第1章 第1節 産業集積メリットの活用に向けた動き 1.
1. 地域再生に有効なイノベーションとそれを推進するクラスター
「一国経済の競争力は、その地域経済における産業の競争力に依拠している(1)」という言葉にみられるように、地域における産業、そしてそれを構成する企業の競争力を高めることが、先進工業国の重要な課題として認識されている。グローバル化と高度情報化の中にあって、「高水準の賃金を支えるものは、地域レベルにおいてイノベーションと競争の中核(ハブ)を作り上げ強化すること(2)」と言われている。
ここにおける「イノベーション」とは、単なる「技術革新」にとどまらない。生産、流通、販売、財務、企画、人事、経営管理など企業が活動するのにかかわる様々なオペレーションについての革新(イノベーション)を含む広義の革新を意味している(3)。
このような革新(イノベーション)を促進する仕組みとして、地域における「クラスター」の有効性が認知されている。世界には、「クラスター」を活用して地域の産業と企業の生産性と競争力を高め、地域経済の再生に成功したところが多くみられる。米国においては、シリコンバレー(マイクロエレクトロニクス、バイオ(4))、シアトル(バイオ、IT)、ピッツバーグ(医薬品・バイオ、IT、生産技術)、サンディエゴ(医薬品・バイオ、通信)などが知られており、英国のエジンバラ(IT、バイオ)、スペインのカタロニア(電子機器、通信、バイオ、新素材)をはじめ、ドイツ、フランス、イタリアなどに、多くの先進事例がある。
「クラスター」とは、広義には「特定分野において相互に連結する企業群と関係機関群が地理的に集中している状態」のことで、そこには生産者、サービス・プロバイダー、専門的サプライヤー、大学及び関連団体などが関係している(5)。クラスターは、形式上は産業の地理的集積である産業集積と似ているが、そうした企業群が競争しつつ同時に協力し、共通性や補完性により連結している(6)という点において単なる産業集積とは異なる。また、関連する多くの産業分野の集積がいくつも重なり合って形成されている点が単なる産業集積と異なるもう一つの特徴と言える。
クラスターは、内外の多様な組織の連携による相乗(シナジー)効果と多くの組織の間の競争を通じてイノベーションを創出し、地域の企業の競争力を高める。このような「イノベーションを促進する」というクラスターの重要な機能に着目し、クラスターとは、狭義にはイノベーションを促進し、かつ産業構造を急速に変える働きの一助となる集積を意味するという定義もある(7)。
実際にクラスターの先進事例をみると、地域経済の再生をもたらしたクラスターは、イノベーションを促進し、産業構造を急速に変える働きの一助となる「狭義のクラスター」であることが分かる。シリコンバレーやサンディエゴのように中央から遠く離れた遠隔の地において、地域産業の競争力を急速に高めたものは、クラスターのもたらしたイノベーションであった。そして、シリコンバレーがマイクロエレクトロニクスとバイオの領域にまたがっているように、多くのクラスターが、関連する複数の産業分野についての産業集積の連結体になっている。
情報化の進んだ先進国においては、知恵を体現する革新(イノベーション)が競争力の源泉となっている(8)。このため、革新(イノベーション)を促進するタイプの産業集積としての「クラスター」の効果が認知され、その活用に対する期待が高まっている。