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第3節 雇用・賃金の動向と物価

本節では、前節に続き、デフレを生みやすい経済構造、または経済循環と呼ばれる課題について検討する。物価は需給バランスを反映して決まるが、販売価格を設定するのは企業である。デフレを生みやすい経済構造としては、日本企業の価格設定行動の特徴が挙げられる。輸出価格に関する為替転嫁率については前節で触れたが、国内の販売価格についてもコスト増が製品価格に転嫁できずに賃金や収益が圧縮されてきた点や成長期待の低下やデフレ予想の固定化がデフレの背景にあるとの指摘がなされている19別ウインドウで開きます。ここでは、厳しい競争圧力にさらされている企業の価格設定行動と賃金・雇用調整との関係について検討する。

1 ULCの動向とその背景

最初にULCの動きについて確認しよう。ULCは、実質GDP一単位当たりに要する名目雇用者報酬(賃金)と定義されるが、これはマンアワー当たりの名目賃金と労働生産性に分解することができる。

(10年以上にわたり、生産性上昇のみならず賃金下落によってULCが低下)

2000年以降におけるULCの推移を見ると、前回の景気拡張局面に入った2002年から2004年、また、今回の景気拡張局面に入った2009年から2010年にかけて大きく低下していることが分かる。前回は労働生産性の上昇よりも時給の下落が多少寄与していたが、今回は労働生産性の上昇の方がULCの下落に寄与しているようにも見受けられる(第2-3-1図別ウインドウで開きます(1))。

そこで2000年以降の変化を累積すると、2004年第4四半期までの期間にULCは-11.4%程度下落したが、労働生産性は-7.4%、時給は-3.9%程度の寄与になっており、約三分の一が賃金下落による。同様に、2012年第3四半期までの期間における下落は-18.4%程度であり、このうち、労働生産性による部分は-12.3%程度、時給による部分は-6.1%程度である。やはり、約三分の一は賃金の下落による(第2-3-1図別ウインドウで開きます(2))20別ウインドウで開きます

(今局面では、賃金が若干強め、ただし雇用者数の増加は鈍い)

次に、物価と雇用指標の関係を比較しよう。第一に、完全失業率と消費デフレーターの関係においては、いずれの局面においても景気の谷から2~3四半期後に失業率もピークを迎えた後、改善へと向かっており、それに連れて、消費デフレーターの下落テンポも緩和していく傾向にある。今回は失業率の水準が同程度であっても消費デフレーターの下落率が大きかったが、2012年第2四半期には失業率は4%台前半まで低下し、消費デフレーターの下落率も前回並みに小さくなっている。ただし、前回は、失業率が4%を下回る水準に到ってもデフレが持続していた(第2-3-2図別ウインドウで開きます(1))。第二に、雇用者数の変化と消費デフレーターの関係においては、前回は消費デフレーターの下落が前年比-1%よりも緩やかになった時期から雇用者数が増加に転じた。しかし、今回は、消費デフレーターの下落率は前年比-1%より小さくなってきているが、労働力人口も減少していることから、雇用者数は未だ増加に転じていない(第2-3-2図別ウインドウで開きます(2))。

第三に、有効求人倍率と消費デフレーターは、両局面でおおむね同じ軌跡を描いている。前回の動きから判断すると、有効求人倍率が1を下回る水準では、消費デフレーターがプラスに転じるとは期待し難い(第2-3-2図別ウインドウで開きます(3))。最後に、所定内給与と消費デフレーターの関係については、前回は消費デフレーターの下落率が前年比-1%よりも緩やかになる頃に所定内給与の下落テンポも和らいだが、今回はそれよりも早い段階で所定内給与が横ばい圏内の動きへ転じている(第2-3-2図別ウインドウで開きます(4))。

まとめると、失業率や有効求人倍率といった労働市場の需給バランスに関する指標において両局面間に大きな違いはない。ただし今回は、所定内給与が若干強めに推移する一方、前回の局面で見られた雇用者数の増加が未だ生じていないことが特徴となっている。

(最近では55歳以上の契約・嘱託及びパートが増加)

両局面の背景比較として年齢階層別の労働者数(年平均)に着目すると、2002~2008年に比べて2009~2011年は、55歳未満の労働者数が182万人少なく、55歳以上の労働者数が138万人多い21別ウインドウで開きます。高齢化に伴う労働力率の低い年齢階層の拡大は供給制約となっている可能性がある。また、同時期における非正規雇用者数の変化においては、55歳未満の非正規雇用者数は31万人の増加であり、内訳としては契約・嘱託が29.9万人、パートが13.6万人と増加した一方、派遣は5.9万人の減少であった。55歳以上の非正規雇用者数は133万人の増加であり、パートが65万人、契約・嘱託が43.2万人の増加となっている。55歳以上の年齢階層において非正規雇用者数が増加している背景には、正規雇用者が退職年齢にさしかかった後に契約・嘱託という形式で継続的に就業する傾向が強まっていることがある。

(今局面では、パート労働者の所定内給与はプラス寄与)

