第1部 第1章 第1節 地方圏で高まった公共投資への依存
1.高水準の続いた公共投資
(1) 景気対策として高水準の続いた90年代の公共投資
はじめに、地域経済が公共投資に依存している状況を把握するため、地域別及び発注者別に公共工事請負金額をみてみよう。
第1-1-1図は、85年度からの公共工事請負金額と行政投資額、そして公共投資関連予算の推移を示している。80年代後半には国内の貯蓄超過を減らし経常収支黒字を縮減する目的もあって公共投資が拡大した。90年代には景気対策の中心的役割を担ったことから、それと同水準の公共投資予算が続いた。数次にわたり補正予算によって公共投資関連予算が増額され、特に93、95,98年度に大幅となっている(1)。このときの1人当たりの公共工事請負金額をみると、93年度において北海道、東北、北陸、四国の4地域で前年度より大幅に増加し、95年度には北海道、北陸、近畿、沖縄の4地域で、また98年度には北海道、北陸、沖縄の3地域で増加幅が大きかった。このように、阪神・淡路大震災によって増加した近畿を除けば、景気対策を目的とした公共投資は、三大都市圏よりも地方圏で多く実施された。
ところが、地方財政状況の悪化により、地方機関からの発注が減少したため、公共工事請負金額は99年度、2000年度と2年連続して減少した。2000年度の減少率に対する発注者別寄与度をみると、全地域において地方機関からの発注が大幅に減少したことが分かる(第1-1-2図)。ここで地方機関が発注する補助事業と単独事業の推移をみると、国庫支出金として国から約5割の補助が出る補助事業はほぼ計画通りに推移しているものの、単独事業の方は94年度以降実績が計画を大きく下回っている(2)。これは、地方自治体の財政状況悪化を反映して単独事業の執行が抑制されたためであり、公共投資の減少の多くは地方の、しかも単独事業の減少によるということが確認できる。
(2) 硬直的で1人当たりでみると地方に厚い公共投資
このように現在縮減の過程にある公共投資は、どのような構造になっているのだろうか。
国の予算で行う公共投資の投資額が公共事業関係費であり、地方単独事業などを含めた公的部門が行う公共投資の投資額は行政投資額と呼ばれる。この行政投資額の事業目的別構成比をみると(第1-1-3図)、99年度においては生活基盤が48.0%、産業基盤が21.6%、農林水産が9.1%、国土保全が9.4%となっている。これを85年度と比べると、生活基盤と産業基盤で約3%ずつ構成比が上昇したに過ぎず、硬直的な配分となっている。
次に、1人当たりの行政投資額を事業目的別にみると、生活基盤については関東、近畿よりむしろ北海道、北陸、沖縄が高く、産業基盤では北海道、四国、沖縄が高く、農林水産については北海道など地方圏において高いことが分かる。
(3) 民間建築工事に比べ高止まった公共建築工事の単価
公共投資の費用対効果をみるため、その費用面について検討する。ここでは公共投資のコストとして用地取得費と建築工事の単価を取り上げる。また、建築工事の単価の官民格差を検討する。
[1]低下傾向にある用地取得費
用地取得費はSNA(国民経済計算体系)の公的資本形成には含まれないが、予算、決算ベースの公共投資(公共事業関係費及び行政投資額)には含まれる。ここでは、普通建設事業費における用地取得費の割合の推移をみる(第1-1-4図)。バブル期の地価高騰により用地取得費の割合は上昇し、88年度から92年度までは約20%を占めていたが、バブル崩壊以降、地価下落から割合は低下し、99年度には約15%となっている。99年度の用地取得費は約4兆円であったが、都市計画や道路橋梁などの項目を含む土木関係が3.2兆円と8割を占めている。
[2]民間建築工事に比べ高止まった公共建築工事の単価
次いで、国土交通省「建築着工統計」により、公共建築工事と民間建築工事の単価(3)の推移をみる(第1-1-5図)。単価は80~91年度までは、公共建築工事、民間建築工事ともにおおむね同じ様に上昇した。構造別にみると、鉄骨鉄筋コンクリートや鉄筋コンクリートでは公共建築工事より民間建築工事の単価が高かった時期もみられた。92年度以降、公共建築工事の単価は低下が緩やかであったのに対し、民間建築工事は95年度まで大幅に低下し、その後も緩やかながらも低下を続けた。この結果、公共建築工事の単価は2000年度において民間建築工事を1平方メートル当たり9万円程度上回っている。構造別にみても、ほぼ同じ様に90年代においてかい離が生じた(4)。地域別に公共建築工事と民間建築工事の単価をみると(第1-1-6図)、どの地域においても90年代に公共建築工事と民間建築工事の単価にはかい離がみられる。東北、東海、北陸、中国では2000年度に公共建築工事の単価が民間建築工事の2倍以上となるなど、地方圏においてかい離幅が大きい。
