第2章 第2節 3 再生可能エネルギーの利用拡大に向けた仕組みづくり

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(グリーン電力証書制度の仕組み)

土地制約等で再生可能エネルギー発電施設を設置できなかったり、再生可能エネルギー発電施設から地理的に離れているため、再生可能エネルギーを利用したくても利用できないといった場合に、再生可能エネルギーの利用を可能にする仕組みとして、「グリーン電力証書」がある。化石燃料等の従来のエネルギーからの電力と、再生可能エネルギーからの電力は、電力としては同じものであるものの、再生可能エネルギーから発電された電力は、グリーン電力と呼ばれ、電気や熱そのものの価値の他に、二酸化炭素を排出しないといった付加価値を持っている。こうした環境価値の部分を「環境付加価値」として取り出し、これを「グリーン電力証書」として売買する仕組みがグリーン電力証書制度である14(第2-2-10図)。「グリーン電力証書」を購入する企業・自治体等が支払う対価は、証書発行事業者を通じて発電設備の維持・拡大等に利用される。他方、グリーン電力を利用したい需要家は、再生可能エネルギー発電設備を持たなくても、グリーン電力証書を購入することで、電力会社から従来どおり供給される電力を消費しながら、擬似的にグリーン電力を利用したことになる。このように、グリーン電力証書は、電力の需要サイド、供給サイドの双方にとってメリットのある仕組みであり、再生可能エネルギーの利用拡大を後押しする効果が期待される。

第2-2-10図 グリーン電力証書制度の仕組み
第2-2-10図
(備考) 経済産業省 総合資源エネルギー調査会需給部会資料に基づき作成。

グリーン電力発電認定設備数は、2005年度以降、増加テンポを速め、2009年9月現在、累計207件となっている。グリーン電力発電認証電力量も、2001年度は115.8万kWhであったが、その後、順調に増加し、2004年度には1億kWhを突破し、2009年度は、9月現在、4月以降の累計で6.9億kWhと着実に増加している(第2-2-11図、第2-2-12図)。

第2-2-11図 グリーン電力発電認定設備件数の推移
第2-2-11図
(備考) 1. 財団法人日本エネルギー経済研究所グリーンエネルギー認証センターホームページ「グリーン電力発電設備認定一覧」により作成。
2. 2009年度は4~9月の累計。

第2-2-12図 グリーン電力発電認証電力量の推移
第2-2-12図
(備考) 1. 財団法人日本エネルギー経済研究所グリーンエネルギー認証センターホームページ「グリーン電力発電電力量認証一覧」により作成。
2. 2009年度は4~9月の累計。

(官民で広がるグリーン電力証書の活用)

グリーン電力証書を購入する企業や地方自治体は、グリーン電力証書をCO2排出削減量に換算し、自主的な環境目標達成の手段として記載できる。このため、工場、店舗、オフィスビル等で使用する電力のグリーン化を目的に、グリーン電力証書を購入する企業は業種を問わず広がっている。地方自治体でも、公共施設や街灯向けの電力をグリーン電力化する動きが各地域でみられる。また、グリーン電力証書は、イベント、ライトアップ・イルミネーション、スポーツイベント、コンサートで使用する電力のグリーン電力化にも広く活用されつつある。

我が国でグリーン電力証書の購入量が最も多いグローバル企業では、グリーン電力証書の購入も活用しながら、年間約10万トンのCO2排出削減に取り組んでいる。例えば、同社は、本社ビルで昼間使用する電力量に相当する年間1,600万kWh(一般家庭の約4,400戸の年間電力消費量に相当)について、グリーン電力証書の購入契約を結び、年間約6,800トンの温室効果ガスを削減する予定である。

地方自治体においても、例えば、文京区では、年間約400万kWhに相当する区内の全ての街路灯の電力消費をグリーン化するため、2009年度予算において、グリーン電力証書購入に約1,600万円を計上し、CO2排出量を年間約1,500トン削減する方針である。

グリーン電力証書を購入することで、製品・サービスの生産プロセスで使用する電力にグリーン電力を使用したとみなせることから、商品の付加価値化に活用している事例もある。例えば、愛媛県のタオルメーカーは、グリーン電力証書を購入することで、同社の工場で使用する電力全てを風力発電でまかなったとみなし、同社のタオルを「風で織るタオル」として販売している。同じように、こうしたグリーン電力証書の購入によって、自社が販売する製品・サービスに環境価値を付ける動きは、「風力100%印刷」「風力100%スタジオで製作された音楽・CD」「風力100%ライブハウス」「風力100%放送局」等として広がりをみせている。

(グリーン電力証書を活用した太陽光発電普及の取組)

