第2部 第1章 第4節 構造改革の影響が顕在化しつつある地域経済
1.進展が顕著になった構造改革
2000年度から2001年度前半にかけては、地域経済において経済構造の転換にまつわる現象も数多くみられた。その代表的なものが、外資系企業による大型商業施設の開業、製造業の流通業への進出など、流通分野における構造変化である。こうした流通業の構造変化は、衣料品、食品、雑貨などの小売価格の大幅な低下を招き、「デフレ現象」の原因の一つとなった。また、ハンバーガー、牛丼などの外食産業のチェーン店において価格競争も本格化した。
こうした価格競争において中心的な役割を果たしているのが輸入品である。とりわけ中国などの東アジアからの輸入は、日本企業による開発・指導による品質の向上もあって、繊維製品、生鮮野菜などが増加し、日本市場に浸透した。このため、タオルなどの繊維製品、ネギ、イグサなどの生産地は本格的な国際競争に直面することになり、一部ではセーフガード(緊急輸入制限措置)を暫定的に発動することになった。一方で、上記の品目を利用する業種では輸入品が価格競争力にプラスとなっているということも事実であり、セーフガードの適用にはこの面からの配慮も必要である。
また、企業のリストラと倒産によって失業が増加したことも構造転換を反映するものであった。地域金融機関の破綻による連鎖倒産も多く、バブルの後遺症は依然として続いている。2001年前半のIT関連産業の業績悪化とそれを受けた大企業のリストラ計画は、循環的な要素もあるとはいえ、日本型終身雇用システムの転換を示唆する事象であり、多くの勤労者にとって雇用不安が高まっている。とりわけ、年功序列賃金によって中高年層の賃金はおおむね高めになっており、この賃金の高さと、採用の年齢上限の慣行が中高年の再就職の障害となり、雇用不安が本人とその家族に広がっているとみられる。そして、新しい技能の習得が中高年には難しいという要素も加わり、構造改革による変化が、消費マインドの低下を通じて成長を困難にするというメカニズムが、日本型労働システムによって組み込まれており、この点に十分な配慮が必要ということが指摘できる。
2.本格化した流通の構造変化と地域への影響
90年代はじめから始まっていた流通の構造変化は、90年代後半に加速した。100円均一の品揃えで売上を急速に伸ばしたD社、そして製造直販によって小売価格を破壊的に引き下げて成功したF社は、その代表的な成功例といえる。2000年後半から2001年前半にかけてもこの動きが継続した。そして、2000年末から2001年1月にかけては、大店立地法への移行期間が終了する前の駆け込みによって、コンビニエンス・ストアの開店ラッシュが発生した。また、外資系大規模ショッピングセンターも相次いで開業し、流通業における価格競争が一段と活発化した。
2001年4~6月期以降は、出店ラッシュの影響はやや小さくなってきているものの、2001年前半からは、牛丼チェーンやハンバーガー・チェーンなどの外食産業において価格競争が活発化している。こうした動きは、地域における小売価格の一層の低下を促し、消費者の購買行動が、さらに価格感応的になる要因にもなっている。
こうした流通の構造変化の背景には、アジアからの輸入品の浸透がある。中国からの輸入品の高品質化と日本企業との接点の拡大は、これまでの取引慣行を含めたビジネスモデルの変革をせまるほどの影響力を持つものであった。輸入品の浸透は、どの地域においても国際競争を顕在化し、すべての下請け企業にとっての価格引き下げ圧力として働いた。その結果、地域の中小企業の経営は難しくなり、地域経済にとっても景況感と雇用情勢の悪化につながっている。
3.進行する不良債権処理と企業のリストラ
バブルの後遺症も依然として地域経済にとって大きな負の要因となった。バブル期の過剰債務に倒れたそごうデパートが各地域の中核都市において閉店したことは、その地域の消費と雇用の両方に対してマイナスに作用した。
バブル期に各地域に作られたリゾート施設の経営不振も地域の経済に負担となっている。特に、2001年1~3月期に破綻した宮崎のリゾート施設など第3セクター方式で地方自治体が出資しているものも少なくなく、地方の財政運営に大きな負の影響を与えている。そして、近畿、北海道においては2000年後半から2001年にかけていくつかの地域金融機関が破綻し、連鎖倒産も発生しており、地域経済の活力が阻害されている。
また、2001年前半においては、IT関連業種の業況が急速に悪化したことにより大手の電機メーカーでリストラ計画が発表された。大手銀行の抱える大規模な不良債権については、その最終処理の期限が設定され、すでに大手の流通業の破綻が発生している。企業のリストラと不良債権の最終処理は、すでに地域の雇用に影響を与えているが、2001年後半以降にその負の影響が一層表面化することが懸念されている。
本節1.において述べたように、日本型雇用システムの下では、中高年の雇用不安が消費マインドの低下を通じて、成長を阻害する仕組みがある。円滑な経済構造改革のためにも、外部労働市場の拡充という日本型労働市場のシステム的転換と同時に、雇用のセーフティネットの整備によって、個人消費の萎縮を防ぐことが持続的な発展にとって重要とみられる。