平成16年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−改革なくして成長なしIV−

平成16年7月

内閣府


目次][][][年次リスト

第3節 地域における構造改革

1 市区レベルの財政構造改革

●厳しい状況にある地方財政
 90年代初めまでは、地方財政は国の財政と比較してかなり良好な状態であった。しかしながら、バブルが崩壊した後に、我が国経済の成長率が低下していくと、地域経済の下支えを公共事業の増加で行ったこともあり、急速に地方財政収支は悪化していった。地方財政の状況を国民所得統計でみると、地方政府の貯蓄投資差額の対GDP比は1990年度の0.5%の黒字の状態から急速に悪化し、90年代半ばには2%内外の赤字で推移した。赤字は、1999年度から低下しはじめたが、2002年度も0.7%の赤字となっている(第2−3−1表)。他方、地方の借入金については、地方債、交付税及び譲与税配付金特別会計借入れ、企業債現在高を足し合わせると2002年度末で193兆円(対GDP比39%程度)に達していることから、予算に占める公債費の割合が上昇しており、財政の硬直化が引き続き進んでいる。財政構造の弾力性を示す指標の一つとして経常収支比率がよく用いられるが、これは、人件費や公債費等のように毎年度経常的に支出される経費に充当された一般財源(経常費充当一般財源)が、地方税や普通交付税のように毎年度経常的に入ってくる一般財源(経常一般財源)等に占める割合を示しており、この比率が高いほど財政は弾力性を失っていることを示す。経常収支比率の推移をみると、1998年度から2000年度にかけていったん低下した後、再び上昇し、2002年度には過去最高の90.3%に達しており、地方財政は依然としてかなり厳しい状態に置かれている。

●市区レベルの財政構造改革の状況

 財政が危機的状況にある中で、地方公共団体は様々な財政再建策に取り組んでいるが、具体的に、財政が悪化あるいは改善している地方公共団体では、その歳入や歳出にどのような変化が起きているのであろうか。ここでは、地方公共団体間で財政状況に大きな差があることにかんがみ、データが入手可能な全国641市及び東京23区の個別の財政データを用いて、歳入や歳出の変化がどのように財政の状況に影響を与えているかを統計的な実証も含めて考察する。

●歳出、歳入面における財政再建の取組状況

 全国市区が、経常収支比率でみてどのような分布をしているかをみると、2002年においては、平均値である85%以上90%未満のあたりを中心にほぼ左右対称に財政状況に余裕のある団体と財政が苦しい団体が分布している(第2−3−2図)。1998年から2002年にかけての推移についてみると、全体に経常収支比率が高まる方向にシフトしている。こうした財政の硬直化が歳出、歳入のどのような変化によってもたらされているかをみるために、2002年における経常収支比率の大きさで市区をグループ分けし、その区分ごとに1998年から2002年における住民一人当たり地方税収、一人当たり投資的経費、一万人当たり団体職員数の変化をみた。その特徴は以下のとおりである。
 第一に、歳入面では、財政状況が苦しい(経常収支比率が高い)団体ほど一人当たり税収の減少が大きく、とりわけ、団体数は少ないものの経常収支比率が100%を超えるようなところでは、税収が大幅に減少しており、歳入の減少がかなり財政の悪化に貢献していることが分かる(第2−3−3図(1))。
 第二に、歳出の変化を同じく経常収支比率のグループでみると、たとえ財政状況が良好な(経常収支比率が低い)団体であっても、投資的経費や団体職員数を減らしており、ある程度の歳出の効率化が行われていることが分かる(第2−3−3図(2))。
 第三に、特に、投資的経費については、経常収支比率が100%を超えると削減幅が著しく大きくなっている。これは、そうした団体ではかなり厳しい財政再建策を取らざるを得なくなっていることを反映していると考えられる(前掲第2−3−3図(2))。