(4) 公共投資への依存度が高い地方圏
80年代後半から90年代にかけて公共投資が拡大した結果、地方経済において特に公共投資に対する依存度が高まったと言われる。実際にどのような状況であるか、「県民経済計算」を使って検討してみよう。
県内総生産における公的固定資本形成の比率の推移をみると(第1-1-7図)、全国平均では80年代後半に6%台で推移したが、92年度に7.4%、93年度には8.3%と上昇した後、おおむね横ばいで推移した。地域別にみると、98年度の公的固定資本形成の比率は、北関東、南関東、東海、近畿の三大都市圏では10%未満であったのに対し、その他の地方圏では10%を超えていた。とりわけ、沖縄では17.0%、北海道では16.1%と全国平均の7.9%に比べて著しく高い。85年度からの推移をみても、地方圏では三大都市圏よりも一貫してこの比率が高く、地方圏において公共投資への依存度が高いことが分かる。
都道府県別1人当たりの公的固定資本形成をみると、98年度の1人当たりの公的固定資本形成が多い都道府県は、島根県66.4万円、北海道51.5万円、秋田県50.2万円、高知県49.2万円、宮崎県48.2万円の順で、地方圏に集中している。一方、比較的少ない都道府県をみると、埼玉県13.9万円、神奈川17.5万円、大阪19.7万円、愛知20.0万円、東京21.7万円などで、三大都市圏に集中している。全国平均は29.7万円であったが、最も多い島根県は最も少ない埼玉県の4.8倍で、その格差は52.5万円となっている。
2.低下した公共投資の生産力効果
(1) 公共投資の4つの機能
90年代における公共投資の拡大は、地域経済にどのような影響を与えてきたであろうか。このことを検討する上で、まず、政府が公共投資を行う理由について整理しておく必要がある。なぜなら、公共投資には目的の異なる複数の機能があり、それぞれ地域経済に与える影響が異なるからである。
まず第一に、公共投資の資源配分機能を挙げることができる。多くの社会資本は、その便益を受ける利用者に対し便益に対応する料金を課すことが困難な性質を持っている。また、ある個人がそれを利用しても他の人がそれを追加的に利用することによって増加する費用が極めて小さい。このような性質を持った財は、社会的には必要なものであっても民間部門によっては適切に供給されにくく、資源配分上の非効率性が生じやすいことから、政府が市場に介入することが正当化される。
第二に、所得再分配機能を挙げることができる。市場メカニズムが完全に機能しており、資源が効率的に利用されていても、地域間の所得格差が縮小するように各地域の所得水準が収斂していくとは限らない。限界生産性の低い地方圏における投資が、地域間の所得格差の是正に寄与している。
第三に、経済活動の安定化機能を挙げることができる。これは、短期的な経済の変動を安定化するために政府が公的需要を調節することを目的とした機能で、いわゆるケインズ的景気対策と呼ばれている。量的な大きさを柔軟に調整できることから、公共投資がこの目的のために利用されることが多い。
第四に、将来世代への配慮を挙げることができる。現在世代への便益だけでなく、将来世代への便益も考慮に入れて社会資本を供給するという観点から、政府は社会資本の供給量を決定する。現時点では非効率であっても、長期的にみて効率的な国土利用が実現される場合、低開発地域等への公共投資が正当化される。
実際に行われる公共投資をこれらの機能別に厳密に区分することはできないが、公共投資に関する議論を行う際にこれらの概念を理解しておくことは重要であると考えられる。
(2) 地域の景気変動と90年代の公共投資
日本経済が停滞を続ける中、90年代を通じて公共投資を中心とする景気対策が積極的に発動された。91年から93年にかけての景気後退期や、98年度後半以降においては、公共投資が需要面から景気を下支えする役割を果たしたと言われている。
