第2部 第1章 第1節 2001年度前半に悪化を続けた地域経済

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1.2001年初から変調が明らかになった全国の景気

2000年4月以降、輸出と設備投資の改善により、全国的に景気が緩やかな改善を続ける中で、地域経済も地域によって多少の違いはあるものの、おおむね緩やかな改善の過程をたどった。2000年後半には輸出の減少が一部ですでに始まっていたところ、2001年に入るとIT関連産業を中心にアメリカ経済の変調が顕著になり、日本の各地域で生産の調整が始まった。2000年10~12月期には日本の実質GDPは前期比0.6%の成長をみせていたが、2001年1~3月期には同0.1%増にとどまり、4~6月期には前期比0.8%(速報)の減少を記録した。この減少の主な要因は、輸出、民間設備投資と住宅投資の減少であった。

2.ほぼ同時に3年振りに悪化した地域の景況

各地域の景況も、全国的な状況とほぼ同様の動きとなった。2001年初めまでは、おおむね緩やかな改善を続けていたが、2001年前半においては、景況が一斉に下向きになり、2001年夏までには、すべての地域において景況の悪化が明確になった(第2-1-1表)。

地域別には、有珠山の噴火による被害により2000年夏にすでに景況が下向きとなっていた北海道を別にすれば、四国と中国が他地域に先行して2000年10~12月期から景況が下向きになった。四国では、地域産業の生産拠点の海外移転により生産が減少し、個人消費も弱含んだことから、景況感は「足踏み状態」となった。中国では、アジアと欧州向け輸出の減少に加え、地震被害などによって個人消費が弱含んだことから、景況が下向きになった。

2001年1~3月期には、欧米向け輸出が急減し多くの地域で生産の調整が顕在化した。企業業績の下方修正が続き、金融システムの不安定化もあって、北関東、南関東、近畿、中国の4地域において景況判断を引き下げた。4地域以上について引き下げたのは1998年2月期以来3年振りであった。

2001年4~6月期には、欧米向け輸出が引き続き減少し、各地域において鉱工業生産の減少と企業業績の下方修正が続き、雇用情勢も悪化した。これを受けて1998年4月期以来およそ3年振りに全地域の景況判断を引き下げた。

2001年7~9月期には、鉱工業生産は多くの地域で大幅に減少した。雇用情勢も引き続き悪化し、企業収益と設備投資計画の下方修正も続いた。この情勢を受けて再びすべての地域の景況判断を引き下げたが、全地域の下方修正が2四半期続くのは、1998年4月期以来ほぼ3年振りである。

(1) 多くの地域で大幅に悪化した鉱工業生産

鉱工業生産を地域別にみると(第2-1-2図)、2000年後半までの回復期においては、中国、東海、東北の3地域の回復が顕著であった。また、関東、近畿、北陸、九州においても情報通信関連産業を中心に鉱工業生産は、改善していた。これに対して、北海道と四国においては、2000年を通じて生産はさほど目立って回復しなかった。そして、中国、東北、九州の3地域において2000年後半にかけて鉱工業在庫が増加しており、世界的なIT不況の影響はすでにこのころから現れはじめていた。

2001年に入り、IT関連業種の受注が顕著に減少したと同時に、この3地域において本格的な生産調整が始まった。2001年4~6月期には、この3地域の景況が引き続き悪化するなかで、北陸、関東、近畿において鉱工業生産が減少した。7~9月期においては、これまで自動車の生産に支えられていた東海においても減少が明確になるなど、多くの地域において生産が大幅に減少した。

(2) おおむね横ばいを続ける中で地域間格差が拡大した個人消費

個人消費の動向を大型小売店販売額でみると、2000年後半から2001年前半を通じて、すべての地域において前年比減少を続けた(第2-1-3図)。これは、商品単価の低下に加えて、顧客一人当たりの購入金額(顧客単価)が減少したことなどによる。

既存店ベース(店舗数調整済)の販売額の変化は、この期間において相次いだ開店・閉店の影響を受けている。2000年6月から大規模小売店舗法にかわって大規模小売店立地法が施行されたが、2001年1月までに開店すれば旧法が適用される移行措置が設けられたため、運用の明確でない新法の完全施行前の駆け込み出店が増加した。また、そごうをはじめ地域の百貨店やスーパーの閉店も影響し、店舗数調整前と調整済の増減幅に大きな違いが出た。

