第1部 第2章 第3節 企業と市場の成長を通じて創出される地域の雇用

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1.地域の特徴的産業に多い成長企業

バブルが崩壊した後の90年代以降、企業を取り巻く環境は依然として厳しいものがあるが、そのような中にあっても着実に売上を伸ばしている企業も数多くみられる。以下では㈱帝国データバンクの企業概要ファイル(6)をもとに最新年売上高5億円以上、98~99年の2年連続売上高伸び率10%以上といった条件の下、全国約116万社の中から抽出された11,540社について前年との比較をまじえながら、地域別の分布などの特徴をみていくこととする。

(1) 南関東を中心に偏りのみられる成長企業の分布

まず、成長企業の地域別分布をみると(第1-2-26表)、企業数で南関東に40.3%、近畿に15.8%、東海に8.7%が分布し、これら3地域で64.8%を占めており、前年の66.8%と同様、依然として南関東を中心にこれら3地域への集中がみられる。これを売上高からみると南関東への集中がより顕著となり66.6%が集中している。これは1社当たり売上高が南関東の場合、約122億円と他地域に比べて高くなっているためである。従業員数でみても南関東に50.1%が集中し、近畿、東海を加えた3地域で71.5%を占めている。

次に地域別に成長企業の主な業種の構成比並びにその前年からの変化をみると(第1-2-27図)、上記3地域では建設業の構成比は低く、地方圏で高くなっている。前年との変化をみると、北陸、四国などの構成比は低下しているものの、北海道、東北、中国などではむしろ高まっている。製造業についてみると、北関東、東海などで高く、北海道、南関東などで低くなっている。前年と比較すると北関東を初め、多くの地域で低下している。卸売業は南関東、近畿などの構成比が高く、中でも近畿では成長企業の約3割を卸売業が占めている。一方、小売業では、南関東での構成比がやや低いものの、各地域ともほぼ一定の構成比となっており、前年と比較すると、構成比が高まっている地域が多い。サービス業についてみると、南関東での構成比が最も高くなっている他、北海道でもサービス業の構成比が高くなっている。前年と比較すると、僅かに構成比を高めている地域が多いものの大きな変化はみられない。

(2) 地域の主力産業に多くみられる製造業の成長企業

さらに製造業について、主な業種ごとに成長企業数を地域横断的にその構成比をみると(第1-2-28図)、総じて南関東、東海、近畿の構成比が高いものの、その地域の主力産業の中に成長企業が多くみられる。例えば飲食料品・飼料製造では、九州・沖縄が、窯業・土石製品製造では、北海道や中国の構成比が相対的に高い。同様に金属製品製造では、北関東が、電気機械器具製造では、東北や北関東の構成比が高く、輸送機械では、東海が、高くなるなど、地域で比較優位をもっている産業に成長企業が集中する傾向がみられる。これは地域内の産業集積地において部品調達などの面で企業間ネットワ-クが構築され、こうしたネットワ-クを通じて技術面、販売面での連携が強化され、関連企業の成長が促進されているものと考えられる。

(3) 地方で強いニーズのある生活・福祉サービス

サ-ビス業についても、主なサービス分野ごとに成長企業数を地域横断的にその構成比をみると(第1-2-29図)、まず、各サービスとも概ね製造業に比べて南関東、東海、近畿の構成比が高くなっていることが分かる。広告・情報サービスなどの事業所向けサービスは、南関東の構成比が極めて高い。これは都市機能の集積している大都市に事業所が集まり、こうした事業所向けにサービス需要が生まれているものとみられる。これに対し、旅館・ホテル、洗濯・理容・浴場などの個人向けサービスや医療、保険衛生、教育などの生活・福祉関連サービスは相対的に地方圏の構成比が高くなっている。また生活・福祉関連サービスは、ニーズがおおよそ人口に比例して決まるものとみられ、人口の地域別構成比とほぼ等しい構成比となっている。

地方圏においては、人口の高齢化が進んでいること、これまで地方自治体が計画的にサービスを供給し民間企業の参入が進んでいなかった分野だけに十分なサービスの供給体制が整っていないことを考え併せると、高齢者介護等のサービスは、今後、地方において一層の需要の拡大が見込まれる分野と言えよう。

(4) 求められる市場の特質を見極める能力

成長企業の分布は、人口が集中し大きなマーケットを持ち、加えて交通等のインフラ面が整備され都市機能の集積がある大都市に集中する傾向がみられる。マーケットが大きいこと、そのこと自体が企業活動にとっては有利な条件であることは言うまでもない。しかし、地方の成長企業の創出を考えるとき、市場の規模にのみ目を奪われることは戦略を間違えることになる。成長企業の実際の事例を詳しくみると、製造業においては比較優位を持つ地方の産業集積地で互いに連携し、切磋琢磨する過程で成長していく企業が数多くある。サービス業をみると、地方では、本格的な高齢社会の到来を迎え生活、福祉の分野で強いニーズがあることもみた。要するにマーケットの規模ではなく、その特質に目を向け、市場の求めるニーズを的確に把握し事業化していく能力が求められていると言えよう。

