第1部 第2章 第1節 高齢化と高失業化の進む地域の雇用

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1.人口減少地域に流入した労働人口

(1) 人口が減少し高齢化した地方圏

地域の雇用について考えるにあたり、まず地域の人口の状況をみてみよう。全国的には人口の少子高齢化が続いているが、地域別には少子高齢化あるいは人口減少化はどこまで進んでいるのか。総務省「国勢調査」により95年から2000年までの5年間の人口の変化を地域別にみると第1-2-1図のようになる。これをみると、三大都市圏(関東、近畿、東海)と沖縄では人口は増加したが、他の地域ではほぼ横ばいか、わずかに減少したことが分かる。

人口増減に対する寄与度を年齢階層別にみると、65歳以上の人口は全地域で増加する一方で、25歳未満人口は減少した。また、ベビーブームの波を反映し25~35歳は全地域で増加し、35~45歳では南関東を除くすべての地域で減少した。また、三大都市圏では、55~65歳の年齢層が増加し、そのシェアも増加したことが特徴となっている。

(2) 社会的流入が労働流入を上回った三大都市圏

次に、地域間の人口移動の状況を総務省「住民基本台帳」によってみてみる。人口移動には、社会的人口移動(社会移動)と雇用人口への流出入(労働移動)があるが、第1-2-2図は、地方圏から三大都市圏への社会移動と労働移動の推移を比較している(プラスが三大都市圏への流入超過)。これをみると、三大都市圏への流入は90年からはどちらも超過幅が縮小した。労働移動については96年からは超過幅がほぼゼロとなっているのに対し、社会移動による流入超過は南関東への流入増を中心として97年から再び増加したため、2つの人口移動はわずかに乖離した。なお、近畿と東海では社会移動は流出超過となった(第1-2-3表)。

(3) 労働移動数は増加し南関東からの流出超過が続いた

このように大都市圏への流入超過は縮小したものの、労働移動が縮小しているわけではない。厚生労働省「雇用動向調査」により労働移動の状況をみると(第1-2-4図)、総移動者数は緩やかに増加した。ただし、その増加は地域内移動によるもので、地域間移動はほぼ横ばいとなっている。

地域間移動を地域別に詳しくみてみる(第1-2-5表)。北海道、東北、近畿、九州では流出超過が続き、また、北関東、北陸、中国、四国では流入超過が続いた。南関東は、99年を除き、北関東をはじめ各地へ流出超過が続いた。近畿では、南関東への流出超過が拡大し流出超過が続き、東海では南関東からの流入超過が続いた。中国、四国では近畿、九州との間の移動が大半になっている。

(4) 社会的な人口流出地域へ流入した労働移動

地域間の社会移動と労働移動の流れには乖離がみられる。南関東は、社会移動は流入超過だが、労働移動は流出が超過した。反対に、中国と四国では、社会移動は流出超過だが、近畿、九州からの労働移動により流入が超過した。また、北関東、東海、北陸でも、南関東からの労働移動により流入超過となった。このように、北関東、北陸、中国、四国など比較的人口の伸びの低い地域へ労働移動が流入し、地域間の労働移動は地域の人口減少を緩和したことが分かる。また、地域の雇用ニーズが地域外の労働力によって充足されるケースも少なくないとみられ、地域間労働移動は雇用ミスマッチの緩和に役立つ可能性もある。

2.すべての地域で大幅に上昇した完全失業率

地域の雇用情勢は厳しい状況が続いている。総務省統計局「労働力調査」により、地域別に完全失業率の推移をみると(第1-2-6図)、どの地域においても全国平均とほぼ同様に、85~90年に緩やかに低下し、90~91年から上昇に転じ、2000年まで大幅に上昇した。ただし、失業率の水準をみると地域間の格差が大きい。85年には北海道が最も高く4.7%であったのに対し、最も低い北関東は1.6%であった。90年には同じく北海道が3.0%で最も高く、最低は北陸の1.3%、2000年には、近畿が最も高くなり5.9%、最低は同じく北陸で3.6%となっている。このように90年から完全失業率が上昇した要因は何か。また、完全失業率の地域別格差は何によるか。以下では、完全失業率上昇の要因を分析しつつ、完全失業率の地域別格差の原因をみることにする。