●回帰分析による財政収支変化の要因

 1998年から2002年の期間について、全国市区の財政状況がどのように変化したかを統計的に確認するために、全ての統計がそろう641市と23区のデータを用いて回帰分析を行った(第2−3−4表)。この結果によると、(i)職員数の増加と経常収支比率の上昇(財政状況の逼迫化)、(ii)地方税収の増加と経常収支比率の低下(財政状況の改善)、(iii)予算に占める公債費比率上昇と経常収支比率の上昇(財政状況の逼迫化)、が同時にみられる。ただし、こうした関係は因果関係というよりも、経常収支比率自体がもともとこれらの変数を直接あるいは間接的に反映したものであるため、同時決定の関係にあると考えられる。
 この基本パターンに、一人当たり投資的経費の変化を加えて推計すると、投資的経費の伸びの係数はマイナスとなり、投資の削減と財政状況の逼迫が同時にみられる。これは、投資の削減だけでは財政状況を改善させるのに不十分であるという可能性を示唆するが、既にみたように、財政状況が極端に悪い団体が投資的経費を大きく削減せざるを得ないという状況に直面していることも反映していると考えられる。
 最後に、高齢化が財政収支に与える影響をみるために、老人福祉費を推計に加えた。その結果、老人福祉費の増加と経常収支比率の上昇(財政状況の逼迫)が同時にみられる。したがって、今後も、高齢化の進展という面から、財政状況が圧迫される状況が続くことは避けられないものと考えられる。
 以上の推計結果に基づいて、今後財政再建を行う上で考慮すべき点をまとめると、(i)財政の硬直化を避けるためには、投資的経費の削減だけでは十分でなく、経常的な歳出項目の抑制にも取り組む必要がある、(ii)地方税収を確保する努力を行うことが重要であることが示唆される。


2 地方における行財政改革の進展

●NPM的手法の概要
 厳しい財政状況を背景に、1990年代後半から、地方公共団体の間でニュー・パブリック・マネジメント(NPM)的な手法への取組が急速に広まりつつある。特に、2000年4月から地方分権一括法が施行されるなど国と地方の関係が見直される中、地方公共団体は従来にも増して自己決定・自己責任を原則とする組織の整備が必要とされており、そうしたことも地方が独自の行財政改革への取組を強化している背景の一つにある。NPMの内容については、平成15年度経済財政報告で詳しく論じているが、具体的な行政手法としては、行政評価による行政サービスの効率・効果の改善、企業会計的手法の導入、民間資金等活用事業(PFI)による施設整備や業務の民間委託といったアプローチが多くの地方公共団体で用いられている。それぞれの手法の概要とその普及状況をまとめると、以下のとおりである。

(1)行政評価
 行政評価は、地方公共団体の施策や事業ごとに目標、成果、達成度合を明らかにすることで、行政マネジメントの効率化と住民に対する説明責任の明確化を目指すものである。総務省の調査によると、2002年度において、都道府県については、試行中の団体を含めるとほとんどの団体が取り組んでいるほか、市町村についても、検討中も含めれば、全体の65%が行政評価に取り組んでいる(第2−3−5図(11)

(2)企業会計的手法の導入
 企業会計的手法は、事業や施策の評価を行う際に、減価償却なども含めた総費用算出の根拠となるほか、住民に対する説明責任の改善につながるものである。地方公共団体における企業会計的な手法の在り方については、国の調査研究会においても基準が示されており、地方公共団体の資産、負債等の状況を明らかにする「バランスシート」の作成方法に加え、行政サービスを提供するためのコストの計算に際して、単に現金支出だけでなく減価償却費や退職給付引当金等についても、その年度の活動に対応する非現金支出を含めて計算する「行政コスト」の作成手法の基本的な考え方が示されている(12)。総務省の調査によると、2003年3月末時点で、何らかの形でバランスシートを作成している団体は、都道府県では全て、市区町村では全体の57.4%に当たる1856団体に上っており、行政コスト計算書については、都道府県では43団体、市区町村では30.4%に当たる982団体が作成している(前掲第2−3−5図(13)