2.差別化、潜在ニーズ開拓、先進化に分類される成長企業

先にみたように成長企業の分布は人口集積のメリットを活かせる大都市圏に集中する傾向がみられたが、地方においても様々な工夫を凝らし、未知の分野に挑戦する活気ある企業が数多く存在する。企業が成長するに際しては、企業内における取り組み方や企業を取り巻く環境の変化など様々な要因が関連しあっていると考えられるが、このような元気企業の成長要因を整理してみると、[1]地域の気候や風土、特産品の利用など地域の特性を活かして差別化された商品開発を行っている事例(差別化戦略)、[2]市場にある潜在的なニーズに気が付いて、新たな商品またはサービスを提供することにより、消費者の支持を確保した事例(潜在ニーズ開拓戦略)、[3]技術、研究開発の分野に注力した製品開発を行うことにより市場における競争で優位を保っている事例(先進戦略)、のおおむね3つに分類できるであろう。

以下ではこうした3つ分類にしたがって、成長企業12社の事例を紹介する(7)。なお、枠内の企業データは2001年3月末調査時点のものである。

(1) 地域の特性を活かして成功した事例

事例1 A社【北海道】 菓子製造

〔資本金〕6100万円 {従業員数}119名 {年間売上高}53億円

自社ブランドで生チョコレートを主力に菓子の製造、販売を行っている。北海道の気候や風土は洋菓子作りの本場ヨーロッパに似ており、北海道の原材料を使用した独自の企画による高品質志向のチョコレート作りが消費者の嗜好にマッチしたものと思われる。

カカオ分100%のピュアチョコレートを初め、96年からは、他社のチョコレートに比べ粉乳を減らし、生クリームを多用することにより、ソフトな味の生チョコレートを製造、販売している。A社の生チョコレートは、チョコレート全体の4分の1以上を生クリームやリキュールを使用しているため水分の含有量が17~18%で、口当たりの柔らかいソフトな味を生み出している。この他クッキー・ガレットも人気商品となっている。

販売ル-トとしては、当初は問屋筋への販売が難しかったことから、直営店を展開し、また、ダイレクトメールによる通信販売にも注力し、通販ユーザーは現在30万人を超えている。

事例2 B社【北海道】 木造建築工事業

〔資本金〕8500万円 {従業員数}12名 {年間売上高}18億円

木造住宅の建築工事を主な業務としている。芦別産の材木にこだわりをもっており、高品質ながらあまり知られていない北海道産の木材をアピールするためB工務店の企画営業部門を切り離す形で、97年に起業した。

97年は北海道拓殖銀行が破綻するなど北海道経済は非常に厳しい状況であった。北海道産の材木においても安い外国産材木に押され、産地は非常に停滞していた時期であった。その後芦別市内の林業関連企業を組織化し、木材の安定供給体制を整えた。また、シックハウス症候群などの住宅に関する問題が表面化していた時期でもあったため、産地直送システムによる良質の天然木を使用した住宅が消費者のニーズを捉えたものとみられる。地元北海道の天然木に着目した品質志向が成功の鍵になったものとみられる。

事例3 C社【徳島県】 野菜果実缶詰等製造

〔資本金〕1000万円 {従業員数}38名 {年間売上高}14億円

徳島県特産のスダチを利用したスダチ飲料、ハチミツの販売、ザクロ・ブルーベリー飲料等の製造販売を手掛けている。

C社の社長は養蜂会社の経験があり、ハチミツだけでなく徳島県の特産品であるスダチをハチミツの利用促進に応用できないかと研究し、87年にスダチ・バーモントとして商品化したものである。スダチは用途としては調味料的なものとして利用が限られていたが、スダチ・バーモントの開発により、飲料としての利用が拡大していった。また、健康ブームもありザクロ飲料、ブルーベリー飲料も売上を伸ばしている。

販売ルートとしては、百貨店の展示販売とリピーターを対象とした通信販売が中心となっている。東京と横浜の百貨店に2店の直営店をもつ。

事例4 D社【沖縄県】 製茶業

〔資本金〕3500万円 {従業員数}23名 {年間売上高}6億円

県内特産のギンネム、ウコンを原料に健康茶の製造を行っている。製造卸を中心にしているが、通信販売での直販も徐々に伸びている。

県内各地に自生するマメ科の亜熱帯木であるギンネムを有用微生物の作用により独自の発酵技術で天然ミネラル飲料として商品化し、また、その技術をウコンにも応用してティーバッグタイプの飲料や粒状タイプにして商品化した。また、2000年からは、発酵ウコン入りレトルト食品を販売している。商品化に際して琉球大学との共同研究に負うところも大きい。

オリジナル商品だけに認知度に欠けるところがあり、これを補うために商品の生理機能を科学的に説明するため、そのデータを積極的に報道機関や学会に発表してきた。

(2) 新しい需要を開拓して成功した事例

事例5 E社【東京都】 労働者派遣業

〔資本金〕2億3900万円 {従業員数}335名 {年間売上高}16億円

特定分野の労働者派遣事業を行っており、メーカーの品質保証や生産技術の確立などの技術系の受託業務を請け負っている。主に研究開発・設計業務を担当するエンジニアリング事業と品質保証、評価、解析などを担当するテクニカル事業から成っている。

設立当初は、家庭教師派遣業を目的としていたが、関係会社で行っている軽作業請負業務の顧客から技術系の業務受託の照会が続いたことから、E社でこの種の業務を行うこととし、99年以降、現在の業務へ移行していった。特に品質保証、評価、解析などを行うテクニカル事業部門のアウトソーシングを担うのは、E社が先駆けといわれている。