(1) 完全失業率は就業者数の減少により上昇

完全失業率は、完全失業者数の労働力人口に対する比率で、完全失業者数は労働力人口と就業者数の差、労働力人口は15歳以上人口と労働力率の積であるから、完全失業率の変動は15歳以上人口、労働力率、就業者数の3つの要因に分解できる。第1-2-7図で、85年から2000年までの完全失業率(全国平均)の変化を、以上の3つの要因に分解してみる。

これによると、92から97年の期間においては、91年まで続いた就業者数の増加が止まったことが完全失業率上昇の主な要因であることが分かる。さらに、98年から2000年までの期間においては、労働力率が低下して失業率を引き下げたものの、就業者数が減少に転じたことにより、完全失業率が大幅に上昇したことが分かる。

(2) 女性、若年層、第三次産業が寄与した完全失業率の上昇

次に、地域別完全失業率を性別、年齢階層別、産業別にみることによって、完全失業率の上昇とその地域格差の原因を検討する。

[1]地域間格差のある男女別完全失業率

第1-2-8図は、地域別の完全失業率を左から高い順に並べ、男女別の失業率を重ねた上で、95年と2000年を示している。これをみると、すべての地域で男性失業率が女性失業率より高く、完全失業率の高い地域では男女別失業率も高いことが分かる。ただし、男女別の失業率格差をみると、地域によって大きいところと小さなところがある。95年において明らかなように、北海道、南関東、近畿では女性失業率が高めで男性失業率に接近しているのに対し、東北、中国、四国、九州では男女格差が大きい。

この地域格差の背景を探るため、男女別地域別に完全失業率と労働力率を比較する。第1-2-9図では、男女別の完全失業率を2000年完全失業率が高い地域から順に並べ、その地域の労働力率を重ねた。完全失業率が高いと雇用機会が少ないとみた就労希望者が非労働力化するため、完全失業率が高い地域では労働力率が低い傾向があると考えられるが、この図をみると、男性よりも女性の方がその傾向が明らかになっていることが確認できる。これから類推すると、第1-2-8図でみた女性の失業率の比較的高い地域では労働力率が低いとみられるが、労働力率には産業構造、進学率、年齢構成など多くの要因が関係するため一概にその要因を確定することはできない。

次に、地域別完全失業率の増減に対する寄与度を男女別にみると(1)(第1-2-10図)。90~95年における近畿と南関東、95~2000年における四国と東北の女性の増加寄与度など、完全失業率の上昇した地域での女性の寄与度が目立っている。

[2]若年層の増加が寄与した完全失業率の上昇

完全失業率を年齢階層別に分解し、90、95年の水準を地域別に比較したものを、第1-2-11図に示す。これをみると、15~24歳の若年層の完全失業率が他の年齢層よりも高く、90年代前半に上昇したことが分かる。また、完全失業率が高い地域では年齢階層ごとの完全失業率も比較的高く、低い地域では年齢層毎にみても低い。

完全失業率の年齢階層別寄与度の2000年までの推移をみると(第1-2-12表)、全国では25~34歳の寄与度が90年代に大きく上昇したことが分かる。地域別にみると多くの地域で15~24歳、25~34歳、45~54歳、55~64歳の年齢階層の寄与度が上昇した。90~95年に失業率の大きく上昇した南関東、近畿等の地域では15~24歳と25~34歳の増加が目立つ。

[3]第三次就業者比率が高い地域で完全失業率が高い

第二次産業就業者と第三次産業の離職率を比較すると、第三次産業就業者の離職率が第二次産業を上回っている(第1-2-13図)。これから類推すると、第三次産業就業者比率の高い地域では、離職率が高く、摩擦的な失業から完全失業率も高くなる傾向があるとみられる。都道府県別の完全失業率と第三次産業就業者比率の関係をみると(第1-2-14図)、第三次産業就業者比率の高い地域では完全失業率が高くなる傾向がみられ、産業構造のサービス化が完全失業率を高める要因となることを示唆している。