(3)PFI
 PFIは、公共施設等の設計・建設、維持管理、運営等を民間の資金、 経営能力及び技術的能力を活用して行う手法である。我が国では、1999年にPFI法が制定され、これまでのところ150を超えるPFI事業の実施方針が公表されている。内閣府が2004年2月に地方公共団体に対して行った調査では、回答のあった2121団体のうち、既にPFIを導入した、あるいは検討しているとした団体は全体の6.7%、検討したことがある、あるいは今後前向きに検討するとした団体は22.4%ある(前掲第2−3−5図(14)

(4)外部委託
 地方公共団体による行政サービスの外部委託については、行財政の効率化、住民サービスの向上、民間の事業機会の拡大や雇用の創出といった効果が期待されている。総務省が2003年4月に全国市区町村を対象に行った調査によると、地方公共団体の一般事務や施設運営事務のかなりの割合が外部委託されており、1998年の調査時点と比べても、ほぼ全ての業務で委託の割合が上昇している(第2−3−6表(15)。個別の業務ごとに外部委託の割合をみると、一般事務の中では、在宅配食サービス(96%)、ホームヘルパー派遣(91%)、本庁舎の清掃(86%)、一般ごみ収集(84%)等が高い一方、案内・受付(20%)、学校用務員(20%)公用車運転業務(29%)等が相対的に低い。また、施設の運営事務の外部委託割合については、下水終末処理施設(92%)、都市公園(91%)、病院・コミュニティーセンター(90%)が高く、保育所(60%)、診療所(63%)等が比較的低い。

●NPM的手法導入の効果とその課題

 以上にみたように、NPM的な手法はかなり地方公共団体に普及しており、既に行政サービスの効率化に一定の効果を発揮していると考えられる。NPM的な手法の効果について総合研究開発機構(NIRA)が全国市区を対象に行ったアンケート調査によると、行政評価は「職員の意識改革(35.3%)」、企業会計は「アカウンタビリティ(40.2%)」、PFIは「予算圧縮・財政再建(42.9%)」を効果として挙げる団体が最も多かった(16)。また、外部委託の効果については、日経新聞及び日経産業消費研究所が2004年2月に行った調査によると、民間委託による経費削減効果(委託費を差し引いた純削減額)は、1地方公共団体当り1億9千万円あったとされている(17)
 他方で、NPM的手法の導入からまだそれほど時間が経っていないこともあり、課題も多く残っている。
 第一に、それぞれの行財政改革手法の間の連携が十分にとられる必要があり、一層の行政サービスの効率化と重点化を進める必要がある。例えば、地方公共団体のバランスシートや行政コストの計算は、新規事業の採用や既存事業の継続を判断する際の材料となったり、民間委託やPFIを決定する際の官民コスト比較の根拠として活用されたりして、はじめて行財政の効率化に役立つものである。しかしながら、日経産業経済消費研究所の調査によると、行政コスト計算書で出された数字が行政評価に反映されていると答えた団体は、行政コスト計算書を作成した市区町村の2割程度にとどまっている(18)。また、行政評価の結果については、既に予算要求や事務事業の見直しの参考として活用されているが、今後更なる工夫を検討する必要がある(19)
 第二に、行政評価やPFIの費用計算等について、客観的かつ定量的に事業を評価する手法が十分に確立されていないことである。行政評価については、総務省の調査(総務省(2002))でも、導入時の課題として、「評価の内容が定性的、主観的になりがち」、「的確な評価が難しい施策をどう評価するか」といった点を挙げる団体もあり、各団体は、市民満足度調査の実施等工夫しながら取り組んでいる。PFIについても、内閣府の調査(内閣府(2004))では「従来型の公共工事費用とPFIのコスト比較(VFM)の算定方法」を課題として挙げる団体がみられる。
 第三に、外部委託やPFI事業等行政サービスの民間開放を行うに際して、それを阻害している制度的要因については、規制の必要性を見直し撤廃できるものは直ちに廃止していく必要がある。内閣府が2003年10月に地方公共団体に対して行った調査によると、外部委託が阻害されている要因として、回答のあった487団体のうち3割程度の団体が制度的要因を挙げている。具体的には、法令等により廃棄物処理施設、学校、図書館、公民館等の公的施設の管理・運営や社会福祉・保険等の行政事務を民間事業者に任せられないケースがかなりあることが指摘されている(20)。こうしたことを踏まえ、2004年2月に決定された地域再生プログラムでは、道路、河川といった公共施設の管理の民間開放を促進するための取組を行うこととしている。また、PFIについても、BOT方式(民間事業者が事業期間中施設を所有しながら運営する方式)の場合、民間事業者が行政財産である土地の一時的な使用の許可を受けているという状態では、土地利用に関する法的地位や事業継続の安定性に問題があった(21)。このため、2001年に法律が改正され、PFI事業者に対し行政財産である土地の貸し付けを行うことができるようになったほか、2003年9月に施行された「指定管理者制度」の導入により、地方公共団体の施設の包括的な管理を民間事業者が行うことが可能となるなど、公共施設利用に関する制約は徐々に減ってきている。
 第四に、民間への委託に際しては、常に競争圧力が働くよう留意する必要がある。外部委託の契約方法に関しては、入札の割合は低く、随意契約が過半となっているが、競争相手が少ない地方などでは受託業者が競争圧力にさらされず、長期的にはコスト削減圧力が働かなくなる危険性がある。このような場合には、市町村の枠を超えた広域連携によってまとまった発注を行うなどの工夫も一つの方法であろう。


