が黒字であること
  3. 最新決算期において、売上高が5億円以上の法人企業
  4. 従業員30人以上

以上の条件によって抽出された企業の中から、産業集積のメリットを活用している企業、あるいはこれから活用しようと取り組んでいる企業を、地域バランス、業種バランスを考慮しつつ選び出した。これらの企業の中から13の企業(25)について、その事業内容と特徴、集積とのかかわり方やメリット、その成長企業の成長をもたらした要素について企業ごとに整理・分析する。

これら13企業の売上高を合計すると、2001年決算の約342億円から2002年決算の約416億円まで22%増加している(第1-2-1図)。また、従業員数をみても、すべての企業において増加しており、2003年のデータが利用可能な11企業については、2001年の1,492人から2003年の1,799人まで307人(21%)増加している。

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