ここでは、90年代における公的資本形成の経済成長率への寄与度の推移を地域ごとにみてみることとする(第1-1-8図)。92年度から93年度にかけては、民間需要が停滞する中、全地域において公的資本形成が成長率を押し上げる役割を果たしたが、地域別にみると、民需が大きく落ち込んだ南関東、東海から、民需がプラスの成長率を維持していた四国まで、景気の状況は様々であったことが分かる。一方、95年度から96年度にかけては全国的に民需主導の高めの成長が実現したが、公的資本形成はほとんどの地域で引き続き景気に対してプラスの寄与を続けた。96年度の東北、北陸、東海における経済成長率は5%以上にも達したが、同年度において公的資本形成の寄与度がマイナスとなったのは北海道、北関東、南関東の3地域のみであった。更に、97年度には景気の急速な悪化にも関わらず、全地域において公的資本形成の寄与度がマイナスとなった。その後、98年度にはほとんどの地域において公的資本形成が再びプラスの寄与に転じたが、北関東、南関東、近畿の3地域においてはマイナスの寄与を続けた。このように、公的資本形成の経済成長率への寄与度をみると、地方圏を中心に、景気減速時に公共投資が大幅に拡大されるだけでなく、景気が拡大期に入ってもそれが縮減されない傾向が読み取れる。
次に、公共投資の拡大が各地域における雇用創出に与えた影響について検討を行う。第1-1-9図には地域ごとの公共工事請負金額と建設業就業者数、建設業を除く全産業就業者数の推移が示されており、どの地域においても90年代において公共工事請負金額(名目値)は88年度との比較で2倍前後の額まで拡大されたことが分かる。公共工事請負金額は南関東においては92年度、近畿では95年度をピークに減少に転じたが、その他の地域では98年度まで拡大を続け、99年度から急速に減少している。各地域における建設業就業者数も、公共工事請負金額の増加に対応する形で88年度との比較で1.2倍前後の水準まで増加した。その人数は南関東においては比較的早くから減少に転じ、その他のいくつかの地域でも近年は減少傾向を示しているが、依然として高止まっている地域もみられる。
(3) 低下した公共投資の生産力効果
[1]低下した社会資本の生産力効果
90年代に拡大された公共投資は、地方圏を中心に、成長率の押し上げ、建設業を中心とする雇用の創出など、需要面から景気を下支えする役割を果たしたと言える。地域間の所得格差も、GDPに占める公的資本形成比率の上昇に対応するかのように90年代を通じて縮小した(第1-1-10図)。一方、公共投資の資源配分機能に鑑みれば、公共投資が民間経済活動の供給面に影響を及ぼすことにより、各地域の長期的な生産力の増加をもたらすことが重要であると言える。
公共投資のストックとしての社会資本の生産力効果については、90年代初めまでの期間を対象としてこれまでにもいくつかの分析が行われてきている。それらに共通する結論として以下の点を挙げることができる。
- 1 )社会資本には一定の生産力効果が認められる。必要なものを適切な地域に建設する限り、社会資本ストックの蓄積は経済全体の生産効率上昇を通じて生産量を高める効果を持つ。ただし、70年代ないし80年代には生産力効果の低下がみられる。
- 2 )1人当たり所得の低い地域ほど1人当たりの社会資本が多く、また、その傾向は時期を追うごとに強まっている。更に、地方圏と比較して大都市圏における社会資本の限界生産性が高い。
これらの分析結果から、高度成長期には大きかったと言われる社会資本の生産力効果は70年代、80年代を通じて低下してきたこと、その背景の一つとして、限界生産性の低い地方圏の投資が増加してきたことが挙げられる(5)。
[2]弱まった産業基盤投資と工場立地の関係
ここでは、90年代において公共投資の効率性がどのように変化してきたかについて、主に産業基盤投資額と工場立地件数の2つの指標を用いて検討を行うこととする。公共投資には様々な種類の投資が含まれるが、中でも産業基盤投資は、国県道、港湾、空港、工業用水といった製造業の活動に直接的に関係する投資から構成されている。一方、工場立地件数は、地域の長期的な生産力が増加しているかどうかをみるための一つの指標になり得ると考えられる。実際、多くの自治体は地域経済活性化のための主要な政策の一つに工場誘致を掲げており、その促進のために産業基盤投資が積極的に行われている。
