第1章 地域集積の活性化を模索する各地の実例 [第1章の要約]
1. 地域経済の再生に有効な産業集積の力
地域産業の再生の手段として産業集積の一種である「クラスター」の重要性が認知されている。「クラスター」とは、多くの企業や関係組織が「競争しつつ同時に協力し、共通性や補完性により連結され」、それによって「イノベーションが促進されている」タイプの産業集積を指す。クラスターは、多様な組織間における活発な連携と競争を通じ、産業競争力のもととなるイノベーションを世界各地において創出している。
日本においてもクラスターの効果を活用する取組が始まった。2001年に「産業クラスター計画」、2002年に「知的クラスター創成事業」がスタートし、これらが連携することによりクラスターの連結体としての「地域クラスター」が形成されることが期待されている。
2. 地域集積の活性化を模索する10の実例
クラスターの段階には至らないまでも、集積のメリットを活用して地域の活性化に取り組んでいる各地の産業集積のうち10の集積を取り上げ、その状況について分析した。
- <北海道> 市町村や業種の枠を越え、多様な産業クラスターの形成を目指す
- <岩手県北上市> 長期的な取組によって、内陸型工業集積を形成
- <東京都(杉並・練馬区周辺)> 課題に直面する世界有数のアニメーション産業集積
- <岐阜県大垣市> 大学・海外との連携によるIT 産業の集積づくり
- <新潟県三条市・燕市> 新たな素材に取り組む伝統ある金属加工業の集積
- <大阪府東大阪市> 「きんぼし」企業を支援して集積効果の向上を目指す
- <岡山県総社市> 系列依存型から製品開発型への転換を目指す自動車部品関連集積
- <香川県> 食文化の潜在力が全国的に認知された讃岐うどん
- <大分県湯布院町> 民間人主導で形成された「滞在型保養温泉地」
- <沖縄県> 独特の食材を活用しブランド形成に成功した健康食品産業の集積 各地の地域集積には、形成過程、参加組織などに多様な形態がある。また、集積の形成には長い時間がかかるため、産業集積そのものが地域の資源となっている。
3. 地域における産業集積の力を高める4つの要素
10の実例をみると、産業集積の効果については、(1)地域としての危機意識と実行力、(2)地域資産を活用する産業の選択、(3)多様な連携を推進する機関、(4)起業、中小企業を支援する仕組みの4つが主な要素として働いていることが分かる。
地域経済の状況をみると、多くの地域において景気持ち直しの動きが続いているものの、各地域において製造拠点の整理と移転、開業率の低下、完全失業率の上昇、地価の下落など中長期的な活力の低下を示唆する現象が続いている。中小企業を中心に地場製造業、流通業、地域商店街が、グローバル化と高度情報化の流れにおいて、生産性の改善と競争力の向上に苦慮する中、地域経済の活力の一層の低下が懸念されている。
こうした状況を受けて、地域経済の活力の回復あるいは地域経済の再生が重要な課題となっているが、グローバル化と高度情報化の中において、国際競争力の向上を迫られているのは、日本の地域産業ばかりではない。他の先進工業国においても同様に、あるいは以前から、多くの地域経済及び中小企業が衰退の危機に直面してきた。
このような国々をみると、地域経済の再生に成功した地域においては「クラスター」を活用して、地域の産業と企業の生産性と競争力を高めている。クラスターとは、産業集積のうち、多くの企業や関係組織が、競争しつつ同時に協力し、共通性や補完性により連結している産業集積のことである。より狭義には、競争力を左右する要素である革新(イノベーション)に着目し、「イノベーションを促進するタイプの産業集積」を意味する。
地域経済の成長は、そこに立地する産業ひいては企業の生産性を基盤とし、その生産性は、企業が生産する財・サービスの競争力によって左右される。そして、先進工業国においては、財・サービスの競争力は、製造技術、生産管理、販売など企業活動についての幅広い革新(イノベーション)の果たす役割が大きい。このため、イノベーションを促進するタイプのクラスターが、地域産業の再生の重要な手段と認められてきている。
日本においても、地域における集積が「クラスター」へと転換してゆくことが、地域産業の競争力の向上、そして地域経済の活力の回復につながるものと期待されている。
第1章においては、このような観点から地域における産業集積の活性化に向けた動きを取り上げる。第1節では、地域における産業集積のメリットを活用し、従来型の集積を活性化してクラスターに転換するための動きを取り上げる。第2節では、集積のメリットを活用して、地域の活性化に取り組んでいる各地域の実例を取り上げる。