第2章 第2節 4 温室効果ガス削減に向けた地方自治体による広域連携

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温室効果ガスの削減に向けて、各地方自治体は、環境基本条例や環境基本計画を策定し、それに基づき様々な省エネ施策や再生可能エネルギーの活用等が実施している。しかし、環境関連の施策は、単一の地方自治体での取組のみならず、広域的な地方自治体間の連携の下で進めることにより、実効性を高められることがある。ここでは、温室効果ガスの削減に向け、近接した地域の連携のほか、県境を越えた地理的に離れた地域間の連携についてもみることにする。

(近接する地方自治体相互の連携)

環境対策のために近接した地方自治体が広域連携を形成し実効性をあげている例としては、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市といった首都圏の8都県市による自動車公害対策の取組がある。8都県市は、環境基準を満たさないディーゼル車の8都県市内(東京都島嶼部を除く)での運行を2003年10月から禁止する等、8都県市共通の自動車排出ガス規制を設けている。その結果、ディーゼル車規制前と比較し、地域全体として、大気の汚染状況が大幅に改善されている15。これは、自動車公害対策に対する連携事例であるが、温暖化対策の観点からも参考になろう。

同一の都道府県内に位置する地方自治体の広域連携としては、東京都内の全ての市区町村(62市区町村)が、温室効果ガスの削減やみどりの保全に向けて連携し、2007年度から実施されている「みどり東京・温暖化防止プロジェクト」がある。事業を機動的かつ効率的に推進するため、62人の首長の中から選出された14名の委員(市長6名、区長6名、町村長2名)から構成される「オール東京62市区町村共同事業推進会議」が設置され、同会議で意思決定を行うといった工夫もみられる。同推進会議では、都内の公立小学校105校の児童の参加を得て、省エネ生活の実践を進めたり、62区市町村が共同して、環境イベントやキャンペーン等を実施している。

(温室効果ガス削減目標達成に向けた広域連携)

人口が集積しCO2の排出量の多い都市部の地方自治体と、豊かな森林資源を有する中山間の地方自治体や、再生可能エネルギー発電に適した地理条件を有する地方自治体との間において、姉妹都市等によるこれまでの交流を発展させ、温室効果ガス削減に向けて広域的に連携して取組む活動もはじまっている。

東京都新宿区は2006年2月、「新宿区地域省エネルギービジョン(新宿区省エネルギー環境指針)」を策定し、区内のCO2排出量を、2010年度に1990年度比で5%増に抑え、2020年度に1990年度比で5%減とする目標を設定した。目標の実現に向けて、区立公園の緑化等を推進してきたが、2003年度における区内のCO2排出量が1990年度比27.7%増となっており、目標達成のためには、より実効性のある取組を行うことが急務となっていた。そこで、新宿区は、友好提携を結んでいた長野県伊那市16との間に2008年2月に「地球環境保全協定(カーボンオフセット協定)」を締結し、新宿区が伊那市内の森林の保全事業を支援する代わりに、その森林保全事業により増加した森林のCO2吸収量を新宿区内のCO2排出量から減算する仕組みづくりを開始することとした(第2-2-14図)。このため、新宿区の2009年度予算において、伊那市の市有林における間伐や下草刈りのほか、伊那市内の森林での区民の環境学習のための費用として、約3,000万円が計上されている。新宿区は、伊那市内の森林を年30~50haずつ整備する予定であり、間伐を行わない場合と比べ、5年後には森林のCO2吸収量が約3倍になると見込まれている。これは、森林の保全に広域的に連携して取組むことで地球温暖化防止に貢献すると同時に、都市部の住民の自然とのふれあいの機会や両地域の住民同士の交流の機会の創出にもつながるものである。こうした県境を越えた自治体間の環境保全に関する協定の締結は、23区では初の試みでもある。

第2-2-14図 温室効果ガス削減に向けた地方自治体の広域連携の例
第2-2-14図

双方の自治体の特徴を活かし、森林のCO2の吸収力向上に向けて連携して取り組む事例は、茨城県内の市域を接しないつくば市と大子町(だいごまち)の間でもみられる。大子町は、町の大半を山林が占め、日本三名瀑の1つとも言われる袋田の滝がある自然豊かな地域である。他方、つくば市は、大学や研究機関が集積する地域である。両自治体は、2009年11月にカーボンオフセット協定を結び、大子町内の町有林の一部を「つくばの森」と名付け、その森林の整備をつくば市の基金で行い、その代わりに、森林CO2の吸収量の増加分をつくば市のCO2排出量と相殺できるほか、つくば市の市民参加の森林整備や筑波大学を中心とした研究機関の実証実験の場として「つくばの森」を活用すること等が予定されている。さらに、環境以外の分野でも両自治体は連携を強化し、つくば市の東京事務所を活用した大子町のPR、双方の自治体の景勝地を回遊する観光ルートの開発等を展開していく予定である。

CO2排出量削減目標の達成に向けた広域連携は、東京都中野区と茨城県常陸太田市等との間でも形成されつつある。東京都中野区においても、区内のCO2排出量を2017年度に2004年度比で約10%削減する目標を設定しているが、区単独でCO2削減を進めるのは限界があり、風況の良い他地域に風力発電所を建設することで、グリーン電力の利用を拡大しようとしている。地方自治体が当該自治体外に風力発電施設を建設・運営するのは全国初の試みである。風力発電施設の設置予定地として複数の地域が検討されているが、その1つである茨城県常陸太田市は、風況が良好であることから、同市が運営する風力発電施設1基と民間企業が運営する風車の合計6基が既に稼働し、風力発電に実績のある地域である。

姉妹都市としての双方の自治体の交流が市民レベルでも根付いていたことから、これまでの交流を発展させ、温暖化対策に協力して取り組もうとする地域として、埼玉県戸田市と福島県白河市がある。両市は、白河市の前身の大信村の時代からの姉妹都市であった。埼玉県戸田市は、東京に隣接し、市域は荒川河川敷を含めても約18km2で、もともと森林や原野も少なく、都市化に伴い農地も激減している。一方、福島県白河市は、約305km2という広大な市域を持ち、57%を山林が占める。このような両地域の特徴を活かし、戸田市内の環境団体等が中心となって白河市の間伐材を使用し、白河市の森林保全に役立てる取組等が進められている。


15.
SPM(浮遊粒子状物質)濃度環境基準達成状況調査によれば、一般環境大気測定局のうち環境基準を達成した局の割合がディーゼル車規制前の48%から、規制導入後の2004年度には99%に大幅に上昇した。なお、一般環境大気測定局とは、住宅地などの一般的な生活空間における大気汚染の状況を把握するため、大気汚染防止法第22条に基づいて設置されるものである。
16.
長野県伊那市は、2006年に旧伊那市、高遠町、長谷村の3つの自治体が合併してできた市である。合併前、新宿区と高遠町とが友好都市協定を結んでおり、新市移行後も友好都市協定は継続されている(新宿区と伊那市が友好都市)。

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