最初に、県民1人当たりの行政投資額(全体)及び産業基盤投資額の都道府県間格差の推移をみてみると(6)、行政投資額については、各年度において最も多かった自治体と最も少なかった自治体の格差が88年度の約2.1倍から98年度には約3.5倍に、同様に産業基盤投資額の格差については、88年度の約3.5倍から98年度には約6.5倍にまで拡大している。95年度以降は国民総支出に占める公的総固定資本形成比率は低下傾向にあり、日本経済全体の公共投資への依存度は低下の方向に向かい始めたものの、1人当たり行政投資額、特に産業基盤投資額の地域間格差は90年代を通じて拡大を続けたことが分かる。
次に、産業基盤投資と工場立地件数の関係について検討を行う。まず、我が国全体の工場立地件数の推移をみてみると、80年代後半には増加傾向にあったものの、90年代に入って減少傾向に転じ、近年は年間1,000件程度と、80年代後半の4分の1程度の水準にまで減少している(第1-1-11図)。第1-1-12図は全都道府県における人口当たり産業基盤投資額と工場立地件数の相関関係を2つの時期について示したものである。88年度の産業基盤投資額と89年の立地件数の間には弱いながらも正の相関関係がみられ、人口当たり産業基盤投資額の多い都道府県において人口当たりの工場立地件数が多くなっている。しかし、98年度の産業基盤投資額と99年の立地件数については、全国の立地件数の減少を受けて近似直線の傾きが緩やかになると共に相関関係もみられなくなっている。
また、人口当たり産業基盤投資額の多い5自治体及び少ない5自治体について、人口当たり産業基盤投資額及び工場立地件数の平均をとってそれらの推移をみてみると、やはり同様の傾向が読み取れる(第1-1-13図)。すなわち、産業基盤投資額の格差は90年代を通じて拡大の一途を辿ったものの、立地件数の格差は逆に縮小を続け、近年はほとんど差がみられなくなっている。
次に、産業基盤投資額と工場立地件数の推移を、全国を14地域に分割の上、地域ごとの特徴をみてみることとする(第1-1-14図)。
まず、「北海道」、「山陰」、「四国」の各地域については、人口比の1.5倍を上回る産業基盤投資が行われてきており、近年更にそのシェアが高まる傾向にある。一方、工場立地件数についてみると、北海道においてはそのシェアにやや減少傾向がみられ、山陰、四国については、90年代前半には増加傾向がみられたものの、90年代後半には大きく減少している。
次に、「北東北」、「南東北」、「北陸」、「山陽」、「南九州」の各地域については、人口比の1.2倍程度の産業基盤投資が行われてきている。このうち、山陽においては産業基盤投資額、工場立地件数の何れのシェアも減少傾向にある。その他の地域も工場立地件数のシェアが減少傾向にある。
最後に、「関東内陸」、「関東臨海」、「東海」、「近畿内陸」、「近畿臨海」、「北九州」の各地域については、人口比を下回る産業基盤投資が行われてきている。このうち、関東臨海においては、産業基盤投資のシェアは減少傾向にあるにも関わらず立地件数のシェアに増加の兆しがみられる。また、関東内陸においても、産業基盤投資のシェアに増加傾向がみられないにも関わらず、近年、立地件数のシェアが大幅に増加している。
全体として、1)従来から産業基盤投資は主に大都市圏から離れた地域において重点的に実施されてきたが、90年代を通じて更にその傾向が強まった、2)産業基盤投資が重点的に実施されてきた地域において近年、工場立地件数のシェアが低下しているケースが多くみられる反面、首都圏に近い地域においては立地件数のシェアが上昇していることが分かる。もちろん、全ての都道府県がこれらの傾向に当てはまる訳ではなく、近隣の都道府県とは異なった動きを示しているところもあり、また、同じ都道府県内においても個別の投資の効果には当然差があるが、全体としてみれば、産業基盤投資と工場立地件数の関係が弱くなってきていると言うことができる。
[3]弱まった本州四国連絡橋と工場立地の関係