3 構造改革特区と地域の活性化

●構造改革特区の概要
 構造改革特区は、地域経済の活性化のために、地域の特性に応じた規制の特例を導入することにより、民間活力を最大限に引き出し、地域の自発的努力で構造改革を促進することを目指している。構造改革特区が、かつてのような地域振興策や規制改革の在り方と大きく異なるのは、(i)国があらかじめモデルを示すのではなく、地方公共団体、民間が地方の特性に合わせて提案する、(ii)個別事業は地方公共団体が責任をもって実施する、(iii)地域特性に合わせた先行的な改革であり、特区において特段の問題が生じていないと判断された規制の特例は全国レベルで実施する、といった特徴をもっていることである。こうした構造改革特区の取組により、特定地域における構造改革の成功事例が示されることで全国的な規制改革へと波及し、我が国全体の経済が活性化されることが期待されるとともに、地域特性が顕在化し、その特性に応じた産業の集積や新規産業の創出等が進展すると考えられる。
 2003年4月に第1回目の特区認定が行われて以来、2004年6月時点で、これまで5回にわたり特区認定が行われ、386の計画が認定されている。これを分野別に件数の多い順にみると、教育関連が75件、農業関連が60件、幼稚園・保育所連携・一体化推進関連が51件、都市農村交流関連が49件、生活福祉関連が38件となっている(付表2−3)。

●特区と地域経済の活性化

 こうした特区計画がどのように地域経済を活性化しているかという観点からみると、次の3つの経路が考えられる。
 第一は、参入規制の緩和や規制運用の弾力化により、地域における企業やその他法人等の活動が活性化されるという効果が考えられる。具体的には、参入規制緩和の例としては、株式会社など農業生産法人以外の法人による農業経営への参入、株式会社による学校の設置の容認と学校法人を設立する場合の校地校舎の自己所有要件の緩和による参入の容易化、株式会社による高度医療の提供(2004年10月施行)等がある(第2−3−7表)。規制運用の弾力化の例としては、大規模小売店舗立地法の手続簡素化、通関業務の24時間・365日化への対応等がある。
 第二は、公共施設利用・行政サービス提供の民間への開放により、民間ビジネスの機会を拡大するものである。こうした例としては、国有施設等の廉価使用の拡大、公立保育所の給食の外部搬入、特別養護老人ホーム運営の民間委託等がある。
 第三は、行政サービスの多様化・効率化等により利用者の利便の増大を図るものである。こうした例には、多様な教育カリキュラムの実現、幼稚園児と保育所児の合同活動等がある。