東京都は、2006年12月に、2020年までに2000年比25%のCO2排出を削減する目標を掲げ、世界で最も環境負荷の少ない都市を実現することを宣言し、これを受け、目標の実現に向けて、様々な主体との連携や具体的な制度づくり等に取り組んでいる。2009年度、2010年度の2年間で4万戸への太陽光発電システム等の導入を目指し、2009年4月からは、太陽光発電システム等の導入時における補助金制度を開始した。補助金交付の条件として、太陽光発電システムを導入した都民から、今後10年分の環境価値を東京都環境整備公社に譲渡してもらう。他方、東京都は、都内に大規模事業所を置く企業等を対象として、温室効果ガスの基準排出量を定め、排出量削減を義務づける制度を2010年度から導入予定であるが、排出量の削減義務が課される企業等は、排出削減の不足分をグリーン電力証書の形で公社から購入できる(第2-2-13図)。このように、グリーン電力証書を活用することで、住宅に設置された太陽光発電システムで発電された電力の環境価値が取引されることとなり、太陽光発電の設置に係る補助金を税金だけに頼ることなく運営することが可能になるとみられる。

第2-2-13図 東京都の太陽エネルギー利用拡大スキーム
第2-2-13図
(備考) 1. 東京都地球温暖化防止活動推進センターホームページ(住宅用太陽エネルギー利用機器導入促進事業事業スキーム図)に基づき作成。
2. 本スキームは、太陽熱利用機器等を設置した場合にも適用される。
3. 図中の「企業等」は、温室効果ガスの総量削減義務を負う大規模事業所等を示す。これらの大規模事業所は、排出削減不足分につき、公社からの証書購入で補うことが可能。

愛媛県松山市も、他の自治体よりも早い2000年から、太陽光発電システムの設置時の補助制度を設けるなど、自然エネルギーの普及に取り組んできた実績があり、グリーン電力証書についても積極的な活用を開始している。例えば、グリーン電力証書の発行機関としての資格を地方自治体として初めて2008年末に取得するとともに、2009年度からは、公共施設に設置した太陽光発電システムで発電した電力の環境価値をグリーン電力証書とし、地元の地域金融機関や放送局に販売を開始した。本制度は開始したばかりであり、売却益も大きくはないが、その売却益は住宅向け太陽光発電導入補助金の原資にも充当される仕組みとなっている。

鹿児島市では、市内で太陽光発電システムを設置している住宅に対して、太陽光発電システムによる発電量のうち、電力会社に売却しない自家消費分の電力についての環境価値を1kWhあたり20円(上限は3万円)で買い取る事業を2008年度から開始した。これらの住宅から買い取った環境価値分は、グリーン電力証書として市内の庁舎等の電力のグリーン電力化に活用されている。2008年度の申請件数実績は、71件にとどまったものの、2009年4月から10月末までの申請件数は合計で140件と大幅に増加している。

(市民主導による発電所の建設・運営)

市民の環境意識の高まりから、エネルギーの消費において、再生可能エネルギーを選択したいというニーズが増している。これに対して、技術面でも、小規模の設備により、再生可能エネルギーによる発電が電力会社やガス会社でなくともできる環境が整ってきた。そこで、市民が中心となり、風力発電所や太陽光発電所等を建設・運営しようとする取組が各地域でみられる。

発電所の建設・運営に必要となる資金は、一般市民の出資金や寄附金を原資とした市民ファンドによって調達されるとともに、グリーン電力証書の販売益等にもよっている。

市民風力発電所は、国内では初めて北海道で建設され、その後、秋田県や青森県でも誕生している。

長野県飯田市では、市民のファンドによる出資やグリーン電力証書等を活用しながら、地域ぐるみの太陽光発電への取組が進んでいる。同市に拠点を置く環境NPOが太陽光パネルの設置・運営のため、広く一般市民からの出資を募ったところ、募集期限を待たずに募集枠約2億円に達するなど、市民の関心は高い。同ファンドは、出資に対して予定通りの分配金を出し、継続的な運営を行っている。岡山市や鹿児島市等においても、市民や地元企業が出資し、行政とも連携をとりつつ、市内の保育所への太陽光発電システムの導入に取り組み、グリーン電力の利用を拡大させている。

(環境関連投資に対する融資制度)

政府系金融機関から始まった環境格付融資も広がりをみせている。日本政策投資銀行は、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)や環境省との情報交換を踏まえ、環境対策投資への融資に関するスクリーニングシートを開発し、このシートに基づき、環境格付評価を行い、融資の判断に役立てている。また、所定の環境格付を取得するとともに、「原単位当たりCO2排出量」を5年以内に5%以上削減すると誓約した企業に対しては、地球温暖化対策資金に係る貸出金利を最大1%利子補給するメニューも設けている。地域金融機関との協調融資も進めており、環境格付評価を開始した2004年以降、環境格付評価による融資は150件以上の実績を重ねている。


14.
環境付加価値をグリーン電力証書にするには、第三者機関の認証が必要である。

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