平成16年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−改革なくして成長なしIV−

平成16年7月

内閣府


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第2節 地域間の経済格差とその要因

●地域間所得格差は長期的には縮小
 今回の景気回復局面では、特に地域間の景気回復のばらつきが注目されているが、長期的にみれば、一人当たり所得でみた地域間の経済格差は是正される方向にある。1990年以降の各地域ブロックの一人当たり県民所得の全国平均からの乖離度合をみると、関東、中部、近畿で所得は総じて平均よりも高い水準にある一方、北海道、東北、中国、四国、九州では一貫して低い水準にある(第2−2−1図)。他方、90年代以降をみると、ほとんどの地域で一人当たり県民所得の全国平均からのかい離度が縮小してきている。ただし、一人当たり県民所得の平均値は1997年から低下傾向にあり、全体として所得が低下するなかで、地域間格差が縮小している状態にある(付図2−2)。ただし、格差が縮小しているとは言え、一人当たり所得の最も高い東京と最も低い沖縄の間には2001年でも2倍程度の格差があることから、こうした格差がなぜ生じるのか、また、それを縮小させるためには、どのような方策が適当かを、以下で検討する。

●地域間所得格差の要因分解

 地域間の経済格差がどのような要因によって生じているかという点については、一人当たり所得の地域間格差を幾つかの要素に分解して分析する手法がOECDから提案されているので、ここでは、その考え方をもとに、日本の状況に当てはめて分析する(5)
 分析の枠組みとしては、まず、各地域ブロックの一人当たり域内総生産を、労働生産性(6)(域内総生産を有業者数で除したもの)、修正就業率(7)(有業者数を有業者と求職中の無業者との合計で除したもの)、修正労働力率(8)(有業者と求職中の無業者との合計を地域人口で除したもの)の3つの構成要素に分解する。これらの構成要素について、(i)労働生産性は地域の生産システムがいかに効率的であるか、(ii)修正就業率は地域の労働需給がどのような状況にあるか、(iii)修正労働力率は地域の労働力(ここでは、有業者と求職中の無業者との合計)がどのような特徴を持っているか、を表していると考えられる。また、これらの構成要素は、その地域に与えられている資源・要素賦存の状況、及び政策的な要因等により影響を受ける。例えば、労働生産性は、その地域がどのような産業に特化しているかに大きく影響を受けるが、そうした産業特化の状況は、その地域の資源・要素賦存状況や自然発生的な企業集積等に依存するとともに、技術革新活動を促進する政策や教育政策などにも影響を受ける。修正就業率や修正労働力率は、地域の年齢・性別による人口構成など要素賦存の状況に影響を受けるほか、前者は雇用政策などの影響を受けるとともに、後者についても女性の労働力率の違いなどは政策的な影響を受けると考えられる。
 以上のような枠組みに基づいて、2001年の地域ブロック別一人当たり域内総生産の全国平均からのかい離を、労働生産性、修正就業率、修正労働力率に分解した(第2−2−2図)。計算の結果をみると、(i)労働生産性は、北陸と近畿以外の地域で全国平均からのかい離のかなりの部分を説明している、(ii)修正労働力率については、九州、四国、北海道で一人当たり域内総生産の低さを説明する比較的大きな要因となっている、(iii)修正就業率の要因による地域格差への寄与はそれほど大きくないが、北陸で修正就業率の高さが所得押し上げに寄与している一方、近畿では修正就業率の低さが所得押し下げに寄与している。
 以上の分析では、地域の経済格差は生産性の違いによるところが大きいが、低所得地域では修正労働力率も所得押し下げ要因として働いていることが分かった。そこで、以下では、更に詳しく生産性や労働要因の地域格差を分析する。