●特区と地方公共団体の活性化

 また、特区は民間企業にビジネス・チャンスを提供するだけでなく、特区の計画を立案・実施する地方公共団体に対しても、独自性を発揮する機会を開き、地域の活性化を促す効果をもっている。そこで、構造改革特区の認定を受けた地方公共団体がどのような属性をもっているのかについて、既に前節で用いた全国市区のデータベースを用いて検証した(22)。また、地方公共団体の行政サービスの特徴を示す一つの参考指標として、日経産業消費研究所の調査結果を用いた。なお、この調査では、全国市区の行政サービスについて、その透明度、効率性、住民参加度、利便度等の項目ごとに評価付けをし、それを総合した指標(以下「日経研究所指標」という)を算出している(23)。こうした分析により示唆される特区認定団体の特徴は以下のとおりである。
 第一に、財政状況との関係でみると、特区の認定を受けた市区は、比較的財政状況に余裕がある団体が多い。ただし、特区の認定数自体は少ないものの、経常収支比率が100%を超えるような財政状況が極めて厳しい団体でも特区への取組みを行っている団体もある(第2−3−8図)。
 第二に、行政財の効率性、透明度、市民参加度、利便性の向上といった面での取組について特区認定団体の特徴を日経研究所指標を用いて調べると、他の団体に比べて特区認定団体ではこうした取組に積極的である可能性が示唆される。(第2−3−9図
 ただし、以上のような特区認定団体の特徴は、特区制度が始まって一年以上が経って、徐々に変化してきている可能性もある。特区認定団体と、経営収支比率、日経研究所指標との関係を、特区の認定を受けた時点に分けて詳しく調べてみると、おおむね第1回から第3回の特区の認定を受けた団体では、既にみたように財政状況が比較的良好でかつ日経研究所指標が高いという関係がみられるが、第4回の認定を受けた団体では、そうした関係がみられない(付表2−4)。このような推計結果の一つの解釈としては、第1回から第3回までに関しては、ここで示されたような特徴を持った地方公共団体が特区制度の利用で先行していたところ、うまくいっている事例に触発されて、第4回の認定では、これまで構造改革に慎重だった団体でも特区の利用に前向きになってきたという見方ができる。


4 観光など地域の特色を活かした地域活性化

 これまでみてきたように、地方独自の努力で地域経済を活性化していくための枠組みは次第に整いつつある。行財政面では、地方分権一括法により権限が地方に大幅に移管されるとともに、現在進みつつある三位一体の改革により、今後は更に権限、税源が地方に移される。また、構造改革特区や地域再生の取組は、地方が活性化を進める上で制約となっている規制の緩和やその運用の弾力化を可能にするとともに、これまで官が行ってきた業務の民間への委託を促進する効果をもっている。
 こうした地方への権限移譲という追い風が吹く中で、地方では、具体的にどのような形で地域の活性化を行いつつあるのだろうか。地域独自の資源を活かした経済活性化の一例としては、観光の振興がある。我が国を訪れる外国人旅行者の数は諸外国と比較しても多いとは言えない状況にあることから、「ビジット・ジャパン・キャンペーン」等を通じて、積極的な訪日促進のための活動が行われるとともに、「一地域一観光」の推進等により、地域の魅力を高めるための取組が行われている。
 また、もう一つの大きな流れとしては、地域に固有の資源・産業を活かした知的技術革新・産業の集積(クラスター)を支援する動きがある。加えて、外国企業の持つノウハウや資本を積極的に導入して地域経済の活性化と雇用の創出を図るため、外国企業の誘致に力をいれる動きもあり、構造改革特区でも、そうした動きを後押しするために、外国人IT技術者の在留期間の上限の伸長等の特例措置が講じられている。以下では、一例として、モデルの推計によって、旅行客数の規模等について実証分析を行うとともに、クラスター、対日投資促進に関する最近の動きについても簡単に触れる。