事例6 F社【東京都】 理容業

〔資本金〕6000万円 {従業員数}50名 {年間売上高}10億円

10分、1,000円のヘアカットのみの理容業の専門店チェーンを展開している。欧米では、衛生面、感染症疾患等の影響もあって、ヘアカット・サービスだけの店が増加していることから、日本でもそうなるのではと考え、95年に事業化を決定し会社を設立した。その後、話題性のあるニュービジネスとして利用客が増大している。大都市のビジネス街と駅に出店することでサラリーマン層に受け入れられたことが大きかった。"

必要なサービスだけ(ヘアカットのみ)を提供し、他のサービスは省略し、支払は券売機を利用してもらい、店内にはテレビ、雑誌類は置かずに、コスト削減を図っている。しかし、衛生面には十分配慮して、くし、ネックタオルは顧客ごとに使い切りにしている。

事例7 G社【広島県】 商業写真業

〔資本金〕1億9100万円 {従業員数}95名 {年間売上高}11億円

葬儀業者を顧客にデジタル処理を施した鮮明な葬儀用写真を送信するデジタル処理配信サービスを主な業務としている。G社の社長は写真館の社長も兼務していたが、地味婚ブームにより、冠婚部門を対象とした写真業の経営に不安を持っていたところ、高齢社会の到来もあり、葬儀用写真事業の研究を強化していった。写真のデジタル修正業務を積極的に進め、94年から葬儀用写真のデジタル配信サービスを開始した。G社は、この業務を引継ぎ、95年に葬儀用写真のデジタル配信サービスを目的に設立された。

現在は、透過性のある写真、追憶ビデオ事業に加え、パーソナルブックを作成する事業を研究中である。

事例8 H社【香川県】 書籍、雑誌小売

〔資本金〕4億8500万円 {従業員数}135名 {年間売上高}55億円

古本売買、中古ファミコンソフト・ハード売買などを行っている。取扱高のシェアは古本売買45%、中古ファミコンソフト・ハード売買30%、CD売買16%、中古衣料・雑貨売買他9%となっている。

設立当初は、ファミコンソフトの売買からスタートしたが、95年ごろから中古のゲームソフトの売買が不振となり、経営が苦しくなってきた。そのような状況下で新ビジネスとして、古本販売に転換した。苦しい時期もあったが、ベンチャーキャピタルからの資金調達もあり、現在の基礎を築くことができた。古本売買は、大手の参入がないこともあり、ゲームソフト売買のノウハウを活かし全国展開を行った。

古本売買関連の出店が一巡した後は、中古衣料や雑貨売買に注力する予定である。

時流の変化に敏感に対応して新しい分野に進出する一方、見切りをつけるタイミングも早く、速やかに次の事業へと転換していく特徴を持っている。

(3) 技術開発力を活かして成功した事例

事例9 I社【岩手県】 パッケージソフト業

〔資本金〕5億1900万円 {従業員数}325名 {年間売上高}46億円

コンピュータソフトのシステム開発を中心に、コンサルティング、プランニングまで業務を拡大し、コンピュータハードの販売も手掛けている。システム開発の主力は、医療・福祉分野であり、老人保健施設等の業務全般を一括管理するパッケージソフトの開発や在宅福祉事務用ソフト、また、自治体向けの福祉総合システム開発も行っている。

設立当初の83年には、コンピュータ販売のためのパソコンショップとしてスタートしたが、パソコンは当時としては高価な商品であり、地方都市ではこの種の需要に乏しく、結果的にソフト開発に特化していったものである。特に他社に先駆けて高齢社会に対応した医療・介護の分野でシステム開発を行ったことが成功のきっかけとなっている。また、98年にはソフトの著作権を担保とした資金調達が実現し、他からの資金調達にも有利に働き、業務拡大への道筋が整った。

事例10 J社【愛知県】 集積回路製造

〔資本金〕3000万円 {従業員数}152名 {年間売上高}300億円

IC、半導体など電子デバイス、コンピュータ周辺機器の開発、製造を行っている。メモリーボードでは、後発ではあるが、技術、開発力は対外的にも認められ、半導体ディスクは独自のノウハウを持っている。また、フラッシュメモリーは誤作動が少なく、デジタルカメラや情報端末などへの用途が広がっている。

創業は1927年と古く、その後1954年から精錬業を続けてきたが、社会的に公害問題などが起き、1983年ごろから業種転換を行った。

事例11 K社【広島県】 電気計測器製造

〔資本金〕2億0100万円 {従業員数}65名 {年間売上高}18億円

プリント基盤検査装置、プリント基盤調整装置、テスター等の電子応用測定装置の製造を行っている。

非接触テスターのパイオニアになることを目標にスタートしたが、当初は知名度も低く受注に結びつかなかったが、徐々に、技術力の高さが認められ、以後業容を拡大することができた。携帯電話の内部にある半導体の基盤装置は小型化されており、従来の接触テスターで検査針を当てることは不可能になってきていたが、非接触テスターを使用すると、パーツの破損も防げることが注目され、受注の拡大につながった。

事例12 L社【佐賀県】 電子応用装置製造

〔資本金〕9800万円 {従業員数}147名 {年間売上高}68億円

メカトロニクス、FAシステム、配電、制御盤製造を業務としている。売上構成では、メカトロニクス部門が9割近いシェアを占め、同部門の中ではCD-R、CD-RWなどの情報記憶装置関連の生産設備製造が8割を占めている。また、光ディスクの生産設備では、世界トップクラスの性能を誇る製品を開発している。