では、今回のデフレ局面において、2002年頃と比べて所定内給与が若干強めに推移しているのはなぜだろうか。2000年代前半において所定内給与の改善が遅れたのは、一般労働者に比べると平均賃金水準の低いパート労働者の比率が高まったことによる面が大きい22別ウインドウで開きます。所定内給与の変化を一般労働者給与、パート労働者給与、パート労働者比率に分けて寄与を求めると、パート労働者比率の上昇が継続的にマイナスに寄与している(第2-3-4図別ウインドウで開きます(1))。ただし、マイナス寄与の程度は、今回の方が、前回に比べると小幅なものにとどまっている。パート労働者比率の上昇テンポが減速した背景には、パート労働者を多く雇う卸売業・小売業における同比率が2000年前半に急速に高まった後に横ばいへ転じた影響があると考えられる23別ウインドウで開きます

また、一般労働者とパート労働者のそれぞれの所定内給与の動きを比較すると、前回は振幅を伴いながらも横ばい圏内で推移していた一般労働者の所定内給与は、今回は緩やかながらもマイナス寄与を累積している(下落が続いている)が、パート労働者の所定内給与は、前回も今回もマイナス寄与の累積を解消している(上昇に転じている)。特に、今回の局面では、パート労働者の所定内給与への累積寄与は既にプラスへと転じている(第2-3-4図別ウインドウで開きます(2))。

所定内給与には所定内労働時間の違いが影響するため、時給に換算して比較をすると、一般労働者の時給は、2002年以降は横ばいで推移していたものの、2009年からの局面では若干減少傾向にある。他方、パート労働者の時給は、いずれの局面においても増加傾向にある(第2-3-4図別ウインドウで開きます(3))。なお、一人あたり所定内給与とその時給の動きに見られる違いは平均所定内労働時間の変化である。パート労働者の所定内労働時間は、2007年から2009年にかけて持続的に減少したため、当時の一人あたり所定内給与には時給のような増勢がない24別ウインドウで開きます

(一般労働者の時給下落は、一部の非製造業に起因)

2000年代前半と2009年以降で一般労働者とパート労働者の時給が異なった動きをしているのは何故だろうか。

この問題を考えるため、一般労働者とパート労働者の時給について、それぞれの製造業と非製造業の時給の推移を比較しよう。まず、一般労働者については、製造業の時給が上昇基調を示している一方、非製造業の時給は横ばいとなっており、ここ数年は下落傾向を示していることが分かる。2000年頃は、非製造業の時給が製造業の時給を約8%上回っていたが、2012年では約2%まで縮小している(第2-3-5図別ウインドウで開きます(1))。

ただし、非製造業の時給といっても産業別に大きな違いが見られる。卸売業・小売業の時給は緩やかな上昇基調を示しており、製造業の時給に比べてもおおむね横ばいの比で推移してきた。一方、医療・福祉や教育学習支援業、その他サービスの時給には下落傾向があり、これらの業種の時給動向が、非製造業の一般労働者の時給の弱さの原因となっている(第2-3-5図別ウインドウで開きます(2))。医療・福祉分野のように需要が拡大している分野で時給が低下しているのは、2000年の介護保険制度の創設とその後の制度的な拡充が進んでいることから、平均単価の高くない職員数が増加して平均賃金が影響を受けているものと考えられる25別ウインドウで開きます。同様に、教育分野では、一部には教員給与水準の見直しといった制度改正も2000年代中頃に時給が下押しされた背景にあると見られる26別ウインドウで開きます

同様に、パートの時給についても製造業と非製造業の間で比較すると、2000年頃の非製造業の時給は、製造業の時給よりも15%以上高い水準であった。その後は、一般労働者の場合とおおむね同じように賃金格差は縮小したが、その程度は小さく、2012年時点での時給水準格差は10%程度である(第2-3-5図別ウインドウで開きます(3))。また、非製造業に従事する一般労働者の時給は、医療・福祉、教育学習支援業等を中心に下落していたが、同業に従事するパート労働者の時給にはそうした動きは見られない。なお、2008年頃から教育、学習支援業の時給に見られた増加基調が2011年で終わり、最近では横ばいとなっている。これは、生徒当たり教員数を増やす過程において退職した教員の再雇用等を契約・嘱託教員として増やした影響があると推察される(第2-3-5図別ウインドウで開きます(4))。

したがって、2009年以降の時期において一般労働者の時給が弱い動きになっているのは、非製造業内の医療・福祉や教育、学習支援業等の時給が低迷しているためである。ただし、これらの業種においても、パート労働者の時給は底堅く推移しており、また、パート労働者比率の上昇も続いていることから、パート労働者の需要は強いことがうかがえる(第2-3-5図別ウインドウで開きます(5))。業務内容に鑑みれば、フルタイムで働く一般労働者よりも多くのパート労働者を抱えることが費用対効果の改善につながることが考えられ、当面はこうした動きが続くものと見込まれる。

2 企業の労働コスト調整

先に見たように、加工型製造業や非製造業を中心にデフレ期待が根強く残るなか、我が国では、ULCの低下を生産性の上昇だけでなく名目賃金の切下げによって達成している27別ウインドウで開きます。また、2009年以降の時期においては、物価動向に比べて一般労働者の所定内給与の動きが前回よりも弱く、パート労働者の所定内給与の動きは強い。これまで明らかになった事実を踏まえて、以下では、賃金や雇用の調整がどのように行われているのかを検討する。