●観光立国の考え方

 観光の推進に関しては、国及び地方ともに積極的な取組を行っている。2003年7月に観光立国関係閣僚会議がとりまとめた「観光立国行動計画」では、(i)21世紀の進路「観光立国」の浸透、(ii)日本の魅力・地域の魅力の確立、(iii)日本ブランドの海外への発信、(iv)観光立国に向けた環境整備、(v)観光立国に向けた戦略の推進を行うことにより、「住んでよし、訪れてよし」の観光立国の実現に取り組むことが示されている。具体的には、外国人旅行者の訪日を促進するため、日本の魅力を海外に積極的に発信するとともに、外国人入国ビザ取得手続の簡素化・迅速化、外国語表記の案内板・標識等の整備を行っている。また、各地域がもつ魅力を自主的に発見し、高め、競い合うことをめざし、「一地域一観光」を推進し、魅力あるまちづくり、人材の育成を進めている。
 我が国を訪れた外国人旅行客の実績からみると、2003年度は535万人となり、ワールドカップサッカーの開催のあった2002年度を上回り過去最高となったが、他の国との比較では、2002年時点で世界33位であり、その人口や経済の大きさからみて低位にある(第2−3−10図)。また、2003年の旅行収支をみると、旅行に関する日本側の外国からの受取は約1兆円となっているが、日本人の外国旅行に伴う支出を表す旅行収支の支払いは2003年で3.3兆円であり、旅行に関しては大幅な出超状態にある(付図2−5)。

●モデルによる訪日旅行客数の推計

 外国人旅行客の誘致に関しては、官民をあげて積極的な取組が行われている。我が国を訪れる旅行客数は、日本の人口や経済規模、周辺国の状況などからみて、どのように評価できるだろうか。過去の研究事例では、ある国における外国からの旅行客数は、その国及び相手国の人口、経済規模に比例し、相手国との距離の2乗に反比例するというグラビティ・モデルで説明しているものがある(24)。そこで、このモデルに基づいて、日本を来訪する旅行客が比較的多い12か国と日本の間で、それぞれの国を来訪する旅行客数の推計を行った。その上で、モデルの推計値と実績値のかい離をみると、我が国では推計値よりも実績値の方がかなり低くなっている一方、フランス、アメリカ、カナダ、香港といった旅行客の人気が高い国では実績値が推計値を上回っている(第2−3−11図(25)。こうしたことから、我が国を訪れる旅行客数は、我が国や周辺国の経済規模や人口に比して少ない可能性が示唆される。
 次に、同じ推計結果を用いて、各国別に日本を訪れる旅行客数を推計して実績値と比較した。このうち、日本を訪れる旅行客の多いアジア諸国に注目すると、韓国や中国では実績値が推計値を下回っている一方、台湾では実績値が推計値を上回っているなど違いが出ている。これは、人口・経済規模や日本との距離の割に、韓国や中国からの旅行客は少なく、逆に台湾からの旅行客は多いということを示唆している。ただし、実際に日本を訪れる旅行客を国籍別にみると、モデルの推計では低めに出ている韓国や中国からの旅行客数の伸びが高まってきている。(第2−3−12図)。