主力のCD製造装置が完成したのが97年で、この当時のCD1枚当たりの生産スピードは、5.5秒であった。さらに装置の改良を急いで進め、現在1.8秒と世界最速を達成した。また、2000年には、液晶生産技術に関し新事業創出促進法に基づく認定を得ている。

3.サービス業の展開が左右する地域の雇用拡大

地域の雇用を創出するためには地域の企業が創出されることが推進力となるが、現状は地域の開業率は低下が続き、多くの地域で廃業率が開業率を上回る状況になっている。ここではその原因を探るため、地域における開業と廃業の実態について分析し、企業が地域の雇用をどのように創出したのかをみる。

(1) 低下した開業率、減少した事業所数

第一次産業を除く企業の開業率、廃業率は、80年代以降開業率が長期的に低下している。特に90年代に入って廃業率が開業率を上回ったため事業所数は減少し、近年では廃業率が高くなるとともに減少幅が広がっている。また、欧米諸国の開業率と比較してみても、日本が最も低い。

(2) 人口集積地において高いサービス業の開業率

[1]地域間格差よりも業種間格差が大きい事業所増減率、従業者増減率

総務庁「事業所・企業統計調査」により、96年から99年までの期間について開業率、雇用創出率(第一次産業を含む、民営、以下同様)、事業所数、従業者数の状況を分析する(第1-2-30図)。まず、業種別にみると、製造業と建設業の開業率、雇用創出率が低く、卸売・小売、飲食店、運輸・通信、サービス業の開業率、雇用創出率が比較的高いことが分かる(第1-2-30図1)。

これを地域別にみると(同図2)、沖縄では開業率と雇用創出率が高く、従業者数の減少率も比較的小さい。次いで南関東、近畿、九州の開業率と雇用創出率が高い一方で、北陸、北関東、東北で低かったことが分かる。事業所増減率、従業者増減率をみると、地域間では大きな違いがみられないものの、業種間では比較的大きな格差がみられる。

雇用創出率を業種別に分解し、それを地域別にみると(同図3)、卸売・小売、飲食店、サービス業の寄与度が高く、製造業、建設業の寄与度が比較的低いことが分かる。そして、南関東や沖縄など、卸売・小売、飲食店、サービス業の寄与度が高い地域において開業率と雇用創出率が高いという傾向がみられる。

さらに詳細な業種分類(8)に基づき、事業所増減率の高い業種と低い業種を抽出してみる(第1-2-31表)。上位10業種をみると(同表1)、運輸・通信業に属する電気通信業、卸売・小売、飲食店に属する飲食料品卸売業、各種商品卸売業、その他の卸売業を除く6業種が大分類のサービス業に属する。一方、下位10業種には大分類の製造業、卸売・小売、飲食店に属する業種が多く含まれる(同表2)。これを従業者数についてみると、上位10業種には、大分類の卸売・小売、飲食店に属する、飲食料品卸売業、一般飲食店が含まれる。他方で各種商品小売業、その他小売業、建築材料卸売業は、下位10業種に含まれている。同一業種において二極化現象がみられる。

[2]都市部の特徴を持つ開業率の高い地域

次に、開業率(全産業平均)の上位10都道府県(9)とそれ以外の都道府県について、開業率、廃業率、事業所増減率、従業者増減率を業種別にみる(第1-2-32図)。開業率が比較的高い地域では廃業率も高く、開業率が低い地域では廃業率も低い傾向があり、その結果、図中のどの業種についても2つの地域グループの間で事業所増減率に大きな差はみられない。また、図中の業種についてみると、開業率上位10都道府県の方がその他都道府県グループよりも従業者数の減少率が大きい傾向がみられた。さらに、事業所増減率の高い業種をみると(コラム参照)、都市圏において事業所が増加する一方で、従業者数の方はむしろ地方圏において増加していることが分かった。

次に、開業率の高い地域の特徴をさらに詳しくみてみる。都道府県の人口増加率と開業率の関係をみると(第1-2-33図)、91~94年では大きな関係はみられないが(同図2)、96~99年では人口が増加した都道府県で開業率が高かった(同図1)。ところが、従業者増減率と人口増加率、そして従業者増減率と開業率をみると、特に相関がない(同図3・4)。これは、開業率の高い地域では、製造業からサービス業へ雇用者のシフトが進み、1事業所あたりの従業者数が減少していることによる(10)。また、製造業の立地は地域人口の増減とは必ずしも関係が強くないが、卸売・小売、飲食店、サービス業は地域人口が重要な要素となっている。開業率の高い都市部へ人口が回帰していることも一因である。一方、開業率の高い都道府県では廃業率も高いため従業者の増加には結びついていない。

このように開業率が高い地域は、人口増加率が高く、サービス業、卸売・小売、飲食店の開業しやすい都市部の特徴を持つ地域であることが分かった。と同時に、このような地域においては競争によって選別される企業も多いため、従業者数は必ずしも増加しなかったとみられる。

