平成10年

年次世界経済報告

アジア通貨・金融危機後の世界経済

平成10年11月20日

経済企画庁


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第2章 アジア通貨・金融危機と世界経済


《第2章のポイント》

【アジア通貨・金融危機の要因】

1997年7月のタイ・バーツ危機に端を発するアジア通貨・金融危機の要因としては,実質的な対ドル固定相場制の維持などによる通貨の過大評価,大幅な経常収支赤字と短期資本流入の急増,金融システムの脆弱性などが挙げられる。

【通貨・金融危機後の東アジア経済回復の展望】

東アジア経済の現状をみると,輸出は期待されたほど伸びず,内需は大幅に縮小しており,生産はいまだに底を打っていない。ただし,一部諸国における金利の大幅低下など明るい兆しもみられ始めている。

東アジア経済の回復のためには,経常収支の改善や構造改革などにより,投資家の信認を回復させていくことが必要となろう。東アジアの中長期的な成長の潜在力が大きく変化している訳ではないため,数年の調整期間の後に高成長経路に戻ることは可能と考えられる。

【世界経済への影響】

貿易面を通じた影響をみると,東アジア諸国の為替減価はそれら諸国の貿易収支の改善につながる一方,その他諸国の収支の悪化をもたらす。また,東アジア諸国の内需の縮小が貿易財,特に一次産品の価格低下につながっており,これらへの輸出依存度が高い諸国に悪影響を与えている。

資本移動を通じた影響をみると,これまで資金流入が増加していたいわゆるエマージング市場の先行きに不透明感を与えている。特に,経常収支赤字,財政赤字等マクロ経済上の不均衡を有する国,輸出における一次産品依存度が高い国の金融・資本市場で動揺が強く現れている。

【国際的資本移動に対する規制について】

短期資本移動に規制を設けるべきとの議論があるが,世界的な資源の最適配分の達成など自由な国際的資本移動が世界経済に大きな恩恵をもたらしてきたことに留意することが重要。ただし,金融システムの脆弱性を抱える国などについては,こうした部門の構造改革を行った後に,あるいはこれを行いつつ,資本の自由化を順序よくかつ慎重に進めるべきである。また,規制を導入するにしても短期資本を中心に考えるべきである。

【不安定化した世界経済をとりまくリスクと政策対応】

今日の本安定化した世界経済には様々なリスクが存在しており,全体としてデフレ圧力が高まりつつある。こうしたリスクの顕在化を回避しつつ,世界経済を安定的発展に結びつけていくために,アメリカ,EU諸国,日本などの諸国が十分な景気刺激策及び危機に陥った新興国に対する金融支援などにより適切に対応することが必要である。


97年7月のタイ・バーツ危機に端を発するアジア通貨・金融危機は,時とともに広がりと深まりをみせ,域内諸国は,程度の差こそあれ,為替・金融市場の混乱,内需の減少を主因とする経済成長率の大幅低下などを経験している。

これまで「世界の成長センター」とも呼ばれ,高い成長率や貿易量の伸びを記録してきた東アジア諸国の突然ともいえる経済的混乱は,世界経済全体に対して東アジア諸国への輸出減少や一次産品価格の低下などを通じて影響を及ぼしている。また,今回の危機は,東アジアのみならず,一部発展途上国経済に対するコンフィデンスの揺らぎも引き起こし,中南米や中・東ヨーロッパ,CIS諸国といった地域の一部諸国の為替,金融市場でも混乱が発生している。

本章の構成は以下のとおりである。第1節ではアジア通貨・金融危機の要因と特徴を検討し,第2節では,97年7月以降の通貨・金融危機後の東アジア経済の現状について,今回のアジア通貨・金融危機の影響を受けた韓国,インドネシア,タイ,フィリピン,マレイシア(以下,「東アジア5か国」という)における輸出の動向などを中心に概観する。さらに,第3節では,今後の東アジア経済の回復について,94年末のメキシコ危機以後のメキシコ経済の回復ぶりと比較しながら検討する。最後に,第4節では,貿易,資本移動などの側面から,アジア通貨・金融危機の世界経済への影響について分析するとともに,不安定化した今田り世界経済におけるリスク要因とその政策対応について検討する。


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