●地域における観光客の動向

 最後に、各都道府県における観光客の動向についても簡単に考察する。ここでは、各道府県の来訪観光客数を用いるが、使用しているデータについては、必ずしも各道府県で統一されたものでないこと、域外からの観光客だけでなく域内の観光客も含まれること、延べ人数で表されていること等、統計的な問題点も多いため、以下の分析は一定の幅を持ってみる必要がある。
 まず、各地域別の来訪観光客数の状況については、域内の観光客を含んでいることもあり、人口が多く、大都市を抱える地域で観光客数が多い傾向がある(付図2−6図)。他方、全雇用者に占める観光関連の業種に従事する者の割合については、沖縄、長野、山梨、長崎、北海道、大分、石川、京都といった観光地として人気の高い地域で高くなっている(付図2−7)。
 こうした各地域の観光客数が、人口の規模や人口の多い地域からの距離といった基礎的な要因でどの程度説明できるかをみるために、当該地域の人口と東京圏からの距離を説明変数として各地域の観光客数を推計し、実際の観光客数と比較した(26)付図2−8)。これによると、山梨、大分、長野、北海道、静岡など、観光地として人気の高いところで実績値が推計値を大きく上回る結果となっている。推計モデルでは、地域の人口と東京からの距離しか考慮していないので、こうした推計値と実績値の違いは、各地域が持つ観光資源の魅力や交通の便など「観光地としての優位性」を反映しているものと考えられる。そこで、推計値と実績値のかい離が大きいほどその地域は観光資源において優位にあると仮定し、その値と、1991年から2001年までの観光客数の伸びを比較した(付図2−9)。すると、必ずしも比較優位を持った地域の観光客の伸びが高いという明確な関係は見られず、優位を持っていても大幅に減少している地域や、逆に優位はなくとも大きく増加している地域もある。
 実際、伝統的な観光地であっても来訪観光客数が低迷している地域も数多くある一方で、地域コミュニティが一体となってまちづくりが行われている中小都市では来訪客数が着実に増加するという傾向もみられる(27)。このように、地域の観光の動向に関しては、必ずしも自然に与えられた条件だけで決まるものではなく、各地域の自助努力によって来訪客を増やす余地は大きいと考えられる。
 多くの先進国では、地方の都市や村落における生活文化、自然、農産物等を観光資源とする田園生活体験型観光が急速に発展しているが、こうした従来型ではない形の観光であれば、特別の観光資源を持たない地域でも発展が可能である。ただし、OECDの研究によると、そうした地域では観光サービス提供のノウハウが欠如している場合も多いとしている(28)。このため、当該地域の観光市場の規模・特性を十分に分析し市場の要望に適切に対応するとともに、質の高いサービスが提供できるよう十分な訓練を積むことが重要である。その際、官民の役割としては、公的部門には、情報収集・提供や規制の弾力的運用等が求められる一方、民間部門には、地域をまとめるリーダーシップとその下での協力体制が求められる。

●クラスターの形成

 クラスターとは、特定の分野において相互に関連をもつ企業の集まりと大学等の関係機関の集まりが地理的に集中している状態をいう。クラスターは、形式上は企業城下町のような地域の産業集積と似ているが、産業集積と大きく異なるのは、アメリカのシリコン・バレーのように、そこにある企業同士はお互いに競争しあう立場にありながらも、一定の情報が共有されることなどによって、相互に補完しあい、結びついているという点である。こうしたクラスターは、競争によってイノベーション(技術革新)を促進し、相乗効果によって地域の企業の競争力を高める働きをする。クラスターの形成に関しては、国と地方公共団体が共同して取り組んでおり、経済産業省が取り組んでいる「産業クラスター計画」では、産学官の広域的な人的ネットワークを形成、地域の特性を活かした技術開発の推進、起業家育成施設の整備等インキュベーション機能の強化等により、新事業を展開する企業の支援を行っているほか、文部科学省を中心とした「知的クラスター創成事業」では、大学等を核とした、関連研究機関、研究開発型企業等による国際競争力のある技術革新のための集積の創成を目指した取組が密接な連携を図りつつ行われている。
 また、既に述べた構造改革特区や、都市再生の取組においても、こうした地域のクラスター形成に資するような計画が認定されている。こうしたクラスターの実例や、産業集積のメリットと地域経済の成長に関する分析については、内閣府「地域の経済2003」で詳しく論じているが、主な研究結果としては、一部の産業に特化した形の産業集積よりも、多様な産業からなる産業集積の方が、競争と技術革新の促進を通じて雇用を拡大させる効果は大きいという結論が導かれている。