(3) 日本に比べてサービス化への転換が進んでいる米国の雇用構造

雇用者増加数の多い業種を日米で比較してみると(第1-2-34表第1-2-35図)、日米ともにサービス業、飲食店での雇用者が増加している。ただし、米国では、人材派遣業、IT関連業種など構造の変化や、医療などサービスの高度化によって需要が増加した分野において雇用が増加した。一方、日本では、飲食店、小売業など、公的規制など参入障壁の少ない分野において雇用が増加した。

就業者の産業別構成比を比較すると(第1-2-36図)、対地域・社会・個人サービスの構成比が、米国では約35%に対して日本では約24%と大幅に低い。職業別構成比をみると、日本では生産・運輸・労務職、事務職が米国よりも高く、専門・技術職、管理職、サービス職が低いという特徴がみられた。

(4) 開業企業の業種の広がりと地域の雇用の創出

これまで開業、廃業と雇用の創出についての分析を行ってきた。業種ごとにみると、サービス業などの開業率の高い業種は雇用を創出したことが分かる。ところがこのような業種では、都市部を中心とした開業率の高い地域でむしろ雇用が減少し、開業率の低い地方圏で雇用を創出した。

雇用を創出している業種は、サービス業、卸売・小売、飲食店などの人口集積地において開業しやすい業種が中心となっている。成長を期待できる業種が、まず都市部を中心に開業率を高めるものの、競争によって選別される企業も多い。一方で、その競争に勝ち残った企業は、他地域でも生き残っていくだけの競争力と戦略を備えている。同じ業種において、多くの企業の参入と競争が都市部と地方で展開される過程を通じて、上のような現象が発生したと考えられる。

米国との雇用構造の比較でみたように、構造の変化やサービスレベルの高度化による需要創造が行われるような業種は、今後日本でもある程度成長が期待できるとみられる。これらの業種には、人口密集地において開業しやすい業種が多く、初期の段階では都市部に多く開業されるとみられる。そして、その業種が次の成長段階へ移行するにつれて、都市部で競争力をつけた企業がその周辺地域、地方圏において雇用を創出していくということが考えられる。

<コラム>事業所増減率が高い業種の特徴

(1) 携帯ショップの地域への広がり方にずれが生じている電気通信業

電気通信業の小分類の業種についてみると(第1-2-37図)、電気通信に附帯するサービス(携帯ショップ)では、東海、中国で事業所増減率がかなり高いが南関東、九州は低い。電気通信に附帯するサービス(携帯ショップ)の事業所数の推移を時系列でみると(第1-2-38図)、南関東、九州では96年時点で既に事業所が多く存在しており、これが第1-2-37図でみたように、96年から99年にかけての伸びが他の地域に比べ劣っている要因となっている。まだ事業所数の多くない東北、北陸、四国等の地域では、これ以降に伸びが高まっている可能性がある。また、徐々に事業所数を伸ばしてきた最需要地である南関東の99年の事業所数が、急激に事業所数を増やしている東海、近畿の事業所数より少なくなっていることも注目される。携帯電話のように急激に普及する商品を扱う業種の場合、事業所の増加の度合いは、地域によって時期のずれが生じるものと考えられる。

電気通信業の従業者増減率をみると(前掲第1-2-37図)、電気通信に附帯するサービスでは、北海道、東北、中国、四国など、地方圏で従業者数が増加した。一方で、NTT再編による各事業部の別会社化に伴い、情報サービス業、電気通信工事業へ多くの従業者が出向・転籍になり、結果として国内電気通信業の従業者数は大幅に減少した。電気通信業全体では、事業所数が大幅に増加しているにもかかわらず従業者数は減少している。(11)

(2) 地方圏で従業者数が増加した、事業所増減率の高い業種

社会保険・福祉業について詳しくみると(第1-2-39図)、北海道の児童福祉事業、東北の老人福祉事業の開業率が特に高い。また、全国的に児童福祉事業、老人福祉業の従業者増減率の業種別寄与度が高い。東海の事業所増減率は特に高いわけではないが、従業者数は各業種とも増加し、従業者増減率は全国で最も高い。

情報サービス業について詳しくみると(第1-2-40図)、南関東、東海、近畿、沖縄で開業率が高く、事業所の増加は三大都市圏で著しい。また、特にソフトウェア業の事業所増減率が全国的に高い。従業者数増減率の業種別寄与度をみると、全国的にソフトウェア業、情報処理・提供の寄与度が高い。事業所の増加が三大都市圏で著しい一方で、従業者増減率は北陸等の地方圏で高い。北関東、四国では従業者数が減少している。

医療業について詳しくみると(第1-2-41図)、沖縄で開業率、事業所増減率が高い。小分類でみると、その他の医療業では全国的に事業所増減率が高い。病院、その他の医療業は、新設事業所構成比が低いものの従業者増減率の業種別寄与度が高い。医療全体で約13万8千人増加しているが、その内訳をみると、病院で約7万1千人、その他の医療業で約4万5千人と、新設事業所構成比の高い一般診療所の約2万6千人を大きく上回っている。また、その他の医療業の寄与度は、東北、北陸、四国など地方圏で高い。

(3) 新規求人数の比率も高まっている情報サービス業

雇用者数に対する新規求人数の割合を業種別に時系列で追ってみると(第1-2-42図)、全産業では93年まで減少傾向にあったものの、このところ一進一退で推移している。製造業、建設業は緩やかな低下を続けている一方で、サービス業は93年以降上昇に転じた。これまでみてきた事業所増減率の高い業種については、医療・教育・福祉では緩やかに上昇を続け、情報サービス業等は93年以降著しく上昇した。