●地域間の労働生産性格差は産業特化と人的資本に依存

 まず、地域間の経済格差を説明する最大の要因である労働生産性の違いを考察してみよう。労働生産性の水準は、その地域が高い生産性をもった産業に特化しているのか、生産性の低い産業に特化しているのかによって大きく左右される。そこで、産業特化の程度を、その産業の従業者が地域の雇用全体に占める割合でみることとし、各地域における産業別従業者数のシェアとその地域の生産性の水準の相関を産業ごとに調べた。推計によると、製造業、サービス業等に従事する人の割合が高いほど、その地域の生産性は高い一方、農林漁業、建設業等で働く従業者の比率が高いと地域の生産性は低下する傾向がある(第2−2−3表)。こうした産業特化の程度は、その地域の資源の賦存状況や自然発生的な企業集積に基づくところが大きいが、地域の生産性はこうした初期条件だけで決まっている訳ではなく、技術革新を促すような制度要因や人的資本の状況(就業者の教育程度)等にも影響を受けると考えられる。そこで、こうした初期条件以外の要因との関係をみるために、地域の15歳以上人口に占める高等教育修了者(短大・高専・大学卒等)の割合と地域の生産性との相関を調べると、かなり強い相関関係がみられることが分かった(第2−2−4図)。このように、地域の生産性は、より生産性の高い産業に特化している度合いが大きいほど、人的資本が高いほど、それに比例して高いということがいえる。

●失業率の地域間格差は地域の産業構成や人口構成を反映

 次に、修正就業率の格差、修正労働力率の格差について考察するが、ここでは、修正就業率のほぼ対の概念である、失業率について考える(9)。第1節では、過去10数年の間に、製造業や建設業等の雇用が傾向的に減少する一方、サービス業の雇用が大幅に伸びるという産業構造の変化が生じており、それに伴う産業間の労働移動が失業率を全国的に押し上げている可能性を指摘した。他方、地域間における失業率格差については、地域間の産業構成の違いによって生じている面が大きい。
 生産性の分析と同様に、各地域の失業率と産業特化(その地域の産業別の従業者シェアの全国平均からのかい離)の関係をみると、傾向として、農林漁業、建設業、製造業への特化度が高い地域ほど失業率は低い。一方、第3次産業(飲食店・宿泊業、医療・福祉)への特化度と失業率との関係はみられない(第2−2−5表)。これは、先ほどの製造業からサービス業へという産業構造の変化との関係で解釈すれば、製造業がまだ残っている地域では失業率は低いが、製造業のシェアが大きく低下しているところでは、雇用の構造変化に対して労働移動が迅速に行われず、失業率が高くなっている面があると考えられる。また、産業の特性として、農林漁業、製造業では、第3次産業と比べて離職がそれほどひんぱんに起きないために、その割合が高い地域では失業率が低い傾向にあるとも考えられる。
 また、人口構成も失業率や労働力率に影響を及ぼす。この点に関しては、地域の人口に占める若年者の比率が高いと、失業率も高いという関係がみられる(第2−2−6図)。これは年齢階層別でみて若年層の失業率が高いことを反映したものである。他方、地域人口に占める60歳以上人口の比率が高いと失業率が低いという相関関係がみられる。
 失業率と労働力率との関係については、労働力率が高いと労働力が増加し雇用が一定であれば失業率が高くなるという面と、失業率が高いと労働参加の意欲が阻害され労働力率が低下するという2つの異なる相関が想定されるため、理論的には一義的に決まらない。しかし、実際には、日本の場合、失業率の高い地域で修正労働力率が低いという関係がみられる。これは、後者の失業率が高いことによって労働市場への参加の意欲が損なわれるという要因が強く働いているためである。