3.拡大した職業、地域、年齢による雇用のミスマッチ

地域における失業の増加の背景には、多くの要因が存在する。その中には、労働需要の不足という循環的な要因もあるが、求人と求職のミスマッチという摩擦的な要因も働いているとみられる。90年代の各地域の厳しい雇用情勢においてミスマッチの占める比重はどの程度なのか、雇用ミスマッチの状況について検討する。

(1) 求職の増加した職業において著しい求人の減少

まず、職業による雇用ミスマッチの状況について、職業別の有効求人、有効求職件数の推移をみる(第1-2-15表)。全体では、90年度から99年度にかけて、有効求職件数は、ほぼ倍増したが、有効求人件数は4割程度減少した。職業別にみると、有効求職件数はすべての区分で増加し、なかでも「技能工、採掘・製造・建設の職業及び労務の職業」、「事務の職業」、「販売の職業」の3つの職業の増加が多い。有効求人件数は、「専門的・技術的職業」と「保安の職業」以外はすべて減少した。

より詳細な職業分類をみると(第1-2-16表)、「商品販売の職業」、「一般事務員」「その他の労務の職業」などで有効求職件数が増加した。一方、これらの職業に対する求人件数は大きく減少しており、同じ職業についての求人と求職の間でミスマッチの存在が伺われる。その一方で、有効求人件数の増加した職業をみると(同表4)、多くは「サービスの職業」に属する(2)。これらの職業の中には、99年度において求人が求職を上回っている職業も多くみられる。

(2) 多くの地域でみられた構造的要因による雇用失業率の上昇

雇用失業率と欠員率を使ったUV分析(3)によって、地域別の雇用ミスマッチの状況をみる(第1-2-17図)。これによると、90年から2000年にかけては、すべての地域において欠員率が低下し、かつ雇用失業率が上昇したためUV曲線は右下から左上に移動した。これは、失業率の上昇がおおむね需要不足要因によるものだったことを示している。

ただし、95~98年の東北、北関東、南関東、東海、四国、九州、および99~2000年の北海道、東北、北関東、近畿、四国、九州においては、欠員率が上昇しているにもかかわらず、雇用失業率が上昇し、摩擦的・構造的な要因による失業の増加があったことを示唆している。その要因としては、職業、年齢、能力、地域などによるミスマッチが考えられる。

(3) 中高年齢層で顕著な年齢によるミスマッチ

90年から2000年度までの有効求職件数と有効求人件数の推移をみると、93年度から有効求職件数が有効求人件数を上回り、2000年度まで格差が拡大傾向にある。有効求人件数と有効求職件数を年齢階層別に比較すると(第1-2-18図)、90年度には、55~64歳と65歳以上を除き、すべての年齢階層で有効求人件数が有効求職件数を上回った。ところが、2000年度には35~44歳を除くすべての年齢階層で有効求職件数が有効求人件数を上回った。特に45~54歳については求職件数が求人件数の2倍を超え、55~64歳では求職件数が求人件数の8倍以上となっている。求人件数のうち45歳以上の占める割合は18.0%なのに対し、求職件数の46.2%が45歳以上で占められる状況で、年齢によるミスマッチは著しい。

就職件数の推移をみても(第1-2-19図)、25~34歳を中心に、35~44歳、45~54歳等の年齢階層で増加したものの、求職件数の20分の1程度にとどまり、雇用環境の厳しさが現れている。とりわけ45歳以上の中高年齢層は、求職件数の増加に比べ就職件数の伸びは小さく、これが雇用の不安を高め、個人消費を抑制している要因となっている可能性を指摘することができる。

  • 1) 男女別寄与度とは男女それぞれの完全失業者数を労働力人口で除したもの。
  • 2) ただし、不動産仲介人、サービス外交員等の「販売類似」や、警察官、自衛官等の「保安」の職業は「サービスの職業」には属さない。
  • 3) 欠員率(V)が低下(上昇)すると、雇用失業率(U)が上昇(低下)する傾向があるため、欠員率を横軸に、雇用失業率を縦軸に取ると、原点に対して凸型のUV曲線が描かれる。

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