2000年後半において、いくつかの地域において百貨店販売額が前年比増加した月がみられたが、その理由として閉店セールによる一時的な売上の増加や、閉鎖した店の需要の取り込みによる増加などが考えられる。地域別にみると、関東、東海、近畿の三大都市圏と北陸、九州、沖縄では比較的消費は安定し、おおむね横ばいの状況であったのに対し、北海道、東北、中国、四国では弱含んだ。

2001年に入ると百貨店、スーパー、コンビニの販売額は、多くの地域において前年比減少幅を緩やかに縮小させた。特に百貨店販売額は、関東、東海、近畿などの大都市圏では、2001年4~6月期から前年比増加に転じた。これは、閉店したそごうの顧客の取り込みに加え、リニューアルによって来客数が回復したことや、高級ファッションブランド品の売上が好調であったことなどによるものと考えられる。他方で、地方圏の消費は依然として弱含み、都会と地方との地域間格差の拡大がみられた。

(3) 減税効果が先細り減少に転じた住宅投資

住宅投資をみると、住宅ローン減税の効果により1999年に増加した新設住宅着工戸数は、2000年後半にはその反動から、多くの地域において前年比減少に転じた。2000年末にかけては、住宅ローン減税の期限切れ前の駆け込みから着工戸数は増加したが、減税が2001年4月以降もほぼ同様なかたちで継続されることが決まると、2001年1~3月期からは沖縄を除くすべての地域で再び減少に転じた。

この背景には、地価が継続して下落しており住宅の先安感が強いこと、可処分所得も継続して低下し住宅取得能力が低下したうえ雇用の将来不安が強まったことがある。関東など一部の都市圏では、マンションの建築が好調であることから貸家は増加したものの、持家の減少を補うにはいたらず、大規模な宅地開発の始まった沖縄を除き2001年7~9月期においてもすべての地域で減少した。

(4) IT不況により急減速した民間設備投資

設備投資は、企業収益の回復を背景に、IT関連業種を中心として2000年度にはすべての地域において増加し、景気回復のけん引役となった。しかし、2001年度については、IT関連業種の業績が急速に悪化したことなどから、すべての地域において計画が前年を下回っている。北陸、中国などでは、2001年度に入ってからも電気機械製造業の生き残りを目指した合理化投資が計画されていたが、2001年夏以降にIT不況がますます深刻化するにつれ、投資計画は下方に修正されている。

(5) 基調として前年水準を下回った公共投資

公共投資は、地方単独事業が減少したことを主な要因として、公共工事請負金額は2000年度には、ほとんどの地域で前年比10%以上の大幅な減少となった(第2-1-4図)。とりわけ東北、四国、九州、北陸では年度後半に20%近く減少した。2001年度に入っても、4~7月の累計でみると、沖縄と北陸を除く地域で引き続き減少した。

(6) 厳しい状況の続いた雇用

2000年後半には、すべての地域において有効求人倍率が上昇し、雇用情勢は緩やかに改善した(第2-1-5図)。業種別では、電気機械、情報通信などのIT関連、医療・福祉関連の分野における求人が増加した。就業形態では、パート、派遣労働者に対する求人が増加した。しかし、完全失業率はほとんどの地域で過去最高の水準に高止まり、雇用情勢はどの地域においても厳しい状況が続いた。これは、求職側に中高年齢者が多いのに対し、求人側では比較的賃金の低い若年層を求める傾向のあることに加え、求人側の求める製造技術や情報技術を備えた求職者が少ないというミスマッチがあり、再就職に結びつきにくいためとみられる。

そして、2001年前半には、これまで好調であった電気機械、情報通信関連の求人が減少したことにより、有効求人倍率はすべての地域において低下した。失業率もすべての地域で上昇し、戦後最高の水準を更新した。

(7) 高水準が続いた企業倒産

2000年度には、公共投資の減少により建設業の倒産が増加した。また、バブル後遺症による流通業の大型倒産、生命保険会社、地域金融機関の破綻も相次いだ。その結果、企業倒産の件数と負債金額は、ともにすべての地域において急増した(第2-1-6図)。

2001年前半においても、大都市圏を中心に倒産件数と倒産負債総額は増加を続けた。地方圏においては中小企業に配慮した金融緩和措置もあって倒産件数は若干落ち着いているが、景気の悪化を反映して件数、負債総額ともに高水準が続いている。

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