4.地域の特性と市場の開拓を通じた雇用の創出

(1) 規制改革、技術進歩、地域特性の分野における雇用創出

言うまでもなく、雇用の創出には仕事の創出が必要である。しかも、その仕事は経済社会のニーズにかなったものでなくては、長期的な雇用の創出にはならない。ある仕事が経済あるいは社会のニーズにかなっているかどうかは、いくつかの例外はあるものの市場メカニズムを通じて判定されることが基本となる。また、仕事をもたらすものは、主に企業であり、その企業の集合体としての産業であって、企業及び産業が成長することが、雇用の創出につながる。このように、企業あるいは産業が、市場メカニズムを通じて成長することが、長期的な雇用の拡大につながるという点が強調される必要がある。

今後どのような分野で新規の雇用が創出されるのだろうか。市場経済においては自由競争を基本とするため、どのような分野の企業、産業が成長して雇用が創出されることになるのかは予想できるものではないが、次にあげる理由からある程度は雇用の創出が期待できる分野がある。

それは、[1]これまで市場機能が必ずしも活かされなかった分野、[2]技術進歩によりこれまで存在しなかった財・サービスが出現する分野、そして[3]地域の特性を活かした競争力の高い分野の3つである。[1]においては、規制改革によって産業が活性化され雇用が増加する可能性があり、[2][3]においても規制などが妨げとならない限り、新規の雇用の増加をもたらすと考えることができる。

[1]規制改革によるもの

規制改革によって産業が活性化される可能性のある分野には、いままで規制によって需要と供給が管理されているものがある。これにはこれまで公的部門が供給の主役となっていたものも含まれる。すなわち規制によって財・サービスの種類、供給量、価格を抑えている場合、需要と供給のミスマッチなどから、潜在ニーズが十分に発現していない場合が考えられる。また、公的部門が供給を独占している場合も、同様に需給のミスマッチが考えられる。

規制改革の主な対象分野としては、物流、通信、放送、農業などがあげられ、この分野の改革が進むことが雇用の創出につながることが期待される。これ以外にも、医療、社会福祉、介護などの医療・健康(ヘルス)分野、学校、職業訓練などの教育分野、そして職業紹介、職業派遣などの雇用関連分野があげられる。また、芸術、スポーツ、国際交流などの文化(カルチャー)分野、さらには都市と地方の観光交流やレジャーの分野においても潜在的な需要があるとみられる。

米国の90年代の経験をみても、雇用の拡大を支えたのはサービス分野であり、とりわけ医療、社会福祉、職業派遣などが情報サービスなどと並んで大きく増加している(前掲第1-2-34表)。これまでの成長企業の分析、開業の分析をみても、比較的規制の緩い卸売・小売、飲食店業の開業率が他分野よりも高いなど、公的規制が開業率に与える効果は大きいものとみられ、規制改革により他分野の開業率が上がれば、雇用も誘発されることを指摘することができる。

[2]技術の進歩によるもの

技術進歩は、新しい財・サービスの供給を可能にし、潜在的なニーズを発現させる。例えば、通信の技術進歩は、これまで実用化されなかったサービス(例えば画像の送受信)を供給し、遠隔医療、遠隔教育、遠隔勤務、テレビ会議などに対する潜在需要を顕在化させることができる(12)。

ただし、医療や教育についての規制が新しい技術の応用商品・サービスの供給を妨げる場合には、ニーズは顕在化しない。とはいえ、そもそも新商品の供給が可能な新技術が存在しなければ潜在需要が実現することはありえないので、技術進歩が需要そして雇用の拡大に及ぼす影響は大きい。この分野に含まれるものとしては、情報技術(IT)関連の製品とサービス、バイオ関連などがあげられる。

[3]地域の特性を活かすもの

地域における雇用の創出とその安定には、その地域の企業及び産業の競争力が確保される必要がある。地域の企業の競争力は、地域の資源の比較優位に応じて決まる。自然条件、人的資源、技術力、資本蓄積、産業集積などがその要因となる。いわば、地域の特性を活かした企業が高い競争力を維持し雇用を確保するとみられる。

その際に重要なことは、高い技術力と高度な人材、そして資金を確保することに加えて、高度な情報力と戦略性を兼ね備えることである。全国的な状況を観察して追随する戦略よりも、地域の独自性を発揮して他企業とは差別化する戦略の方が、長期的には事業の収益性を高める時代になっている。

(2) 「対等なネットワーク」による雇用創出

これまでみたように、日本経済が直面している問題は大きく、従来の政策の延長では対応しきれないと思われるほど、厳しい状況にある。これまで何次にもわたり地域開発政策がとられてきた。そうした従来型の政策の効果については十分に検討されたとはいえないが、地域の特徴を十分に活かしてきたかという点についても疑問が多い。効果のあまり期待できない政策をこれ以上繰り返すよりも、この厳しい状況に際して、思い切った戦略の転換を検討するべきである。そのためにも、これまでの地域開発政策の効果を評価し、欠点を修正してゆく必要がある。そして、地域振興を阻害する要因を取り除くことが重要とみられる。