(サービス価格とパート労働者の時給は連動するも、一般労働者との連動性は希薄)

非製造業においてはデフレ期待が見られたが、こうした販売価格のデフレ期待が残るなか、賃金はどのように調整されるのだろうか。サービス業の販売価格と賃金の関係について、企業向けサービス価格や一般サービス物価(消費者物価の中から家賃・携帯通信料を除いたもの)とサービス業労働者の時給との関係においては、両者の間にある程度はっきりとした相関がみられる。(第2-3-6図別ウインドウで開きます(1))。こうした相関は一般労働者の時給よりもパート労働者の時給との間で一層明確である。

また、サービス物価のサービス業労働者の時給に対する弾力性を計測すると、パート労働者の場合は0.4程度となっている。一般労働者の場合はあまり安定的な関係はなかったが、最近では高まってきている(第2-3-6図別ウインドウで開きます(2))。

さらに、サービスに関連する物価と賃金の関係について、時間的な変化の前後関係を時差相関係数により評価すると、パート労働者の時給はおおむね変化のタイミングがサービス物価の変化と一致しているが、一般労働者の時給は、サービス物価よりも2~4四半期程度遅れて変動する(第2-3-6図別ウインドウで開きます(3))。企業向けサービス価格の場合でも、同様の傾向が確認できる。

名目賃金と物価の連動性が高ければ、名目賃金を物価で割った実質賃金はあまり変化しないが、逆に両者があまり連動していなければ実質賃金が大きく変化する。ここでの分析は、パート労働者は実質賃金が比較的安定しており、一般労働者の実質賃金は変化しやすいこと、言い換えれば、パート労働者が固定的な実質賃金を受け取るのに対し、一般労働者は可変的な実質賃金を受け取る状況を示している。これらの結果は、賃金調整圧力が発生した場合には、まずパート労働者が受け取る限界的な名目賃金に物価変化に応じた圧力が発生し、次第に一般労働者の名目賃金へ影響が現れていくことを示している。なお、最近は、こうした物価から賃金へ影響を与える傾向は見られるものの、賃金から物価というコストプッシュによる物価上昇のルートは比較的弱い28別ウインドウで開きます

(日本の雇用調整速度は上昇)

先に見たサービス価格とサービス業の時給の関係は、一般労働者の雇用契約・形態を踏まえるとある程度自明であるが、企業が抱える雇用は、需要変動に対してどこまで可変性を持ち合わせているのだろうか。生産及び実質賃金を用いて労働需要関数を推計して雇用調整速度を求めると、雇用者数をベースとした我が国の雇用調整速度は76年~90年の0.15程度から0.31程度へと上昇している29別ウインドウで開きます。OECD諸国との比較では、アメリカやオーストラリアといった国々よりは低いものの、ドイツ、スペイン、イタリアといった欧州の国々よりは高い(第2-3-7図別ウインドウで開きます(1))。また、1人当り労働時間ベースの雇用調整速度を求めると、同期間中、0.22程度から0.62程度へと上昇している。同様にOECD諸国と比較すると、やはり欧州の国々は低い値となっている中、我が国は計算結果が統計的に有意となる国々の中では最も高い(第2-3-7図別ウインドウで開きます(2))。

(雇用調整速度は雇用保護指標やパート労働者比率と関係)

我が国の雇用調整速度が最近高まっている背景を探るために、OECDの雇用保護指標との関係を分析する。過去の分析では、雇用調整速度の高まりと雇用保護指標の低下には関係があるとされているが、最近のデータを追加して検証してみよう30別ウインドウで開きます。まず、雇用保護指標(総合評価、第一指標)が高いほど調整速度は遅い傾向は引き続き見られるが、近年(91年~2010年)のデータによる傾向線は、この関係が若干強くなっていることを示唆している(第2-3-8図別ウインドウで開きます(1))。こうしたなか、我が国の雇用保護指標はあまり変化していないにもかかわらず、雇用調整速度が高まっており、他の要因による変化の可能性が示唆される。

そこで、パート労働者比率の変化と雇用調整速度の変化を比べてみると、全体としては両者に正の相関が見られる。フランス、ベルギー、ドイツの大陸欧州諸国を除くと、パート労働者比率の上昇/低下が雇用調整速度の上昇/低下へつながっていることが示唆される(第2-3-8図別ウインドウで開きます(2))。

生産活動の水準に応じて投入労働量と費用の調整ができる余地の高いパート労働者の比率が高まることが雇用調整速度を高める結果となることは直感的にも分かりやすいが、均衡待遇が必ずしも担保されず、また、パート労働者に対する雇主の社会保障負担が軽減されている我が国においては、パート労働者比率の上昇は単に雇用調整速度を高めるのみならず、労働分配率の低下や雇用者報酬の低下を伴うことで有効需要を抑制するというマクロ的な副作用をもたらす可能性も否めない。

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