●対日投資の促進

 我が国における対内直接投資の残高は、対GDP比でみて2%程度と、諸外国に比べて著しく低い水準にとどまっているが、諸外国の例をみると、対内直接投資を積極的に促進することにより、地域経済の活性化を行っている事例が多くみられる。例えば、アメリカでは、1970年代から80年代にかけて、産業の空洞化が懸念される中、各州が外資を積極的に誘致し、その結果、多くの日系自動車メーカーなどが進出し、地域の雇用増加に貢献した。我が国でも、こうした対内直接投資が地域経済にもたらす効果が幅広く認識されるようになっており、国及び地方が共同して外資を誘致する取組が行われている。具体的には、2003年に策定された「対日投資促進プログラム」では、(i)行政手続の明確化・簡素化・迅速化、(ii)国境を超えたM&Aの円滑化など事業環境の整備、(iii)外国人技術者・研究者の入国、在留関係の制度改善など雇用・生活環境の整備、(iv)構造改革特区を活かした地方と国の体制整備、(v)トップセールス・在外公館等を通じた内外への情報発信に取り組んでいる。こうしたことを背景に、地方でも、構造改革特区において、外国人受入れに関する特例措置が数多く認定されており、例えば、外国人研究者やIT関連技術者の在留期間の上限の伸長や研究目的で入国した外国人が在留資格変更許可を受けることなく投資・経営活動を行えるといった特例措置がある。

●本章のまとめ

 最後に、本章における主な分析結果をまとめると、以下のとおりである。
 第1節では、地域経済のばらつきに焦点を当てて分析した。地域の景気回復のばらつきは、主に生産面で輸出関連財やIT関連財等に特化した地域の回復が先行する形で生じている。また、地域間の移出入の程度に違いがあるため、一部の地域では景気改善の動きが波及しにくい面がある。また、雇用面では、傾向として、第2次産業の雇用が縮小し、第3次産業の雇用が拡大するなかで、産業間の労働移動が円滑に行われない場合には、失業の増大等につながることになる。特に、今後は中高年も含め産業間の労働移動を促すことが重要になると見込まれることから、教育・訓練の充実など円滑な労働移動を支援していく必要がある。
 第2節では、地域間の所得格差に焦点を当てて分析した。一人当たり所得でみた地域間の経済格差は縮小傾向にあるものの、格差は依然として存在している。こうした格差は、地域の産業構成、人的資本の蓄積の程度など構造的要因に起因している。したがって、地域ごとに格差が生じる根本的原因は異なるため、地域再生は全国一律の政策によるのではなく、地域自らの発意で行われる必要がある。失業率の地域間格差については、地域の産業構成と相関があることに加え、若年層の割合が高いほど失業率が高いという関係があり、地域においても若年雇用の問題に取り組むことが重要である。また、最近では、労働移動は地域間格差を是正する方向には働いていないため、労働市場における取組を含め、移動の円滑化を図っていく必要がある。
 第3節では、地域における構造改革の動きを紹介した。地方公共団体による行財政改革は進みつつあるが、依然として財政的には厳しい状況にある。財政再建を進める上では投資的経費の削減だけでなく、経常的経費の削減に踏み込んだ財政改革が必要である。また、NPM的な手法を用いた行財政改革は、多くの地方公共団体で導入されているが、それぞれの行財政改革手法の間の連携をとる必要があり、今後、更に行財政管理の効率を高めていく必要がある。構造改革特区は、比較的財政的にも余裕のある団体の認定が多いが、最近では、一部の先進的な地方公共団体だけでなく、より幅広い団体にも特区を利用する動きが出てきている。地方分権一括法、三位一体の改革、構造改革特区、地域再生プログラムといった一連の施策により、地方に権限や財源が移行されつつある中で、今後の地域再生は、地域に固有の資源や人のつながりを活かして進めていく必要がある。そうした一例として、観光、知的技術革新・産業集積(クラスター)、対内直接投資を促進することは重要であると考えられる。特に、観光に関しては、日本を訪れる旅行者数を2010年までに1000万人にすることを目標に訪日を促進する活動が行われているところであり、地域の独自性を活かしつつ、引き続き積極的な取組が期待される。


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