評価する方法により意見は異なるが、これまでの地域開発政策には、次のような問題点があったと指摘することができる。[1]市場メカニズムを軽視した人為的な介入に大きく依存していた。[2]環境変化と技術進歩を過小評価し大きな予測誤差が損失をもたらした。[3]地域の産業構造に対応しない不連続的な構造変化を必要とする施策があった。自律的な地域産業の振興を促すには、このような欠点を是正した上で、政策を推進することが重要である。

また、いうまでもなく地域開発政策だけでは、雇用の創出に十分ではない。雇用の創出には、雇用ニーズの創出と、雇用ミスマッチの解消の両方が必要とされる。雇用ニーズの創出には、潜在的な財・サービスのニーズを発掘すること、新技術をニーズにあったものに商品化すること、商品を市場に導入し、新たな市場を開拓することが求められる。

このような新規市場を創発するプロセスには、それを推進する仕組みも重要となる。市場の創発には、技術―商品―消費者のそれぞれについての情報がリンクし、伝達のスピードが速いネットワークの存在が効果的である。そのためには、TLO(技術移転機関)を通じて、大学の技術が産業に活かされることが期待される。TLO方式による技術の導入はこのところ各地で増加しており、地域の大学を活性化させる効果も期待される。

また、地域に特有の事情や消費者の趣向、慣習などに詳しく、地域の消費者のニーズを的確にキャッチするだけの情報ネットワークを備えた人材の確保が重要とみられる。それには、例えばまちおこしを目的とする民間非営利団体(NPO)の役割が期待される。

更に、情報ネットワークという点では、ビジネス(Business)と学校・大学(University)と自治体・政府(Government)の連携が有効である。それぞれが技術―商品―消費者について一次情報を有するので、BUG3者間のネットワークを通じて、マネジメント、知識・技術、人材、資金が有効に組織化され、新市場が創発されることが期待される。

このBUGネットワークにおいては、3者が「対等」の立場で意見と情報を交換することが、ネットワークが有効に機能するためには極めて重要とみられる。3者が対等でない場合には、情報が歪められ、経済合理的に判断しにくくなる場合が考えられる。そして、3者間での事業リスクの負担と、リターンの分配についてのルールを明確にしておくこと、ガバナンスの構造をあいまいにせずに明確にしかも透明にしておくことも運営上必要となる。このようなBUGネットワークは一部ではすでに活動を起こし、成功を収めているが、ここにNPOを活用することができると、その効果が加速することが期待される。

(3) 貴重な先進各国の先例

米国は80年代からすでに高水準の失業を抱え、欧州も米国以上に高水準の失業率を経験した。このような欧米の経験から雇用創出の方法を学ぶことは有効とみられる。

米国では、多くの企業がBPRやITを活用して競争力の回復に取り組むと同時に、規制改革によりサービス業において雇用が創出され、失業率は低下した。米国におけるサービス分野の雇用創出を詳しく見ると図のようになる(第1-2-35図)。内訳をみると、人材派遣、職業紹介、コンサルティングなどのビジネス・サービス、トリアージュ、介護などの医療・社会福祉サービス、システム、ソフトウェアなどの情報サービスにおいて、雇用が大きく増加している。

米国では、学校における職業選択プログラムも充実しており、数千に分類された職種ごとに職種の特徴と必要な技能などの情報が集められたマニュアルが整備され、それに基づいて進路指導が実施されている。社会人になった後も、多くの地域大学(コミュニティ・カレッジ)において、職業訓練、技術教育が行われている。また、夜間大学院、通信制大学院についても幅広い選択が可能で、実際のビジネスに有益なコースが多く提供されている。このことが、起業支援のみならず高度知識人の育成に大いに役立っている。

ヨーロッパにおいては、若年層を中心に米国以上の高失業率に苦しみ、さらに冷戦後は旧ソ連圏からの労働供給の増加もあって失業率は大幅に上昇した。これを受けて、EUでは1990年代末から包括的な「雇用戦略」を実施している。それは構成国が協力して雇用の増大と失業率の引下げを図るもので、雇用体系柔軟化と起業家支援、積極的労働市場政策(ALMP)などからなる。このうち、積極的労働市場政策(ALMP)とは、失業給付と早期退職勧告からなる消極的措置よりも職業訓練など積極的措置に社会保障支出の重点を移すことで、失業の解消を図るものである。多くの国で社会保障支出の20%以上を積極的措置に当てている。また、「雇用ガイドライン」を策定し、エンプロイヤビィティの向上、起業家支援、環境変化への適応力強化、雇用機会の平等化という4つの分野について具体的な項目についてガイドラインを定めている。さらに、EU雇用協定において、マクロ経済政策と経済構造改革と雇用戦略の3つが結合され、相互に効果を高める仕組みになっている。このような欧米の対応は、日本においても参考になるもので、実際の政策においても十分検討するに値する。

(4) システム転換期に必要なセーフティネットの拡充

これからの日本経済は、様々な方面で構造的な変化を遂げることになる。地域経済もその例外ではない。とりわけ労働市場については、その変化は大きなものになるとみられる。それは、これまでの労働市場が公的部門、大企業を中心に基本的に内部化されたものだったからである。つまり、大学等を卒業するとなんらかの振り分けをへて就職し、そこに概ね定年まで勤めるという形態をとり、それが「正社員」として扱われてきた。卒業時の一時的な状況をのぞけば、移動は転勤、出向、派遣、転籍などいずれも雇用者の意思が主体になる。こういう形態が主流の社会では、外部労働市場は形成されにくい。