●地域間の労働移動と失業率

 こうした失業率の地域間格差は、失業率の高い地域から低い地域への労働移動があれば、やがて是正されていく。こうした地域間の労働移動と失業率の関係をみると、1990年時点では、両者の相関関係は弱いながらも失業率の高い地域で転出超過、失業率の低い地域で転入超過となる傾向がみられ、労働移動が失業率格差を是正する方向に働いていた。しかしながら、2000年時点をみると、そもそも地域間の労働移動自体が大幅に縮小するとともに、地域の失業率との相関もほとんどみられなくなっている(第2−2−7図)。樋口(2004)によると、こうした地域間労働移動の低下は若年層で顕著であり、少子化のために親が子供を近くに置きたがる傾向と子供が親に経済援助を受ける傾向が背景にあると考えられている(10)。一般に、何らかのショックで地域の労働に対する需要が大きく減少したような場合には、それに対する労働市場の調整は、地域間労働移動の増加あるいはその地域の労働力率の低下(非労化)という形であらわれる。この点に関しては、我が国の場合は、既にみたように地域の失業率が高いと労働力率が下がるという形で調整が行われているが、労働移動がますます低下すると、そうした労働力率による調整だけではショックを吸収できず、失業率が上昇する結果となる。
 以上の地域間格差の分析から得られる政策的な含意としては、(i)地域の生産性格差や失業率格差はかなり産業特化の状況によって影響を受けるが、そうした地域の産業の在り方は、結局は地域固有の状況や地域自身のイニシアティブに依存すること、(ii)失業率の高さは必ずしも高齢化の進展との関係は大きくなく、むしろ若年の雇用をどうするかが地域の雇用問題として重要なこと、(iii)地域間の労働移動が縮小していることは、地域の抱える失業問題を増幅させる可能性があるという点で今後注意する必要があること、がある。

●地域間経済格差の考え方

 以上にみたように、我が国では、依然として地域間の経済格差が存在しており、そのため、地域間格差を縮小させるべく国・地方の財政を通じて所得の地域間の再分配が行われている。そうした効果もあって、長期的には地域間の経済格差は縮小してきているが、果たして、地域間の経済格差は、その政策的コストとの見合いで考えて、どの程度縮小させることが望ましいのであろうか。また、それはどのような手段によって達成することが効率的であろうか。
 単純に経済的な合理性という観点からのみ考えれば、あえて所得水準が低く雇用機会の少ない地域にとどまり続けるということは、その地域の住環境の魅力やその他のアメニティ(快適性)から得られる効用がそれを十分補完しているということであり、必ずしもその地域の住民の効用が低いとは限らない。しかしながら、何らかの市場の不完全性によって、必要な調整が妨げられ、不利な状況を甘受しなければならないとすれば、それは政策的に是正していく必要がある。それが構造改革である。
 既にみたように、この十数年間における地域の産業構造や雇用の在り方の変化は、一個人では予見できないほど大きなものであった可能性がある。その場合、一定の将来見通しの下に既に地域に根付いている住民にとっては、よい雇用機会がなくなったからといって他の地域に移動することは経済的にも大きな苦痛を伴うものであろう。また、中古住宅の流動性が低いこと等、別の市場の不完全性が移動にかかる費用を大きなものにしている可能性もある。こうしたことを踏まえれば、政策的に地域間の格差を是正していくことには依然として意義がある。特に、産業構造の変化に対応した労働移動の円滑化や人材育成を、教育・訓練を通じて行うことは重要である。また、地域間の労働移動についても、労働市場における取組を含め、移動の円滑化を図っていく必要がある。
 ただし、より具体的に、どのような政策手段によって地域経済の再生を図っていくべきかを考える際には、地域経済の厳しさが、全国的な需要ショックや供給ショックに基づくものか、あるいは地域によって異なる様々な要因に基づくものであるかを考えることが重要である。この点については、この節の考察から、地域間の格差は、長期的には、産業構造等地域固有の構造要因に基づくものであることが明らかになった。このような場合には、例えば全国一律に同じ政策を適用しても、長期的には地域間格差の解消にほとんど効果を持たないであろう。地域固有の問題の解決のためには、基本的には、その地域のイニシアティブに基づいて、それぞれが異なる処方箋で対応していく必要がある。こうした観点から、次節では、地方における構造改革の動きをみるとともに、今後、地域再生のためにどのような取組が必要かを論じる。


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