次に、個別の大型公共投資の完成が地域経済に与えた影響の一例として、本州四国連絡橋の開通と四国における工場立地件数の変化についてみてみる(第1-1-15図)。交通インフラの整備は大消費地との時間距離の短縮、安全性・確実性・利便性の向上等を通じて地域の立地上の優位性を高めることから、工場の地方分散を促進するための重要な政策として位置付けられてきた。本州四国連絡橋も、工場立地の増加等を通じて地域経済を活性化させることが期待されてきた。実際、88年4月に開通した児島・坂出ルート(岡山県~香川県)の開通年の前後を比較すると、香川県における工場立地件数の対全国シェアの上昇がみられる。ところが、98年4月に開通した神戸・鳴門ルート(兵庫県~徳島県)、99年5月に開通した尾道・今治ルート(広島県~愛媛県)の場合、児島・坂出ルートの開通時のような立地件数のシェアの上昇は徳島県、愛媛県の何れにおいてもみられず、むしろシェア、絶対数共に減少傾向にある(7)。ここからも、産業基盤投資と工場立地件数との関係が90年代を通じて変化したことがうかがえる。
(4) 国境を越えた立地選択
産業基盤投資の効率性が近年、特に地方圏において低下してきていることと密接な関係を持つ現象として、日本から東アジア諸国等への直接投資の拡大を挙げることができる。中国を始めとする東アジア諸国においては、日本と比較して圧倒的に安い賃金水準に加え、国内市場の成長力、関税率の引下げや非関税障壁の撤廃を含む貿易投資の自由化等の要因により、80年代から90年代にかけて多くの外資系企業が進出した(第1-1-16図)。日本からアジア地域への直接投資も90年代に大幅に増加し、その内訳は繊維から一般機械、輸送機、電機と幅広い分野にわたった(第1-1-17図)。このような流れは今後も続くことが予想されることから、国内、特に地方圏における産業基盤投資の効率性が将来抜本的に改善することは考えにくい。産業基盤投資を通じた工場の地方への分散という従来型の地域経済活性化策は長期的な観点からも見直しを迫られていると言えよう。
(5) 公共投資の需要創出効果と見直しの必要性
もちろん、公共投資に対しては、工場の地方への分散以外にも様々な効果が期待されている。例えば、産業の振興、定住人口の増大等を通じて地域経済の活性化に一定の貢献をしているものも多い。しかし、例えば商業活動に関しては、交通インフラの整備の結果、地方から大都市への買物客が増加し地方における小売業販売額が減少する一方、大都市から地方への人の流れはそれほど増加しないといった問題(いわゆる「ストロー効果」)が指摘されている。また、空港を開設したものの利用客数が伸びず、路線の維持のために多額の補助金の支出を強いられている自治体がみられる。これらのことも公共投資の効率性が低下していることの現れであると考えられる。90年代における公共投資の拡大は需要面から景気を下支えすると同時に地域間の所得格差の是正には貢献したものの、効率性の低い投資までが行われがちになるなどの問題を抱えていたと言える。こうしたことからも公共投資の見直しが必要な状況となっている。
- 1) 補正予算における公共投資関連予算の追加額は、93年度6.5兆円、95年度5.0兆円、98年度5.9兆円。
- 2) 99年度の単独事業は計画が19.3兆円に対し、実績が12.9兆円と6.4兆円の乖離がある。
- 3) 単価とは工事費予定額を床面積で除したもの。ここでは、建築主が国、都道府県、市町村であるものを公共建築工事、会社であるものを民間建築工事とした。
- 4) この背景には、公共建築工事には民間建築工事と比較して競争メカニズムの入りにくいところがあったため、価格が高止まった可能性がある。公共建築工事の入札については、現在競争原理を一層取り入れるべく改革が行われているが、公共建築工事は、耐震性能の確保やバリアフリーへの対応などから民間建築工事より単価が高くなる傾向がある。
- 5) 民間資本の生産力効果も低下していること、公共投資の配分が生活関連に重点化されてきたこと等にも留意する必要がある。
- 6) 1人当たり投資額だけで行政投資額の多少を比較することはできず、他の要素、例えば都道府県の面積も考慮に入れる必要があるが、ここでは投資額の格差の90年代における変化に主に着目する。
- 7) 徳島県における工場立地件数は95年の23件から神戸・鳴門ルートの開通した98年に8件、2000年には6件に減少した。愛媛県における工場立地件数は、96年の26件から尾道・今治ルートの開通した99年に8件、2000年には6件に減少した(経済産業省「工場立地動向調査」による)。