ところがこの方式では、経済環境の変化にうまく対応できないことが明らかになりつつある。グローバル化にもうまく適応できないことがわかってきた。そして、高度化する知識・技能にも十分に対応できない。企業も組織を敏速に対応させることができないことが明らかになった。こうした中で、今後は雇用慣行の変化による、「労働市場」そのものの創出が起こることになる。それは、内部労働市場が外部化されることを意味し、より端的には、終身雇用から転職、起業へと移行することを意味する。

このことは、一時的にせよ摩擦的な失業を増やすと考えられることから、この転換期においては雇用のセーフティネットを整備する必要がある。これまでは内部化された労働市場のために、セーフティネットには十分な配慮が行き届かないところがあったが、これからはそうはいかない。

セーフティネットの代表は、雇用保険だが、保険給付期間については自己都合退職の場合には短縮されるなど自主的な転職・起業に不利に変更されている。教育訓練を受けている期間中は延長して給付されるが、訓練回数が1回に限られるなど条件が厳しく使いにくい。これについては、モラルハザードに注意しつつ、期間の延長と条件の緩和などが実施される必要がある。また、就業中の教育訓練給付金の対象講座についても見直しが検討されるべきである。

こうした雇用保険の改革に加えて、セーフティネットとして有効なのは、労働市場そのものを厚くすることである。多様な雇用の創出に加えて、雇用形態の多様化も労働市場の厚みを増して柔軟なものにするので、セーフティネットが強化される。そのためにも転職・起業のコストを少なくするように、転職・起業に中立的な、できる限り個人ベースを基本とする社会保障制度に作り変える必要がある。

ただし、これからは移行期にあたることも考慮し、移行期における特別な措置も必要である。教育、職業訓練、カウンセリング、起業支援、職業紹介、医療、警察、消防、清掃、環境保全、林野、測量など多くの分野で公的な雇用を創出することも移行期には必要とみられる。それには公務員の増員ばかりではなく、民間企業への業務の委託も含まれる。

加えて、これから増加する中高年の離職者のために、前に勤めていた企業が積極的に職業を紹介する役割(アウトプレースメント)を果たすことが重要である。なぜなら、そうした雇主が勤労者の適性、能力、職務経験について多くの情報を蓄積しているはずであり、中途採用する側にとって貴重な情報を持っているからである。

(5) 本格的な地域雇用の創出には阻害要因の除去が必要

もちろん雇用の創出は労働市場だけで達成されるものではなく、それを必要とする企業と産業があって初めて実現する。したがって、雇用の創出のためには、地域において産業が創発され、地域の産業が発展することが必要な条件である。

これからの地域の産業の発展と、企業の創発を実現するためには、これまでの発展と創発を支えたものと阻害したものの両方の要因を分析する必要がある。とりわけ現在のような難しい状況では、このところの地域経済の発展を阻害している要因(ボトルネック)を発見して、解消する方策を実現することが求められる。

90年代の地域の状況を分析し、本当のボトルネックを発見する作業は決して容易なものではない。あえて候補を挙げるならば、製造業に限らず、非製造業が地域の発展にとって障害(ボトルネック)となっている場合が多いことが指摘できる。不良債権問題などで貸出しが伸びない地域金融機関、地価の下落や容積率の制約に縛られる不動産、数多くの規制に直面する運輸、そして財政状況の悪化した公的セクターなどが、地域経済の発展のボトルネックになっている可能性が大きい。こうしたボトルネックの発見と解消を進めることを通じてのみ、地域経済の活性化、ひいては本格的な雇用の創出が可能となるということができる。

  • 6) 2000年7月現在、(株)帝国データバンクの企業概要ファイルに収録された企業で、個人企業を含む。
  • 7) 以下で紹介する成長企業の事例は、(株)帝国データバンクからの委託調査報告をもとに内閣府において要約、とりまとめた。
  • 8) 日本産業中分類
  • 9) 沖縄県、東京都、福岡県、神奈川県、兵庫県、北海道、大阪府、宮崎県、宮城県、埼玉県
  • 10) 99年の1事業所あたり従業者数は、製造業16.6人に対し、卸売・小売、飲食店6.5人、サービス業8.3人
  • 11) 97年度の日本電信電話(株)(NTT(株))の有価証券報告書には、「エヌ・ティ・ティ コミュニケーションウェア(株)(現エヌ・ティ・ティコムウェア(株)・情報サービス業)に営業の一部を譲渡したことに伴い、NTT(株)の従業員9,143人が同社に出向・転籍したこと、及び、子会社の(株)エヌ・ティ・ティテレコムエンジニアリング東京などテレコムエンジニアリング(現(株)エヌ・ティ・ティ エムイー・電気通信工事業)各社(計12社)への委託業務の拡大に伴い、同従業員22,613人が出向した」とあり、事業所数は減らずに他業種への異動者が多数発生したため、電気通信業の従業者数が大幅に減少した。
  • 12) 総合科学技術会議の「平成14年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」(平成13年7月)においても、地域科学技術の振興のため、地域での中堅・中小企業、ベンチャー企業の育成や、大学等の研究機関、地方自治体、企業等の産学官連携を推進し、技術革新が連続的に起こる付加価値の高い製品を生み出していく21世紀型の新産業の創出を図ることとしている。

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